プロローグ
爽やかな風が、新緑の若々しい香りを、運んでくれる、穏やかで晴れ渡った日。
ある公爵家の庭園中央には、今日の天気とは真逆の、まるで突然の雨に降られたため、全身びっしょびしょのずぶ濡れになってしまって、腹が立つやら、悲しいやら、空笑いするしかないやら、あの誰にも当たりどころのないやり場のない感情を持て余したかのような、複雑な暗い表情を浮かべた、1組の男女が、向かい合い立っていた。
2人は共にこの国を代表する公爵家のご子息とご令嬢なものだから、もともと2人に従うお付きの侍女や護衛が複数いるのに加えて、後で登場するけども、なんと皇太子殿下から派遣された見張りの人までいて、2人から2、3メートル離れた所は、ドーナツのような円形を作っていて、今まさに別れ話をしようとしている2人を、複雑な思いで眺めているのだった。
そんな中、2人に与えられた時間はわずかなものだったため、何から話していいのやら2人は焦っていた。
「会話始め!」
王太子殿下より派遣されたものが、時計で時間を確認しながら、勝手に号令をかけ、有無を言わせず、会話を始めさせようとしてきた。そして、与えられた時間は10分。決められた時間内で、会話を終わらさなければならない。
そんな勝手なルールを決められ、時間に追い立てられながら、生まれた時から、婚約者として育てられてきた相手に、お別れの言葉を告げなければならない。
(僕達は、見世物じゃないんだぞ。)
と公爵令息クラウスは激しい怒りを感じてはいたが、同じく元フィアンセ…となってしまった公爵令嬢のフィアナが、王太子に嫁ぐ事になったんだから、2人きりになる自由が無いのは当然か…。
諦めにも似た境地で、
「おめでとう、幸せに…。」
クラウスは、呟いた。