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出会いが僕のチカラになる

 リザの脚力があれば、ポテイトさんと戦った場所まで戻るのにそう時間はかからなかった。

 リザの移動速度アップ系統のスキルはどれもMPのコスパがいいし、まだ何回でもトバせそうだ。


「ご主人、ここらへん?」

「うん! あとは()()があれば……」


 ハルカはリザの背中から身を乗り出して周辺を見回した。

 探しているものがそこにあるかはわからないけれど、たしかにあの時落としたはず――。


「あった! リザ、あれ!」

「あれって……。ビリビリした槍?」

「そう。ルグリがポテイトさんの手からはじき飛ばしたやつ。人の装備は勝手に奪っていいらしいから、使わせてもらおう」

「そっか! あのキモ男をビリビリにさせちゃうんだね!」


 リザは僕の作戦を察してくれた。

 さすが、伊達に発情期やってないだけある。


「でもアイツにどうやって当てるの? そもそも当たらないと効果を発揮できないけど……」

「僕をおぶって、そのまま突っ込んで! リザの速さがあればきっと当たる!」


 不意打ちなら一撃くらい通るはずだ。

 だがそのたった一撃で、クリフさんは動けなくなる。

 もうこれに賭けるしかない。


「行って! もう一回、クリフさんのところまで!」


 槍を片手に持ちながら、ハルカは指示を飛ばす。

 リザはすぐに【俊敏】を発動させて走り出した。


 頬にぶつかる風がだんだん冷たくなっていく。

 寒い。 耳が切れそうだ。

 けれど、今だけは震えをこらえて握らないと。

 この一撃を外すわけにはいかないから。


「ご主人、他の人が邪魔だけど突っ込む? どうする?」

「跳ぼう! その後着地したらすぐにまたクリフさんに飛びかかって!」

「りょーかい!」


 リザが右足で地面を強く蹴って、上空へ【跳躍】した。

 ルグリとジェールさん、そしてクリフさんの死闘がその下で繰り広げられていた。

 クリフさんも少しだけダメージを食らっているみたいだけれど、やっぱりこの調子だと味方である二人のほうが先に凍っちゃいそうだ。


「ご主人! 落ちるよ!」

「し、しっかり掴まっておきまぎぐっ!」


 舌を噛んでしまったけれど、このゲームにポーズ機能はない。

 もう、あとはやるだけ。


 ズゴォォン――と着地の衝撃が走る。

 高いところから着地した衝撃と、スキルの効果で発生した衝撃波。

 その爆心地が自分の掴まってるモンスターそのものだから、音とか風とかハンパじゃなかった。


 そんなカオスを体感するや否や、またリザが脚を踏み出す。

 衝撃波でまだ空中へと体が投げ出されたばかりのクリフに。


「ご主人!」

「お願いだから当たってぇぇぇえ!」


 もっとかっこいいこと言えたらよかったのに。

 だったら、さらに名シーンだったのに。


 結論から言えば当たった。

 槍はクリフさんの胸を突き刺して、電撃を全身に巡らせていく。


「うぐぁぁぁああああ!」


 クリフさんのクールっぷりでは考えられない絶叫が聞こえて、少しだけ心が痛む。

 でもこれはゲーム。容赦はしない。


「ご主人、やったね!」

「うん……。これで、僕らの勝ちだ……」


 僕は槍を抜いて、もう一度突き刺そうと狙いを定めた。

 その時――。


「【ゼノデウム・レイビス】」


 ゴォッと突風が吹いて、僕とリザが吹き飛ばされてしまう。


「ご主人様っ!」


 壁にぶつかるかと思ったけれど、シルルの柔らかい体が受け止めてくれたおかげで無事。

 ほどよい体温が安心する。


 いいや、安心なんてしている場合じゃない。

 まだ麻痺が足りなかったのか。僕たちは勝てたんじゃないのか。

 クリフさんについてたくさんの疑問が浮かんできたけれど、そこで見たのはもうさっきまでのクリフさんじゃなかった。


 さっきは氷で剣を作っていたけれど、きっと同じ仕組みなんだろう。

 クリフさんの手から爪のように伸びる氷柱(つらら)。けれど天然の円錐っぽい氷柱っていうよりかは、やはり剣みたいに平べったくてかつ先端は鋭かった。

 クリフさんの服は凍って、自分の髪さえパリパリに固まって。なんと脚をつけた地面にも氷の膜が張っている。


 もう、近づくのもむずかしいほど。


「まずい! ここにいたら死ぬぞ!」

「男女関係ねぇ! 逃げろ逃げろ!」


 そんな姿を見た野次馬たちはすぐに散らばって、それぞれどこかに消えてしまった。


「ふふ、ふふふふふ……。君たちは、本当に最高の女性だ……。全員氷漬けにして、永遠に愛でてあげるよ」

「ジェールさん、これって……!」

「近づいちゃダメ! ハルカの装備だと一瞬で凍っちゃうよ!」

「ふは、ふははははは! 美しい姿のまま(とき)が止まるだなんて最高じゃないか! お姫様と僕の愛の営みを、凍ったまま指を咥えて見ているがいいさ!」


 クリフさんが前進してくる。

 麻痺が効いているのか、少しだけ足取りはフラフラだ。

 けれど、もはや近づくだけで凍らせてしまうその効果は凄まじい。

 僕も、早く逃げないと……!


「主! ここは妾が相手をする! 走るなら早く行け!」

「ルグリ!」


 ルグリは躊躇(ためら)わなかった。

 もう半分ほど凍ってしまった爪を武器に、クリフの体へ突き刺そうとする。

 そんな攻撃はクリフに防がれてつばぜり合いに。時間とともに氷がルグリの体を蝕んでいた。


「ダメ、ルグリ! みんなで逃げようよ! そのままだと凍っちゃうよ!」

「早く行けと言ってるのだ! じきに妾のMPも尽きる! そうなれば妾が凍りつくのも一瞬のはず……」

「じゃあMPがなくなったら死んじゃうってことじゃん! なにやってるの!」

「たわけ! 貴様こそ何をしておるのだ! 妾を無駄死にさせたいのか!」


 無理だよ。待ってよ。

 ゲームだなんだって、いつもなら割りきれるはずなのにさ。

 今はどうしてか、体が動いてくれないんだよ。


 どうしてだか涙が浮かんできた。

 人生で初めてかもしれない。ゲームでこんな気持ちになるだなんて。


「ジェールさん! この槍をクリフさんに当てる方法ってないんですか!」

「近づくのも危ないし、なによりアイツが攻撃を防ぐから当たらない……。瞬間移動みたいなスキルでもありゃ当てられるだろうけど、誰も持ってないよな……!」

「じゃあ、どうすれば!」

「くっ……! とにかく私も出る! ルグリ、あんたはMPを補給しときな!」


 少し強引にルグリを蹴飛ばしたジェールさんはその剣を上に掲げた。


「あんたが剣聖じゃなくて聖剣って呼ばれてる理由がわかった気がするわ! さっさとナーフされやがれ! 【キャッス・グロス】」

「君が壮烈って呼ばれてる理由、僕には理解できないけれどね! 可憐だとか華麗のほうが似合ってるよ!」


 さすがジェールさん。クリフさんの冷気にもなんとか耐えている。

 けど、やっぱり長くはない。

 作戦を考えるなら今すぐ閃かないと。


「おい、主! 貴様、何をしておるのだ!」

「ドレイク様! 今からトカゲジュランちゃんのMPを流しますから、じっとしててくださいよ!」

「ねぇ、三人の中で瞬間移動って使えないの!? あと確認してないのはルグリの【地底の王】くらいだけれど――」


『地底の王』:Lv.MAX

 戦闘時間が長くなるにつれて自身に付与されているステータスアップや自動回復の効果が上がる。

 レベルが高いほどステータスや回復の上乗せ効果も上昇していく。


 強いけれど、やっぱり瞬間移動じゃないスキルだ……。

 しかもこれはパッシブスキルだし。長期戦用だし。


 もうダメなのかな。

 というか、このゲームって瞬間移動できるのかな。

 今までそんなスキルは見たこと――。


 ――ある。


 一瞬で移動した人を、僕は知ってるぞ。


 最初はすっごく怖くて、とことん嫌な人で。

 けれど最後は、なんかよくわからない態度だった人。

 ちょっとは仲良くなれそうな人。

 僕が初めて倒した人。


「あのアサシンさんなら、倒せる! 影を移動して、一瞬で近づける!」


 たしか『リスポーンしたら今度こそお前を倒す』みたいなことを言っていたような……。

 じゃあ、あとはここにいるって知らせるだけ――?


「ルグリ! ちょっと【インスティンクト】解除するね!」

「な、なぜだ!? 妾はまだ戦えるぞ!」

「わかってるよ! だからこそ、やってほしいことがあるんだ。シルル! リザのMPもちょっとだけ残しといて!」


 僕が指示をして、みんながそれに合わせて動いて――。

 テイマーってやっぱり不人気だよ。他のジョブよりも遠回りな気がするもん。

 それに、僕が勝ててるのは運も強いし。ポテイトさんもアサシンさんも、どっちかが欠けていたらクリフさんを麻痺させるなんてできないはず。

 他力本願――。


 でもしょうがないよね。僕は指揮者(テイマー)だから。

 演奏は、みんなに任せるよ。


「リザはルグリを肩車して。それでリザを【跳躍】で跳ばせるから、ルグリは頂点にいくまでいっぱい息を吸っておいて」

「はぁ? それになんの意味が……」

「いいから! ほら、時間ないよ!」


 ごめんね。説明の時間は今はないから。

 ぶっつけ本番で申し訳ないけど、僕を信じて。


 疑心暗鬼のままルグリはリザの頭を掴んだ。

 ちょこんと肩の上に座っている姿はなんともかわいらしい。


「ご主人、角度は?」

「真上! とにかく高く跳んで! じゃあ、行くからね!」


 僕がステータス画面から【跳躍】を押すと、リザは両脚で力いっぱい屈んだ。

 そして、脚を伸ばしたかと思えば上へ上へと上昇していく。


 僕が効果を確認していなかったスキルはもうひとつあった。

 またルグリのだけれど。

『咆哮』だ。どうやら、相手に防御力ダウンのデバフをかけられるらしい。


 けれど、効果なんて関係ないね。

 ここはVRMMO。変に現実的なゲーム。

 スキルの説明に書いていない使用方法だって、自由に考えていい世界。


「よし! ルグリ【咆哮】だ!」


 僕が発動させると、上空からとんでもない叫びが聞こえた。

 もはやその咆哮は、動物のものではないような音だ。

 爆発音のような。ジェット噴射の音のような。

 とんでもない『音』だった。


 スキルの説明にはそのスキルの効果しか書いていない。

 けれど、こうしてでっかい音を出せば――。

 しかもアサシンさんは、ルグリのことをリンドドレイクって知っているはずだから――。

 そしてこのジョブは不人気だから、モンスターの声なんてめったに聞こえないはず――。


 上空で叫ばせることでより広域的に。

 不人気ということは数が少ない。ゆえに、目立つ!


「ハルカたぁぁぁん! ハルカたんハルカたん! なんかヤベェやつと戦ってるみたいだけど、会いにきたぞ☆」


 ほら来た。

 よかった。リスポーンが終わってたみたいで。

 ホントにラッキーだ。ちょっとでも運がなかったら成功してないよ、これ。


 たしか変装と言っていたけれど、アサシンさんはまだお姉さんの姿だった。

 しかも僕と戦った時から変わっていない。


「うひょー! ちっぱいもみもみ! たまんねぇなこのゲーム! 毎日奇襲イベやって痴漢巡りしてぇ……!」


 再開の喜びを伝える前に行動で表現されてしまった。

 今はそんなことしてる時間ないんですけど。


「ちょっと、ストップ……! おっぱいは後で触らせてあげますから!」

「え、マジ? 後でっていつ?」

「あの人を、クリフさんを倒したらです。あと一歩で倒せるんです!」


 スラッとアサシンさんがナイフを抜く。腰の後ろにナイフを入れる鞘があるみたい。

 まるでくノ一ですね。物わかりがいい人、嫌いじゃないですよ。


「まさか【聖剣】を裏切るなんて思ってもみなかった……って無理だろ! なんかアイツ、覚醒してんじゃん! てか戦ってるの【壮烈】の姉ちゃんだよな。スゲー。おっぱいデケー」

「鎧の下でわからないでしょ。おっぱい透視能力でもあるんですか?」


 物わかりがいいというよりお調子者だ、この人。

 そんなにおっぱいが好きなんですか。


「アサシンさんにやってもらう仕事はこれです。この槍を持って、一瞬で近づいて、クリフさんに刺す」

「なんじゃこりゃ。麻痺属性極振りの特注武器か? ハルカたん、状態異常ファミリーズみたいなことするんだな」

「いえ、その人たちから奪ったものです。とにかく、これならクリフさんは動けなくなりますよね」

「なるけど……。俺死ぬなぁ……」


 クリフさんから放たれる冷気はたとえ麻痺しても持続するらしい。

 アサシンさんは一瞬で近づけるから槍を刺すことはできるけれど、その後凍らない保証はないそうだ。


「あの……。無事にクリフさんを倒せたら、言うことなんでも聞きますから!」

「ほぉ……?」

「ね、シルル! シルルも協力してくれるよねっ!」

「もちろんです! これが終わったら×××でも×××でもやって差し上げますよ。ご主人様との食べ比べ××××なんていうのもいかがでしょう?」


 うわぁ……。

 騙すための嘘とはいえキモチワルぅ……。

 というか、もしかしたらシルルは本気でやりたかったり?


「マジかぁあ! だったらやってやるぜ! 任せとけよ、愛しのハルカたんとモンスターっ娘たち! あ、俺はロリコンじゃないけれど、個人的にはあのロリドレイクに屈服×××させたいなって――」

「さっさと仕事してきて!」

「はいぃ、すんません! 【ジャグレント】」


 ビリビリの槍を持って影の中へ消えたアサシンさん。

 しかしその姿はすぐにクリフさんの背後から現われ、力いっぱい背中に槍を突き刺した。


「ぐがぁぁぁぁああああ――!?」


 突然の奇襲に痙攣するクリフさん。

 それでもアサシンさんは何度も、何度も槍を突き立てて……。

 とうとうクリフさんはその場に倒れた。

 意識はあるようだけれども体が震えて立てそうにない。


 吹雪に突撃したアサシンさんも寒さでガクガク震えてうずくまっていた。

 見た目はただのお姉さんだからちょっと罪悪感……。


「こ、これ、でっ、よがっ、た、か?」

「え? な、なんですか?」

「ぜぃ、ごっ、かって、ぎぃい、てんの!」


 口がガタガタしすぎて何言ってるのかわからないや。

 適当に返事しとこ。


「はい。おっぱいはちゃんと後払いしますから。今は静かに眠ってください」

「ふっ……。ざん、きゅー」


 カラン、と槍が転がった。

 たしかに寒さでHPが尽きたその顔はとてもキレイだ。

 けれど、もし自分がなっていたかと思うとゾッとする。寒さで死ぬってどんな感覚なんだろう。


「はぁ、はぁ……。クリフ、今回は私の勝ちみたいだな……」

「ぐぅっ……!」


 ジェールさんがクリフさんの胸を踏んだ。

 剣の先には首があって、暴れて首を落とし損ねないように体を踏んづけて固定しているらしい。

 なんだか残酷な倒し方だ。断頭っていうのかな。


「いや、私じゃないね……。あんたは『子猫ちゃん』に負けたんだよ」

「ふふ……。最後の一撃が姫なら本望さ……。キスができないのは残念だけれどね……」

「あんたの口には、私の口よりもこの剣くらいがお似合いだっての」


 ゆっくりと振り上げ、ピタリと動きが止まる。


「じゃあな、王子サマ」

「ふふ……。愛してるよ、お姫様――」


 剣が首へと振り下ろされた。

 もちろんそれが分離して――なんてグロテスクシーンはないんだけど。

 それでも、周りがだんだん暖かくなってくるからクリフさんの死が本物であると思い知らされてしまう。


 やったんだ。僕たちは勝ったんだ。

 最強とも思えた相手を討ち取ったんだ。


「ジェールさん! やりましたね!」

「うん。とうとうやったね。はぁー、ほんっとに疲れたぁ……!」


 こうして、僕のはじめての奇襲イベントは大勝で幕を閉じた。

 ジェールさんと、モンスターと、その他みなさんのおかげだね――。

 お読みいただきありがとうございます!


 これにてPvPは終了です!

 次回から急展開……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 何でこのゲーム、変態がここまでハイスペック所か壊れチートなんだ(|| ゜Д゜) 比率で現したら良識・変態のグラフはどんだけだよ(ーдー)
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