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スライムちゃんに出会った!

 逃げるように街を飛び出て、ハルカたち三人は岩肌が露出した山のふもとを歩いていた。


「――じゃあジェールさんが剣を使えるのって剣道部だったからなんですね」

「武道としてやるのとゲームとしてやるのとじゃあ全然違うけれどね。しかも高校の時にかじっただけだし」

「けど、すごいです! 僕なんて剣も使えないからこのジョブになって――」

「ご主人には剣なんて似合わないよ! そのきれいな手は、手を繋ぐためにあるんだから」


 リザがさっきからしつこい!

 恋人つなぎでベタベタくっついてくるし、なんか息荒くない?

 発情期ですか――って……。

 あ、発情期だった。


「そ、それでジェールさん。このクエストは何をするんですか?」

「難易度を高めにして、ハルカのレベルとモンスターの戦力を増やすことにしたわ。ズバリ、やることはダンジョン攻略!」


 ダンジョン――。

 正確にはただの洞窟だけれど、その中にモンスターが住み着いちゃったそうだ。

 というか、モンスターの巣。

 繁殖期だなんだのってイベントが発生するくらいだし、モンスターの巣窟があってもおかしくないだろう。

 けれど洞窟を掘って手に入る鉱石とかもあるみたいで、一部の洞窟は定期的にダンジョン化を阻止する必要があるらしい。


「ここだよ。中は暗いから気をつけて」


 山というより崖ほどの斜面にポツンと穴が空いていた。

 ピッケルやら看板やらが放置されてあって、つい先日まで鉱石発掘に勤しんでいたことがわかる。


「ご主人、中は暗いんだって。でも手を繋げば安心だね」

「変なとこ触らないでよ……? 暗いからって、ダンジョンの中でそういうのはダメだからね」


 それに、僕は男の子なんだからね。

 ジェールさんに聞かれると恥ずかしいから、まだ男だとは言ってないけどさ。


 洞窟の中は不気味な空気でいっぱいだった。

 細い風に冷たい気温。どこからか視線も感じる。

 薄暗い電球だけが中を照らしていて、むしろその光がより不気味なんだけれど。


「ちょっと怖い……。ジェールさん、もう片方の手、いいですか?」

「わ、私なんかと手を繋ぐの!? もちろん! むしろありがとうございます!」


 言っていることの意味はよくわからないけれど、とりあえず手は繋いでくれたからよかった。

 しかもわざわざ手のパーツの鎧を外してくれて。

 ジェールさんの手、あったかいなぁ。


「そういえば難易度高めって言ってましたけど……。ここはどんなモンスターが出るんですか?」

「私のレベルに合わせたからモンスターランクも最大でA+まで。会うまでお楽しみだけれど、ドラゴンもいるかもね」

「へぇ……。楽しみだなぁ」


 ――と、談笑していたせいか、ハルカはぬかるみに片足を取られてしまった。

 つまずきかけて、そこから動けなくなる。


「な、なんか底なし沼みたいなのにハマっちゃいました! ずぷずぷ入っていく……!」

「ご主人、それスライムだよ。足元見ないから踏んじゃうんだよ」

「スライム……? もっとニコニコした顔がついてるものじゃないの?」


 これはただドロドロした液体じゃないか。

 ドロドロしすぎて固体になってるような液体。

 スライムってニコニコしてて、ぶにぷに揺れてて――。


 いつだったか、スライム味のガム食べたなぁ……。

 あれ? ライム味だったっけ。


「ハルカ、スライムはモンスターランクAだからね。ジョブ的に私も苦手なモンスターだから気をつけて」

「気をつけてって、もう足突っ込んじゃいましたけど! これどうすればいいんですか!?」

「物理攻撃はほぼ効かないから魔法で攻撃して。そしたら倒せるよ」


 それにしても、スライムは何もしてこない。

 ちゅーちゅー吸われてる感覚はあるけれど、別にダメージもないし……。

 このまま倒すのはかわいそうかな。


「ご主人、これ魔法でやっちゃうんでしょ? 炎ブレスくらいならできるよ」

「待って! なんかかわいそうだし、仲間にしようよ」

「えぇー! 浮気しないでよー!」


 リザが不満げにスライムを蹴った。

 するとそのスライムはポンと跳ね、狭い洞窟を反射して――。

 ぺたりとハルカの胸にくっついた。


「きゃあぁぁぁあ! 服の中に入ってきてる! キモチワルイ!」

「ふん! ご主人にお仕置きだもん」

「あ、あぁ……。ちゅーちゅーされてるぅ……。おっぱい、出ないってばぁ……」


 胸をにゅるにゅるとした感覚が襲ってくる。

 吸われてるような刺激に立っているのもやっと。

 このままだと、二人の前でだらしないところを見せることになっちゃう……。


「ハルカ、大丈夫!? スライムはMPだけを吸ってくるモンスターだから、スライムだけで死ぬことはないけど……。そ、それどころじゃないもんね」

「うにゃぁぁあ! み、見ないでくださいぃ……!」


 ハルカの艷やかな声で、ジェールはまたもあらぬ妄想をしてしまう。

 女性にこんな情を抱くなんて。

 これじゃあ、自分も盛ってるモンスターと同じだ……。


「ス、スライムに話しかけて! 奥義を解禁できたくらいなんだから、高確率で仲間にできるはず!」

「わかってますぅぅ……! ああぁっ、スライムさぁん……」

「ご主人! そんなやつに屈しないで!」


 リザが蹴ったからこうなったんじゃん!

 自分勝手すぎるよ!


「スライムさん……。それ、んっ、ダメだからぁ……。僕のことを吸っても、MPはないからぁ……」


 MPがないという言葉が響いたのか、突如としてスライムが剥がれ落ちた。

 服の中からにゅるんと出ていって、地面に着地。

 自重でぷるぷる揺れる姿はスライム感満載だ。


「はぁ、はぁ……。スライムさん、お腹減ってるのかな……?」


 問いかけても返事はない。鳴き声とかないのかな。

 聞こえる音といえば、スライムが地面を這う時にぺちゃぺちゃとした水音がするだけ。


「仲間に、なってくれませんか? そうすればおいしいご飯とかもごちそうできると思うし……。僕、テイマーだから、モンスターの管理もしっかりできます!」


 これくらいアピールすればいいかな?

 あとはスライムさんの機嫌で……。


 祈りは通じた。

 揺れるスライムの体が白く光ったのだ。


「やったぁ! これで二人目だね!」

「ハルカ、すごい! どんどん仲間が増えていくじゃん!」

「ちっ。ライバル増えちゃった……」


 発光が鎮まり、青髪の少女が出現。

 小さかったスライムとは反対に彼女の身長は高く、他の部位もなんかいろいろでっかく――。


 え、でっか!? おっぱい、でっか!

 ちょっと、こんなの全裸で呼び出さないでよ!


 ちらちらとハルカが青髪少女を見ると、目が合ってしまった。

 少女は嬉しそうに微笑む。


「ご主人様〜。お誘いいただきありがとうございます〜」

「わぷっ! 息、できないからっ……」


 抱擁され、たわわなボインがハルカの呼吸を妨げた。

 豊満ボディが実に暴力的。


「ちょっと! ご主人に手を出さないでよ! あなた、新入りの後輩だからね!」

「あら、リザードジュラン……。よわ〜いドラゴンの出来損ないじゃない」

「なにおぅ! あんただってただのキモいゲルじゃない!」


 先に手を出したのはスライムちゃんだった。


 スライムちゃんが長い青髪を揺らすとその髪の先がスライムへと戻る。

 そしてそのドロドロの液体がリザの体に巻きつき、手足を拘束。

 リザは抵抗もできず、にゅるにゅるにハマって動けなくなってしまった。


「キモいゲルにやられちゃうのはどこのトカゲかしら。尻尾を切るしか能のない下等モンスターね」

「な、なにすんの! やめて、来ないでよ!」


 スライムちゃんがちゅうっとリザの耳に吸いついた。

 人間になった今は口で吸っているけれど、リザはそれに絶叫。

 スライムの吸引力、恐るべし。


「あぁぁああ! MPがぁあっ! やめて、キモい! うぅぅ……あぁん!」

「二人ともケンカしないでよ! 僕からの命令だからね!」

「あら、ご主人様のおかげで命拾いしたわね。それとも、本当はもっと攻められたかったかしら」

「繁殖期でも、あんたなんかとは願い下げよ!」


 睨み合う二人。

 なにこれ。こんなにモンスター同士って不仲なの?


 というか、スライムちゃんに服を着せてあげたいのだけれど……。

 でも、ダンジョンはまだ奥まで続いてるし……。

 あ、そういえば名前を確認していなかったっけ。


 ハルカはステータスを開いた。

 見るとジョブがスライムな人のステータスが追加されてある。

 名前は――シルル。


「シルル、これからよろしくね」

「はい! ご主人様、大好きです!」


 チュッと頬にキスが飛んできた。

 いちいち吸いついてくるのはスライムの習性なのかな。


「ハルカ、先に進もう。まだまだダンジョンの序盤だよ。そんなにイチャつかないで」

「は、はいっ! うぅ〜、誰も出てこないでね……」


 モンスターどうこうというより、ハルカは暗闇が怖かった。

 特に洞窟なんて、壁に虫とかが這いずり回っていそうで気持ち悪い。

 本当は早く出たい。


「ご主人! そんな顔しないでも、リザがついてるよ!」

「いいえ、ご主人様。このシルルがお守りしますから。トカゲなんかに何ができるのでしょうね」

「シルル! 悪口はよくないよ!」

「あら。ご主人様がそうおっしゃるなら、仕方ないですね……」


 しょんぼりするシルル――って、やっぱり全裸なのが気になるなぁ……。

 これなら暗くてもよかったって少しは思えるけど、逆に見えなくて残念かも。

 ゲ、ゲームなんだし、少しくらいはいけないこと考えてもいいよね!


「おっかしいな……。ここのダンジョン、モンスターが少なすぎる……」


 ハルカがシルルを気にしながら進んでいると、ジェールの声がポツリと聞こえた。


「い、いつもはもっといるんですか?」

「うん。だって巣だもの。私たちは不法侵入をした野蛮人なんだから、もっと容赦なく襲いかかってくるはずなのに」

「まだシルルしか見てませんよね。他の種類どころか、他のスライムさえいない……」

「いや、いる気配はするんだけど……。なんでか穏やかなんだよね」


 このクエストの目的は洞窟内を安全にすること。

 だから全滅させなくても、危なくなければいいみたいだけれど……。


「私たち何もしてないのに、なんかあっけないなぁ……」

「でもシルルと出会えましたし、成果ゼロってわけでもないですよね」

「まぁね。とにかく最深部まで行っちゃおうか。このダンジョンの主がいるはずだよ」


 ダンジョンの主。

 つまりはこのダンジョンのボスだ。

 ぜひともそのモンスターを仲間にしたいのだけれど、どんなモンスターかなぁ……。

 ドラゴンだといいなぁ。

 お読みいただきありがとうございます!

 次回、念願の……?

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