第四十五劇『もう一つの世界』
ゼツ「…らな?」
ライファ「そうだ、オレとミトスは『ラナ』から来たんだ。」
ヒュード「…マジ?」
ナリィ「オイラもだよ。」
ヒュード「…マジ?」
ナリィ「マジ!」
サウザー「『ラナ』?もしかして、かつてこの星の真上にあったといわれる蒼い星のことですか?」
ライファ「ああそうだ。」
ラスカ「馬鹿な…。」
ゼツ「そ、その通りだ!何を馬鹿なことをほざいているっ!」
シュア「まあ待てゼツ、彼らの話を聞こう。ライファといったな、お主達、本当にあの『ラナ』から来たというのか?」
ライファ「だからそうだって何度も言ってんだろ。」
シュア「しかし、今では失われた星からどのようにして来たのだ?」
ゼツ「不可能だ!無い星から来れるわけなかろうがっ!」
ライファ「ま、普通はそう思うよな。今は見えねえんだからよ。」
ゼツ「当たり前だ!だから……ん?」
サウザー「見えない?」
シュア「どういうことなのだ?」
ライファ「言葉通りだよ。この星から『ラナ』は見えねえんだよ。」
シュア「?」
ライファ「だけどな、見えねえだけで、ちゃあんと存在してんだよ、オレ達の星はな。」
ゼツ「だ、だがその話が本当なら何故見えない!かつては眩い程に蒼い光を放つ星だったと聞くぞ!」
ライファ「ま、そこんとこはある奴のせいなんだよ。」
ゼツ「ある奴だと?」
サウザー「…ヘルユノス…ですね。」
皆「!」
ゼツ「ならヘルユノスも!」
ライファ「ああ、オレ達と同じ『ラナ』の住人で、ミトスと同じ……『不死者・ヴァンパイア』だ。」
皆「!」
ゼツ「『ヴァンパイア』!このガキがっ!馬鹿なっ!」
ヒュード「…マジ?」
ナリィ「マジ!」
ラスカ「『ヴァンパイア』というのは空想上の生物だったのではないのか…。」
ライファ「ま、そう思いたいのも分かるけどな。だが事実だ。オレにも少しだが『ヴァンパイア』の血は流れている。」
シュア「私も『メビウス監獄』で聞いたが、未だに信じられぬ…だが…。」
ゼツ「く…し…信じられんな!とてもじゃないが、何の根拠も無いっ!」
シュア「いやゼツ、実は何の根拠も無いわけではないのだ。」
ゼツ「?」
シュア「少なくとも私は、そのミトスが『不死』に近い存在であることは納得出来る。」
ゼツ「な、何故?」
シャイディア「俺達は見たからさ、お前の言う根拠をな。まあ、『ラナ』から来たってのは驚いたけどな。あ、そうか、昨日ライファから聞いた話、どおりで誰も知らねえはずだな。そうか…『ラナ』で起きた事件だったのか…。」
ゼツ「さっきから一体何を!」
ライファ「まあ慌てんなって、今見せてやるよ。……これ何だ?」
ゼツ「ん?何だそれは?」
サウザー「それは…『ヒアモネ』!」
ゼツ「何だ?」
サウザー「『毒草』…ですよ。」
ゼツ「毒草だと?何故そんなものを…。」
ライファ「見せてやるよ。ミトスが『ヴァンパイア』、そしてオレも『ヴァンパイア』の血を引いてるってことをな。」
ガレス「一体何を…。」
ヒュード「ふふ〜ん。」
ゼツ「何故今そんなものを…しかもそいつで証明するだと……ま、まさかっ!」
ライファ「へへ、こうすんだっ!」
皆「!」
ゼツ「た、食べただとっ!」
サウザー「危険ですっ!『ヒアモネ』は毒性レベル6の毒草ですっ!そんなものを食べたらっ!」
ガレス「おいっ!」
ラスカ「馬鹿なっ!」
フォテ「ひぃっ!ラ、ライファさんっ!なななな何てことをっ!」
ライファ「…うっ!」
フォテ「ライファさんっ!」
サウザー「いけないっ!」
ラスカ「き、救護班を早くっ!」
ライファ「なあんちゃってなっ!」
ラスカ「え?」
ゼツ「…は?」
サウザー「ま、まさか…!」
ガレス「な、何ともないのかの?」
シャイディア「やっぱ『ヴァンパイア』ってすげえな。」
ゼツ「な…に…。」
シュア「『メビウス監獄』での、ミトスがした行動と同じだな。全く…驚いたな。」
ライファ「へへ。」
ラスカ「ぶ、無事なのか…?」
ライファ「教えてやるよ。『ヴァンパイア』に毒は効かねえ。だから体内に入ると、どんな猛毒も全て、無害なタンパク質に変化すんだよ。後は…これだ!」
ゼツ「なっ!」
ライファ「この程度の切り傷なら、数秒で……治る。」
ゼツ「…。」
シュア「ミトスが自分にナイフを突き刺した時と同じだな。」
ライファ「いや、あんな行為はオレには出来ねえよ。アレは純粋な『ヴァンパイア』のミトスだから出来たんだ。『ヴァンパイア』の血が薄いオレがあんなマネしたら入院もんだぜ。」
ゼツ「き…貴様…!」
ライファ「驚いたか?これが『ヴァンパイア』だ。そして、その『ヴァンパイア』は、『ラナ』にしかいない。」
サウザー「では、あなた達の他にも『ヴァンパイア』が?」
ライファ「ああいるぜ。ま、ほとんどはオレみたいに『ヴァンパイア』の血は薄いけどな。純粋な『ヴァンパイア』は四人だけだ。」
ゼツ「…。」
ライファ「おい黒いの、『ヴァンパイア』の血が薄いオレでもこんな『特殊な力』がある。…もう分かってんだろ?純粋な『ヴァンパイア』のミトスはオレよりもスゲエよ。それこそ…何十倍もな。」
ゼツ「このガキが…!」
シュア「もうよいだろゼツ、彼等の力量は超絶だ。特にミトスには、何か深いものを感じる。」
シャイディア「王だからなミトスは!」
シュア「王?」
ミトス「…話したんだねライファ。」
ライファ「ダメだったか?」
ミトス「ううん!」
シャイディア「信じろっ!ミトス達は我々の仲間だっ!そこに偽りは無いっ!」
ゼツ「陛下…。」
シャイディア「『ラナ』がある、『ラナ』から来た、ミトス達がそう言うならそうなんだ。」
ミトス「シャイ!」
シャイディア「しか〜し!」
ミトス「?」
シャイディア「ホントにそんなとこがあるなら、いつか連れてけよ俺も!」
ガレス「な…何を!」
シャイディア「どうなんだミトス?」
ミトス「もちろんだよ!」
フォテ「『ラナ』…『ラナ』か……よぉし。」
ナリィ「ん?どったのフォテ?」
フォテ「え?いや、何でもないですよアハハ!」
ナリィ「?」
ゼツ「し、しかし本当に大丈夫なんだろうな、『食尽鬼』は!」
ミトス「うん、ヘルユノスが抑える。」
ゼツ「……分かった。だったらもう何も言うことは無い。」
サウザー「あらら、随分おとなしいですねぇ。」
ゼツ「黙れ、斬るぞ。」
シュア「よし、それでは会議を進めよう。今まで話した現状で何か意見はあるか?」
サウザー「とりあえずは、ヘルユノスが『五光石』を集めているというのが最大の情報ですね。」
シュア「そうだな…。」
ミトス「そこで一つ提案なんだ。」
シュア「何だ?」
ミトス「僕がここに来たもう一つの理由、ある人物を探してほしいんだ。この国の情報網で。」
シュア「ある人物?誰だ?」
ミトス「『ジック』っていう人物だよ。」
ゼツ「何者だ?」
ミトス「表の情報から裏の情報まで、全てを掴める能力の持ち主…『情報屋ジック』を探してほしいんだ。」
ゼツ「『情報屋』だと?『ジック』なんて聞いたことが無いぞ。」
ミトス「…じゃあ『カヌラ』は?」
ゼツ「『カヌラ』?ああ、『海賊カヌラ』のことか?」
ミトス「そいつが『ジック』だよ。」
ゼツ「!」
ミトス「他にも『商人ラザス』、『薬師テンカイ』、『探検家ジュデナ』、どれも『ジック』だよ。」
シャイディア「どいつも聞いたことある名前だよな。」
ガレス「確かに有名ですな。」
ゼツ「し、しかし、一体そいつは!」
ミトス「僕は一回だけ会ったことがあるんだ…『ラナ』で。」
皆「!」
ゼツ「ではまさかっ!」
ミトス「うん、『ジック』は僕達と同じ『ラナ』の住人だよ。『ヴァンパイア』じゃないけどね。」
ゼツ「そ、そいつは何故こちらに来て、そんな何人もの人物として生きてるんだ?」
ミトス「会えば分かるよ。だから探してほしいんだ。『ジック』なら、ヘルユノスの居場所をつきとめてくれると思うんだ。」
シュア「よ、よし!早速情報を集めよう!」
サウザー「確かに、今はそれが最善かもしれませんね。」
ラスカ「そうだね。」
シャイディア「だけど待てよ、同じ人物なら顔とか同じだろ?何で誰も同一人物だって気付かないんだ?」
ミトス「それも会えば分かるよ。」
シャイディア「へぇ、楽しみじゃねえか。」
ミトス「だけど、この広い世界の中で『ジック』を見つけられるのかな?」
ライファ「とりあえず『ジック』が今どんな人物になってるかだよな。皆が知ってる奴だといいんだけどよ、知らない奴になってんなら、いくらなんでも厳しいんじゃねえか?」
ミトス「うん、多分相当時間がかかると思う。だから時間を無駄には出来無いよ。」
ライファ「どうすんだ?」
ミトス「一旦『ラナ』に戻る。」
ライファ「な、何でだ?」
ミトス「もしかしたら『ラナ』にも何か情報が入ってるかもしれないし。」
ライファ「そうだな、ジジイも何か掴んでるかもしれねえし、戻るか!」
ミトス「うん!じゃあシュアに言ってくるね!」
フォテ「待って下さいっ!」
ミトス「え?」
ライファ「何だ?」
フォテ「ぼ、僕も連れて行って下さいっ!」
ミトス「フォテ…。」
フォテ「お願いします!行きたいんですっ!いや、行かなくちゃならないんですっ!」
ライファ「何言ってんだお前…行かなくちゃならない?どういうことだよ?」
フォテ「そ…それは…。」
ミトス「…。」
ライファ「どうした?」
フォテ「ぼ…僕は…!」
ミトス「いいよ!」
フォテ「え?」
ライファ「ミトス!」
ミトス「連れて行ってあげるよ。」
フォテ「ほ、本当ですかっ!」
ミトス「だって、フォテは僕達の友達でしょ?」
フォテ「ミトスさん…。」
ミトス「それじゃ、シュアに言ってくるね!」
フォテ「はいっ!」
(物陰からある人物が見てる)
?「しめたしめた!」
(再びミトス)
ミトス「言ってきたよ!なるべく早く戻るってことで許可がおりたよ!」
ライファ「ま、そんなに早く『ジック』が見つかるとは思えねえけどな。」
ミトス「まあね。それじゃとにかく外に出よう!」
(部屋から出ようとした瞬間、ミトスの顔に何かが飛び付く)
ミトス「うわぁっ!」
ライファ「ミトス!」
ミトス「な、何?」
?「キュイキュイ!」
ナリィ「何これ?」
ヒュード「ああ、これはルーナ姫のペットだよ。」
ナリィ「ああ、確か名前が『ラピ』…っていたのかよっ!」
ヒュード「いやぁ、ヒマでさぁ。」
ナリィ「いやいやヒマって…みんな情報集めに必死なんじゃ…。」
ヒュード「いやぁ、めんどくさいじゃない!ふふ〜ん!」
ナリィ「な…何でクビとかになんないんだろ?」
ラピ「キュイ?」
ミトス「へぇ、『ゴールドマウス』だね。」
ルーナ「あっ!」
ミトス「ルーナ。」
ルーナ「す、すみません!こら離れなさいラピ!ミトス様に何てことを!」
ミトス「あ、いいよいいよ。」
ラピ「キュイキュイ♪」
ミトス「あは、可愛いね。」
ルーナ「本当に申し訳ありませんでした。…あの、どこか行かれるのですか?」
ミトス「うん、もう一つの世界にね!」
次回に続く