これが勝利との出会い……
『不死の鱗』:LvMAX
物理攻撃、魔法攻撃によって受けるダメージを30%軽減する。
また、攻撃を受けてから5分間は体力が徐々に回復していく。
最大レベル時のみ、1回だけ自分の体力が0になった後に10%の体力を残して復活することができる(リスポーンすると復活回数はリセットされる)
なにこれ。めちゃくちゃ強いじゃん。
さすがA+ランクモンスター。
自分の肩でナイフを受け止めてくれたルグリだったけれど、心配する必要はなさそうだ。
全然痛がってないし、HPもまったく減ってないや。
「は、ははははっ! なんだよ、そんな棒立ちして、そんなに刺されたいのかよっ!」
お姉さんが勝手にキレて、ナイフを何度もロリに突き刺した。
肩を持ち、お腹に何回も何回も――。
体の中に刃が入るところは見えるけれど、透けてる感じがして全然残酷じゃない。
現実だったら猟奇殺人事件だよ。
お姉さん刺しすぎ。
「それ、楽しいのかの? 妾の体でよければいくらでも刺して――」
「うるっせぇな! もっと泣いたり痛がったりしてくれよぉ! クソぉ……」
「ふむ。お前、さては変態だな?」
「変態じゃねぇよ! 『かわいそうはかわいい』って万国共通だろ! 生物の本能だろ!」
きもちわるっ! バリバリ変態じゃん。
気持ちはわかるけど、さすがにナイフグサグサは悪趣味ですよ……。
「ムッカー! かわいそうはかわいい? ふざけないでよ! かわいそうはかわいそう、かわいいはかわいいでしょうが!」
「……リザ、そこはツッコまないでいいから。考えても口には出さないで」
「やだ、言うもん! 見てて! これが本当のかわいいだからね!」
さっきまでアサシンお姉さんにもにゅもにゅされていた胸にまた違和感があった。
繊細にリザの指が動く。
お姉さんにやられた時は感じなかった高揚感が走り、ビクビクと体が動いてしまう。
「ほら! ご主人が我慢してる顔! 声とかいろいろなリアクションを押し殺して、なんとかキモチイイのを誤魔化してる!」
「コラ! 知らない人の前でえっちなのは……。めっ……!」
「あぁぁぁぁ! 今の! 今の『めっ』もっかい!」
「言わないよ! さっさとその頭のおかしいアサシンさんを倒して!」
つんつんと指の腹で僕の胸を――って、もうこれ何回目!?
さ、先っぽばっかりいじめないでよね!
ピリピリして、ジンジンして……。うぅ……。
というかリザ、まったく話聞いてないよね!
アサシンさんが鼻の下を伸ばしてジロジロ見てるんだからやめなさい。
あと戦いなさい。
「ほら、離れる! もう、リザのえっち」
「えっちだもーん! 発情中ですもーん!」
「じゃあルグリ! アサシンさんを倒しちゃって!」
リザはこの後でお説教があります。
口で言ってわからない子は体に教えちゃいます。
まったくもう……。
それに比べてルグリは控えめで助かるなぁ。
えっちなボディタッチはしないし、命令はしっかり聞いてくれるもんね――。
「主ぃ……。妾、眠い」
「へ……?」
「だから、眠い。だってもう夜だし。妾、いつもなら寝てる時間だし」
「子どもか! 健康的だけどさすがにタイミングがあるじゃん!」
「子どもなわけなかろうて。のじゃのじゃ……」
「むにゃむにゃ」じゃなくて「のじゃのじゃ」って……?
今さら老人ぶられてももうルグリは完全におこちゃまだよ。
もうそのイメージは拭えないよ。
「そんなわけでナイフ女、お前はどっか行け。妾は相手をしてやる余裕がないからの。寝るのに忙しいからな」
「はは、舐めやがって……。そんなに死にたいのか」
アサシンさんはぐしゃぐしゃの笑顔でナイフを握りしめていた。
すっごくキレてるみたい。
困ったなぁ……。ルグリ、強いんだから本気出してよ。
「あー、あれだ、その……。そう、スライム。スライムがもう少しで来ると思うから、お前はそやつと戦っていればよい」
「スライム……? 初心者テイマーのザコモンスターがようやくご到着ってか」
「ザコモンスター? お前、妾のことを愚弄したか?」
「はい……? だって、あんた人間じゃん」
「うむ。主の奥義で人間化したリンドドレイクだ。今は人間だが、元はリンドドレイクで――」
「なっ!? 奥義!? レベルが高そうには見えないぞ……」
ふん。装備で決めつけられちゃ困るもん。
こちとら、謎のお姉さんのせいでテイマースキル極振りだからね。
「まさか、横槍を入れたあんたも……?」
「リザのこと? うん。リザはリザードジュランだよ」
「くっ……。初心者は初心者でもそこそこやる初心者みたいだな。だが、ゲーム慣れしていないのがバレバレだ! その証拠に統率力の無さ! 連携の『れ』の字もなってない!」
「ごめんなさーい! 遅くなりましたぁー!」
アサシンさんのドヤ顔発言に食い気味で別の声が入ってきた。
シルルの声だ。
重そうな胸部を揺らしながらの登場。
アサシンさんもガン見してるよ。気持ちはわかるけどね。
「ご主人様、ご無事でしたか!」
「うん、大丈夫」
「てっきり今ごろ、飢えた男どもに襲われ、脱がされ、×××を×××に入れられちゃって×××ドバドバのグチャグチャになったと思っちゃいました」
うへぇ……。
もうスルーします。
なにも聞こえませんでした。
「ご主人はリザと××××するもんね。男に譲るわけないじゃん」
「あらあら。じゃあわたくしは×××でお手伝いを――」
「早く戦ってよ! 誰でもいいからアサシンさんを倒してよぉ! 僕、みんながいないと本当に何もできないジョブだからね!? みんなが頼りだからね!?」
こんなゆるゆるだと先が思いやられる。
もうアサシンさん倒したら逃げに徹したほうがいいかもね。
これ、戦うゲームなんだよ? おしゃべりするゲームでもえっちなゲームでもないよ?
「だって、夜だし。リザ、コーフンしてきちゃったから……♡」
ポワンとリザからハートマークが出てきた。
こういうの、ゲームではなんて言うんだっけ。
エモートだっけ?
「だから、そういうのが嫌なの! 僕の世界ではまだお昼だから! 昼間っからえっちなのは胃もたれするって」
「じゃあハグだけでも! リザ、切ないよぅ……」
さっきまで平気でしたよね?
その手には乗らないよ。
「ぶはははっ! やっぱり初心者だ! モンスターが微塵も言うことを聞いてくれないねぇ!」
「ほ、ほら! 笑われちゃったよ!」
「ご主人、ぎゅーっ!」
なんだこれは。なんなのだ。
リザはぎゅーぎゅー。シルルは××。ルグリはのじゃのじゃ。
僕の声は誰にも通じない。対話なんて嘘っぱちじゃん。
あーあ、もっとかっこいいヒーローみたいな立場になりたかったのにな。
さすが不人気ジョブ。つまんないの。
「おらぁ! 死ね、初心者ぁ!」
ゆるゆるに油断しているモンスターを尻目に、アサシンさんが飛びかかった。
そのナイフの先は僕の心臓に向けられている。
あぁ、早くて避けられない――。
ズシャァ――と引き裂かれる効果音が聞こえた。
けれど攻撃されたのは僕じゃなくアサシンさんの方で。
かっこいいの具現化というか。さすが王道モンスターというか。
持つべきものはドラゴンだった。
うたた寝をしていたはずのルグリが、ドラゴンの爪をアサシンさんに刺したのだ。
ドラゴンの爪っていうのは表現でもなんでもなく、本当にドラゴンの爪で――。
右手の一部がドラゴンに戻ってる状態ね。
「うるさくて眠れぬではないか……。少しだけ静かになってもらおう」
「ぐっ……! 強い……! そうか、油断させる作戦だったのか!」
あ、違います。
モンスターたちが自由すぎるだけです。
「クソッ! もうヤケだ!」
負けじとアサシンさんも刃物を振り回すが【不死の鱗】が強すぎてルグリの体力はなかなか減らない。
対してルグリは一撃一撃の威力が凄まじく、もう勝ちは見えているようだった。
「ちくしょう! こんな初心者に負けるなんて! ただカワイイ顔眺めながらおっぱいもみもみしたかっただけなのに! サキュバスのねーちゃん、揉むと喜んじゃうんだもん! 他のプレイヤーにやらないと楽しくないんだもん! リスポーンしたら今度こそお前のこと、もみもみふにふに堪能しちゃうからなっ!」
僕を睨みながらアサシンさんは宣言した。
この人、それ目的でゲーム始めたのかな。
せめてテクニックを身につけてから出直してください。
「危害を加えないならご主人のお触りはオッケーです。そのかわり有料ね」
「リザ! 勝手に決めないで!」
「有料でもなんでもいい! 名前、最期に名前だけでも!」
「ハ、ハルカです……」
「ハルカたんかわいいぃぃぃい! あとモンスターっ娘も好きです――」
最後の一撃は蹴りだった。
ロリの体とは思えぬ華麗な飛び蹴りが入り、アサシンさんは吹っ飛んだ。
そして、そのまま気絶したかのように動かなくなる。
倒した。はじめてプレイヤーを倒したんだ。
「ルグリすごい! かっこいい!」
「かっこいい!? な、なら、何度でも見せてやるぞ! ほらほら!」
「ちょっと、死体蹴りはよくないよ! かっこよかったのは魅せ方の問題もあるんだから!」
「むぅ……。かっこいいへの道は難しいな」
何はともあれ、勝利は勝利。
やっと三人揃ったんだし、このまま勝ち進もう!
ハルカと三人はなるべく強くない人に出会うことを願って前へ進んだ。
それが、戦場の中心に進んでいるとも知らずに――。
お読みいただきありがとうございます!
VRMMOって痴漢行為が頻繁に発生しそうですよね。
まぁ、そのアバターの中身が女とは限らないのですが。




