初めてのお茶会で…。
だけれど…、
今朝、超絶早くに起き出した私は、早々に限界を迎えていたのだった。
誰しも経験があると思うのだけれど、何か楽しいことが待っている時、準備の段階でテンションMAXを迎えてしまって、当日は、お疲れ気味でテンションだだ下がり…。なんて事が。
私も、お茶会に行く前の準備の時点で、マックスに興奮してしまっていた為、行きの馬車の中では、すでに疲れ果て、爆睡し、到着して起こされてみると、髪は乱れ、眼は充血しているという、残念仕様になっていたのだった。
まあ、幼女が1人、多少くたびれた雰囲気を、醸し出していようと、本日のお茶会では、誰の気にする所でもないのだけれど…。
なぜなら、今日は、しばらく途絶えていた、ハワード公爵邸での催しが、再開されたという事で、
“ハワード公爵が、また結婚相手を、お探しになる気になったのでは?”
という話題で持ちきりだったから。
特に、年頃のご令嬢のいる家を中心に、噂話がそこかしこで囁かれ、ハワード公爵の周囲には、着飾ったご令嬢達が、輪を作り、群がっていたのだった。
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「うまいか?アズ。」
コクッ。
庭園の隅のテーブルに腰掛けた、リヴァイ兄様と私は、2人だけの世界を作り、公爵家の豪華なお菓子を、堪能していたのだった。
ハワード公爵邸は、王都の中央、王城近くに広大な敷地を有していた。
王城は、リッシュベルト王国の、建国時に建てられた歴史ある佇まいで、中央に建つ金色に装飾された、大きな塔を中心に、各居室に合わせて4つの細長い塔がそびえている。そして、白壁に画一的に埋め込まれた窓も金色で縁取りされ、優美で豪華な造りになっていた。
それに対してハワード公爵邸は、周囲を高い壁で囲み、出入口としては豪奢な門が正面に1つ有るのみで、左右に待機している守衛が、訪れる人を厳重に査閲している。
たった一つの門から中へ入ると、普段ならばそこには、ただ芝生を敷き詰めただけの、広大な庭園があるのみだった。
これは、万が一、不審者が侵入してきた時に、発見しやすくし、すぐに対処できるよう、何物も視界を遮る事がないように、しているためだった。
ちなみに、クラウス様とフィアナ様が、お別れの挨拶をしたのもこの庭園で、その時も、だだっ広い庭園に、2人だけが目立つように、立たされていたのだった。
ただ、お茶会など庭園を使った催しが開かれる時は、全く様相を変え、その都度テーマを決めて、庭園が造られるのだった。
季節は、あのお別れ騒動から巡り巡って、再び新緑の季節。穏やかな日差しと、柔らかい風が心地良い。
絶好のお茶会日和だ。
本日のお茶会は、春がテーマになっており、春の花々が周囲を囲み、所々に、動物や春の女神などの、トピアリーが置かれ、春の訪れを、物語風に伝えていた。
この時期は、この国特産の、アズの実が色付き、実り始めるため、この日のお菓子は、アズの実を使ったケーキやマカロン、タルトなどだった。
(ちなみに、私の名前、アズレインのアズは、アズの実から名付けられている。生まれた季節が、アズの実のたくさん成る季節に、ピッタリだった事と、私の口が、アズの実みたいに小さくて、赤々していたから付けたみたい。
[思わず、チュとしたくなる位、可愛かったんだけど、チュとしようものなら、リヴァイが、殺しかねない位の殺気を、こちらに放ってくるものだから、出来なかったけどね。]
と、苦笑いで父様は、説明してくれたものだった。ついでに、アズレインのレインは、なんで付けたかは、聞いてみたけど、教えて貰ってない。レイン…雨…よだれ…で光っていたから…?)
どうせわかってしまう事だけど、リヴァイ兄様は、私に対して、重度の “シスコン” である。
今日のお茶会で、私がリヴァイ兄様と2人、テーブルでお茶をしているのは、決して私が、1人になるのが嫌で、駄々をこねた訳ではない。
誓って、決してない。
私も周囲を見れば、お茶会が、若いご令息やご令嬢の、出会いの場である事はわかるし、実際、先程から、何人ものご令嬢が、私たちのテーブルに、近づいて来ていた。
リヴァイ兄様は、見た目は、銀色の髪に、アイスブルーの瞳。細身で背も高く、キラッと光る銀縁の眼鏡からは、あふれる知性が伺い知れ、妹から見てもカッコいい…。
カッコいい…とは思うのだけど、基本無表情。ハンパない位の鉄仮面。外見の、クールなイメージを通り越して、表情筋大丈夫かなぁ…。
なんて心配になる位無表情だけど、私に対しては、喜怒哀楽 ダダ漏れで、接してくれるのだから、何ともかんとも…。
きっとリヴァイ兄様自身が、他人を寄せ付けない様に、意識的にしている事なのだろうから、どうしようもない。
だって、リヴァイ兄様は、人付き合いは、苦手ではなく必要ない。とハッキリ豪語しており、
「苦手って言うのは、付き合いたいのに、うまくできない奴が言う事。オレは、アズ以外の人間に、全く興味ないから、関わらないだけ。」
と、宣言してしまっている…。怖っ。
リヴァイ兄様は、ランドルフ侯爵家の次期当主だし、顔も良いし、背も高い。歳も18歳と若いし、クラウス様程では無いにしろ、結婚相手としては、優良物件と言って良いと思う。
だから、この日も、兄妹2人が寄り添った異様なテーブルに、何人ものご令嬢が、鉄仮面のリヴァイ兄様へ、臆する事なく話しかけていた。
私は、昨夜からの無理がたたって、疲れ切っていたから、頭も体も糖分を欲していて、お菓子を食べる事に夢中になっていたけど、チラッと横目で見てみると、ご令嬢の方から、話しかけてくるだけあって、どのご令嬢も、積極的で、容姿に自信のありそうな、美しい方達ばかりだった。
「お茶を、ご一緒してもいいですか?」
「断る。」
「え…えと…。あの、リヴァイ様がお茶会に参加されるのも、珍しいですね。」
「ハァ………。今日はアズがいるから、特別だ。」
「アズ…様?お隣の…?妹様ですか?」
「…。」
「あ…アズ様?シェイラです。初めまして。よろし…。」
「悪いけど、俺たちの邪魔しないでくれるかな。」
と、言う会話が、シェイラ様のみならず、複数のご令嬢と、交わされていたのだった。
リヴァイ兄様の、取り付くしまの無い対応に、初めは意気揚々と、
”リヴァイ様の冷たい態度を、自分の愛情で溶かしたい”
と、果敢にアタックしてくれていたご令嬢達も、リヴァイ兄様の完全無視と、妹・溺愛にひいてしまい、私を睨みつけて去ってしまうのだった。
そうして、2人がいるテーブルには、誰も近寄らなくなってしまった…。
の、だけれど…、
クラウス様は、ご令嬢達に囲まれていて、庭の片隅にいる私達の様子など、ご存知なかったのだろう。
まさか、あの様な仕打ちを受ける事になろうとは…。