父様とパジャマパーティー
いよいよ、決行は今夜だ。今日は夜に備えて、少しお昼寝をしておかないと…。
深夜、屋敷中が寝静まった頃、馬車が玄関に着いた音が聞こえる。
執事がそっと玄関を開け、父様が、やや足元をフラつかせながら屋敷へ入る。一言二言会話を交わし、父様は家族の居室がある二階へ階段を登ってきた。
父様はお酒を飲んだ日は、母様と一緒の寝室へは行かず、書斎に置かれた簡易ベットで休む事は確認済みだ。
今夜も父様が、書斎に入ったのを見計らって、ノックをした。
「アズです。眠れないので、一緒に寝てもいいですか?」
少し間が空いた後、ドアが開かれ赤い顔をした父様が、驚きながらも優しい顔で迎えてくれた。
「驚いたな。こんな時間まで起きているなんて。怖い夢でも見たのかな?
父様は、少しお酒を呑んできたから、もう眠いんだよ。
アズが嫌じゃなければベットは狭いけど、ここで一緒に寝る?
まあ、なんだ…。こんな所、リヴァイに見られたら、大変な事になるな。」
ゴモゴモ言いながらも、ニヤニヤ嬉しそうに、部屋の中に私を入れてくれた。
2人でベットに入ると父様は、直ぐに寝息を立て始めた。
「ねえ、父様?」
「んん〜…」
「あのね、同衾ってどういう意味?」
「え…どう…」
「ど・う・き・ん」
「あー、う…ん、今の私達…みたいな事か…な。一緒にベッ…トに入る事。仲良しの証拠だ…な。ふふっ、アズは…いつ…までも、父様の事を、好き…でいてくれる…よね…」
「もちろんです。ふんふん、なるほど、どうきんは、一緒に寝ることね。」
「そう、私達…みたい…な、好き…同士が…ね。」
「じゃあ、どうきんした後に、“交わる”をしたってあるけど、父様やってみて。」
「あー、まじわ…交わ…交わる。え…交わる⁉︎って、えっとあの…言っ…いやまさか。」
半分寝ていた父様がすっかり目を覚まし、驚いた顔でこちらを見て顔を赤くし、震え出すほど動揺している様子に、さすがに私も、とても不味いことを聞いた事だけは分かり、
「ふぁ。なんだか、眠たいです…父様、おやすみなさい。」
と、ごまかした…。
「あー、気のせいだったか、酔っ払いすぎたかな…おやすみ、アズ。」
「………………って、眠れないでしょ!なんか、すごい事聞かれた様な気がするけど、どう言う事かな?」
父様の困惑した顔を見て、猛烈に恥ずかしくなりながらも、私は渋々事情を話した。
「早く大人になりたくて、姉様の恋愛小説を、な、内緒でお借りしたのですけど、意味のわからないところが多くて…。」
父様に姉様の恋愛小説を、こっそり読んでいる事がバレてしまった恥ずかしさで、アズは顔を赤くして涙ぐんでいた。
「早く、大人にならなくてはいけない、理由があるのかな?」
アズは2年も前になってしまった、ハワード公爵家のお茶会でのクラウス様との出来事を話し、その後、手紙やプレゼントのやり取りはあるものの、2年前のあの日以来、全く会えていない事を話し、自分が大人なら、いろんな場所でお会いできるのに…だから、早く大人になりたい。と正直に話した。
「なるほどね。しかし、相手が、ハワード公爵とは…。大変な相手が初恋だ。
ところで、アズは、父様と母様が、どうして結婚したか、知ってる?」
唐突に父様から思いもかけない事を聞かれて、アズはキョトンとしながらも、
「ランドルフ家のお仕事を、母様のご実家であるローハン伯爵家が、代々お手伝いしていた事で、家同士で自然に話がまとまった。と、母様から聞きました。」
父は、フッフッ。と、微笑んで、
「実は、ちょっと違うんだ。父様と母様は、確かに互いの家の仕事の関係で、ちょくちょく会う機会はあったんだけど、私達は8歳年の差があるだろう?
母様が今のアズくらいの時は、自分は社交会デビューもすんだ成人だった訳だから、私も周囲も母様の事は可愛い妹くらいにしか思っていなくて、正直結婚相手としては全く見ていなかったんだ。
だけど母様は、会うたびに大人っぽい口調で、キビキビと、私の寝癖を指摘したり、タイの曲がりを直してくれたり、一生懸命私の世話を焼いてくれようとするんだ。
ある日、私に、見合いの話が来てね。同じ侯爵家のご令嬢で、身分も釣り合いが取れてるし、見た目も悪くない。結婚してもいいか…なんて、適当に思っていたら、母様が泣きながら、私のだらしない所の世話をできるのは、自分しかいないから、大人になるまで待っていて欲しい。って言うんだよ。
(あーこの子は、私のために、一生懸命背伸びして頑張ってくれていたんだな。そんなに、好きでいてくれていたんだな。)
って思ったその一瞬で、妹と思っていた子が、特別な子に見えたんだ。
何となくじゃなくて、こんなに自分を好きになってくれる子と結婚したいな。ってね。
だからアズの話を聞いて、ハワード公爵も、もしかしたら私と同じ魔法に、かかってしまったんじゃないかと思ってね。
もし、魔法にかかってしまったのだったら、アズが大人になるのを待ってくれるだろうし、例えそうじゃなくても、年頃になれば、素敵な王子様が、絶対アズの前に現れるから、焦らず、大人になりなさい。
だって、アズはこんなに可愛いのだから、周りがほっとくわけないよ。
それとハワード公爵には、もうすぐ逢えると思うよ。公爵もわかってて、アズに内緒にしているのだろうしね。楽しみにしているといいよ。
じゃあ、今度こそ、寝ようか。今日の話は母様には、内緒だよ。」
父様の話を聞いて勇気が湧いてきた。今は背伸びをしないで、自分にやれる事を頑張ろう。
まずは、学園に入ったら、お友達を作りたい。自分から話しかけるのが苦手だけど、勇気を出して一人でいいから、親友と呼べる子を作りたいな。
〜それに、近々、クラウス様に会える様な予感がするし… 〜
キュンキュンする話を書いてみたい。と思っているのですが、なかなか難しいです…。
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。