××編・never end
世界が滅んで、何年が経っただろうか。少女――エイリーン・ミノンことエイルは一人歩いていた。腕の中に一冊の本を抱えて。
「……まだ、残ってる」
何百年、何千年と人の遺体を見つけては燃やし、記憶の結晶を集めてきたが、未だに人は減らない。
肩ひざを突いて死に顔を確認し、遺体に火をつける。もうすっかり体に染み付いた動作だ。
「あとどれくらいいるのかな?」
エイルの姿は、宵影病棟で働いていた頃から少しも変わっていない。あの頃と同じ幼い少女のままだ。シール・ユノアがなくなる瞬間を看取ったのは、もう何万年も前のことだ。シールだけじゃない。仲良くなった人々はみんなエイルを置いて死んでいく。
「もう、慣れちゃったけどな」
エイルには、特殊な体質があった。いかなる奇病でも影響を受けず、エイルが触れた患者の症状を完全に消し去る。そういう体質だということになっていた。
しかし実際は、そんな簡単なものではなかった。どちらかと言えば、呪いに近いものだった。人々を救うために世界からかけられた呪い。「生」を脅かす全ての事象から完全に独立する奇病、『隔絶病』。傷や病だけでなく、死や時間ですら、エイルの体は影響を受けない。だからこうして、世界が滅んだ今も一人で死者の記憶の結晶を集めているのだ。
「人は人に忘れられた時に、本当の死を迎える」と言う。人々を救うために生かされたエイルは、人々の記憶を集めなければならないのだ。全ての人を忘れぬように。
「少し休憩しよっと」
エイルは座り込んで、本を開いた。数千年前、とある紡話士に書いてもらった物語だ。ここには、エイルの何万年もの人生の中で、唯一愛した人の人生が記されている。
気の遠くなるほどの年月の中、幾度となく気が狂いそうになった。何度も自殺を試した。しかし、それも不可能で、ただただ生きるしかなかった。それが余計に、エイルの荒んだ心を削っていった。そんな時でも、この本を読めばすぅっと気持ちが楽になるのだった。
「リオン……」
少し気が楽になった。エイルは立ち上がると、先ほど火をつけた遺体の遺骨の中から記憶の結晶を取り出し、抱きしめた。
「大丈夫よ、私が覚えているわ」
エイルは再び歩き出す。亡き人々を救うために。それが、彼女に課せられた使命であり、かけられた呪いなのだから。
この世界が朽ち果て、新たな命が芽吹き、そしてその命が滅んで、その次の命が産まれ、絶えたとしても、それが延々と続いたとしても、エイルはただ一人、何も変わらず生きていく。歩き続ける。
この世界が、終わったとしても。
彼女の命は、終われない。




