ビビでバビで・ぶー
正門に一際大きな馬車が停っている時は、クラウス様が学園にいらしている時だ。
普段は、側近のサイラスさんが理事長代理をしている。
初めてお会いした時、
「なるほどねー。大人を惑わす美幼女か。こりゃ、本気で待つ気なんかな。困ったな。32歳になってしまうぞ…。」
突然ジーと見つめられて、ブツブツ呟いていた。
クラウス様は、毎月1回は重要な会議とかで、学園にいらっしゃっているんだけど、もちろん私は理事長室には行けてない。
クラウス様とお会いして、緊張で何をお話ししていいかわからないし、ましてや帰りはウィルが待ち伏せしているから、どこかに立ち寄るなんて難しい…。
それでも、クラウス様が学園にいらっしゃる時は、いつもサイラスさんがこっそりと、
「明日はクラウス様が学園に見えるから、理事長室にいらっしゃい。」
って言ってくれるけど、ウィルになんて言い訳をしたらいいか思いつかない。
(クラウス様とお知り合いな事を、ウィルに知られるのは、絶対イヤ。絶対なんか邪魔してきそうだし…。)
かと言って何も言わずに帰るのは失礼だから、いっそうウィルが怖くて理事長室には行けません…って正直に言ってしまった方がいいのかな、でも、どうしようかな。
と、相変わらずウジウジとただ思っているだけで、何の言い訳も出来ず、ましてやクラウス様と逢えるチャンスも、もう何回も逃している。
そして毎回、理事長室には寄れず、ウィルに引きずられるまま帰っている。
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「おい、先生に呼ばれたから、教室でまってろよ。勝手に帰るなよ。」
放課後、ウィルが先生に呼び出されたため、私は仕方なく机に座ってウィルが戻るのを待っていた。内緒で帰るなんて、怖くてできない。
すると突然、教室の入り口のドアが開き、
「まさか、まだ教室にいるなんて。てっきり、ウィルがいなくなれば、ウィルを置いて帰るだろうと思ってました。だから先回りしてアズレイン様を玄関で待っていたんだけど…。ウィルが戻るのを待っているのかな?」
サイラスさんが教室にいる私に声をかけてきた。
「ウィルに内緒で帰ったら、明日何されるかわからないので帰れません。」
「ハハハッ。そうですか。ウィルもそんなに怖がられてかわいそうだな。
でも大丈夫。今、用事を言いつけてウィルを呼び出して欲しいと、先生にお願いしたのは私なんですよ。
だから、すぐにウィルは戻って来られないし、安心して理事長室に行きましょう。
迎えに行かないとアズレイン様は、恥ずかしがって理事長室には来てくれないから、連れてきて欲しいとクラウス様がおっしゃいましてね。
実際は恥ずかしいだけじゃなくて、ウィルという大きな障害もあった訳だけれどね。
とりあえず、障害物もよけたし、クラウス様がお待ちですから、理事長室へ行きましょうか。」
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「アズ、久しぶり。会いたかったよ。」
前髪を、後ろに撫でつけ、いつもより大人な雰囲気のクラウス様が、微笑みながら近づいてきた。
私が部屋に入ると、案内してくれたサイラスさんは部屋から出て行き、只今部屋の中には私とクラウス様2人っきりだ。
「学園はどう?もう慣れた?」
クラウス様は、入り口に突っ立っている私に近寄り、私の掌をサッと掴んでギュッと手を繋ぐと、普段、来客の人が座るのだろう、フカフカの大きなソファーに、私を連れて行って座らせ、なんとクラウス様は向かえのソファーではなく、私の隣に座った。
お茶会の時の、私とリヴァイ兄様ぐらい近くに座ったから、クラウス様の重みで少しソファーが沈み、思わず寄りかかるように倒れてしまった。
何とか起き上がろうと思ったけど、クラウス様が、繋いだままの掌にギュッと力をこめ、クラウス様の方に私を引っ張るから、上手く力が入らず寄りかかったまま話をする事になった。
(ハァハァ、なんか大人の男の人の、いい匂いがする〜。)
ドキドキが止まらず、思考が停止してしまっていた私は、なぜか夢中でクラウス様の匂いを嗅いでしまっていた。
「勉強は、特に問題無いよね。お友達はどう?出来た?」
クラウス様の言葉をぼーとした頭で何とか聞き取り、
「はい、カトリーナとお友達になれました。」
「グリーン家のご令嬢か。あの家も面白い家だよね。
ところでウィルと毎日一緒に帰っているって聞いたけど、本当?少し妬けちゃうな。特別に仲が良いの?」
突然ウィルの名前が出てきたうえに、嫌な誤解をされてしまって、何とか誤解を解こうとクラウス様の優しい顔を見たら、思わずポロポロ涙がこぼれてきた。
「ウィルは…いじわるばかりしてくるから、怖いです。
先生とか、父様とかにお話しても、
“かまいたくて、ついつい意地悪をしてしまうんだな。自分にも覚えがあるよ。”
なんて言って、
“好きな子にはイジワルしてしまうんだな。男って奴は”
なんてニヤニヤしていて全然本気で取り合ってくれないし…。
本気で心配してくれるのはリヴァイ兄様ぐらいだけど、この前仕返しだからウィルに渡せ。って言われて預かった封筒をウィルに渡したら、開けると紙がブルブル震える様な仕掛けになっていて、紙には気持ちの悪い虫の絵が書いてあったんです。
手紙も入っていて、“アズに近づくな。今度は冗談じゃすまさないぞ。”って書いてくれていて、始めはウィルも驚いていたけど、結局はそれを使って他の子と遊んでいて、
「また、面白いもの兄さんに作ってもらって。」って、平然と言われてしまいました…。」
クラウス様は、笑ってはいけないけど、堪えきれないと言った様子で、
「全くリヴァイは、アズの事となると…。
ウィルも程々にしないと、どんどん過激な物が送られて来そうだな…。
ウィルの事は、サイラスから聞いていたから、アズが困っている事は本当は知っていたんだよ。ごめんね。」
アズの涙を指先で優しく拭いてくれ、思わず目を閉じると、最後にチュッと、クラウス様の唇が涙を吸いとってくれた。
ビックリして目を開けると、すごく近くにクラウス様の顔があって、涙は一瞬で止まった。
顔も目も真っ赤にしながら、
「男女別々のクラスならいいのにな。」
と、言ってみた。
「確かに学園を創った時、男女別々とか、将来の職種に合わせて、文官・武官系で分けるとか、色々案はあったみたいだけど、私はこれで良かったと思っているよ。
多くの国では、男女別々のところの方が多いかもしれないけど、子供のうちに何の偏見無く、色々な人に接して欲しいんだ。
学園には貴族の子だけとは言え、色々な身分の子がいるし、仕事の性質が全然違う、武官の家の子と文官の家の子が仲良くなれれば、大人になった時お互いの仕事の大変さを思いやれるからね。
今はどうしても、武官の貴族も、文官の貴族も、自分たちが国を動かしている。って思ってしまって相入れないところがあるからね。
特にアズには、私のお嫁さんになってもらう訳だから、あらゆる立場の人を思いやれる人に、なってもらわないとね。」
「お、お嫁さん⁉︎ あ…の約束は…まだ…。」
「もちろん、私たちは婚約中だよ。アズは、私が嫌いになった?私は大人になるのを、待ってるからね。」
クラウス様が2年前の子供と交わした約束をまだ覚えていてくれただけでなく、大人になるまで待っていてくれると言う信じられない言葉に、アズの口から出てきた言葉は、
「クラウス様は、魔法にかかってしまったのですか…?」
の一言だけだった…。
「たぶんね。アズも同じ魔法にかかってくれると、嬉しいな。」
拙い小説を、いつも読んでくださり、本当にありがとうございました。
年をまたいでしまいましたが、年末年始少しでもストックが増えるよう、がんばります。
今年の更新はここまでにさせていただきます。
皆様、良いお年を…。