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19/39

こんな展開には出会いたくなかったね

 装備も整えた。ポイントも全部割り振った。作戦もちゃんと聞いてた。

 あとはゲームテクニック。

 もし不測の事態があれば柔軟に、アドリブで対応するしかない。


「やけに静かな場所ですね……。というか、荒れてて何もないですね」

「この静けさが興奮するんだよ。ついに来ちゃたなぁってさ」

「妾は逆に落ち着くな。洞窟の中を思い出す」


 ハルカたちが歩いてきたのは荒野。

 植物や動物は見えず、乾燥しきって地面にはヒビが入っている。

 倒壊した建物がそこかしこにあり、まさしく侵略された後だということがわかった。


 向かう先は、奥に鎮座する唯一倒壊していない建物。

 要塞のような建物に女王はいるらしい。


「敷地内は警備が厳重で、見つかったらすぐに捕まっちゃうから。これまで以上に気をつけてね」

「これまで以上――ってこれまでがうまくいきすぎなんですよ」

「それはご主人の交渉力があるおかげだよ! ご主人すごい!」


 この荒野に来るには、まずは敵陣営の国の中に侵入する必要があった。

 なぜなら荒野は国の中心だから。誰もいない今こそのんびり歩けているが、国境をまたぐのに一苦労したものだ。

 ……と、言いたいところだが、だいたいハルカのテイマースキルでどうにかなった。


 国境の門番をするゴーレムも、サキュバスばっかりの街も。

 ハルカの嘘を簡単に信じてくれて、あっさりと不法入国。

 言葉が通じるというのはなんとも便利なものだ。


 ちょっとうまくいきすぎな気もするが――。


「けど、あのクソデカい建物はいつでもピリピリしてるから。姿そのものを見られないように行こう」

「はい……!」


 ジェールさんの言葉に僕が返事をすると、モンスターの三人も頷いてくれた。


 ちなみに、カトレーさんはここにいない。

 先行してもらって、建物の周りを偵察中だ。

 スカウトスナイパーっていうらしい。僕にはさっぱりだけれど……。


「とにかく無駄な戦闘はしないこと。女王の前に到着するまでHPもMPも温存ね。それで、女王を見つけ次第、全力で叩く。オッケー?」

「ざっくりしてますけど、大丈夫ですかね……?」

「まぁノリよ、ノリ。どうにかなるって」


 ついに建物の前へ到着。

 前といっても、大きなフェンスが僕らと城を遠ざけていた。


「えっと……。カトレーのチャットによると睡眠属性が――」

「ご主人、これくらいリザの跳躍で飛び越えられるよ! ピョーンって!」

「バカ者。リザードジュランよ、ジェールの話を聞いておったのか? MPは温存と言っていただろう」


 ルグリはフェンスを掴み、そのまま上へ上へと登り始めた。


 すると、すぐさま耳を刺すような警告音が鳴り響く。

 それはフェンスの先、要塞のような建物のアナウンスみたいだ。


『警告。侵入者接近中、侵入者接近中。手のあいている者はa-16エリアに向かってください』

「ちょっと、話の途中なんですけどぉぉおおお!? フェンスには睡眠属性が付与されてて、おまけに防犯センサーもつけられてるんだってば!」

「のじゃのじゃぁ……。も、ダメそ……」


 フェンスから手が離れ、地面に寝そべってしまうルグリ。

 すっごく無責任だな! 僕たちがこの尻ぬぐいをしないといけないじゃん!


 しかし、ツッコミを口にする暇もなかった。

 建物の中から武装した女性――おそらくこれは全員サキュバスなのだろう。

 とにかくその人たちが新しいエサに飛びつくようなペットみたいに嬉々としてこちらへ向かってくる。

 しかもいっぱい!


「ジェールさん、どうしましょう!」

「もうヤケだ! 最期まで暴れるよ!」

「に、逃げないんですか!?」


 モンスターたちもいい加減な性格だが、この人も難ありかもしれない。

 想像以上の戦闘狂だ。作戦はどこいっちゃったの。


「よーし、こうなったらリザも走っちゃうもんねー! ほら、ご主人も!」

「うわわ! ちょっと、逃げるんだってば!」


 リザが僕の脚を持ち、強引におんぶした。

 僕は僕で無理やり降りたら危ないだろうし、リザに掴まることしかできない。

 けれどそれを合意と受け取ったのか、リザはそのまま前に走り出す。


「いっくよー! ゴーゴーゴー!」

「だめぇぇぇえ! とまってよぉぉぉぉお!」


 ぴょんとフェンスを飛び越え、僕とリザだけ要塞の中に。

 ジェールさんは剣を抜いてフェンスをぶった切るし、シルルはルグリを抱きかかえて「待ってくださいよー」と嘆いているし。しかも警報音がブーブーうるさいし。


 もうめちゃくちゃだよ!


「二人だけで突っ込んで勝てると思ってんの!? それとも発情ふわふわ気分で脳ミソ腐っちゃったの!?」

「走りたいだけー! ご主人とドライブデートだよ!」

「だったらもっと景色いいとこ走ってよぉぉぉお!」


 ハルカは泣き叫びながらちゃらんぽらんに麻痺の槍を振り、どうにかサキュバスたちを処理した。

 というかリザが早すぎて、前の敵にはタックルをし後ろの敵はそもそも追いつけないという最強の布陣になっている。

 ハルカの麻痺はおまけを残しているだけだった。


『侵入者が城内に到達! 目標を重点的に攻撃せよ! 繰り返す、目標を――』

「ちょっと! 僕たちが重点的に攻撃されちゃうみたいだよ! わかってんの!?」

「走るのキモチイイー! やっぱりこの快感は全力ダッシュかえっちでしか味わえないね!」

「もう好きにしなよ! この変態!」


 しーらない。僕もうしーらない。

 いいもん。このままラスボスに会っちゃおう。

 リザの速さでゴリ押して、麻痺らせて、生け捕りにしちゃうもん。


 ハルカのラスボス攻略はこのゲーム史上前代未聞レベルのドタバタさで火蓋を切った。

 果たしてそれが、このゲームの伝説となるかは今後にかかっている。

 お読みいただきありがとうございます!


 無計画なスタートダッシュ!

 さっそくアドリブざんまいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの伝説のド○フもかなりアドリブが酷かったらしいからな(ーдー) そして後日今回の一件でゲーム全体のストーリーが破綻しかけて運営がその尻拭いの結果、死屍累々の山とかした(/--)/チーン
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