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 その声は紛れもなくリザだった。

 見た目は大幅に変更されているけれど間違いなくリザだ。


「ど、どうして……? NPCって今消されちゃってるんじゃないの?」

「えっへへー! ご主人に会いたいって願ったら復活しちゃった!」


 めちゃくちゃだ。

 そんな都合よく奇跡的な出来事が起こるなんて――いや、起こっちゃってるんだけどさ。


「というか、その姿なに?」

「そこについては私からお伝えしますね、ご主人様」

「え!? シル、ル……?」


 さっきまでリザの声帯だったのにいきなりシルルになったぞ。

 声マネでもして驚かせようとしてるのかと思ったけど、ふざけるような空気でもない。

 僕の困惑は気にせず、シルル(?)は話を続けた。


「私たちはここにいるべき存在ではない、なにより意図的に組み込まれたものでもない。わかりやすく言うなら、バグということです」

「バグ……?」

「はい。私たちも自分は電脳世界の住人なんだってことを自覚してますから。ちょっと頑張ってみました」


 バグという言葉が気になってステータスを確認してみた。

 僕はいつでもテイムしたモンスターの状態を確認できるのだが、モンスターたちの項目が砂嵐のようなエフェクトで見えなくなっている。テイマースキルの説明欄もところどころ文字化けしている。


「目に見えて出力されていなくても、プログラムとしての私たちはずっとサーバーに保存されていますからね。私たちが倒されたとしても、消えてしまったとしても、私たちのデータはあの中に存在するんです。記憶さえも残ったまま……」

「じゃあ、あの箱のから見ててくれてたの? いや、でも、それってテイマーが強すぎちゃうんじゃ――」

「いいえ。きっと、たくさん研究したら意図的なバグの起こし方もわかると思うのですが……。とにかく私たちにわかることは、ご主人様を愛していたからこそ、助けたいと感じたからこそ、こうして出てこれたのだということだけです」


 愛している……? もしかしてこのバグには『愛され体質』のスキルが関係している……?

 まさかこんなところでも生きてくるなんて思わなかった。


 とにかくこのゲームが、AIが、彼女が僕を選んでくれたのは事実らしい。そこに感情としての愛が存在するのかはわからない。究極、愛を持っている生物がするであろう行動を高度な計算で判断して実行しているだけかもしれない。

 それでも仲間が僕を選んでくれたのなら、僕はそれを信じたい。


「……わかった。こんな僕についてきてくれてありがとう」


 僕はテイマーだから、他力本願しかできない。

 けれど、僕の一言でみんなの力が高まるのなら。僕は何度でも言ってあげたい。


「やっちゃって! リ……シ……。二人とも!」

「何を言うか主よ! 今は妾の番だぞ!」


 まさかのルグリ……!


 なにこのトリニティ。三人が一人になった姿が今のこれってことだよね。

 たしかによく見てみれば髪色はリザの茶、シルルの青、ルグリの赤が混ざっているわけだし。身体的特徴も、角がルグリで胸がシルルで尻尾がリザだし。身長は三人の中でシルルがトップだったけれど、今の彼女たちはそれよりも少し高い。

 

 そうしたらますます名前をどうしたらいいのかわからなくなる。

 三人がひとつになったから――リシル? なんか違和感あるなぁ……。


「……もうなんでもいいからやっちゃって! ゴーゴー!」

「任された!」


 考えてみれば人間の細胞だって、地球のはじまりだって、言ってしまえばただの化学反応だ。誰かが意図的に起こしたものではなく、なるべくしてなってしまったもの。

 この世界に存在する森羅万象が人工的であったとしても、0と1の配列が自然を真似すぎてしまった。あるいは不完全すぎてバグを生み出したか。

 自然には確率なんて存在しない。風が吹いて、花が散る――それは自然的な現象であって、ハズレくじを引いたわけでもない。


 ただただ、イレギュラーな存在が。風が。

 箱庭の中を突き抜けてしまっただけだった。


 3人が合体した姿である――ここでは便宜上リシルと呼ぶことにしよう――リシルはとてつもなく強かった。

 文字化けしてしまって、ステータスもスキルも確認できないけれど、スキルなんてものはむしろ存在していない気がする。それはどういうことかというと、リシルはスキルなんてものがなくとも強く、単純な武によってどんな相手も倒せそうだという意味である。下手なスキルは不要――。


「我の全力で――死にさらせぇぇえッ!」


 リシルの左手がルヴィの首を掴む。その行動をするや否や、反対の手が大振りのストレートで火を吹いた。リシルの拳は的確に顔面を捉えていて、その時にはじめて左手の役割を確信させる。

 相手を逃さないようにし、最大火力を与える――。まじりっ気のない暴力が恐ろしく強かった。


 しかし、対するルヴィもまだラスボスの意地を見せつけてくる。

 最大火力であったはずの右手を、動かせる首だけの動きでどうにか緩和した。当たる瞬間、拳と同じ方向に顔を動かすだけのことだが、一瞬の判断と度胸、それを行う反射神経を兼ね備えている証拠だ。


 その後ルヴィは、がっちりと首を掴まれているのを利用してドロップキックを放った。ルヴィの方からリシルの左手首を両手で掴み返しての蹴り――ダメージを与えるどころか、衝撃で左腕の関節が外れるかもしれないほどの勢いだ。

 ――が、蹴飛ばしたルヴィが反作用でバランスを崩す。その理由は、リシルが全くといってもいいほど動じなかったからだ。

 ルヴィのまるで岩を蹴ったかのような動き。しかもそれは、両脚を差し出すドロップキックであったからこそさらにオーバーなものになってしまった。


「ぐっ……。私より強いNPCなんていないはずなのに……」

「あらあら、ご主人様と私たちの話を聞いていなかったのですか? まだ耳は引きちぎってないですよ」

「バグ、だったっけ……? いいよ、私を殺せるものなら――全力でやってみなよ!」


 ルヴィがギラリと目を光らせる。目の奥を光らせる仕草は、サキュバスの王である彼女特有のスキルだった。彼女にはNPCを統率するシステムがプログラミングされていて、その目で魅了したNPCを配下とすることができる。


 その目を見てか見ずか、リシルは首を掴む手を放して距離を取った。

 バックステップとでも言うべき動きは底なしの俊敏さで、それは後ろに下がることに限ったものではなかった。リシルは魅了に気をつけつつ――実際にそれを念頭に置いて行動しているかは速すぎてわからなかったが――ルヴィの背後に回ってはインファイトを繰り返す。


 大振りの打撃は力強く、いかなるダメージにも動じず、フットワークはピカイチ。

 攻防を兼ね備えた最強の存在が、そこにはいた。


「ふふん、もう勝負ありなんじゃない? リザたちの強さはもう十分にわかったはずだよ」

「いいや! まだ、まだ私は――!」

「えぇ!? こんな劣勢でどうして諦めがつかないかなぁ!?」


 ルヴィが両手の指を広げる。指の先が前方を向いていることから、なんだか嫌な予感がした。

 やがて、その指先から赤黒い光弾が乱射される。銃口は指の数――10本もある。血なまぐさい殴り合いでは勝てないと見込んでか、ついに飛び道具を出したようだ。


「あっ! リシル、アサシンさんとジェールさんが!」


 カトレーさんはもとから気絶していたため、前線には出ていない。だが、他の二人はルヴィにねじ伏せられたままだった。流れ弾が当たる可能性は大いにある。


「は、はいっ! トカゲちゃん、任せます!」


 僕の呼びかけに応えたリシル。その声はシルルのものだった。

 どういうタイミングで人格が変化しているのかは不明だが、先ほどルヴィと話している時はリザだったはず。それが今はシルルに変わっていて、僕の呼びかけにまたトカゲちゃん――リザへ交代しようとしている。


「はいはい! こんなところで寝ないで――って重!? ちょっと、チェンジチェンジ!」


 ジェールさんの体を持ち上げようとしたリシル。しかし力強い拳を放ったとは思えないほどの貧弱さでジェールさんを持ち上げることができなかった。鎧をつけている女性くらい、軽く投げ飛ばせるほどの力があると思ったけれど――。


「どけ! 我の番だ! 主、そっちに吹き飛ばすゆえ気をつけろ!」


 ルグリの人格がそんなことを言うと、脚先で地面を蹴り、衝撃波を起こした。投げるどころか吹き飛ばす、とんでもない荒業である。

 とはいえ後隙が大きかった。脚を使っての対処だったため、瞬発力での反射的な回避が不可能。それを嘲笑するかのようにルヴィの光弾が恐ろしい密度で迫る。これに当たればまさしく蜂の巣になってしまうだろう。


「モタモタしすぎです! やっぱりご老体はボケが進んでるんですかね」


 シルルがそんなことを言った気がした後、ついに光弾がその体に激突した。

 無数の弾が体を貫通して過ぎ去っていく――と想像したが。そんなことはなかった。

 彼女の体に弾丸が当たる直前、彼女の体の手前で弾丸が吸収されていくのだ。吸収しているのは青白いシールドのようなもの。弾が当たりそうな部位に当たる瞬間だけシールドは展開され、弾を飲み込む。


「ふぅ……。最小限のダメージで済みましたね」

「おい、スライム。我のことを老体とぬかしたか? 戦いの歴はこちらのほうが豊富であるのに――」

「突然割り込まないでください! また弾が飛んでくるかもしれないじゃないですか! せっかくお尻を拭いてあげたのに」

「あのさー、リザ思うんだけど、走って避けたほうが楽じゃない?」


 リシルの一人芝居がはじまった。声から察するに合体した三人の意見が割れているらしい。


 あぁ、なるほど。そういうことか。

 僕は今のやりとりで確信した。

 このモンスターっ娘トリニティを上手く操るコツを。人格が変化するタイミングを。


 リシルが優勢とはいえ、ルヴィを打ち負かすにはもう少し決定打が必要だ。

 そのためには僕――テイマーの的確な司令がなければならない。

 でも大丈夫。どうすればいいのかはわかった。


 ここから先は、僕たちの独壇場だ。

 4月までに終わる気がしない!!!

 己のなまけ加減を呪っています。のろのろのろのろ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 仮◯ライダーにも居たよな合体しても意識(自我)が強すぎて一人でごちゃごちゃケンカする奴(ΘдΘ) パターン的に平成20号だけど一番うるさかったのは一人に六人入った平成8号だな(ーー; 今起…
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