同レアリティ内格差
「寝てるな……」
「寝てますね……」
「寝てますわね……」
あどけない寝顔だ……。まさに天使のような、という形容詞が似合う。マジ天使だし。
しかし、顔のパーツからクールさが滲み出てるようなこの少女はなぜ赤ちゃんのように泣き叫んでいたのだろう? そういう趣味の人なんだろうか?
「もうっ、みんなでそういう風にじっと見ないの! 赤ちゃんは敏感なんだから」
「いや、そいつはどう見ても赤ちゃんじゃないよ? なんならこの中で一番背高いよ?」
「なにいきなり庇護欲そそられてますの?」
なによー、いいじゃない! と言いながらティエラは天使の頭を撫でる。
天使は気が合わなそうと言っていたのはどこへやら、すっかり母親気取りだ。
だがまあ、この騒ぎでガチャ欲が萎えちまった。本当なら流れが来てる! フォォォォォォォオオオオオオ!! とか言いながら追いガチャしているところだが、なんか今日はもういいや。
それより今回のガチャで出てきたものの性能確認をしたいところだ。
「というわけでアリア!」
「ええ、もう出してありますよ」
「でかした!」
アリアの横にはバランスボールサイズの青い球体が宙に浮かんでいる。毎度お馴染みの鑑定の宝玉である。俺とアリアとリサにとっては見慣れたものだが、初めて見るティエラは小首を傾げていた。
「あら、綺麗な石ね。それは?」
「鑑定玉って言ってな、触るとその人の能力とかアイテムの効果とかを教えてくれるんだ」
「へえ、便利ね。で、私もそれに触ればいいのかしら?」
「そういうこった」
天使を膝枕しているせいで動けないティエラの下へ鑑定玉を動かす。
彼女が褐色の指で宝石に触れると、文字列が浮かび上がった。
ーーーーー
ティエラ
女
ジョブ: 【淫蕩慈母神】
ーーーーー
ほうほう、なるほど。淫蕩、ね。たしかにすっごいエッチな体をしてるもんな。納得納得。
というか……え?
「「か、神様ァ!?」」
「あらあら、うふふ」
「まさか鑑定の宝玉が壊れたのでは!?」
「いや、そんな話は聞いたことがねぇ」
「つまりティエラ様は本当に神様ですの!?」
え、たしかに神様なのはびっくりするけど、そんなに慌てるようなことなのか?
やれ貢物だの、やれ神像を立てようだのてんやわんやしているアリアとリサを俺はティエラの横で眺める。
「あら、マスターはあんまり驚かないのね」
「まああの2人も勇者とか王女だし、神様もガチャで来てもおかしくないかなぁ、とは思ってたよ」
「ちょっと待ったー! 何を勇者と王女を神様と同列扱いしてるんですかー!?」
「そうですわ!! どれだけ人間が優れていようと、神様との間には天と地ほど……いえ月とスッポンくらいの……いえいえ、太陽とミジンコと例えるのもおこがましいくらいの差があるんですわよ!?」
そんなに? というかそんなに尺度に差があると全然想像できないぞ?
そんな風に慌てふためく彼女たちに向かってティエラは微笑む。
「そんなに気負わなくていいわよ。しょせん私は零落した身だもの。普通の魔法程度のことしかできないわ」
「そ、そうなんですの……?」
「本当よ、じゃなければ淫魔になんて堕ちてないわ」
その言葉に安心したのか、2人はホッと息を吐いた。
「しかし、そんなに凄いのかね、神様って。見たことないからわかんねぇな」
「あら、富嶽様は神の力は見たことがありますわよ?」
「えっ?」
見たことあるのか? それもリサが知ってるってことはここ最近のことってわけだから……わからん。
「ほら、わたくしの【庭園】ですわ。あれは宝石神様の加護によるものですから、一端ではあるものの神の力であることは疑いようがありませんわ」
「なるほど、あれか……」
思い浮かぶのは先程の周りの大地全てを宝石に換えた奥義。たしかにあれは恐ろしい技だった。
あれが一端、ほんの序の口だとすれば……勝つビジョンは思い浮かばないな。
「まあ、なくなった神の力なんてものは置いておいて、せっかくだし、この子の名前も見ちゃいましょう?」
言いながらティエラが天使の手を持ち上げて鑑定玉に触れさせた。
ーーーーー
ミラエル
女・記憶封印
ジョブ:【大天使】
ーーーーー
「ミラエル、そうかミラエルって言うのか」
エルって付いてるとたちまち天使感がある名前になるよね。ミカエルとかサキエルとか、そんな感じの。
まだ寝続けているミラエルの空色の髪を撫でる。すると彼女はむにゃむにゃと口元を綻ばせた。
「記憶封印、ね……」
「見たことない文字だな。状態異常とかを表してるってことでいいのかね?」
「まあ、そういうことでしょうね」
なるほど、記憶が封印、ニアイコールで記憶が無いならさっき泣き叫んでいたのも納得できる。つまり実質彼女は赤ん坊と同じ状態なわけだ。
知らない場所、知らない人、知らない言葉、そこに大人としての理性やプライドがないなら、泣いてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
「でも、記憶を失っているということは、わたくしたちでこの方を育てていかないといけないのですわね」
「「「うっ……」」」
ふと、気付いたように呟かれたリサの言葉に、俺たち3人は胸を押さえた。
「どうかしましたの?」
「わ、わからねぇ……子どもの育て方なんて」
「右に同じです……そもそも喋れないと意思疎通なんてできないじゃないですか」
「ちょーっと子育てには自信が無いというか……あんまり関わりたくないというか……」
子ども育てた経験なんか無ぇよ……。そもそも俺の周りの奴らはみんな年上だったから年下と関わるのも久しぶりだってのに……。
でもアリアの考え方は流石にひどいと思う。
というか、あんなに自然と膝枕に移行していたティエラが子育て苦手っていうのはジョークだろ。鑑定玉の二つ名にも【慈母】って書いてあったし。
そんな風に俺たちが嘆くと、リサは呆れたように息を吐いた。
「そこまで恐れる必要はないでしょうに……この世界にはいくらでも子育て法の書いてある本でもなんでもあるのですから、わたくしたちはそれをミラエル様に実践するだけでいいのですわ」
「それはそうだけど……」
でも、それを記憶喪失の人にそのまま当て嵌めるのは難しいだろうよ、と思うが口には出さない。流石にそんなことはわかっているだろうしな。
「けれど、どうして記憶を失っているのでしょう? あの世で何かをされたのでしょうか?」
「そもそも、よく考えればあそこから天使が来るのっておかしくない? 敵対してるでしょ、あの2つ」
「よくわからないけど、そういうこともあるんじゃねぇの? そろそろアイテム見ようぜ」
「……そうですわね」
ちょっと時間が危ないかもしれないからな。
ミラエルのことを考えるのは後でもいいだろう。
俺はとりあえず腰に着けたままの黒い角笛を鑑定玉に翳した。
ーーーーー
ディアブルスホルン
邪亀王ディアブルスの角を用いて作られた笛。
音色を耳に入れれば最後、狂える悪魔により人々は地獄へ引きずり込まれる。
ーーーーー
そこに浮かび上がった文章は、とても恐ろしいことが書いてあった。
「怖っ!?」
「地獄へ引き込まれる、ですか。本当だとすれば一撃必殺。それも音を聞かせるだけのお手軽武器ですね」
「た、試さないでくださいまし……」
リサはその三角耳を手で押さえつけて蒼い顔をして震えていた。でも獣人の耳の良さなら、塞いでても聞こえるんじゃね?
しかし、アリアが言った通りこの笛は強いな。音を聞かせるだけで一発昇天なら、集団戦だろうと個人戦だろうと容易いだろう。怖いけど、使っていくのもありかもしれない。
「でも吹いてる人はどうなるのかしらね?」
そんな風に考えていたところでティエラが口を開いた。
た、たしかに……笛の音色なんて吹いてる本人にも絶対聞こえるじゃねぇか! つまりこれは笛の形をした自爆装置……ロクでもねぇ代物じゃねぇか!
……さっき興味本位で吹かないで良かった。
「こ、これは封印しておくか……」
「そうですわ! 賛成ですわ! いやむしろ破壊してしまいましょう!!」
「いや、それはもったいないし……」
危険物とはSSRだ。世界に一つあるかないかというものを壊してしまう、というのは小市民としては躊躇してしまう。
ということでディアブルスホルンは空間魔法の奥の方へしまってもらって、次にリサに渡した髪飾りを調べる。
ーーーーー
シュナ姫の髪留め
ある小国の姫君が付けていた髪留め。繊細な技術により一枚のクリスタルを彫って作られており、まるで生きているかのような小鳥が象られている。
損傷しても自動で修繕する魔法がかけられている。
ーーーーー
勝手に修復される髪飾り、それ以外の能力はない。なるほど、SRって感じのシンプルさだ。
「自動修復するクリスタル……悪くないですわね!」
「そうなのか?」
「ちょうどバリアを張るのに使っていた水晶玉が壊れてしまいましたもの。自動修復するバリアを作れれば素晴らしいと思わなくて?」
そういうのもあるのか……。
たしかに宝石の中では安価なクリスタルだって決して安い物じゃない。それにリサのバリアがあると不意打ちにも対処しやすいしな、大事なのは組み合わせってやつだな。
ーーーーー
エネルギーAR『スパロウ』
ブロンズ社製試作品充電式エネルギーアサルトライフル。10発撃つのに1日分の充電が必要。最大装填数70発。
ーーーーー
で、その組み合わせがあまり良くないのがこいつである。
アリアもリサも遠距離攻撃を使えるし、ティエラも槍の方が使いやすいだろう。
ついでに弾数がそこまで多くないのが致命的だ。ダンジョンという長期的、かつ電気が通っていないところではあまり使えないだろうな。
見た目はSFチックで悪くないんだけどな。
ーーーーー
バーサーカーマスク
装着すると獣の本能を得ることができる。危機察知能力が上がるが知力が下がる。
ーーーーー
「これいる?」
「下がる知力がどれくらいなのかが問題ですね。それこそ動物レベルなら……あまり使いたいとは思えません」
「だよね」
ソロ冒険者ならいざ知らず、チームで潜っているなら冒険者だってある程度の戦略を立てる。盾役は前に出るとか、魔法使いはどのくらいで魔法を撃つとか。
このバーサーカーマスクはそれを台無しにしかねないアイテムだ。見た目が狼の頭そのものだから、ハロウィンくらいしか使い道もなさそうだ。これも封印だな。
ーーーーー
彼岸の仮面
身につけると影が薄くなる。
ーーーーー
うってかわって、今度は中々使い勝手がよさそうなアイテムだ。
「影が薄くなるって、私が着てるマントと同じ効果ってことかしら?」
「そうだな……ただ普段使いはそっちの方が良さそうだ」
薄い半透明なマントである蜻蛉の外套と違って、この仮面は少しおどろおどろしい。具体的に言うとムンクの『叫び』みたいな顔をしてる。
街中で出て行けば影が薄くて無視されているのか、ヤバい奴扱いで遠巻きにされているのかわかったもんじゃない。
「私的にはそれでも良いんだけど」
「一緒に歩いてる俺が耐えられないからやめてくれ」
ーーーーー
魔法の鉛筆
芯が減らない鉛筆。
ーーーーー
大事な試験で使えそうだね。俺はそんな試験受けないけど。何か書くならボールペン使うわ。
ーーーーー
無限のノート
ページが無限に続くノート。
ーーーーー
だからなんやねん。
「ノートなんて今時100均でも買えるわ! 無限にあったからなんじゃあー!!」
なんかここまで微妙なものばっかりなのにイライラしてきた俺が、怒りに身を任せノートを叩きつけようとしたとき……。
「待ってくださいまし!」
リサの鋭い声が飛び、俺は思わず動きを止めた。
すぐさま彼女は俺の手元からノートをひったくる。
「こちらのノート、使い道がありますわ!」
「使い道? どんな?」
そんなに落書きしたいのだろうか?
「魔導書というものをご存知でしょうか?」
「魔法について書いてある本だろ? マンガで見たことあるよ」
「では、その魔導書を作るには様々な魔術的要素が必要となることも?」
「まあ、予想はつく」
それがこのノートとどう繋がるんだろうか?
リサはノートをパラパラめくりながら続ける。
「ページの数、材質、インク、それに大きさ……魔導書作りには様々の要素が組み合わさりますわ。ですが、ページの数を増やせば厚さも増えたり、材質的に使いたいインクを使えないということもあるそうなのです」
「ああ、無限のページと変わらない厚さが備われば新しい魔導書が作れる、っていうわけですか」
アリアの言葉にリサは頷く。
なるほど、これも組み合わせか。やっぱ俺ってダメだね、そういう魔術的なことには全然詳しくないからなぁ。
俺は頭の後ろを掻く。
「じゃあリサ、それで魔導書を作ってくれ」
「できませんわよ?」
「は?」
「そちらには才能がありませんでしたのー」
「マジかよ……じゃあアリアとティエラは?」
2人も申し訳なさげに首を横に振った。残りは眠っているミラエルだが……記憶喪失だからまず無理だろう。
こっちの世界で魔導書なんてのをリアルで見たことないし、誰かに渡しても意味がない。
つまりこのノートも現状使い道がないということだ。封印である。
ーーーーー
魔法の地図
現在地を指し示してくれる地図。地図は書き込みが必要。
ーーーーー
「あら、これは使えそうじゃない!」
「うーん……」
「富嶽さん、何か引っかかることがあるんですか?」
「スマホで良くない?」
最近のスマホはダンジョン用にしっかり改良されていて、電波が繋がっていなくても地図アプリはしっかり起動する。現在地を示すマーカーも動くので、別にこの魔法道具を使う必要はない。
ーーーーー
温もりのブランケット
身にまとうと安心感を得られるブランケット。
ーーーーー
普通のブランケットとそんなに変わらなくない?
とりあえずミラエルに掛けておこう。あっ、ちょっと安心したような顔つきになった。
ーーーーー
どんブランコ
漕いでいると、どんぶらこと移動できる。
ーーーーー
ダジャレかよ。
ーーーーー
気まぐれなジャングルジム
気分で棒の配置が変わるジャングルジム。
ーーーーー
ちなみに今は気分が悪いのか横棒が最上部にしかない。実質上り棒だ。
これが公園にあった日には怪我人続出でお母様方は大慌てだろうな。
安全を考えると撤去が賢明だ。
ーーーーー
ジュエルフィッシュ
宝石で作られた魚。
ーーーーー
「わたくし、この子を飼いたいですわ!」
「どうぞどうぞ」
そもそも生きてるのこいつ? 有機物なの? 無機物なの?
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宵蚕絹のドレス
月の化身の蚕が羽化したあとのサナギからとった糸から作られたドレス。月明かりを浴びるとあらゆる人を魅了する輝きを放つという。
ーーーーー
「綺麗なドレスですわね」
「そうね〜。黒のドレスってシュッとしててカッコいいわよね」
「そうなんですか?」
「これはアリア様に差し上げますわ!」
「えっ、私ですか!? そんな、ドレスなんて私には……」
「あら、アリアちゃんが一番似合うと思うんだけどな。私には少し露出が多過ぎるし、リサちゃんは?」
「わたくし、もっとフリルが着いているほうが好みですわ!」
「わ、わかりました……いただきます」
たしかに黒いドレスはクールな雰囲気のアリアかミラエルに似合うだろうか。ミラエルは記憶喪失だからアリアが適任だ。
でもドレスを着る機会って今後来るんですかね?
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聖骸布
名も無き聖人の遺体を包んでいた布。これに拭われた物は邪気を祓われる。
ーーーーー
ミスリルの十字架
魔法鉱石によって作られた十字架。吸血鬼と狼男を退ける結界を張ることができる。
ーーーーー
なるほど、中々良いアイテムだな。
聖骸布を何かを拭うために使うのはどうかと思うけど……。
十字架の方は少し限定的過ぎるな。吸血鬼か狼男だけが出てくるダンジョンでもあればいいんだが、心当たりはない。
「ティエラはこの十字架は大丈夫なのか?」
「ええ、何にも感じないわ」
つまりこの十字架は本当に吸血鬼と狼男だけ対象ってことか。他の魔物には効果なし、と。
まあ、他のより直接ダンジョン攻略に役立つだけマシか。
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レーザーナイフ
光線で出来た刃を持つナイフ。高熱によってあらゆる物を断ち切る。
ーーーーー
出たっ! これは当たりだろ!
実体があるのはグリップ部分だけ、トリガーを引くと赤白いレーザーの刃が出てくる。刃の長さは15cmほど。
「高熱で焼き切るんですか」
「らしいな、どれ!」
地面に刃を刺している。するとジュッという音とともに白い煙が上がり、ナイフは容易く地面に穴を空けた。
「力を入れなくても簡単に切れるのがいいところだな」
「護身用ですわね。富嶽様かわたくしが持つのが良いと思いますわ」
「俺が貰ってもいいか? リサにはバリアがあるしさ」
「構いませんわ!」
よっし、良いもん貰ったぜ。
さて、これでSRの性能確認が終わったな。
残されているのはSSRだけ……どんなぶっ壊れが来るのか楽しみだぜ。




