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苦しさに出会わせてしまった

 要塞の中は全くもってファンタジックじゃなかった。

 むしろすごく近未来的。

 監視カメラに赤外線センサー、警備ロボットとかその他いろいろ。

 もちろん全部に見つかってる。リザがハイになってるせいで。


「リザ! どこまで走るの!」

「きぶーん! あはははっ!」

「ボスを! ラスボスを見つけてよ!」


 ブザーは鳴るし、追っ手はすごい来るし……。

 しかも一部のサキュバスがとうとう低空飛行を始めた。

 もう速さでゴリ押しも難しそうだ。


「リザ! とりあえず【自切】でやりすごそう! この数は絶対に勝てないから!」

「あはははは! あははは! キモチイイぃ!」


 ダメだ、この変態……。

 発情のせいもあってか、走ることへの執着がとんでもない。

 快感を貪ってるよ。


「あれ? 腕輪が光ってる……。なんだろ……」


 触って確かめてみると、カトレーさんからメッセージが届いているようだった。

 件名は『気をつけろ』とだけ。

 再生してみよう。


『嬢ちゃん、そっちは大丈夫か? なんか、作戦変更したんだって? 困るよなー、ジェールが勝手に決めちまうんだから。おっと、本題に入らねぇと……』


 一発――。

 画面の中で銃声が鳴り響いた。


『外は俺たちだけで順調だから、すぐに片付けてそっちに向かう。嬢ちゃんはラスボスのいる場所を探してくれ。聞いた話だと地下に隠れているらしいが、ずっと引きこもってるかと言われたらそうでもないだろ。赤髪のサキュバスだ。頼んだぞ』


 メッセージはそこで終わった。

 とにかく赤い髪を探せばいいらしい。


 けれど、もしも出会ったらどうすればいいんだろう。

 ラスボスなんだし、むやみに突っ込んだら危ないよね。

 かといってボーッとしてたら見失っちゃうだろうし。


「リザ! どこかに地下室の入り口があるかもしれないから、それを探して!」

「あはははは! りょーかーい!」


 ほんとにわかってるかなぁ……。

 ただはしゃいで走ってるようにしか見えないけれど……。


『侵入者はc-7エリアにまで進行中! 早急に捕らえよ! 繰り返す、早急に――』


 やっぱりブザーがうるさい。

 このハイテクな装置、どうにか解除できないかな。


「来た! 侵入者だ!」


 前方で声がした。

 ハルカが確認すると、そこにはサキュバスたちが大きな盾を構えて立ちふさがっていた。

 この先へ進むのを予測して先回りしていたのだ。

 恐らくはアナウンスのせいだろう。


「リザ、わかってるよねっ!」

「もっちろん! いっくよー!」


 ホップ、ステップ、ジャンプ――!


 リザは【跳躍】を発動させ、鋭くキレのある跳びをしてくれた。

 サキュバスたちの頭上を通り過ぎ、かつ天井にもぶつからない完璧な角度だ。


「よし! さっすが!」

「もっと褒めて! うぇへへへへ」


 それにしてもおかしな話だ。

 それほど戦闘力が高くない種族であるサキュバスがどうしてラスボスなのだろう。

 正直、数を多くしてかかってきてもルグリ一人でどうにかなるくらいしか強くないだろう。

 ましてやこっちにはジェールさんとカトレーさんもいて、明らかなオーバーキル。

 なんか、納得がいかない。


「けどいっか。言われた仕事に集中しとこ」


 赤髪のサキュバスはなかなか見つからない。

 黒髪、銀髪、茶髪……。

 けれども赤はまだ一人も見ていない。

 地下室らしきものもまったくわからないままだ。

 これでいいのだろうか。


「いてっ!」


 突然、リザが脚を止めた。

 どうしたんだろう。

 走りすぎで筋肉でも痛めたのだろうか。


 そんな機能があるかはともかく、その予想は当然ながらハズレとなる。

 痛がった理由は――。


「なにこれ。弓矢? 大丈夫?」

「う、うん。ダメージはそこまで高くなかったから大丈夫……」


 リザの太ももに矢が刺さっていた。

 抜いてあげようと思った瞬間、その矢は徐々に薄くなって消えていった。

 さすが、グロテスクなシーンは見せないようにしているゲームだ。

 さっきまで矢が刺さっていたはずの太ももは傷も見当たらず、つるつるぴかぴか。


 けれど、この矢はどこから来たのだろう。


「ご主人、あれ見て!」

「監視カメラ……? 違う、なにこれ。ボウガン?」


 引き金を引けば矢が飛ばされるボウガン。

 それがなんと、センサーで起動するようになっていた。

 侵入者を確認すれば発射されるみたいだ。


「弓矢は銃よりも火力が低いし、そこまで心配する必要はないよ。ご主人に刺さらなくてよかった」

「あ、ありがとう……。でも本当に大丈夫? この先、どうする?」

「ちょっと戻って、別のルートを探そうよ。リザの脚ならすぐに行け――オェ!」

「リ、リザ!?」


 リザがその場にうずくまってしまった。

 なんだか体調が悪そう……。

 吐きそうな感じがしてる。どうしちゃったんだろう。


「ごめん、ご主人……。弓矢は火力が低いんだけど、毒が塗れるってこと忘れてた……」

「毒!? 大丈夫なの!?」


 泡のようにリザの喉の奥から紫色の液体が溢れてくる。

 リザはそれをぺっぺと吐き出しながら続けた。


「HPはちょっとずつ減るけど、他のステータスに影響はないよ。けど、具合悪いかも……」


 口の端から紫の液体が糸を引いて垂れていく。

 汚いと言えばそれきりだけれど、純粋にかわいそうだった。

 僕の指示が悪かったからこうなっちゃったんだ。


「さっきからぺっぺしてるのって、やっぱり気持ち悪いの?」

「この紫のが毒素なの……。吐き出せば吐き出すほど早く回復できて――というか吐き出さないと治らないから」

「は、吐く? ぺっぺじゃなくて、もっと盛大に」


 言い方が悪いな。

 リザが苦しんでるのに、ちょっと配慮が欠けてたかも。


「そういう問題でもないけど……。でも気持ち悪いのはたしか……。おぇぇ……」


 どうしよう。この要塞、トイレはないのかな。

 別に敵の敷地内だし、嫌がらせにここで吐かせても問題はなさそうだけれどリザがかわいそうだ。

 乙女に誰がいつやってくるかわからない場所で出させるなんて最低だよ。


「いた! 侵入者がc-11に!」

「ヤバっ! もう追っ手が!」

「ご主人……。ちょっとなら走れるから……。逃げよ……」

「う、うん! あんまり無理しないでね!」


 リザは頑張れる子だった。

 紫を撒き散らしながらもなんとか走って、さっきとは違う場所に。

 これで少しは落ち着けるかもしれない。


 そう信じたかった――。

 お読みいただきありがとうございます!


 リザ、毎回状態異常にかかってますね。

 麻痺の次は毒って、本当にかわいそう。

 そもそも発情も状態異常だし……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さっきと違う場所?少しは落ち着けるかも?あ〰️ねなるほどなるほど(゜ロ゜) そこなのね〰️なるほどよしわかった先ずは毒ゲロはそこの物影で自主規制の差し替え流すからそこで済ませなさい流…
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