イケメンさんに出会った!
「なにこれ……」
池に映る自分の顔はどう見ても女性だった。
しかも高身長ってお願いしたのにほんのちょっとしか高くなってない。180cmくらいほしかったのに。
体つきもそこまで大人びてないじゃん。胸とか全然ないや……。
小さい体をバカにされているような気分。
「……なんだろう、この腕輪」
気になる点はたくさんあったが、そのうちのひとつがこれ。
右手首に光り輝くリングがあった。
光っている部分を触ってみると、自分のステータスがズラリ……。
やっぱりゲームの世界なんだ。
女の子になったのが現実じゃなくてよかった。
えーっとステータスは……。
HP30、MP0、物理攻撃力2、魔法攻撃力0――。
なんだか低くない?
他の項目も二桁いってないし。
あ、そうだ。名前はどうなったのかな。
「えっ!? 僕の名前『ハルカ』なの!? ハしか合ってないじゃん!」
お姉さんのイジワル!
どうしてこんなイジワルするのさ!
けれど、新感覚のゲームにワクワクしているのも事実。
颯斗――もといハルカ――はステータス画面に赤く表示されている部分に気がついた。
『初クエストを受けよう!』と書かれてある。
「矢印の方向に進めばいいのかな。とりあえずやってみよう!」
いろいろとツッコミどころはあるが、とりあえず進もう。
やってみれば面白いかもしれないし。
池の周りからしばらく歩くと、賑わいを見せる街に入った。
ガヤガヤと活気があるけれど、この人たち全員がプレイヤーなのかな。
「そこの初心者!」
「……ぼ、僕ですか?」
声をかけられて振り向いてみると、そこには強そうな鎧を着た――。
女性、だよね。
ボーイッシュっていうか、いや、髪はそこそこ長いけれど。とにかくかっこいい人だ。
かっこよすぎて本当に女性か疑っちゃった。
「装備を見る限り今日始めたカンジかな? 最近は強襲イベントで何があるかわからないから一緒にいてあげるよ」
「きょうしゅー?」
「あぁ……。ちょっと難しい話なんだけどね」
イケメンさんの話では、このゲームには高性能なAIが搭載されているらしい。
モンスターたちはゲームの運営陣が手をつけずとも勝手に繁殖したり、新種や亜種が生まれたりするみたいだ。
それで、最近はモンスターたちの繁殖期で、そこらへんを血の気の多いモンスターがウロウロしているんだとか。
「それを強襲イベントって言うんですね。けど、それって初心者がかわいそうじゃ……」
「うん、かわいそうだよ。けど、運営は修正しないんだよね。現実性重視っていうかさ、妙に現実の厳しさを残してるところがある」
たしかに現実でも猪とか熊が出没することだってあるもんね。
現実的といえば現実的かも。
「それだけじゃないよ。天候だとか、災害やら人災やら。あとは敵陣営とか」
「敵陣営?」
「ラスボスのこと。まさか、そういうことも知らずに始めちゃったのかな?」
ハルカは頷いた。
「TSリリー・オンラインの目的は、悪しきサキュバスの女王を倒すこと。じゃないと男どもが戻ってこなくて世界滅亡しますよって設定なんだよね」
「えっ、キャラクリエイトで男性キャラを選んだらどうなってたんですか?」
「え? それは敵陣営側よ。このゲームはPvEだけじゃなくてPvPもあるんだから」
「それで、この世界は滅亡するんですか……?」
イケメンさんはため息をついた。
もしかして愚問だったのかな。
「こっち側はまだ負けたことがなくて、よくわかってないんだけど……。敵側は一回滅んでるの」
「敵ってサキュバスの女王ですよね? それはゲームクリアじゃ……」
「違うの。さっき言った通り、AIが高性能すぎてね……。サキュバスの女王を倒しても、その娘が後継したのよ。しかもそいつ、政治がうまくて大国を築きやがったわ」
「えぇ……。終わらないじゃないですか」
「けど、やっぱりそのリアル感が面白いのよね。もっと強くなって、この世界の英雄に、なんて……」
イケメンさんは少し照れくさそうに笑った。
この人もゲーマーなんだろうな。
「だから、ほら、さっさとクエスト受けましょ! そうだ、君の名前は?」
「ハヤ……。ハルカです!」
「私はジェール。ジョブはフェンサータンクよ」
「ふぇ……。ん?」
「守れるし戦える剣士って思っておいて。ハルカのこと、守ってあげるから」
かっこいい……!
剣士ってことは、この人運動ができるんだ! すごい!
「そうだ、ハルカのジョブは?」
「テイマーです。お姉さんにオススメされて」
「テイマー!? ちょっと、そのお姉さん、相当な性悪女よ」
「へ……?」
テイマーってそんなにダメなのかな。
もしかして弱い?
けれど、ドラゴンとか捕まえればすごく強そうだけれど。
「テイマーは不人気ジョブなの。モンスターの管理が面倒だし、やることも地味。強さもモンスターの努力次第でもどかしい」
「そ、そんなに……」
「もちろん、活躍してる人もいるけどね。モンスターと連携して自分も戦ったり、数で打ちのめしたり。けど苦労するよ、この先……」
不安になってしまった。
お姉さん、このことは知ってたのかな。
ヒドい人だなぁ、ホントに。
「そうだ、ステータス見せてよ」
「わかりました……」
腕輪を触り、ステータス画面を表示した。
ポイント割り振りもお姉さん任せにしちゃったけれど……。
「うわぁ……。ゴミ……」
「え?」
「――あ、いや、なんでもない! 初心者はそんなもんよ、大丈夫大丈夫!」
「それもお姉さんがやったんですけど。なにか不備でもありましたか?」
「えぇ……。その人、ハルカのことをいじめたくてやってるでしょ……」
あ、そんなにまずいの。
お姉さん嫌い。
ゲームが終わったら苦情言いつけてやる。
「まず、テイマースキル以外にまったく振られてない。どういうことかというと、ハルカは仲間になったモンスターがいないと何もできない」
「い、今、モンスターなんて飼ってませんけど……」
「でしょ? 詰みよ、詰み。私がいてよかったねー」
「で、でも、モンスターを捕まえれば強いんじゃ……」
「うーん……。コミュニケーション重視っぽいから、あんまりバフはかからなそうかな。けど、愛情補正で少しはマシか。それこそ連携でどうにかするしか――」
ぶつぶつと言うジェールさん。
なんだかよくわからないけれど、結局のところはどうなんだろう。
「とりあえず、やってみるしかないかな。テイマーは私も詳しくないし」
「そ、そうですよね! まだわからないですよね!」
きっと大丈夫。
最初から高レベルのモンスターを捕まえちゃえば一攫千金間違いなしだよ。
けど強いかどうかってより、やっぱりドラゴンに乗りたいなぁ……。
お読みいただきありがとうございます!
次回、いよいよモンスターのスカウトへ!