モンスターに出会った!
「うわぁぁぁん! ジェールさぁぁん!」
「あんまり離れないで! 数がちょっと多いわね……!」
ワニみたいな、コモドオオトカゲみたいな……。
とにかくハルカは爬虫類っぽいモンスターに追われていた。
「迫力ありすぎ! 怖い! やだ、来ないでぇ!」
「ハルカ! そっちに小さいのが行ったから戦ってみて!」
そうだ。迫力に圧倒されていたけれど、これはゲーム。
僕が怖がる理由なんてないんだ。
「どうやって戦えばいいんですか!」
「えーっと……。殴りなさい! 殴ったり蹴ったり、とにかく殺せぇ!」
「は、はいっ!」
ごめんよ、トカゲくん。
僕のレベルアップの糧になってもらうからね。
ハルカはのこのこやって来た爬虫類を力いっぱい蹴った。
現実ならば爬虫類は空中に投げ出されていただろう。
けれどこれはゲーム。
そうもならない理由があった。
「お、重っ――! というか、全然ひるんですらない!」
ハッとした。
たしか自分はとてつもなく弱いステータスだったんだ。
自分の物理攻撃力は2。
この爬虫類の物理防御力は100くらいありそうだ。
「ひぃ! 逃げなきゃ!」
ハルカの素早さは5。
爬虫類は――。
素早いモンスターだからたくさんあるかも。
「ひゃぁ!」
すぐに回り込まれて、爬虫類が飛びついてきた。
非力な自分は押し倒され、地面の冷たさを感じとってしまう。
けれど悠々としていられない。
自分の上に四本の脚を乗せ、今にも噛みついてきそうなモンスターがいるからだ。
どうしよう。
もう食べられちゃう。
早くもゲームオーバー?
「ハルカ! テイマーのスキルを使いなさい!」
「え、あ……。どうすればいいんですか!?」
「あなたのパッシブスキルは『対話』だから! そのリザードジュランに話しかけて!」
そんな名前だったんだ!
けど、リザードジュランさんに話しかけるってどうすればいいんだろう。
好みの話題とか何もわからないよ。
ここはとにかく命を優先しよう! 命乞いだ!
「リザードジュランさん、殺さないでください! 僕、このゲーム始めたばっかりの初心者なんです! 食べても美味しくないし、栄養なんてないかと……」
リザードジュランはまだ上に乗ったままだ。
じっとハルカを見つめ、いつ噛みついてもおかしくない。
「あ、あの、僕テイマーって言って……。よければお友達になってほしいんですけど……。あぁ、いや、選ぶ権利はそっちにありますから! 機嫌は損ねないでくださいね!」
ハルカは必死だった。
とにかく攻撃されないように怯えながら言葉を繋ぐ。
本当に届いているのかわからないし、とっても怖い。
でも今やれることはコレしかない!
「僕一人だと弱くて何もできないんですが、テイマースキルだけは高いみたいで……。だから、悪いようにはしませんから」
「クルルルル……」
リザードジュランの喉から高い音が鳴る。
僕のことを認めてくれたみたい。
なぜだかそんな鳴き声な気がした。
「ハルカさん! これっていいんですか?」
「……いいね。他のリザードジュランも帰っていったし、きっと成功だよ。ステータスを見てみて、何か変化があるかも」
腕輪を見ると赤色に点滅していた。
すぐに触って確かめてみると、自分の横にリザードジュランのステータスが表示されている。
成功したんだ。
「やったぁ! 初モンスターゲット!」
「リザードジュランはモンスターランクCだから、初回にしてはなかなかすごいと思うよ。さすが、テイマースキル全振りなだけあるわ」
レベルとは別にモンスターの強さを表す区切りがあった。
それがモンスターランクでF〜Aランク、さらに上はA+、S、S+があるらしい。
「きっと今のでレベルも上がったはずだよ。モンスターを捕まえるとプレイヤーレベルへの経験値は半分になっちゃうけど、ジョブレベルに2倍の経験値が流れるんだ」
「レベルに種類があるんですか?」
「うん。ステータスを上げるにはプレイヤーレベルが必要で、スキルの種類や強さを上げるにはジョブレベルが必要なの」
「へぇ……。あ、本当だ。ジョブレベルがすごい上がってる」
プレイヤーレベルはいきなり4にまで上がった。
対してジョブレベルは7。
たった一回で素晴らしい進歩だ。
「ジェールさんのレベルっていくつなんですか? とっても強かったけれど……」
リザードジュランの大群を太刀の一振りで殲滅していた。
ハルカに飛びついたリザードジュランがたった一匹だけだったのは、他をハルカが駆除していたからである。
「私はプレイヤーレベルが168で、ジョブレベルが139だよ」
「高い……! というか、上限ってないんですか?」
「まだ聞いたことないね。このゲームのトップはたしか700超えてたような……」
もうその人だけでラスボスを倒せるんじゃないかな。
僕らみたいな初心者って逆にいらない……?
「それで、ほら。レベルが上がったんだしポイントを振らないと。忘れないうちにやるのは基本だよ」
「は、はい!」
ステータスはどれがいいかな。
攻撃手段であるモンスターを捕まえたから僕自身の攻撃力はいらないよね。
モンスターがやられた時のために防御力と素早さを上げるべきか。
でも、物理攻撃は素早さを上げれば避けれるかも。よし、魔法防御力と素早さを上げよう!
そういえば、ステータスにある気力とか魅力っていうのはどんな効果があるのかな。
気力が4で、魅力は9だけれど……。
「防御と素早さ振りって……。本当にモンスター任せなんだね。むしろテイマーの鑑か」
「ま、まずかったですか!?」
「いやいや、そんなことないよ! ゲームの楽しみ方は人それぞれだしね。まだ初心者なんだし、最初は楽しむが吉」
「ですよね! ふふ、スキルのポイントもこの調子で振っちゃお」
ハルカの笑顔は天使だった。
その破壊力はジェールが「かわいいかよ」と言いかけるほど。
ジェールは硬派な性格であるのに、そのガードさえ崩しかけているのだ。
さてさて、そんなことを知る由もないハルカはテイマーのスキルと向き合っている。
今、自分は『対話』『通訳者』『愛され体質』というスキルを使えているようだ。
どれもパッシブスキルらしい。
「ジェールさん。僕ってMPがないから、パッシブスキルじゃないやつを解禁しても使えませんよね?」
「そうだね。アクティブスキルはどのジョブもMPを消費するから」
「じゃあパッシブを深くしていこうかな」
そういえば今使えるスキルの効果ってなんなんだろう。
ハルカはスキル欄に触れ、詳細を見ることにした。
『対話』:Lv.3
自分の発する言葉が各種モンスターへ届くようになる。
レベルが高いほどより鮮明に言葉が伝わり、野生のモンスターにも効果が表れるようになる。
『通訳者』:Lv.2
モンスターの鳴き声や仕草でぼんやりと気持ちがわかるようになる。
最大レベルの時のみ、鳴き声を言語として聞くことができる。
『愛され体質』:Lv.MAX
敵モンスターから狙われにくくなり、味方に引き入れやすくなる。
また、味方モンスターがプレイヤーになつきやすくなる。
どれも最大レベルは5みたいだ。
じゃあもう、対話と通訳者のレベルを最大にしちゃおうっと。
ハルカの使えるスキルポイントは6。
二つのスキルを最大にしても、まだ1ポイント余ってしまった。
「お、さっそく最大レベルのスキルが3つか! しかも同じ系統じゃん!」
「けいとー?」
「そう。同じジャンルって言うべきかな。今ハルカが最大になってるスキルたちはどれもモンスターと意思疎通ができるスキルだよね」
「そうですね。『愛され体質』はよくわかんないですけど……」
けれど、よく見たらどれも【ジャンル:異種間友好】と小さく表示されてあった。
同じ系統らしい。
「ひとつのジャンルのスキルを全部最大レベルにしたら、特別なスキルが解禁できるようになるの。奥義って言われてるんだけどね――」
「奥義!? かっこいい!」
「異種間友好系統のスキルはその3つだけだから、あとスキルポイントが1あれば使えるようになるけど……」
「あります! やった、奥義が使える!」
なんだかすごい響きの言葉だ。
奥義。奥義……。
やっぱりかっこいい!
ハルカがスキルの書いてある部分を下へとスクロールすると、ようやく奥義を発見した。
奥義の中でひとつだけ光っているものがあり、そのジャンルは紛れもなく異種間友好だった。
すぐにタッチし、奥義を解禁する。
「これでどうなるんですか!」
「えぇ……。それは説明を読んでよ。もう、興奮しちゃって……」
やっぱりかわいいなぁ――。
ジェールがそんなことを考えていたら、変化はすぐにあった。
さっき捕まえたはずのリザードジュランが光り輝いたのだ。
「うわっ! こ、これ、どうなってるんですか!」
「奥義の効果よ。系統がパッシブスキルだから奥義もパッシブなの。きっと仲間にしたモンスターを強化するんじゃない?」
「ずっと光って、見えにくいだけじゃ……」
ハルカがそう言った途端、発光は止まった。
しかし、リザードジュランの姿そのものが消えてしまう。
そのかわりに――。
「うわ、なにこれぇ……。人間の体って動きにく……」
知らない全裸の少女が、ぺたりと座っていた。
お読みいただきありがとうございます!
次回から待ちに待った百合展開!
本格的にエンジンかかりますよ!