かっこいい人に出会った!
PvPのルールは簡単。
制限時間内により多くのプレイヤーを倒したチームが勝ち。
勝った方のチームには参加者全員に報酬が配られ、それに加えて個人のスコアに応じてアイテムや装備が配られる。
負けてもチーム内上位のスコアだったら報酬はもらえるし、そもそもこのイベント中はもらえる経験値がいつもの1.5倍だから参加するだけの価値はあるんだそう。
「――それと、これは私の個人的な感想なんだけど。このイベント、めっちゃ燃える」
「燃える……?」
「なんでもぶっ壊して、何人もぶった斬って――。そうやって夢中になってると、現実のことなんていつの間にか忘れちゃうんだ。ハルカは……そんな性格じゃなさそうだけど」
「まぁ、そうですね……」
僕とジェールさん。それとリザたちと、他のプレイヤーの方々全員は街の中で夜空を見上げていた。
空にはカウントダウンを進める数字が表示されていて、ゼロになった瞬間に男性プレイヤーが乗り込んでくるらしい。
「――って、もうすっかり夜じゃないですか! 僕、そろそろお姉さんの家から自分の家に帰らないと!」
「大丈夫だよ。このサーバーでの24時間は現実の2時間だから」
「にぃい!? えっと、まだ10時間くらいしか過ごしてないから……」
「まだ1時間も現実は過ぎてないよ。脳に直接情報を送るから、時間感覚をいじくるのも簡単なんだってね」
いよいよ本当に体に害をもたらすゲームな気がしてきた。
体内時計とか狂わないかな?
「あ、そうだ、ハルカ。このイベントは対人だからさ基本的になんでもアリなんだ。そこだけ注意ね」
「どういうことですか……?」
「例えば、私が死んだらきっと装備を奪われるだろうね。敵に着回されて戦力になるか、イベント後に売られて財布に入っちゃうか――」
「えっ、ずるいっ!」
「でもそれが許可されてるんだからしょうがないじゃん。他にも人質をとったり、金で敵陣のプレイヤーを丸め込んだり。あ、リアルマネーはルール違反だからね。あくまでもゲーム内通貨で」
「そんな高等テクニックできませんよ! 怖くなってきちゃった……」
それでもカウントは容赦なく進む。
装備の話があったが、自分はやっぱりビジュアル的にも薄着な初期装備だし、モンスターたちにつけてる装備も上級者からしたらどうしても欲しいなんてものじゃないだろう。
それに、頼もうと思えばジェールさんがお金を出してくれるかもだし。
「そういえば、こんな街の真ん中で暴れちゃっていいんですか? 他の人に迷惑なんじゃ……」
「大丈夫。ここはあの街のコピーだからね。どれだけぶち壊そうが民家に入ろうが誰も困らないよ……。ここだけの話、民家にレアアイテムが眠ってたりするんだよね。さっきの服屋からお金を盗んだりもできるし――」
「ま、間に合ってます!」
本当に戦争というか戦いというか……。
欲望むき出しな争いなんだなぁ……。
そんなことを思っていたらカウントは30秒をきっていた。
もうすぐで始まっちゃう。
「最後。なんかあったら口じゃなくてチャットで伝えてね。チャットならどこにいても相手に届くから」
「チャットなんてあったんですか!」
「まぁね、ゲームだから。チャットってよりビデオメッセージみたいなものだけど。ステータス画面で送れるから、どうしようもなくなったらそれで」
「はいっ! なるべく頼らないように頑張ります!」
「うっし! じゃあやっちゃおっか!」
あと5秒――。
4……3……2……。
1――ゼロ。
その瞬間、爆音が轟いた。
耳だけじゃなくてお腹の底や体全体で振動が感じ取れるほどの音。
それが開戦の合図なのか、それとも敵の攻撃なのか。よくわからないけれど、とにかく始まったっぽい。
すぐに人の大群が前から押し寄せてくる。
そのほとんどがゴッツイ鎧に覆われて――。
というか、もう来るの!?
どこでスタンバってたの!?
「あれ、敵の最前線ってことですよね!? だとすると敵の中のトッププレイヤーってことに――。あれ……? ジェールさん?」
さっきまで横にいた人物がいない。
それもそのはず、彼女はもう横ではなく前にいるからだ。
「【壮烈】のジェールだ! アイツのポイントはデカイぞ!」
「やっちまえ! どうせ聞いたウワサは全部ウワサにすぎねぇ!」
数が多かろうとジェールの脚は止まらなかった。
剣を華麗に振りかざし、大群へと突き進む。
「はっはー! そこまで言うなら私の首を取ってみなぁ!」
前方に一太刀浴びせたら次は後ろに蹴りを入れ、また剣を振り、今度は横から飛びかかる男に拳を決め――。
なんか……。ケンカ慣れした人の動きだった。
こんな多数対一人に慣れてる人ってそうそういないんじゃないかな……?
「おーい、そこの。お前初心者か?」
ジェールさんに見とれていると、不意に後ろから声がかかる。
声をかけてきたのは金髪の女性だった。
細い筒みたいなものを肩にかけて背負っている人。暗くて細長いものがよく見えない。
多分武器だよね。
「な、なんでしょう……?」
「このイベントでボーッと立ってたら危ねぇぞ。あと邪魔だ」
「ひっ……。ごご、ごめ、ごめんなさい……。ジェールさんのこと、見てて、それで、その……」
「あん? ジェール……? あぁ、あの人、よくやるよなぁ……」
この人、ジェールさんとは違ったタイプの女性だ。
サラサラな金髪ヘアーのくせに口が悪くてちょっと怖い……。
「――って、有名なんですか? ジェールさん」
「有名もなにも、ハンパないやつだな。あんまりゲームをやらないのか、レベルはそれなりの高さなんだけどよ。いかんせんリアルステータスっつーか、戦闘スキルが高すぎて……」
「あ、あの動きですもんね……。ボコボコにしてる……」
「そんで、ついた二つ名が【壮烈】だと。正直、もうああなったら誰にも止められない」
なにそれかっこいい!
ソウレツ……。僕もなんかかっこいい呼ばれ方したい!
「お姉さんは……?」
「お、おいおい、お姉さんだなんて! 俺、リアルは男だから!」
「あ、そうなんですか……」
戦場の真ん中でのんびりと話をしながら、金髪さんは肩にかけていた筒を両手に持つ。
その筒の正体は銃だった。
猟銃って言えばいいのかな? あんまり詳しくないけど……。
細長くて、直線的な銃。
「俺は【隻眼】だってよ。別に、両眼見えてんだけどな」
銃のお尻を肩に当て、頬を寄せ、金髪さんは構えの姿勢に入った。
両眼が開いているが、狙いを定めるのは片目でやっているように見える。
「セキガンもかっこいいですね! その二つ名って、どうやってつけるんですか?」
「あ? おいおい嬢ちゃん、自分でつける二つ名なんてあるわけないだろ。勝手に周りから呼ばれるんだよ」
なおさらかっこいいぃ!
あと僕も嬢ちゃんじゃないです。男です。
「つまり、それほど強くなれってことだな。明日から人気者ってのも夢じゃない」
銃声の効果音をつけるなら「パァン」みたいなものだと思ってた。
けれど本物はもっと鋭くて、一瞬で、空気を震わせるような音が走る。
放たれた弾丸は空気を裂いて一瞬で相手に届く。
ジェールさんの真横にいた男が吹っ飛んだのだ。
ちょっとでも狙いがずれたらジェールさんに当たってただろう。
「はい、頭。あとは壮烈サマに任せておきゃあいいだろうな」
「い、今の当てたんですか!? 剣と同じで、銃の扱いもリアルステータスですよね!?」
「まぁな。命中率の補正スキルもあるにゃああるけど、俺はあんまり振ってないな。ヘッドショット強化と火力に振ってる」
話しながらもう一発。
またもや別の男に命中し、不運にも当たってしまった男は動かなくなった。
どうやら倒したみたい。流血表現がなくて助かる。
「あとこれ。弾が無限に使えるんだよ奥義でさ」
「えぇ……。ジェールさんのこと褒めてましたけど、金髪さんもヤバめですね」
「褒めてんのかバカにしてんのか。ま、どっちでもいいか」
そんなことより、そろそろ嬢ちゃんも戦いな――。
そう声が聞こえた気がしたが、もう金髪さんの姿はなかった。
フッと消えて……。きっとそういうスキルがあるんだろうな。
とにかくわかったことは、ここで活躍すれば人気者になれるし、かっこいい名前がつく。
それと、ジェールさんはとんでもなく強い人。おまけに金髪さんも。
僕だってそろそろ本気出しちゃうもんね!
ついにハルカもその脚を前に進めた。
迂回し、なるべく強い人に出会わないよう配慮して――。
お読みいただきありがとうございます!
次回、早くもハルカにピンチが……!?
初心者狩りなんてサイテー!