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少女が「なき」になるまでの話
昔、あるところに、氷の国があった。
氷の国は水晶からできていて、水晶の中にはたくさんの人々が住んでいた。
ヒト以外に、虫もケモノもいなかった。紀元前に、すべて、滅びてしまったようだった。
水晶はとても硬く閉じられていたから、ヒトは水晶から出ることができなかった。
ただ、ひとつだけ出口があった。
そこから出た者は、もうヒトではなくなって、別の「何者か」になってしまうけれど、そこから出て行くヒトたちは後を絶たなかった。
残ったヒトは彼らのことを「なき」と呼んだ。呪いを産むとして忌み嫌うヒトがいれば、
いつか水晶からみなを出してくれると信仰する者もいたし、彼らをただ、自殺者として認識する者もいた。
多くのヒトは、彼らを自殺者とみなし、期待も恨みもしなかった。
オニキスに住む女の子「みつは」は、「なき」に憧れていた。
この物語は、みつはが死ぬまでの物語を描いた、いつかどこかの水晶奇譚。
さあ、水晶の世界はここにある。