1.創世者様のお導き
気に入ってやりこんでいる乙女ゲームのエンディングを眺めながら溜息をつく。
「私の推しって、いつも死んじゃうのよね」
可愛いと一目惚れしたキャラは、王太子の幼馴染みで婚約者の魔女で、たった今処刑されたところだ。
「この子に限らず、私の推しってみんな当て馬で死ぬか破滅ばかりなのよね」
巷にあふれるゲームや小説、漫画に至るまで夢中になるキャラがことごとく、である。
(私の好きな見た目が、悪役キャラ向きなのよね)
ただ、最近は悪役令嬢の逆転モノが流行っていてその限りではないので、あまり気にはしていない。
うとうとしてきたので、ゲーム機を横に置きソファに寝そべって目を瞑る。少しだけ頭痛もしていたからちょうどよかった。そして私は気付かないうちに深い眠りについていた。
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真っ暗な意識のなかで呼ばれる声がした気がして、起きる努力をした。
(また、ゲームしながら寝ちゃってお母さんが起こしにきたんだ。起きなきゃ!)
なんとか目覚めると目の前に知らない人が立っていた。白いワンピースのような服に、陶器のような肌、白く輝きを放った腰まである髪は現実世界ではまず見掛けない様相だ。
「なんだ、夢で起こされたのね」
てっきり母親に怒られると思っていたから、少しだけ安心する。
「夢ではないぞ?今からお前は次の人生に送り出されるところだ」
「なんで!」
「お前が死んだからだよ。夏休みだからといって随分堕落した生活をしていただろ? 寝てるあいだに熱中症になったんだ」
夢だと思いたいが、心当たりがありすぎて否定できずに固まった。
「……誰も助けてくれなかったの?」
「いや、お前の母親は慌てて救急車を呼んでいた。残念ながら意識が戻らず処置も手遅れだったんだ」
「そんな!」
(ごめん。お母さん……)
きっととても悲しんだに違いない。よくある普通の家庭の普通の女子高生だったのだ。
「傷心のところ申し訳ないが時間がない。説明をはじめていいか?私は世界の創世者様だ。あらゆる世界を作って人を送り込んでいる」
「そう、せいしゃ?」
「様をつけろ。創世者様だ」
「創世者様……」
「うむ。私は壮大な役目をこなしている。山ほどの世界を作り、人を誕生させ世界の記録を集めている。だが、いちから造ると途方もない時間が掛かってな、それで私は、もっと効率的な方法を試しているのだ」
両手を腰にあててふんぞり返りドヤ顔で創世者様とやらが力説をする。
「お前の生きていた世界は、山ほどの話の種が毎日生まれていただろ?それを有効活用して複製していったんだ。そうすれば種のはじまりなんて待たなくていいからな。いきなり人の営みからはじめられる」
「話の種?」
「文字や絵や映像で山ほどの話を山ほどの人間が、毎日せっせと作っていただろう?」
アニメに小説、ゲームに漫画の大量に溢れていた自分の日常を思い出した。
「ちゃんと、異世界転移、異世界転生も流行らせて説明を省けるよう仕込み済みだ」
なかなか頭がいいだろう、と同意を求められたが驚きすぎて反応なんてできない。確かに流行っていたが、そんな理由があったなんて聞いてない。
「今からお前は新しい生を受ける。その魂の再生で起こる爆発的膨張を使って、私の仕事を手伝うんだ。さぁ自分が生まれ変わりたい世界と人物を強く思い浮かべてくれ」
「いきなりそんなこと言われても!」
訳が分からなさすぎて、なにも考えられなかった。
「そろそろ時間だな。それではよい来世を!」
なのに、そんな私を無視して創世者様は手を振っている。
いつの間にか乗せられて安全ベルトで固定された乗り物が、走り出していた。
「そんな! えーとっえーとっ。行き先は直前までやってた『World of Love & Magic』の世界でっ」
どんどん光が強くなり、視界が真っ白になっていく。
(私の推しは絶対ダメだっ、選ぶなら――)
そうして私は生まれ変わったのだ。