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見て見て! かっこいいドラゴンさんに出会ったんだよ!

 狭かった道をずんずんと奥に進むと、大きい広場のような場所に行き着いた。

 最深部と言われるだけあって、その先に道はない。

 あるのはただただ広い空洞と、立ちふさがるボスのみ。


 ギシャァァァアアアア――と。

 咆哮が響く。


「こ、これがボスですか!」

「そう、モンスターランクはA+だからね。なるべく私の後ろにいて」

「でも、これって――」

「ええ。ハルカが待ちに待ったドラゴンよ!」


 鋭い爪。折りたたまれた翼。迫力のある眼光。

 憧れのドラゴンが目の前にそびえ立っていた。


「かっこいいぃぃ! ドラゴン! 僕の目の前にドラゴンがいる!」

「私の前にもいるっての! そんなにはしゃいだら危ないよ!」

「だってドラゴンですよ! かっこいいなぁ……!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるハルカ――否。

 すっかり男の子を取り戻し、今はハヤトがウキウキでジャンプしていた。


「ご主人に気に入られてる……。あいつ、目障りだなぁ……」

「トカゲさん、珍しく気が合いますね。ご主人様を釘付けにする存在ほど憎いものはいません……」

「ドラゴン! ドラゴンすごい! ドラゴンかっこいい!」

「うるっさい! そんなことしてたら食べられちゃうよ!」


 食べられ――る?

 なにそれ、すごく怖い。

 ゲームだから倒されても大丈夫なんじゃないの?

 咀嚼(そしゃく)されるところも意識あるの?


「さぁ、行くよ! 【キャッス・グロス】」


 ジェールさんが剣を高く上に突き上げた。

 これがMPを消費して使う、アクティブスキルとやらなのかな。


 ――と、ドラゴンさんが不自然にジェールさんを狙いだした。

 眠っていたのか、さっきまでは丸まっていた体がすっかり展開され、ジェールさんに突進。

 フェンサータンクは守りもできるとか言っていたから、モンスターの注目を集めるスキルかな。


 ハルカはボーッとしていたが、戦局は待ってくれない。

 突進したドラゴンはその口でジェールへと食らいつく。

 ジェールはその寸前に下顎をめがけて剣を振り上げ、無理やり口の軌道を変えた。


 金属が硬いドラゴンの顎に当たると、鈍い音が鼓膜を震わせる。

 ドラゴンは痛みのせいかやや怯んだが、すぐさま前脚の爪でジェールの腹部を突き刺した。

 次はジェールも避けきれず、大きな打撃に数メートル飛ばされてしまう。

 もしも鎧がなければ貫通していたかもしれない威力だ。


「さすがにノーダメは無理か……。でも、倒せない相手じゃないね!」


 数メートルは飛ばされたものの、その体が倒れることはなかった。

 地面に剣を突き刺してブレーキをかけ、またも前進していく。

 ドラゴンはというと、体を回転させて横方向に尻尾を差し出してきた。

 このままではジェールに長い尻尾が当たってしまう。

 しかし、またもその寸前――。


「おらぁっ!」


 現実ではありえないほどの跳躍力を見せ、薙ぎ払う尻尾を回避。

 そして空中に向かってジャンプしたからには、次に起こることは落下のみ。


「はあぁぁぁぁっ!」


 落下のスピードに任せ、脳天にめがけて剣を立てる。

 これだけでも十分に強そうな刺突だが、ジェールの攻撃はそんなものじゃなかった。


「【エスパーダ・ライポ】」


 その声で変化したのは剣そのものだった。

 両刃の大剣だったはずのものが、先の尖ったスピアへ。

 切るための剣から、刺すための槍になった。


「これで! おとなしくなりなぁ!」


 鱗を刺し、皮を裂き、肉を切る――。

 ハルカから見たらなんだか強そうな一撃。それがドラゴンへ命中した。

 ――のに。


 グオォォォォォォオ――と。

 ドラゴンは憤怒したような叫びを轟かせるばかり。


「ど、どうしよう……。あれ、勝ってるのかな? 負けてるのかな?」


 ハルカは退屈そうに座り込むモンスターっ娘二人に問うた。

 しかし、返ってくるのはそっけない返事。


「なんか強そうだし、ご主人の出る幕はないんじゃない?」

「そんなことより、ここ寒くないですか? リザちゃん、暖とらせてくれない?」

「嫌に決まってるでしょ! そのヌメヌメボディで触りに来ないで!」

「人間になったからヌメヌメしてないですっ! 髪の先を戻せるだけなんだから!」


 これはダメだね。

 僕がなんとかしないと――。


 ハルカはしっかりとドラゴンの咆哮を聞いていた。

 その咆哮は『通訳者』によって声となる。


 一回目の咆哮は威嚇だった。「出て行け、さすれば見逃す」と。

 でも二回目は――。


「ドラゴンさーん! 聞いてください!」


 ハルカは無防備にも関わらず走り出した。

 なるべく声を出し、手を振り、必死にアピール。


「すっごくかっこよかったですよ! ジェールさんの一撃に耐えてるなんて。僕、そんなモンスターはじめて見ました」


 グルルルルル――。


 うなるドラゴン。

 ジェールからすると、ハルカを狙っているようにしか見えなかった。

 しかし、ドラゴンのうなり声は否定的なものじゃないようだ。


「そうなんです! よかったら、もっとドラゴンさんのかっこいいところを見たいなぁって。それで――」


 グオォォォ――!


 突如としてドラゴンが動き出す。

 ドラゴンを刺した後、地面に着地していたジェールへ再び攻撃を始めたのだ。


「ちょちょ! そういうことじゃないですってば!」

「ハルカ、これどうなってんの!? ドラゴン、なんて言ってるの!?」


 ジェールは攻撃を避けるのに精いっぱい。

 しかもハルカが対話しているから反撃していいのか悪いのか……。


「あの、僕がドラゴンさんをかっこいいって言ったじゃないですか。それが嬉しかったみたいで! 最初の咆哮は威嚇だったんですけど、二回目は『耐えたよ、かっこいいでしょ』みたいなことを言ってました!」


 グオォォォォォォオ! ゴォオオオ――!


「『う、嬉しくなんかない!』って、今言ってます!」

「それを私に伝えるのは余計じゃない!? 攻撃が激しくなってるのは気のせいかな!?」

「そ、そうなんですか!? ドラゴンさーん! お願いですから仲間になってくださいよ!」


 グルルルル――。


 ピタリとドラゴンの動きが止まった。


 さっきから話を聞く気はあるみたいだけど、なかなか気を許してくれないなぁ……。

 こっちは仲良くなりたいだけなのに。

 というか、さっさと乗らせてよ。僕の夢なんだから。


「ドラゴンってかっこよくて強くて、僕、すっごく憧れてます! そんなモンスターが近くにいたら頼もしいなぁって……。ダメですか?」


 グォ……。グムムム――。


 迷っているご様子。

 どうやら自分の卵が隠されてるみたいで、それが心配らしい。

 そりゃあ巣だもんね。卵くらいあるか。


「大丈夫ですよ! 僕から皆さんにそっとしておくよう言うし、なんならドラゴンさん自身が僕のスキルで喋れるようになるんですから!」


 グォオ!?


「はい。なれます。仲間になっていただけるなら、ですけど……」


 ドラゴンさん、人間化に興味があるみたい。

 これは、いけたかな……?


 ハルカの言葉は届いてくれた。

 ドラゴンがだんだんと光り、そのサイズが人間のものへと小さくなっていく。


 小さく、どんどん小さく――。

 あれ? なんか小さすぎない……?


 嫌な予感がしつつも人間化を見守っていたら、いよいよ発光が収まった。

 そして、そこにいたのは――。


「こ、これが本当にあのドラゴンさんなの……?」


 かっこよくない。大きくもない。

 ちんちくりんで全裸なロリがいるだけだった。

 お読みいただきありがとうございます!

 戦闘シーン苦手だけど頑張った!

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