狙われていたのは出会った時から
ある時からゲームは性別を超えるものになった。
自分が男性でも女性キャラを選んだり、女性でも男性を選んだり。もちろん自分と同じ性別も楽しめる。
ゲームによっては装備の差とか、強キャラがたまたま自分と違う性だったというだけの理由で使う人も少なくない。けれど現実の性に従わなかったからといってプレイヤーたちが責められることはなかった。
ゲームの中の性別選択はなぜか現実よりも緩く、自由に認められている風潮があった。
そんな空気が定着してきた中、誕生したのがVRMMOというゲーム。
自由なキャラクリエイト、現実と感覚の差異がない操作。まさに第二の人生を歩むようなものだった。
『なりたい自分』に性別さえ近づける夢の装置。
しかし問題なのは夢と現実の境界線が極端に少ないこと。
これまでのゲームで自分と逆の性を選んだとて、現実になんら影響を与えることはなかった。
ただVRMMOは自分の口調がそのまま反映されるし、体の感覚も鮮明に伝わるもの。
もう一人の自分を実現する夢の装置は、もう一人の自分に飲み込まれる危険な装置でもあったのだ。
「――と、まぁ、私たちがゲームの操作のためと謳ってプレイヤーの脳に簡単にありとあらゆる信号を送れることは説明したわよね。感覚を操り、感情も統制して現実世界のユートピアを目指す……のが弊社の目的なんだけど」
お姉さんに地下室まで運ばれた僕は椅子に縛りつけられていた。
魔法でもなんでもなく、ただの重い鎖でがんじがらめにくくられている。
「私――お姉さんがなぜかこうやってラスボスになっているのが謎なんでしょ。適当にゲームにハマらせて、あとは少しずつ装置を日常に浸透させるれば洗脳はできるはず。運営という存在がこのゲームをプレイする必要はないものね」
つまり、裏の目的がある。
ゲームが開発された目的とは別に、お姉さん個人の野望が。
「じゃあ昔ばなしのはじまりはじまり~」
それは半年前のことだった。
突然、誰かがラスボスであるサキュバスを倒したのだという。
結論から言ってしまうと、それが私――。
初代ラスボスはお姉さんが倒したのよ――。
倒すと言うには語弊があった。
なぜなら、殺害という意味での『倒す』は実行されていないからだ。
お姉さんはテイマーで、しかも開発者。
簡単にチート級な力を身につけ、ラスボスを懐柔。
今も彼女は元気にしてるわよ――。
でもその子が誰で、今どこにいて、何をしているかはヒミツね――。
一方でお姉さんはモンスターを調教するテイマーだったが、ただのテイマーではなかった。
ヘッドギア型ゲーム機の形をした洗脳装置でプレイヤーひとりひとりの脳を洗脳することも容易い。
やり方は簡単、相手の脳に幸福ホルモンを分泌させればいい。するとお姉さんを見るだけで相手は恋にも似た感情を覚え、勝手にそれをゲーム内のスキル――サキュバスの魅了――だと思ってくれる。
それで何がしたかったのかって――?
そうね、ただ欲望を満たしていただけよ――。
このゲームはTSリリー・オンライン。当時のキャラクリエイトでは女性しか選べず、男性は全て敵NPCだったそうだ。
そこでお姉さんは『プレイヤー狩り』を始めた。
特に現実がいたいけな少年だったり、まだ大人になりきれない青年を狙い、誘惑しては時間を忘れてお楽しみするというもの。
キミは最初、私に『誘拐犯』ってレッテルを貼っていたけれど、本当にこの世界では誘拐犯なのよね――。
キミみたいな子を何人もめちゃくちゃにしたの。ちょうどこの地下室でね――。
ゾッとした。とんでもない変態だ。
少年に手を出すだけでなく、わざわざ女体化させてから楽しむなんて。
ただ誤算があってさ――。
距離が近すぎるとゲームとしての世界観が壊れるのよ――。
体を楽しんで、洗脳で心さえ依存させて、お姉さんのコレクションはだんだんと増えていった。
けれどもこの闇を一般のプレイヤーに知られるわけにもいかない。お姉さん個人の野望が知られると、会社そのものの闇さえ暴かれかねないからだ。
そこで、男性プレイヤーを追加した。
NPCの巣窟だと思われていた敵陣営にあえてプレイヤーを設置することで、自分のお楽しみをやりやすくしたのだ。
ゲームなんて娯楽よ――。
この世界でしかできないことを全力で楽しむべきでしょ――。
男性を選んでも女性を選んでも、お姉さんは気に入った青少年を絶対に逃さなかった。
けれどこれとラスボスになった理由は関係があるのだろうか。
普通のプレイヤーとして紛れ、隙を見ては楽しむという手法でもよかった気がするが。
そこは好みの問題よ――。
私は、強気に挑んでくる男のコをねじ伏せることに興奮しちゃうから――。
無理やりしちゃうのがね、本当に好きなの――。
どこまでも変態的だった。
自分のちょっとした欲望のためにわざわざラスボスになったのだから。
ふふ、お楽しみ現場を隠しやすいって理由もあるわよ――。
それに、ラスボスくらい強い存在ならちょこっとチートっぽくてもバレにくいしね――。
挑んできた者も、お姉さんに誘拐された者も、地下室で堪能されてしまっては誰も助けを呼べなかった。
そのうえ要塞の警備は厳重だし、逃げ出すことも難しい。
男性側を選んだ少年も同じだ。ラスボスは上司のようなものだから、ゲームのイベントと同じノリで呼び出しに応じてくれる。
しかし、地下室に入ってみれば待っているのは地獄の一夜。
無理やりという点で言えば、彼らもなかなか楽しかったわ――。
こういう呼び出しイベントって、だいたいのゲームがアイテムをくれたり、新しいミッションが解放されたりするでしょう――?
そうやってワクワクしてる男のコが絶望に堕ちる瞬間……。あぁ、いいわぁ――。
そういうわけで、お姉さんはラスボスとして君臨している。
全ては自分の欲を満たすため。気に入った青少年を味わうため。
しかし、ベラベラと僕に話してくれたのが運の尽きだ。
僕はたとえ何をされてもお姉さんを許さないし、ましてや感情の統制を見過ごすわけにはいかない。
僕には現実世界を救う使命ができてしまったのだから。
バカね――。
こっちはキミの脳を操れるのよ――?
人間は快楽に依存しやすいの。キミに四六時中快楽物質を出す信号を送れば廃人確定――。
万が一それでもダメだったら、海馬を攻撃して記憶を消せばいいのよ――。
わかるかしら――。
脳はその人間の司令塔――。
キミはその司令塔を私にジャックされてるんだからね――。
もう自分の体が自分のものだと思わないことよ――。
あぁ、それと――。
このゲームを現実世界で壊そうとしても無駄だからね――。
膨大なサーバーがいくつもあって、AIを搭載した親サーバーが複数ある子サーバーの面倒を見ているから――。
つまりはサイバー攻撃をしても通用しないってこと――。
根本となる親サーバーを壊さない限り、このゲームに本当の壊滅は訪れない――。
そして親サーバーは――。
残念ながら、現実には存在しないの――。
もしも本気で私を止めたいなら、この世界のルールで強くならないとね――。
あぁ、ごめんね。イジワルなお姉さんが初期設定の時点でキミのステータスを意味のわからない極振りにしちゃってたみたい――。
PvPで、しかもタイマンでは全くもって意味のないスキルばかり――。
つまりはそういうこと――。
そろそろおしゃべりはやめにしましょうか――。
今度は肉体で話しましょう――。
これで、ゲームオーバーね――。
お読みいただきありがとうございます!
更新遅くなってごめんなさい!
愉快犯・お姉さんのせいで人生を狂わされた青少年は何人いるのやら……。
そしてハルカはその一人になってしまうのか!?




