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ボス戦の後のストーリーで流される雑魚敵

 その奇跡を、俺は超次元戦艦ラプラスの司令室のスクリーン越しに観測していた。

 根の壁に穴空けてそこに飛び込んだはいいものの、出口を塞がれてしまったリサだったが、彼女が詠唱を終えた瞬間、カメラの映像が光に呑み込まれた。


「何が……起きた?」


 一番高い座椅子でラプラスに砲撃を指示しつつ、俺は疑問を口にする。

 炎龍王の力はすでに使い切っているため使えない。そして、それ以外にリサに根を破る力はない……。

 だが忠告をしたにも関わらず引かなかった以上、俺に伝えてない秘策があるはずだ。それは一体……。


 そんな俺の呟きを受け取ったのか、スクリーンの映像が鮮明になっていく。

 そこに映っていたのは根でできたトンネルではなく、青空と大樹、様々な色の結晶と化した大地と根、そしてそこに君臨するリサ・ヴォルクスカヤの姿だった。


「リサ……? これは一体」

『あら、富嶽様。しっかり繋がっているようで、よかったですわ』

「ああ、なんとかな。というか、一体どういう状況なんだ?」

『それはですね……』


 俺の質問に答えようとするリサだったが、その上に巨大な影がかかった。

 根だ。巨大樹の根が壁の外とは比較にならない密度でリサ目掛けて襲いかかってきたのだ。


「逃げろっ、リサ!!」

『いえ、ちょうどいいですわ』

「は?」


 戸惑う俺を置いて、リサは根へ向かって一歩前へと足を出した。

 その瞬間、彼女に迫っていた根が結晶化した。

 結晶化した部分がまだ無事だったところから分離し、巨大な塊が結晶の大地に落ちる。


「……なにが起きたんだ?」

『わたくしの秘奥、【奇跡と珠(ドラガツェ)玉の宝(ーンヌイ・)石庭園(カーミニ)】ですわ。宝石の神より賜った宝石の真奥、宝石を愛し愛された証』


 落ちてきた根を気にすることなく、リサは歩みを進める。その度に地面の結晶化ーーいや宝石化が広がっていく。

 宝石の色は様々だ。赤、青、緑、黄、あるいは透明。赤の一色だけを見ても、透き通ったものや血のような深さを持つもの、そして薔薇のような妖艶さを持つものまで多岐にわたる。


 宝石の神から賜った、というと宝石魔法がこの光景を作り出したということなのだろうか?

 だが聞いていた魔法の効果と全然違う。これじゃあ、まるで本当に神の奇跡みたいだ。


『どんな宝石であろうとどんな純度であろうと、わたくしの指先一つで決まりますわ。それが命を持っていようといなかろうと変わりなく』


 彼女が指を弾くと紅色のーーおそらくルビーだろうーーに変化した根が砕け、そこから炎の柱が噴き出した。

 そして連鎖するようにそこかしこから炎が溢れ出してくる。火炎、火花、溶岩、爆炎。


 リサの指先に従って、炎は東洋の龍のように舞い上り、周りの根を元から焼き焦がし、倒していく。

 もちろん、倒れた物はリサの力によって宝石へと変化し、また新たな火種を生み出していく。


『世の中に存在するものは、そのほとんどが魔力を含有しています。宝石と化した物にもそれは残り、わたくしが魔法のために使い回す』


 飾り気のない茶色い根にも炎の華が咲き誇り、大地に落ちた根が宝石の華となり、彼女の周りを彩っていく。

 大樹の方も壁に使っていた根も使って攻撃を仕掛けるが、一切リサには届かない。

 その映像を見ながら俺は唾を呑んだ。


 正直なところ、リサはアリアを比較すると能力が控えめだなと感じていた。

 宝石魔法は多彩ではあるが宝石という媒体が無ければ使えず、その威力も宝石の質に依存するので、全力を出すにはそれなりの金と時間を掛けなければならない。

 ……もちろん、俺よりは強いんだが。

 だが、この光景を見るとその評価は改めなければならないらしい。


「えげつねぇ……」

『ハァ……まあ、使いきりなのは不便ですがね』


 彼女の言葉の通り、彼女の【庭園】で変化した宝石は魔法を放つと粉々に砕け散ってしまう。一度きりの使いきりというからには、それを威力の低い魔法に再利用ということもできないのだろう。


 だが、それは不便であっても欠点ではない。

 なにせ元々自分の物ではない敵の一部や地面だ。なくなったところで彼女が困ることでもないのだから。


 自分の懐の痛まない限りないリソース。そして、それを利用した超大規模な魔法の数々。

 これが【宝石皇女】リサ・ヴォルクスカヤ。戦場に咲く絢爛の華。


『けれど、ダンジョンの地面というのはずいぶんと魔力を含んでいますのね。フゥ……これまで使ってきた中でもここまでの威力は神域くらいですわ』

「……そうっすか」


 地面の中の魔力とか知らんのだが。

 というか神域ってなんやねん。


「……さっきから辛そうだけど大丈夫か?」

『この庭園を出していると色々持ってかれてしまいますの……フゥ。あとせいぜい……5分といったところでしょうか』


 あまりにも強力な能力だ。デメリットがあるのは納得だな。むしろ弱点が無いなら、なんで今まで使ってこなかったんだって話だ。


 緩やかに歩みを進めながら、リサは大樹のすぐ側までたどり着いた。彼女の近くの木の皮が宝石化するが、全体を覆い尽くすことはできない。

 炎の龍が突撃しても、焦げ目を付ける程度のことしかできていないようだ。


 リサの体調は目に見えて悪くなっていっている。息は荒くなり、足取りは少しよろけ始める。

 ……そろそろマズイのかもしれないな。


「どうする、モンスをそっちに行かせようか?」

『いえ、問題ありませんわ……』


 そうは言うが彼女の顔色は悪いと言わざるを得ない。カメラ越しに見ても真っ青で、医者に診せればすぐに横になって安静にしろと指示されるだろう。

 無茶をするようなら無理矢理にでも止めるつもりでいこう。元々足止めできるだけでも良かったんだ。現時点で目標は達成していると言っても過言じゃない。


『……もう終わりますもの』


 えっ……? と言うことすらできなかった。彼女の言葉と同時にカメラの映像にブレが生じた。

 凄まじい横揺れ、地鳴り。これが地震だとするなら、俺が経験したことのないレベルの揺れだろう。

 そんな中でリサは俺に向けて呟く。


『富嶽様、宝石魔法について説明したことを覚えています?』

「あ、ああ。毎朝のように聞いてるからな」

『……でしたら宝石魔法の媒体となる宝石には何が重要だったかは覚えていらっしゃいますか?』


 それは流石に覚えている。基礎の基礎の部分だから、何度も何度も復唱させられたからな。


「透明度と大きさ、それから歴史……だろ?」

『ふぅ……その通りですわ。ですが……その中で一つ曖昧なものがありますわよね?』

「……歴史ってやつだな」


 透明度と大きさはわかる。普通の宝石でも重要視される部分だしな。だが歴史という言葉はひどく曖昧だ。誰が持っていたかとか、そういうことだということはわかるが……。


『その本質は……「想い」です』

「お、想い……?」


 余計に抽象的になった気がするんだけど。

 俺の戸惑いの篭った言葉にリサは頷いた。


『誰かを護りたいという想い。夢を叶えたいという想い。再会したいという想い。誰かを傷つけたいという想い。宝石は持ち主の想いを強く受け止めますわ』


 一家心中した家族が残した宝石が、以降の持ち主を悲惨な運命に巻き込んでいく、という話がある。たしかに宝石には前の持ち主に由来する話は多い。


「でも、今そんな話関係……」

『ありますわよ……。わたくしの【庭園】は、あらゆるものを宝石にする……』

「……まさか!?」

『ええ、そこに宿った想いも含めて』


 彼女は胸の谷間からスマホを取り出した。

 そこに付いているのは金属で作られた一枚のプレート。

 見覚えはある。俺が彼女に渡したのだから、そして俺も同じものを持っているのだから。


「それはきららの……」

『彼女とともに過ごし、わかりました。きららの情の厚さ、想いの深さ……。そこでわたくしは確信したのですわ! 彼女の素質に』


 プレートを取り外し、リサはそれをひょいと投げた。

 すぐに宝石化していき、地面に落ちる頃には濃緑に赤い斑点のついた宝石へと変化した。

 それを華奢な指先で拾い上げながら、リサは呟く。


『血星石、あるいはブラッドストーン……』

「血ねぇ……物騒な名前だな」

『あら? そんなことはありませんわ……。たしかに見てくれは少々怖いかもしれませんが、お守りにも使われたりしますのよ』


 俺の言葉にリサは苦笑した。

 そして、そのきららの作ったプレートを目前に掲げながら呟いた。


『司るものは勇気、献身、あるいは魔を打ち払うもの……』


 詩歌を歌うように彼女は嘯く。

 彼女の言葉に呼応して、宝石が輝きを放ち始める。赤と黒、禍々しい光が迸る。

 そして、リサの周りにあった宝石たちが勝手に砕け始めた。

 砕けた宝石から漏れ出すように紫色の光が溢れ出し、地を這いリサの下へと流れていく。


 あれは魔力だ。宝石に封じ込められた魔力が全て彼女へと集結しているんだ。

 あんな風に魔力が流れ込んでいくのなんて初めて見た。……というかあの魔力を使えばガチャめちゃくちゃ引けるんじゃね?


『勇気の剣(ムージァストヴァ)』


 刹那、宝石の光が一気に膨れ上がった。リサの下へと飛ばしていたカメラが赤黒い閃光の嵐で埋まる。ギャリギャリという何かが削れていくような騒音のせいで、リサの声も他の音も拾うことができない。

 だが、何が起きているかは俯瞰視点で見るために上空に飛ばしておいたカメラが捉えていた。


「……どいつもこいつも」


 大樹が、1000メートルにも届くような巨大な木の幹が、一切見えなくなっていた、赤黒い閃光によって。

 アリアが生み出した竜巻の十倍はありそうな大嵐だ。しかし、なぜか風が起きていない。これほどの大きさなら周りに多大な被害を出して然るべきはずなのに……。

 なんだって1人でこんな破壊力を出せるんだ、リサもアリアも。ランク9とか10の冒険者並みだぞ、こんなの。


 ガリガリガリガリッッッ!!! という錆びついた歯車が回るような鈍い音が響く。ただ、空を覆う葉の揺れが大きくなっている。葉っぱとそれから果実のようなモノが雨のように降り注ぎ始めた。


 俺はラプラスとモンスで落下物を迎撃しながら、そんな葉の面積が徐々に小さくなり、青空が見えるようになってきていることに気づいた。

 びっしりと茂っていた葉が落ちたから? ーー違う。

 枝の先の長さが短くなっている。いや、渦に呑み込まれている。


 見る見るうちに吸収される速度は上がり、最後にはランプに封じられる魔人のように、大樹の枝は渦の中に消えてしまった。

 そしてしばらくするとガリガリという耳障りな音も消え、赤黒い嵐は霧散した。


 一体どうなったのか、と固唾を飲んで見守る。

 高層ビルよりも太く威圧感のあった大樹が切り株を残して消え去っている。

 そして、映像が回復したカメラには宝石から元の味気ない土に戻った地面と切り株の上に倒れ伏す金髪の少女の姿があった。


「リサ!?」


 なんであいつが倒れてるんだ!? いや、戸惑ってる場合じゃない! せめて避難を!

 俺はカメラを無理矢理動かしてリサを空飛ぶベッドに突っ込む。とりあえずはこれで大丈夫なはずだ、バリアあるし。

 そうやってリサを保護すると、切り株やダンジョン中に張り巡らされた根が形を失い、紫色の光となって天に昇っていく。

 それを見て、俺は安堵の息を吐いた。


「終わったか……」


 魔素に変わった以上、もうあいつが復活することはないはずだ。ダンジョンに張った根も消える。アリアの方でどうなっているかもわからないが、被害はもう出ないだろう。

 そう思ってスクリーンを見ると、根によってめちゃくちゃに亀裂が入った地面から、小さな双葉が芽を出しているのが見えた。


「あん?」


 なんだあれは? と思った瞬間、雨後の筍のように爆発するような速さで双葉が大量に生え出してくる。

 そして、それは先程の大樹のように急激に育ち、林檎の果樹ほどの大きさになる。

 そこからポロポロと何かが落ち、それは地面に着く頃には羊の姿となって大地を駆け始めた。


「……しつこ過ぎる」


 いい加減うっとうしいな。さっさと消えろよ、クソ植物。

 だがどれだけ数が多くてもあのバカデカい木と比べたら雑魚だ。モンスとラプラスを使えば余裕だ。


「けどリサがな……」


 彼女は今気絶している。近くにある空飛ぶベッドを使えば避難させられるが、あれは遠隔操作できないからな……。

 そう思ってスクリーンを見ると、なぜか空飛ぶベッドが動いていた。

 そこには二つの人影。横になっているリサと隣に座るアリアの姿があった。


「アリア!」


 思わず呼びかけると、カメラに向けて彼女は無言で親指を立てた。

 ナイスタイミングだ! これなら行ける!

 俺は翡翠の腕輪に手を添え、命じる。


「モンス、ラプラス! 消し飛ばせぇぇぇええええええ!!」


 山のような巨人が腕を振り上げる。超次元戦艦が砲塔を大地に向けた。

 大質量と爆撃の流星群が降り注ぐ。植物の羊たちは抗うことも出来ずに消え失せていく。全うな生物には届かない圧倒的な破壊力の差。

 ダンジョンが静かになるまで、さほど時間は掛からなかった。

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