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またジェールさんに出会ったけど、ピンチ!

 暗い道を声のする方へと歩くと、広場に出た。

 周りに木でできた屋台があったが、そのどれもがバラバラになってしまっている。


 それもそのはず、ここは先ほどまでとは比べものにならないほどの激戦区。

 ハルカはそんなことも知らず、混戦するプレイヤーを眺めていた。


「うわぁ……。みんなすごいね……。音とか光とか」

「うるっさ……。主ぃ、こんな場所だと寝れぬわ……。のじゃのじゃ……」


 ルグリは本当の本当に眠いみたいで、移動中に抱っこやらおんぶを要求してきた。

 最終的にはぐずりだして、今にも泣きそうだったから要求を呑んだけど……。


 ルグリの寝顔、かわいいなあ……。

 思ったよりも軽いし、体を寄せて丸まってる姿がすっごく愛らしい。

 それに、かっこいいとのギャップもあってさらにキュンとしちゃう。


 けれど、さすがにこの騒音は不快だったみたいだ。

 険しい表情で目を閉じてうんうんうなっている。


「でもご主人。さっきのヤツ、格上だったけどなんだかんだで倒せたし、こいつらもリザたちがいれば安心だよ!」


 うん。アサシンさんはルグリが倒したけどね。


「ご主人様は何も考えずに相手を煽ればいいのですよ。最強モンスターが三人もいるんですから」


 最強はルグリだよね。

 特にシルルなんて、あの時は遅刻しただけだったよね。


「というか、そうだ。みんな今までどこに行ってたのさ。もう離れないでよ?」

「わかってるよぅ。リザは周りの活気に触発されて走りたくなっちゃったから、そこらへんをダッシュしてただけなの。もうどこにも行かないってば」

「わたくしは、お恥ずかしながら足が遅くて……。気づいたら置いていかれてました……」


 ルグリは……。この調子だから、うとうとしてたのかな。

 もっと従順になってくれるのかと思ったけれど、これもゲームの仕様か。

 剣も銃もリアルステータスだし、きっとモンスターっ娘の統率も僕の技量次第だよね。


「よし! じゃあ戦おう! 誰かー! お手合わせ願いまーす!」


 元気な女の子の声に誰しもが注目した。

 初期装備の女の子が戦いを願うのは挑発にも見え、滑稽にも見え……。

 いろいろな反応がハルカの耳に入った。


「あんた! さっさと逃げな! 初心者がいていい場所じゃないよ!」

「ほぉ……。最高のカモがいるじゃねぇか。どれ、試してやろうか」

「待て、あれは罠かもしれない。いくらなんでも怪しすぎる」

「運営もプレイヤーの強さ別で戦場を分けるべきだよな。初心者狩りが横行してるの知らないのかよ」


 不満をもらす者。警告する者。訝しむ者。喜ぶ者。

 良い意味でも悪い意味でも注目を集めたハルカだったが、なんだかんだで誰一人戦いに挑んでこない。


 それもそのはず、これはなんでもありの戦争。

 必ずしも一対一で戦う必要はないし、対戦を通告する必要もない。

 正面から「よろしくお願いします」なんて言う作法はどこにもないのだ。


「ご主人、ナメられてない……?」

「そ、そうなの!? 強そうで怖気づいてるとかじゃなくて?」

「例えるならさ、競輪の試合に一人だけ走りますみたいな態度だもん。相手にすらされないよ」

「えぇ!? 僕だってもっと倒してポイント稼いで、なんか二つ名欲しいのに!」


【壮烈】のジェールさん。【隻眼】の金髪さん。

 僕は何になるかなぁ……。二文字の漢字……。

【最強】とか! 【無敵】とか!?


「戦いたい! みんなをあっと言わせたい!」

「ご主人様。これ、別に後ろから殴ってもよさそうですよ。ほら、あそこなんて、男性プレイヤーが女性プレイヤーをリンチしてますし」

「へっ!? た、助けに行こうよ!」


 遠くでよく見えないが、たしかに男が一人の人間を取り囲んでいるように見えた。

 もしかしたらいじめられてるのかも!

 アサシンさんみたいな変態もいるし、最悪えっちなことされて――。


 あれ?


「囲まれてるのジェールさんじゃん! なおさら急がないと!」

「あぁ、ご主人様! 待ってくださいよ!」


 おっそ! 足おっそ!

 シルル、胸にしか養分行ってないんじゃない?


「リザ! 僕をおぶって! ルグリはシルルに任せる! ゆっくりでいいからちゃんとついてきてよね!」

「わかりましたぁ!」


 ルグリを渡し、リザの背中に飛び乗った。

 そのままハルカはステータス画面を開く。


「ご主人、トバすよ!」

「行って! スキルは僕が管理するから!」


 テイマーはモンスターに指示を出すことができる。

 それはどこへ行けとか、どこを攻撃しろといった命令だけではなかった。

 スキルを任意のタイミングで発動する権利。

 それを駆使してこそテイマーだ。


『跳躍』:Lv.MAX

 通常よりも高くジャンプし、早く任意の目的地に移動ができる。

 また、着地した時、その周囲に衝撃波(ダメージは微量だが相手を大きく吹き飛ばす攻撃)を発生させる。

 このスキルでのジャンプの高度や距離、衝撃波の範囲や強さは速度ステータスに依存する。


 これ! 奇襲にはピッタリだ!


 ハルカは走り出したリザにまず【俊敏】を発動させた。

 目的地はわずか70メートルほど先。

 これだけでも一瞬で到着するだろう。けれど、さらにこれを組み合わせれば――。


 ハルカが【跳躍】と書かれた文字に触れた。

 すぐにスキルが発動し、リザは走りながら片脚でジャンプする。


「――って、うわぁぁぁぁぁ!」


 三段跳びはご存知だろうか。

 あれは前へ飛んだ距離を競う競技だから、鋭い角度でジャンプする姿はリザの跳躍の例えにはピッタリ――のはずだった。


「なんで前じゃなくて上に跳ぶの! ひぃぃい!」

「ごめん! 力の加減がわからなくて!」


 ジャンプした瞬間、ぐんぐんと高度が上昇した。

 これだと棒高跳びだ。棒なしの棒高跳び。

 しかもありえないほどに飛んでる。10メートルくらいあるかもしれない。


「しかもジェールさんのこと飛び越してるしぃい!」

「わわ! どうしよ!」


 前に70メートル、上に10メートルの大ジャンプっておかしいでしょ。

 ゲームってすごいなぁ。


「そうだ! ご主人、しっかり掴まっててよ!」

「え!? 何をするかだけ説明して!」

「そんな時間ない! ごめん!」


 高度が下がっていくと、リザはある建物に接近した。

 レンガでできていそうなデザインの家だ。民家かもしれないが、もちろん中には誰もいないはず。


 このままだとリザは家の壁にぶつかってしまう。だが、それでいい。

 リザは両足を前に出し、その家の壁に突っ込んでいった。


「あぶ、あぶな……! あぶにゃいよぉ!?」

「ご主人! いっくよー!」


 ドガッ――と脚が壁にぶつかった瞬間。


「ここだ! 【跳躍】おかわり!」


 リザはタイミングよくスキルを発動させた。

 今度は弾丸のように飛んでいく。

 ジェールの方向へ――。


「どいたどいたぁぁぁあ!」

「お、親方! 横から女の子がっ!」

「女ぁ? 我ら状態異常ファミリーズに無謀にも立ち向かって行くのはどこのどい――へぶっ!」


 誰か知らないおじさんにリザはタックルしてしまったし【跳躍】の効果で僕以外のみんなが吹っ飛んだ。

 ジェールさんも飛んだ。


「うわわ! ジェールさん、ごめんなさい!」

「ハ、ハルカ!? いや、助かったよ! 状態異常の睡眠はダメージを受けると治るから。いい眠気覚ましになった!」

「ケガとかないですか? 本当に大丈夫ですか?」

「ん、かわい……。そんな心配しないでも大丈夫だよ。あいつら状態異常だけで攻撃力はたいしたことなかったし」


 よかった。

 なんともないみたいだね。


「おい嬢ちゃん! よくも吾輩(わがはい)の顔を踏みつけたな! 吾輩はMじゃなくてSだ! 踏みつけたい側だ!」

「うわぁ……。ご主人、あいつキモい……」

「なんとでも言え! 毒、麻痺、睡眠、呪い、催眠……。多様な状態異常でPvP最強ともウワサされる状態異常ファミリーズ。吾輩はその首領(ドン)、ポテイトである!」


 ポテト? じゃがいも?

 でもゲームって食べ物の名前つける人多いもんね。

 そんな人がいてもおかしくないか。


「すべての女性を征服し、王女様からも褒美を……。ぐひひひひ」


 ひげもじゃおじさん、思ったよりもキモチワルイ。

 もじゃもじゃな茶ひげは似合ってるけど、もっと性格も紳士になればいいのに。


「そら! お前達! やってしまえ!」

「イエッサー、ボス!」


 槍を持った男たちが突進してくる。

 その槍はなんだか先っぽがバチバチしていて――。


「あれは麻痺属性付与の上級武器だからね! ハルカも気をつけて!」

「は、はい! リザ、そういうことだから!」

「大丈夫! なんてったって【自切】があるもん」


 たしかに、攻撃が当たらなければ心配ないけれど……。

 でもリザ、アサシンさんとの戦いでHPを使ったんじゃ……?


「くらえ! 親方を踏んだ罰だ!」

「へへーん! 【自切】」


 ピコン、と音がなった。

 僕視点でしか見えないのか、それとも全員にも見えているのか。

 リザの頭上に『発動失敗:HPが不足しています!』と文字が現れた。


「あべべべべべ!」


 バチバチな先端がリザに触れ、体が小刻みに痙攣する。


「リザっ!」

「ハルカ、もう他のモンスターに頼るしかない! あいつら、一回状態異常にかけるとハメてくるから!」

「えっ、ハメ……?」

「ハメ技だよ! もうあの子は動けない。私もさっき、その被害を受けたんだ」


 ハメ技ね! びっくりしたぁ……。

 ハメるって、ちょっといかがわしいものかと思っちゃったよ。


「じゃあリザは死んじゃうんですか?」

「いや、あいつらの攻撃力はそこまで高くないから瞬殺はされないだろうね。逆にそれが悪趣味なんだけどっ!」


 ジェールさんが地面を蹴り、槍を持った男の一人を斬った。

 腹に一太刀入れ、怯んだところで金的を蹴る。

 そしてうずくまる男にすかさずトドメの顔面パンチ。


 痛みが軽減されているとはいえゲームはゲーム。

 大ダメージを受ければ怯むし、弱点を攻撃されれば悶絶する。

 全員スーパーアーマーだったら戦略がないもんね。


「あががががが! うぎいぃぃぃい!」

「リ、リザ! ちょっと、僕の仲間に変なことしないでよ!」

「変なこと? 麻痺を念入りにかけているだけだが? それとも嬢ちゃんには変なことをしているように見えるのかな?」


 何度も何度も、リザの体にビリビリした電流が走った。

 体は硬直してしまって、ついに地面に横たわる。

 それでも定期的な電気ショックは止まらない。


「あびゃあぁぁあ! があぁぁぁああ!」

「なんて残酷なことを! 迷惑行為で通報しちゃお! ゲームならできるよねっ!」

「おっと……! こっちはただ普通に攻撃してるだけだぜ? 通報しても運営は対応しないだろうな。何回も不要な通報をすると、逆に嬢ちゃんがブラックリスト行きさ」

「はぁ!? ちょっと! ずるい!」


 リザはショックの衝撃で白目になりかけていた。

 こんなの拷問じゃん! サイッテー!


「ふはは、このまま気絶値をためて気絶させてやるよ!」

「やめてってば! えいえい!」


 ハルカはどうにかしたくてポテイトへ殴りかかった。

 しかし、可愛らしいパンチで殴りつけてもポテイトには1ダメージしか入らない。


 ポカスカポカスカ――。


「ぜぇ、ぜぇ……。どうだ……。まいったか……」


 おまけに疲れやすい。

 ザコステータスすぎて現実より疲れやすい。


「嬢ちゃん、なんでここに来たんだい? やられたかったのかい?」

「はぁ……? なに、言って……。はふ……」


 息があがってうまくしゃべれない。

 そんな僕を見たポテイトさんは大笑いして僕の肩に手を置いた。


「だって、そんな弱っちいステータスで精鋭揃いの激戦区に来たんだもんな! これは倒してくださいと言ってるようなものだろう!」

「うるさい、ですね……。僕だって、活躍したくて、二つ名とか……。ほしくて……」

「あぁ、そうか。じゃあ頑張るといい。【無様】って二つ名がつくようにな!」


 ビリビリの槍がハルカに向けられた。

 ジェールさんはポテイトの部下たちを相手するのに手一杯で今から間に合う気はしない。


 僕のよわよわステータスならリスポーンできるかもだけど、死ねずに拷問されるのは嫌だなぁ……。

 どうか楽になりますように――。


「ごめんなさ〜い! 遅くなりましたぁ〜!」

「むっ! 誰だ!」

「ふぅ……。走るの疲れますね……。あら、ご主人様。そのおじさまは?」


 ポテイトさんの槍を握る手がシルルの声で止まっていた。

 ひとまず助かった……のかな?


「シルルー! リザがやられちゃったー!」

「あらあら……。おじさま、ご主人様をこちらにお譲りしませんか?」

「ふん、断る! 誰だか知らんが、戦力は確実にこちらの方が上だ! なにせ我らは――」

「では、わたくしと交換で。わたくしに何をしてもいいですから。心も体もご・じ・ゆ・う・に」

「します! 交換しましょう!」


 男ってバカだなぁ……。

 気持ちはわかるけどさ……。


 ハルカは人生ではじめて男という存在を恥じた。

 自分も同じ立場だったら同じことをしていたかもしれないから余計に恥ずかしい。

 というか……。どっちみちピンチだよね、これ。

 お読みいただきありがとうございます!


 長くなってしまいました……。

 数話に分ければよかったかもしれないです。

 謝罪。

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