フランス人形
入学式が、ようやく始まった。壇上では、学園長先生や、先生方、来賓の方の紹介がされていた。
姿勢を正し、顔は真っ直ぐそちらを見ていたが、私の頭には、何も入ってこなかった。
死んだ目で、壇上を見ていると、最後に、理事長の紹介があり、なんとクラウス様が登場した。
クラウス様が理事長と知り、思わず小声だが声が出てしまった。
クラウス様は私の驚いた顔を見て、いたずらが成功して喜ぶ、男の子みたいな顔で、微笑みかけてきた。
式典後、高学年から退室する為、アズ達1年生は、座って順番を待っていると、クラウス様が近づいて来て、耳元に小声で話しかけてきた。
「久しぶり、アズ。会いたかったよ。私が理事長でビックリした?ランドルフ侯爵も内緒にしてくれていたんだね。私は、学園に時々仕事で来るから、理事長室に遊びにおいで。」
「はい…。」
優しい素敵な声で、それだけ言うとクラウス様は、離れて行った。
(あ〜、またお会いできるなんて、夢みたい。フワフワする〜。)
フラフラっと、クラウス様について行きそうになっていると、
「アズ‼︎」
二階席から、リヴァイ兄様が身を乗り出しながら、こちらを睨んでいた。
あぶない、入学式の退場途中だった事を忘れていた。でも、もう一層、あのまま、クラウス様と一緒に退場したかった。
(ちぇっ!)
ーーーーーーーーーーー
入学式後、これからの学園生活の過ごし方を、説明する為、一旦、教室へ行くことになった。
教室の席には、それぞれ名札が貼られていて、もうほとんどの同級生が着席していた。
最後に入って来たのが、侯爵家のご子息やご令嬢の数名なのだから、ポツンポツンと空いてる席から、自分の名前の書かれている名札を探すのは、簡単だった。
私は自分の名札を見つけ、自分の席に近い同級生に向かって、小声だけど、勇気を振り絞って、
「よろしくお願いします。」
と、声をかけた。
………周囲の同級生からは、誰からも返事がもらえなかった。
(やっぱり、入学式で、ヴェネッサ様とおしゃべりを注意したから、嫌われちゃったかな。
私は、そんなつもり無かったんだけど…。
でも今は、話しかけるのも、誤解を解くのも、無理。色々あり過ぎて頭がパンクしそう。
どうしよう。いたたまれなくて、どんどん顔が赤くなっていってるのがわかる。
助けて、リヴァイ兄様!…恥ずかしい。もう座ろう。)
アズはグルグルと取り留めのない事を考えて、うつむいていたため、気づかなかったが、同級生はアズを見て、あまりの可愛らしさに驚いていた。
アズの隣の席のご令嬢と、後ろの席のご子息は、同時に鼻血を出していた。
“幼女にしてこの儚げな雰囲気はなんだ⁈”
(どこのお屋敷の応接間にも必ず飾られている、フワッフワッのドレスを着て日傘をさし、金髪巻毛に真っ白な陶磁の肌、青空色の瞳と紅く小さな唇を気高く微笑ませ、少し首を傾けこちらを儚げに見つめてくる、あの可愛い人形。ガラスケースに入った…まさしく、あれの等身大だ!
ガラスケースから飛び出して来たのかと思った。いやもう、いっそう逆に閉じ込めて、自分だけのものにして、ずっと愛でていたい。)
8歳とは思えないオヤジくさい思考の2人は、妖しげな目で、アズをみつめていた。
そして同じような目でアズを見つめている、もう1人の存在に気付き、瞬時にお互いの思考を読み取り、腐ったものを見る目で見つめ合った。
ーーーーーーーーーーー
アズの隣の席になったご令嬢は、グリーン伯爵家のカトリーナ嬢だ。
茶髪にアーモンドの形と色をした瞳の、一見平凡な容姿をしたご令嬢だ。
けれど、全く平凡に見えないのは、フワフワした長い髪が、左右に顔2つ分は広がっているからだ。本人は、この髪型を、気にしているのか、いないのか、ピンで数カ所、無造作に髪を留めているのみで、ボリュームは全く抑えられておらず、とてもパンチのきいた髪型をしていた。
後ろの席のご令嬢が、
「ちょっと、髪ぐらい梳かしてきてくださらない?前が全然見えないのですけど。」
と、注意をすると、
「ごめんなさい、気をつけます。」
と、ふてぶてしく、小声で返事をした。反省の見られない納得できない態度に、後ろのご令嬢が、ブツブツと文句を言い続けていると、カトリーナ嬢は、
「まじ、うっざ。」 と、呟いた。
「えっ?」
聞いたこともない、汚い言葉に、空耳かとも思ったが、カトリーナ嬢の、ひねた顔と怪しげな雰囲気から、これ以上関わってはいけないと、懸命な判断をした、後ろの席のご令嬢は、静かに目を伏せた。
カトリーナ嬢は、「まじ、うっざ。」が口癖だった。屋敷でメイドが、着替えやお手入れなど手伝おうとしても、「まじ、うっざ。」と拒否されるため、誰も口も手も出せず、あの様な様相で日々を過ごす事になっている。
この様な言葉遣いや見た目を自分の子、ましてや、貴族のご令嬢がしていたなら、普通の家庭では、両親により、お叱りや注意をうけそうだが、グリーン伯爵家というのは、
“変人じゃなければ、嫁いじゃダメ” と噂されるほど、変わった家で有名だった。
なので、カトリーナは、よっぽどの事がない限り、誰にも髪をいじらせないのだった。
そして、アズの後ろの席になったのが、フランメル伯爵家ご子息ウィルだ。
フランメル家は、代々武官の家系で、一族全員騎士をしている。王宮から、辺境の国境付近まで、フランメル一族が護っていない場所はない。
一族の者は皆、屈強な身体をしている者が多く、ウィルも例外ではなかった。
1年生にして、3、4学年は上の身長をしており、日頃の鍛錬の成果か、引き締まった体格をしていた。
サラサラの少し長めの黒髪に、灰色の一重で切れ長の瞳、そして、ポテッとした少し大きめの口をしているウィルの顔は、剣術による訓練のためか、顔に傷があり男臭く、ワイルドで非常に整っており、将来は女ったらしになる事、間違いなさそうだ。
同級生の中には、すでに、チラほらとウィルに一目惚れしているご令嬢も出始めている。
そんな学園生活1日目にして、アズは、カトリーナとウィルという、2人のストーカー的存在に目をつけられることとなる。
1人は、
「超 愛でたい…。」
1人は、
「超 苛めたい…。」
いつも読んで頂きありがとうございます。
そろそろ、ストックがなくなるので、連日投稿は難しくなりそうです。
少し書き溜めて投稿したいので、投稿に期間を頂くと思います。
拙い小説お読み頂いて、本当にありがとうございます。
後、文章・ストーリー評価 ブックマーク 本当にありがとうございます。少しずつ増えていってるのが嬉しいです。下がらなくて、良かったです…。