あやしい秘密会議
「オイ、ミアの動きが怪しいぞ。」
今日は週に一度の秘密会議、通称 〜アズを愛でる会〜 の日だ。
会長 リヴァイ(兄)
副会長 ケイト(双子の姉)
書記 エレン(双子の妹)
夜、屋敷が寝静まった頃、リヴァイの部屋で開催される。
「公爵ンとこの茶会の後から、アズの様子がおかしい。あの日、ちょっと席を外して戻ると、アズは真っ赤になってるし、公爵はニヤニヤしてるし。あいつ、アズに何かしたのか…殺す!」
イライラと髪を掻きむしりながら、リヴァイが叫ぶ。
「ちょっと、静かにしてよ。みんな起きちゃうでしょ。」
「そうよ、アズの側を離れたリヴァイ兄様が悪いんだから、反省してよね。」
「何がちょっと席を外した、よ。母様に怒られていただけでしょ。」
「皆、注目してたわよ。恥ずかしい。」
2人いっぺんに責め立ててくる、双子の妹達を睨みながら、
(こいつらは、赤ん坊の頃からこうだった。1人が泣くと、もう1人も泣いて、永遠に続くループみたいに泣き続ける。すこし大きくなっても、泣き声がおしゃべりに変わっただけで、2人同時に、左右から話しかけてきて、本当うるさい。)
と思い、ため息をついた。
こうしてみると、アズは本当に可愛い…。
日中、オレは職場には出向かず、屋敷の自室で発明をしてる事が多い。
学生の頃からオレは、アズの生活を便利にする事だけを考え色々な発明をしていたが、おやじが勝手に科学技術科の誰かに発明の事を話したようで、発明の中には、アズを攻撃してくる奴から守る事を想定した武器や防具もあった事から、それが国の軍事として使えると目をつけられてしまい、面倒臭い事に発明に国が関わる様になった。
オレの人嫌いを考慮してくれ、発明は自室でも、国が用意した研究室でも、どちらでやっても良いことになっている。
当たり前だが、ほとんど研究室になんか行くことはない。研究室には、オレのために用意された助手が数名いる様だが、屋敷にはアズがいる。発明は、仕事2割、アズへの愛の結晶8割でやる。(いや、1:9か、0.5:9.5…。)
しかも、屋敷にいると、アズが…、そっと…、オレの部屋に入ってきて…、オレのベットに横になり………
本を読む。
しかも、それだけでは無い。
トイレや風呂で、ほんの少しアズの側から離れると、直ぐに探しに来て、「あ〜、いた。」と、オレを確認しに来る。
マジで、天使だ…。
(あ〜あ、またニヤけて)
普段、自分達にも、無表情なリヴァイが、ニヤけているのを眺め、まぁどうせ、またアズの事を考えて、トリップしちゃったんだろうと、双子は生暖かい目で見ていた。
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次期ランドルフ侯爵家当主であるリヴァイ兄様は、超の付くほどの天才だ。
リッシュベルト王国では、8歳になると、貴族のご子息・ご令嬢は、男女関係なく学園に入学して、勉強する。
リヴァイ兄様は、マナーや剣術以外の学問に関する事は、入学前に家庭教師と独学で、粗方、学び終わっていた。
ランドルフ侯爵家は、代々、歴史の編纂・保存、貴族・平民それぞれの教育の整備、果ては科学技術の発展など、教育に関する項目を、管理する文官の家系だ。
そして、母様の実家のローハン伯爵家も代々、ランドルフ侯爵家の仕事を手伝ってきた家系だった。
このローハン伯爵家は、非常に厳格な家系であることで有名で、母様は私たちのしつけに対しても、厳しい…。
リヴァイ兄様や姉達が私くらいの時は、いたずらをすると、お尻を叩かれたり、小部屋に閉じ込められたりしていたそうで、気の小さい私は、その話を聞いただけで震えてしまい、昼間、母様と2人になるのが怖くて、つい、リヴァイ兄様を探してしまうのだ。
そんな父様と母様は、両家が決めた政略結婚だったそうだ。
ただ、母様は、父様にずっと憧れていた様で、初恋が実った感じだ。
結婚して大分たつ今でも、父様の前では、乙女の様に恥じらい、私たちの事も決して起こらない。
ちなみに母様は、銀髪にアイスブルーの瞳の美人さんだ。兄様や姉様達は、母様のこのクールな髪や瞳の色を受け継いでいる。しかも、小柄でグラマーなので若い頃は、さぞモテたと思われるが、あの厳格な性格と父様を一途に思い続けることで、誰も寄せつけ無かったようだけど。
だからリヴァイ兄様は、小さい頃ここぞとばかりに、父様の前でいたずらをして、母様が怒れず、リヴァイ兄様を睨む顔を見て、ほくそ笑んでいたみたいだ。
とりあえず、我が家は先祖代々、文官の家系であるため、屋敷の蔵書は他家より遥かに豊富だ。
リヴァイ兄様は、本でも何でも一度読むと、一字一句正確に記憶してしまうため、子供の頃から、1人蔵書を読み漁り、独学で知識を蓄えていった。
学園も、父様の文官の仕事も、リヴァイ兄様にとっては、とても退屈だったみたいで、自室や研究室にこもって、発明をしている。これが、子供の工作の様なものから、科学技術を応用した凄いものまであるようで、リヴァイ兄様は、国から予算と研究室を与えられている。
リヴァイ兄様のために新設された部門は、リヴァイ兄様が、ほとんど出勤する事がないため、開店休業中のようだ。
一応少数だけど部下もいるようで、彼らは、兄の人嫌いと発明を理解してくれている人たちで、屋敷で生まれたアイデアを、父様が研究室に持って行ってそれを研究する。
何とも周りくどいやり方だけど、リヴァイ兄様のわがままを受け入れてくれる、素晴らしい人達だ。
そして、父様にとってショックな事は、階級的には、父様とリヴァイ兄様が並んでしまった様で、父様は、仕事の後を継いでくれなかったことと、18歳にして、同じ立場に並んでしまった事が、うれしいような悲しいような複雑な様だった。