いいアイデアに出会った!
僕たちは洞窟を出た後、すぐに服屋へ向かった。
ジェールさんがシルルに鎧を貸してくれて、アウトな部分をなんとか隠した。
ドラゴンさんにはリザの服を一枚だけ着せてあげた。リザが下着だけになっちゃったけど……。
洞窟については、ドラゴンさんと採掘現場の親方みたいな人が話し合ってクエストはクリア扱いになった。
お金もそれなりに入ったし、また採掘ができるし、ドラゴンさんの卵も無事なまま。
それと、なんでか出てこなかった洞窟内のモンスターたちのことだけれど、その原因は僕だったみたい。
暗かったから「怖い」を連呼してただけなんだけれど、モンスターたちは自分たちを怖がってるんだと思ってくれたそう。
巣を襲う人には厳しいけれど、そうじゃない人にはモンスターも手を出さないんだって。
ま、まぁ、つまり、洞窟内の全モンスターが僕のことを弱虫だとか臆病って判断したことになるんだけれどね……。
「けど、結果オーライだよね! すっごく強くなっちゃった気がする!」
スライムとドラゴンが仲間になり、あり余るお金で全員分の中級装備は買えるようになった。
しかも経験値ガッポガポ!
4だったプレイヤーレベルは31に。7だったジョブレベルは49になった。
――というわけで。
「えーっと、第一回! 僕のステータス見つめ直し会ー!」
僕たちは一回話し合うことにした。
装備でどこを強化するかとか、僕はそういうことを考えるのがすっごい楽しく感じる。
けど、AIといえどモンスターたちにも意思があるからね。
独断で作戦を決めたり装備を選んだりするのは申し訳ないよ。
「まずは役割を決めよう。不測の事態にはハルカがその場で指示をするのが一番だけれど、ざっくりとした役割分担は必要だよ」
「じゃあ、トカゲさんが囮でドレイク様がキメる役にしましょう。わたくしはご主人様とイチャイチャしてますから――」
「コラー! ご主人に気安く触らないで! ダンジョンの中と同じことを繰り返してもダルいだけだよ!」
「主。そなたの下僕らはどちらもうるさくてかなわんなぁ……」
ぐっちゃぐちゃだなぁ……。
まずは話し合いの環境を整えなきゃ。
「はい、静かにして! リザもシルルも! まずはドラゴンさんの自己紹介だから、しっかり聞いてよね!」
モンスターの王道だからか単純に強いからか、二人ともドラゴンさんには控えめだった。
ドラゴンさんのお話となれば静かになるはず。
ドラゴンさんはロリロリしたロリで……。うん、ロリだね。
頭から小さな角が生えてて、けど他にドラゴンっぽいところはなさそう……?
髪は赤色。これってあれだよね、炎パワーがそこに蓄積されてる的な。
「はい、ドラゴンさんお願いします!」
「ドラゴン、でひとくくりにするでない! 妾は地竜と言って、狭くて暗い場所が好きな竜でな――」
「ひ、引きこもり……? かっこ悪い……」
「なっ!? い、いや、育児中で仕方なくだからなっ! 卵が孵るまでの間だけ仕方なく!」
ロリは引きこもり体質だった。
ジメジメしたところ大好き。暗いの大好き。静寂大好き。
基本的に一日は睡眠で終わらせたいタイプ。
しかし「かっこいい」のためには嘘も必要!
「生存競争のために飛竜の一部が洞窟に入り、進化したのが地竜と言われている。進化というより退化な気もするが、とにかくそのせいで体は小さくなったのだ。洞窟に入りやすくするためだな」
「へぇ……。だから人間の姿も小さいんだ。ドラゴンさん、僕からしたら大きかったけどなぁ……」
「だからドラゴンではなくリンドドレイクで……! はぁ……。主だけ特別だぞ」
なんだか認められちゃった。いや、呆れられたのかな?
どっちでもいっか。
「自己紹介だったか……? 妾はルグリ。誇り高きリンドドレイクである」
「ドレイク様、質問ですぅ!」
「む、スライム。いいだろう、遠慮なく聞け」
「卵があるってことは、ドレイク様って人妻なんですか?」
場が凍りついた。
なんだかピンクめというか、ヤバめというか……。
このロリロリした少女に人妻なんてレッテルを貼るととんでもない犯罪臭がする。
「そ、そういうことになるな。言い方がアレだが、たしかに妾は『人妻』ということに――」
「わーん! やめてよ! 僕はそんな変なイメージをかっこいいドラゴンにつけたくないのに! シルル解雇! もうさよなら!」
「ご主人様ぁ! ごめんなさい、何でも言うこと聞きますから! わかりました。今から公衆の面前で全裸土下座をいたしますので、どうか気の済むまでお踏みいただけると――」
「うわぁぁ! わかった、解雇しないから! お願い、脱がないで!」
話が前に進まないじゃん!
こんなことをしてる場合じゃないのに!
「……みんな聞いて、本題に入るから! 今、僕はみんなに平等に中級装備を買えるくらいのお金があるの。けど、これを平等に使っちゃうのはゲーム初心者だと思うんだ」
「ご主人、偏見はよくないよ」
「偏見じゃなくて! じゃあリザ。リザは早いけど、ルグリほど火力はないでしょ。だから、例えばリザに強い装備、ルグリに弱めの装備で戦力を均等にするとか――」
「主。妾に見合うような代物でなければ妾は着ないぞ」
「例えばだってば! 僕が考えてるのはそうじゃなくて、いい?」
ハルカは全員の目を一度見るようにして言った。
あ、ジェールさんは関係ないのについ見ちゃった。
目も合っちゃったってちょっと照れちゃうかも。
あれ? ジェールさん、ちょっとだけ顔が赤い? まぁいっか。
「僕は装備つけないままでいいかなって。どうせ戦わないし」
「えぇー!? ご主人、危ないよ!」
「そうですよ! ご主人様になにかあったらどうするんですか!」
「落ち着いて! 最後まで聞いて!」
ハルカは丁寧に言葉を続ける。
まず、自分は戦わないはずだ。
だってモンスターたちの方が強いから。
そもそもテイマーとはそういうジョブであって――だからこそ人気がないのだろうけれど――自分が戦うのは本当の上級者だけ。
お姉さんのせいで最初からテイマースキル極振りだし、じゃあもう装備もモンスター優先でいいかなって。
それと同じ理由で、ステータスもいらないかもしれない。
奥義のおかげで自分はレベルアップで獲得したポイントをモンスターにあげることができる。
だから、もう全部モンスター強化に使っちゃえばいいんじゃないかな。
「僕がするのはテイマースキル極振りならぬ、モンスター極振り! 僕、運動ダメダメだしね……」
安全な場所から高みの見物をしているみたいで心苦しかったけれど、でも僕が足を引っ張るわけにもいかない。
みんなを信頼して励ますのが僕の仕事だね! あと戦略を考えたりとか。
「異論ある人! あったら挙手!」
主人がそれはそれは楽しそうに話すものだから、誰もが声を失っていた。
見とれていた――が正しいかもしれない。
はしゃぐハルカをもっと見たくて、全員がこの作戦を聞き流したのだ。
もちろん、モンスターたちだけじゃなくジェールも。
「それじゃあ決定ね! そうと決まればみんなのステータスにふりふりしちゃいまーす!」
かわいいかよ――。
それしか感想はなかった。
スキルでもなんでもなく、この男、根っからの『愛され体質』なのかもしれない。
お読みいただきありがとうございます!
なんだかんだ極振りって強いですよね……。
自分は某ヒーローたちのRPGゲームでウルトラなマンのゼロさんの物理攻撃力に極振りしてました。
強かったです。