新しい感覚に出会っちゃった……
『異種族の架け橋』:Lv.奥義
仲間にしたモンスターの種族を人間にする(人型モンスターには効果がない)
人間になったモンスターは各モンスター名をジョブとし、そのモンスターたちのプレイヤーポイントとスキルポイントを自分と共有することができる。また、自分の両ポイントをモンスターに与えることもできる。
ただし、モンスターの所有権を放棄した時にモンスターは人間からモンスターへ戻ってしまう。この時、自分の所有するポイントを共有しモンスターに消費した分は戻ってこない。
「つまり、あのリザードジュランが人間になったってことですよね」
「そうっぽいね……」
「な、なんで裸だったんでしょうか」
「それは、服を着てなかったからじゃない……?」
じゃあみんな全裸じゃん。
野生動物が服を着ているわけがない。
ハルカとジェールはあの後、すぐに街へと帰っていった。
クエストは強襲で来たリザードジュランを追い払うだけだったからお金も無事に確保。
そして、人間になったリザードジュランちゃんを全裸で歩かせるわけにもいかず、そのお金で服を買い与えることにしたのである。
「服っていいね! ねぇ、ご主人!」
人生初の洋服に目を輝かせるリザードジュランちゃん。
容姿は本当に人間そのもので、髪の毛だってちゃんとあった。ちなみにジュランちゃんは茶髪。
あ、私もジェールさんも黒髪ね。ジェールさん、もしかしたら自分の顔に似せてるのかも。
ただ、全裸の時に見ちゃったけれど、ジュランちゃんのお尻の上に爬虫類っぽい短い尻尾があった。
モンスターっ娘たちは部分的にモンスターの姿を残すみたいだ。
見た目を本物の人間と同じにしちゃったら区別がつかないもんね。
「ご主人も自分の装備買いなよ! そんな薄着じゃ襲われちゃうぞー!」
「きゃっ! こら、いきなりびっくりさせないでよ」
「えへへへ……」
ガオガオ言いながらリザードジュランちゃんが飛びついてきた。
けれど、たしかに今の僕は初期装備の洋服だけだ……。
すっごく薄いワンピース。
でもジュランちゃんにお金使っちゃったしなぁ。
「えーっと……。リザードジュランちゃん?」
「ご主人。名前はステータスに書いてあるから、ちゃんと読んで。ちゃんと呼んで」
わざわざ言い直さなくても……。
けれど、それほど呼ばれたいのかな。
ハルカは自分の腕輪からステータスを確認する。
テイマーは仲間にしたモンスターのステータスを自由に見れるけれど、ハルカは奥義のおかげで装備の脱着もできるようになっていた。
人間にならないと装備はつけられないみたいだから、この奥義はなかなかの戦力増強になった気がする。
この奥義は他にもレベルアップで獲得した自分のポイントをモンスターのために使ってあげたり、逆にモンスターのポイントを自分のステータスのために使っちゃったりもできるらしい。
「名前……。リザ? まんまリザードジュランから取られてるんだ……」
「しょ、しょうがないじゃん! それでもママがつけてくれた大切な名前なんだから!」
「ごめんごめん……」
すごいなぁ……。
リザードジュラン一匹にも人生があって、それをAIがリアルタイムで動かしてるんだもんね。
プレイヤーが見てない場所でモンスターたちの生活もしっかりと営われているんだ。
「さて……。ジェールさん、次はどうしましょっか」
「戦えるようになったし、もっと戦力を増やそうか。装備だとか、もっとモンスターを増やすとか」
「ドラゴン! 僕、ドラゴンに乗りたいです!」
「む……。ご主人、もう浮気ぃ……?」
ハルカがはしゃいでいたら背後からねっとりとした声が襲ってきた。
嫉妬からかリザがくっついてきたのだ。
「ねぇ、ご主人。せっかく服を買ったんだし、脱がせる楽しみができちゃったんじゃない?」
「はひっ!? ぬ、脱がせるって!?」
「なんか体、熱くなってきちゃったしぃ……。ね?」
「ジェールさん! これ、どうなってるんですか!」
いきなりゲームのジャンルが変わってきちゃった!
こういうことは18歳になってからだよ!
「多分だけどさ……。最初にも言ったけど、強襲イベントでやって来るのはモンスターが繁殖期でピリピリしてるからなんだよ。だからそのリザちゃんも――」
「は、繁殖期!? だ、ダメだよリザ! 女の子同士じゃ子供はできないって!」
「どーでもいいの。こっちはご主人とそういうことしたいだけだから。好き、ご主人、大好き」
首にチュッチュとキスをされてしまった。
何回もやられると、なんだか変な気分になりそうだ。
「繁殖期と『愛され体質』がうまい具合に作用しちゃってるっぽいね……。お金は貸してあげるからさ、宿にでも行く?」
「ジェールさんはどうしてノリ気なんですか! やんっ! リザ、ストップ!」
「ご主人、薄着ってことは誘ってるんだよね? しよ……?」
リザが首を舐め始めた。
ペロペロと動かされ、くすぐったさの奥に興奮を覚えてしまう。
こんなの、現実でも味わったことない……。
「リザぁ、だめぇ……。こ、こんなことしたらBANされちゃうぅ……」
「あ、ハルカ、そこは大丈夫。このゲーム、プレイヤーがプレイヤーに無理やりそういうことを迫る迷惑行為じゃなければBANされないから。路上でいちゃつくくらい多目に見てくれるよ」
「あふっ……! じゃあ、リザのことBANしてぇ……!」
「NPCは無理だよ……。モンスターに襲われるなんて、ゲームじゃ普通じゃん」
『襲う』の意味が違うよ!
こんなの子供の教育によくないって!
だが、リザはお構いなしに攻めてくる。
ついには服の中に手を滑らせ、男の自分には未知の領域にステップアップしてしまった。
「んんぅ……。んっ! あっ……!」
「ご主人、ご主人! そんな苦しそうにして、声ガマンしないでいいんだよ?」
「バカぁ……。ジェール――ぅやん! ジェールさん、これ剥がしてください!」
「え、もっと見ていたい――って、私は何考えてんだ! ごめんね、剥がす剥がす!」
ようやく攻めが終わった。
首は唾液まみれだし、胸はなんかピンとしてる気がする……。
でも、終わりだ。ひとまず終わった。
「リザっ! 僕たち、まだそこまで仲良くないんだからねっ! そういうことは、二人がもっと仲良くなってからで……」
「ちぇー、せっかく人間になって、服まで貰ったのに。でもご主人。こっちはまだあと一ヶ月くらい疼いてるから、したい時はいつでも言ってね」
「は、繁殖期長すぎだよ!」
ハルカは大声を出してからハッとした。
自分が他プレイヤーの注目を集めていたのだ。
大声を出したからだろうか、それともその前から見られてた……?
「わ、うわわ……」
ヒソヒソと話す声。痛いほどの視線。
ハルカは恥ずかしさからいても立ってもいられなくなった。
「ジェールさん! 早くどこか行きましょう! なるべく外で!」
「う、うん……。そうだね、行こう行こう」
しかしジェールもまた、恥に似た感情を抱えていた。
なんだかハルカのことが扇情的に見えて、そんな妄想をしている自分に悶々とする。
私も、モンスターとしてハルカに近づきたかったな――。
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次回、ダンジョンへ行きます!