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みんなの全力に出会ったよ! 僕も、僕にできることを!

 剣が空気を裂き、僕の耳元ではぶんぶんと恐ろしい音が発生していた。

 やっぱり、わざと当ててこない。けれど逆に、スレスレのところを攻撃してくるから逃げられない。

 僕が少しでも左右に動いたら顔に刺さってしまうだろう。


 すっごく怖い――。


「おい、あの初心者……。脚が震えてるぞ」

「本当だ。どうして【聖剣】に勝負を挑んだんだろう」

「無謀だよね。ワンパンされちゃうんじゃない?」


 舐めてもらっちゃ困るよ――と、言いたいけれど。

 実際、この戦いは無謀だった。


 勝機があるとしたらルグリの暴走。

 ジェールさんの適正レベルがA+モンスターということは、きっとルグリが真面目に戦うとジェールさんと同等に強いはず。

 暴走してる時はステータスが大幅に上がるからジェールさん以上かもしれない。


 正直、リザはモンスターランクが低くて弱っちいだろうし……。

 シルルは物理攻撃しか防げない。クリフさんの氷は魔法だろうから無力だ。

 まぁ、僕はそんな二人よりもずっと弱いんだけど……。


 ともかく、もうヤケでもなんでもいい。

 指揮官(テイマー)らしく、作戦を指示しないと……。


「子猫ちゃん、さっきから震えているのはどうしたのかな? 僕の前で緊張しちゃったかい?」

「さ、寒いだけです……!」


 たしかに怖い。怖いから震えているのもあるかもしれない。

 けれど、この震えには寒さが含まれてるのも事実。

 だって吐いた息が白く見えるもん。

 僕、着てるのは薄い布一枚の初期装備だよ? 寒くないわけないでしょ。


「寒い? そうか、じゃあ僕が抱きしめてあげよう。子猫ちゃんが眠るまで、ずっと……」

「来ないでください!」


 ハルカはとっさにクリフの股間を殴った。

 ジェールさんが状態異常ファミリーズの一人に蹴りをくらわせていたのを思い出したのだ。


 急所への攻撃はクリティカルヒットになる。

 ダメージは倍増し、相手も怯みやすい。

 けれどハルカのかわいいパンチは――。


「た、たった3ダメージ……」

「おや。子猫ちゃん、そんなところを触っちゃうなんて。君は悪いコだね」

「そんなつもりでやってるわけじゃないです! この、このっ!」


 諦めずに弱点を攻めたけれどダメだった。

 というか最初はふにふにした感触だったのに、だんだんと硬くなってる気が……。

 こ、この人、どれだけ変態なの!


「ふふ、とんだおませさんだね。ダメだよ、君の小さな体にこっちの剣は凶暴すぎる」

「なに言ってんですかっ! 別に求めてないです! この変態!」


 もうはっきり言うよ。

 キモい!

 顔がいいだけの残念な人だ!


「そうか。もう夜だもんね。君も()()を体験したかったのかな」

「うっさいですよ! こっちはもうリザでお腹いっぱいだったのに!」

「けれど、良い子は眠る時間さ。暖かい場所でゆっくり休むといい」


 僕のことをクリフさんが抱きしめた。

 素早いから避けられなかったし、非力でそれを振りほどくこともできない。

 というか、この人の体――。


「寒いぃ! なんでこんなにヒンヤリなんですか! やだ、離れて!」

「大丈夫だよ。すぐに暖かくなるさ」

「その前に凍え死んじゃうってば! へくしっ!」


 かわいいくしゃみが出てしまった。

 いや、そんなノンキに恥ずかしがってる場合じゃない。

 このままだと本当に凍え死ぬ。

 早くなんとかしないと。


「オラぁ! その手を放せ、クリフ!」

「おっと、お姫様が嫉妬しちゃったか」


 体が固まる寸前――。

 とうとうジェールさんが氷から脱出し、クリフさんに切りかかった。

 僕の体は自由になったものの、寒さでガチガチ震えて動かない。

 さっきまでの小さな震えとは比べものにならなかった。


「大丈夫? ハルカはもう休んで」

「だ、いじょうぶ、れふ……」

「口ガタガタじゃん。あんまり無理しないでね」


 それはこっちが言いたかった。

 ジェールさんは僕の頭を数回撫でてから、また剣を構えたのだ。

 どうやって勝つ気なのだろう。無理をしないでほしい。


「ハルカは今『凍結』の状態異常にかかってて、動き全般が遅くなってるよ。気をつけてね!」

「ひゃい! とにかくざぶいですっ!」

「ご主人様ぁ!」


 この声はシルル!

 ゆさゆさでっかいの揺らしてどうしたの!

 あ、走って来てるだけか……。


 まったくもう、僕こそ真面目になれてないんだから!

 煩悩は捨てなさい!


「起きました! もう準備万端です!」

「そ、そっか……。これでルグリも戦えるね……」


 問題はMPだ。

 寝ている間に回復していればいいんだけれど……。


「トカゲジュランちゃんも気絶から覚めたので待機させてます! あとはご主人様のGOがあれば――」

「ゴーゴー! さっさとやっちゃって!」


 ハルカが野次馬に向かって叫ぶと、小さな影が跳び上がった。

 ぐんぐんと高度を伸ばして、野次馬たちを跳び越え、そしてジェールとクリフの間に割って入るように着地する。


 またもや衝撃波でジェールさんもろともふっ飛ばしちゃったけど、クリフさんも壁に打ちつけられた。

 やっぱりうちの子は頼りになるね。


「ご主人、ごめんね! あの時は油断してて――」

「前置きはいいからさっさと妾を降ろせ! 最高にカッコいいところを主に見せてやるからの!」


 これで全員。僕の仲間が揃った。

 つまりここからが、僕の全力。


「――って、もう【インスティンクト】が発動してる!? あれ、MPは? 回復できたの?」


 ルグリは体の一部が竜に戻っていた。

 右手の爪やら左頬の鱗やら……。

 異形ではあるけれど、これはこれでかっこいいんだよね。


「ドレイク様のMPはわたくしがどうにかしました。おじさまのMPをたっぷり注いであげましたよ」


 なんだか卑猥に聞こえるけれど、やっぱりそういう意味じゃなくて……。


『オーバヒールX』:Lv.MAX

 自分がHPを最大値以上に回復した時、余った数字を回復量としたHPヒールを使えるようになる。

 また、MPも同様に回復が可能。

 最大レベル時のみ、回復量を1.2倍にして与えることができる。


 なるほど。ポテイトさんにMPドレインをした時の余った分をルグリに使ったんだ。

 これのおかげでルグリは本気を出せそうだね。


「ふふふふ……。今日は舞踏会でもあるのかい? 僕と踊りたい子猫ちゃんがこんなにも――」

「うわキモっ! リザ、もうオスには興味ないんだけど」

「ふ、ふふふ……。照れ屋さんなんだね。大丈夫、僕がその心の扉を優しく開いてあげよう!」


 クリフが地面を蹴って飛び出す。

 氷を纏った剣がまさに振るわれようとしていて、誰かが氷漬けにされる未来が見えた。

 そこを察したのか、リザの背中からピョンと跳んだルグリがクリフの眼前へと立ち向かっていく。


「妾はちょうど洞窟の冷たさが恋しかったところなのだ! 感謝するぞ!」


 皮肉のようなことを言って、ルグリが爪を向けた。

 スキルで底上げされたステータスは凄まじく、クリフも一瞬だけ驚いたような顔になる。

 とっさに避けることはできず、はじめて剣での防御となった。


「恋しい? 僕のことがかい? そんなことは生まれる前から知ってるよ!」


 剣でルグリの爪を受け止めると、すぐさまバク転して距離をとった。

 そしてどういうわけか、剣をその場に投げ捨ててしまう。


「困ったね……。僕はお姫様の唇がほしいのに、どうも他の女性が嫉妬してしまう。やはり僕は、全員に等しく愛を与えないといけないようだ」


 手を前にかざすクリフ。

 すると手の中へ冷気が集まり、いつの間にか氷塊を握りしめていた。


「さぁ子猫ちゃんたち! ダンスパーティーの始まりさ!」


 氷塊を握力で潰したかと思うと、その氷は形を変えた。

 さっきよりも鋭く、長い氷の剣へと。


 剣を振るうたびに冷気が空気を凍らせる。

 それほどまでに太刀筋は寒冷で、冷淡で――。

 けれどもクリフさんの心は本気だった。

 冷たく燃えさかる愛がぶつけられようとしている。


「スライム! 補充だ! 急げ!」

「あ、はい! ちょっとそこのお姉様方、失礼しますね」


 シルルも知らない人から勝手にMPを奪い取り、それをルグリへと渡していた。


 全員が本気。

 本気と本気、全力と全力のぶつかりあい。


「もし危なかったらご主人サマのとこに戻ってもいいんだからね。人妻ドレイクさん」

「ふん。お前こそ、あの洞窟で妾を仕留め損ねたくせに」

「あははは。でもまぁ、今は仲間ってことだから。よろしく」

「うむ。主が世話になっておるようだからな。これはほんの礼だ」


 ジェールとルグリが並び、クリフと睨み合いが始まった。

 だがこのただならぬ緊張感に、ハルカは不安を感じている。


 このまま本当に勝てるのだろうか。

 火力なら二人合わせてとてつもない威力を発揮するはず。

 けれど――。


「その首、ブッタ斬ってやるよぉおお!」

「ははは! いい! いいよぉ! もっとだ、もっと僕に愛を!」


 剣がぶつかるごとにジェールさんの剣が凍っていく。

 凍結はこのままだと剣全体に広がって、ジェールさん自身にも被害が……。


「主を凍えさせた罪! 死で償え!」

「ふははは! 君も小さいのにすごい愛だ! 大人を知ってる味がするよ!」


 ルグリの爪も危ない。

 あの剣は攻撃だけじゃなくて防御でも猛威を振るっている。

 クリフさんの素早さを、どうにか封じ込めれば……。


「ご主人様! わたくしの『粘化』で相手の素早さを下げることができます! それでどうにか!」

「う、うん! もうなんでもいいからやっちゃって!」


『粘化』:Lv.MAX

 小さなスライムの塊を発射し、相手の速度ステータスを大幅にダウンさせる。

 レベルが高ければ高いほど速度ダウンの時間が長くなり、ダウンさせる量も増える。


 これは今の状況にぴったりだ!

 とにかく動きを封じないと!


「じゃあいきますよ! 【粘化】」


 人さし指の先から弾丸のようにドロドロしたものが飛んでいく。

 そこまで速くないが、真っ直ぐに弾は飛んでいき、見事クリフさんに命中。


 べちゃっとくっついたスライムはひとりでに増殖し、クリフさんの手足を飲み込んでいった。


「くっ……! やめてくれ、僕がいくらかっこいいからって嫉妬で荒らさないでくれ!」

「その減らず口も、すぐに言えなくしてやんよ!」


 ついにジェールさんの剣がクリフさんのお腹を斬った。

 ダメージは絶大。

 このまま攻めれば勝てる!


「うぐぅ……。あぁ、姫。僕は君が欲しいだけなのに……」

「そこが気持ち悪いんだっての! くたばりやがれ!」

「【ブリズリー】」


 クリフさんが小さくつぶやいた瞬間――。

 ブワッと、彼の体を冷気が包んだ。


「あっぶね!」


 ジェールさんはギリギリのところで下がったが、もし冷気に当たれば全身が凍ってしまっていただろう。

 そこでゲームオーバーだ。

 けれど、クリフさんが狙ったのはジェールさんを倒すことじゃなかった。


「よし……。これで邪魔がなくなった。愛とは刺激だ。ちょっとの逆境ほど、燃えるものだよ」


 氷漬けにされたスライムが粉々に砕かれる。

 もう粘化の効果を消してしまったらしい。


「『粘化』もダメか……。どうしよう、早く動きを止めないと」


 ルグリのMPもそろそろなくなってしまう。

 また知らない人から補充できるだろうけれど、クリフさんがそれを見逃してくれるかどうか……。

 だったら僕たちで止めなきゃ。

 クリフさんの動きを、どうにか……。


「さっきまでの情熱はどうしたんだい、姫! あぁ、美しい髪が氷でさらに(きら)めきはじめているよ!」

「うっせぇな! オメェが寒いせいだろうが!」

「ふふん、子猫ちゃんの爪もピカピカだね。芯まで凍ると衝撃で砕けてしまうから注意するんだよ」

「妾をバカにしておるのか! 黙って戦っていればいいものを……!」


 どうして。うまくいったと思ったのに。

 このままだと負ける。

 なにか策を……。僕にできることを……。


「そ、そうだ! あれを使うしかない!」


 ジェールさんがイベント開始直前に言っていたことを思い出すと、解決策を閃いた。

 絶対に成功するかはわからない。

 けれど、一番可能性がありそうだ。


「リザ、出番だよ!」

「ご主人! なになに、どうすればいいの?」


 ハルカはリザの背中に乗り、興奮しながら指示を飛ばした。

 きっとこれが最適解――。


「走って! ポテイトさんと戦った場所まで!」

 お読みいただきありがとうございます!


 次回ついに決着!

 初心者でも【聖剣】に勝てるのか!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰だよこんなめんどいバグキャラ考えたの(-_-;)完全に色々バグってるだろこいつΣ( ̄ロ ̄lll)
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