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今回は短めです!
「すみません、タイムで――」
手でTを作った私は石橋君のもとに戻り、無言のまま胸を殴った。効果はいまいちのようだ。石橋君は動じずに私を見ている。私は怯んだ、効果は抜群だ。小市民のハートの弱さを舐めないでいただきたい。
「何が見えた?」
「え…見てわかんないの?」
「そうだな。裕也、お前には彼女はどう見える?」
「?普通に可愛い女の子だろ」
「もう1つ、小池の問いに彼女はなんて答えた?」
「普通に『はい?』って言ってたよ…え?池田ちゃん眉間の皺凄いよ!?やっぱりどこか具合悪いの?さっきから様子が変だし」
私は池田君の問いに曖昧に笑い。ギギギ、と絡繰り人形のように首だけをまわして石橋君を見つめた。
石橋君は寂しそうにうなずいた。
「それが一般的だ。ちなみに、俺も『ウホ?』って聞こえた」
「…友よっ!」
「よかった!俺だけじゃなかった!本当によかった!」
その場でくるくると回り出す私と石橋君、夢であってほしいけど、夢じゃなかった!よかったー頭おかしくなったと思ったけどそうじゃなくて。
それにしても石橋君、私なら死にたくなるくらい性癖拗らせてるなぁ。
「霊長類最強に惚れるなんてレベル高いね!」
ただの女には興味ありませんってか!
「まて!後で弁明させてくれ。その前に彼女だ、小池に分からないなら、不本意だが小池に頼むしかない」
「小池がゲシュタルト崩壊してるからいい加減名前覚えて」
「さぁいけ小池!お前に惚れさせず、かつ俺に好印象を与えるように連絡先を聞いてきてくれ!」
「無茶苦茶言うなあ、いいよ行ってくる。貸し一つだからな」
ジロリと石橋君を睨んだ小池君は気だるそうに首を回した。
不機嫌そうだ、小池君の気分はコロコロ変わる、石橋君は気にしてないようだが。
「分かった、役に立たないが小池も連れていくか?」
「否定できないのが辛い。誤解されないように隣にいるだけならできるよ?他は本当に何も出来ないけど…」
なんせ言葉も通じなければ表情も分からないというポンコツぶりだ。
不甲斐なさに俯けば、小池君の靴が見えて顔を上げた。
「彼女のふり、してもらってもいい?その方がやりやすくなるし」
「いいよ。小池君は大丈夫?」
「うん、けっこう演技は得意なんだ」
好きな子いるのにいいのって意味で聞いたんだけど。
気にしないならいいか、差し出された小池君の手のひらを自分の手のひらで叩いた。よし、気合い入れてこー!
石橋君に肩を叩かれた私は無言で首を振られた。
「そうじゃない小池」
「恋人のふりだから、手を握ろうって、思って…」
笑いを堪えた小池君がぷるぷると震えている。
あ、そういう!頬が急に熱くなる、なんとか誤魔化そうと先ほど叩いた手を上下に振った。
「あの、ごめん。てっきり円陣的な気合いを入れるものだと思って」
「くくっ、いいよ、短時間だけどよろしく」
「…よろしく」
今度はきちんと握れた。
いくら綺麗な顔だといっても、小池君の大きい手はしっかりと骨ばっていて、私の手はすっぽりと収まってしまう。男の人だと、嫌でも意識してしまうじゃないか。間違えた恥ずかしさで赤くなった頬に紛れて、照れも少し、あったかもしれない。
主人公 機械は叩いて直せ派
石橋 コールセンターの番号は分かる場所に控えてある派
小池 近所の電気屋にもっていく