第四十四劇『動きだす暗雲、その名は轟』
ゼツ「では、貴様もヘルユノスとやらに『時間』を奪われ、そんな姿になったというのか?」
ミトス「そうだよ。」
ゼツ「それで貴様は奪われた『時間』を取り戻す為にヘルユノスを追っているというわけか。」
ミトス「向こうも僕を探してると思うよ。」
ゼツ「どういうことだ?」
ミトス「探してると言っても、僕と接触しようとは思ってないかもしれない。ただ僕の存在を把握しておきたいはずだよ。」
ヒュード「なぁんでそんなことすんだい?」
ミトス「ヘルユノスが…自分が今やっていることを僕に邪魔されなくないからだと思う。。」
シュア「奴の目的が分かるのか?」
ミトス「ううん、それはまだ分からない。だけど、ヘルユノスは『ある物』を集めてる。」
ゼツ「何だ?」
ミトス「『五光石』。」
フォテ「あっ!カミュさんが持ってた『覇黄石』ですね!」
シュア「『五光石』といえば、この世界の各々の大陸にある、様々な光を放つ五つの鉱石のことだろう?」
フォテ「前にミトスさんが持ってた『真紅石』もその一つですよね。」
ミトス「確かに持ってたけど、僕のは光もあまり放たない破片みたいなものだよ。ヘルユノスは、そんな破片じゃなく、完全な『真の五光石』を集めてるみたいなんだ。」
ライファ「確かにカミュが持ってったのは、綺麗な玉の形してたよなぁ。」
ナリィ「『五光石』って、他にどんなのがあんの?」
フォテ「はい。紅い光を放つ『真紅石』、黄色い光を放つ『覇黄石』、緑の光を放つ『霊緑石』、黒い光を放つ『漆黒石』、最後に今だに発見されてない白い光を放つ『聖白石』です。」
ナリィ「まだ発見されてないの?最後のやつ。」
フォテ「発見されたのは痕跡だけだったんです。だから理論上はあると言われているんです。」
ナリィ「痕跡って?」
サウザー「ある島が一瞬で死の島になったんですよ。」
ライファ「死の島?」
サウザー「はい。ここより遥か北に位置する所に小さな島があるんです。」
ライファ「小さな島ねぇ。」
サウザー「緑豊かで、動物達もたくさんいた島だったんですが、ある時、その島は急に凍ってしまったんですよ。」
ライファ「凍る?どういう意味だ?」
サウザー「文字通りの意味ですよ。島全体が氷に覆われ、緑は死に、たくさんいた動物達も、寒さに耐性の無い動物達がたくさん命を落としました。」
ライファ「…だがよ、それが何だってんだ?」
ミトス「ライファ、『勁の暴発』だよ。」
ライファ「『勁』の?あのデッカスみたいな…か?」
ミトス「うん。ねえライファ、『勁』には種類があるよね?」
ライファ「ん?ああ、『鍛勁』、『化勁』、『発勁』だろ?」
ミトス「まだあるよね?」
ライファ「あ?何言ってんだよ、種類はそれだけだろ?他に何があるって………まさか『性質』のことか?」
ミトス「そのとおり。」
ライファ「…んじゃまさか、その石は…。」
ミトス「うん、『性質』を持った、莫大な『勁の塊』なんだよ。」
ライファ「じゃあよ、その島は…。」
サウザー「はい、『勁の暴発』の影響でそうなりました。」
ライファ「おいおい、島って言ってもそれなりにデカイはずだろ?いくら暴発しようが、島全体を覆うような『力』は…。」
ミトス「だから、理論上なんだよ。」
ライファ「…。」
ミトス「『真の五光石』には、並の『勁使い』の一万倍もの『勁力』が込められているんだ。それが暴発してみなよ、島程度ならそうなっても不思議じゃないんだ。」
ライファ「…マジかよ。」
フォテ「…あのぅ、『性質』って何ですか?」
ゼツ「『勁』には様々な『性質』がある。主なものは、『火』、『水』、『土』、『木』、『風』、『雷』、『氷』だ。この中でも『雷』と『氷』は別格に『性質能力』が高い。」
ミトス「ヘルユノスは『雷』の『性質』だよ。」
サウザー「ほぅ。」
ライファ「そっか…島を凍結させる程の『氷性質』は、人じゃ考えられない。だからやったのは人じゃなく!」
サウザー「そうです、膨大な『氷性質の塊』である『聖白石』が暴発した為に起こったのではないかと、理論上は考えられているんです。」
ヒュード「まあ、人じゃあそこまでの『力』は出せないってことだね。ね、姐さん!」
ラスカ「まあね。」
シャイディア「でもなぁ、何でそんなもんをヘルユノスが集めてんだ?危ねえじゃねえの。」
ガレス「確かに、暴発するリスクを背負ってまで集める理由とは一体…。」
シャイディア「ミトス、何か分かるか?」
ミトス「分からない。」
シャイディア「そうか…。」
ミトス「だけど…。」
シャイディア「ん?」
ミトス「だけど、犯罪者達を使ってまで、そんなものを集めるには必ず理由があるし、それに…。」
サウザー「先程のピノッキオの言葉…ですね。」
ミトス「これから凄いことが起きる…。」
ゼツ「一体何が起きるというのか…。」
シュア「それに、『食尽鬼・ギウォー』も気になる。」
ヒュード「そういやぁ、そいつもヘルユノスんとこにいるんだよねぇ。」
ゼツ「何だとっ!本当なのかヒュードッ!」
ヒュード「みたいだよ、ねえシュアさん。」
シュア「ああ、恐らくはあの『囚人脱走』の時にやられたな。」
ゼツ「だが、先日『メビウス監獄』に行ったが、その時は確かにいたぞ!」
シュア「それはピノッキオの仕業だったのだ。」
ゼツ「…まさか…。」
シュア「…人形だった。」
ゼツ「何と…!」
サウザー「これは容易ならないことになってきましたね。」
ラスカ「し、しかし、あのような巨体を一体どうやって…。」
シュア「どうやらヘルユノスの仲間には、空間を自在に操ることが可能な人物がいるらしい。瞬間移動のような『力』で、『食尽鬼』を移動させたようなのだ。そうだったなお主ら。」
ミトス「うん、『歪みのドゥクト』、ヘルユノスに忠誠を誓った仲間だよ。」
ゼツ「何ということだ…。」
シュア「まあ、だが『食尽鬼』の暴走については、あまり問題は無いようだ。」
ゼツ「何故だ?」
シュア「私はあまり信じられぬのだが、そのヘルユノスが『食尽鬼』を抑えるから…らしいのだ。」
ゼツ「馬鹿なっ!いくら『雷性質』を持っているとしても、一個人があの化け物を抑制出来るわけがないっ!我々の先祖が集まって、ようやく封印したんだぞ!」
シュア「わ、私もそう思うのだが…。」
ミトス「これは信じてもらえるしかないけど、ヘルユノスは『ギウォー』より強いよ。」
ゼツ「…何故言い切れる。」
ミトス「ヘルユノスは僕より強いからさ。」
ゼツ「はっ、そんなこと分かりきってるわ!子供の貴様程度…!」
ミトス「三秒…。」
ゼツ「ん?」
ミトス「僕が本気を出したら、三秒でこの国を塵に出来るよ。もちろん君達も一緒にね。」
ゼツ「なっ!」
ヒュード「わぁ〜お。」
ゼツ「たわけたことを!」
ミトス「信じられない?」
ゼツ「まだ言うか!」
ミトス「なら、真実を見せてあげる。」
ナリィ「ま、まさかミトス!」
ライファ「ちっ!」
ゼツ「一体何を…!」
ミトス「今から見せてあげるよ…真実を…。」
皆「!」
ミトス「!」
ライファ「おおっと、その辺にしとけやミトス。」
ミトス「ライファ…!」
ライファ「どうもさっきから様子がおかしいと思ったら、やっぱ焦ってやがったか。」
ナリィ「ミトス!」
ミトス「ナ…ナリィ…。」
ライファ「おいおい、普段のお前なら、こんなことで熱くなんかなんねえだろうが!ウゼェな!」
ミトス「で、でも…。」
ライファ「頭を冷やせって!そりゃ焦る気持ちも分かるけどよ!」
ミトス「だったらどうやって証明すればいいんだ!僕がここで本当の姿に戻れば!」
ライファ「落ち着けぇっ!」
ミトス「う…。」
ヒュードの心「本当の姿ねぇ。」
ライファ「お前が我を失ってどうすんだよ!そんなのお前じゃねえだろがっ!」
ミトス「…ライファ。」
ライファ「お前はオレ達の何なんだよ!」
ミトス「…。」
ライファ「熱くなんのはオレら下っぱだけでいいんだよ!……だからもう少し落ち着けや…大将軍様。」
ミトス「…ライファ…ナリィ。」
ナリィ「ホントに馬鹿なんだから。」
ミトス「ごめん…。」
ライファ「…。」
ミトス「…ふぅ、じゃあ頼むよライファ。」
ライファ「よっしゃ、それでこそオレらのリーダーだ!」
ゼツ「ん?」
ライファ「さてと、おい黒いの、オレが教えてやるよ、ミトスがどれだけ凄いかをな。」
ゼツ「何だと?」
ライファ「オレらは…『ラナ』の住人だ。」
(その頃ヘルユノスは)
ヘルユノス「…ドゥクト、いよいよ始まります。」
ドゥクト「ああ、全ては『アレ』を降臨させるために。」
ヘルユノス「あと少し…あと少しで我が望みが叶う。」
?「ハハハハ!」
ドゥクト「帰ってきたのか…『ピノッキオ』。」
ピノッキオ「まあね。」
ドゥクト「…色々見てきたようだが?」
ピノッキオ「うん、楽しかったよ!面白いこともあったしね!」
ドゥクト「面白いこと?」
ピノッキオ「…銀髪の子供に会ったよ。」
ヘルユノスとドゥクト「!」
ピノッキオ「アハハハハ!動揺した動揺した!」
ドゥクト「見つけたのか?」
ピノッキオ「うん、『スレイアーツ』にいるよ。」
ヘルユノス「『スレイアーツ』…。」
ドゥクト「成程、彼等も着々と我々に近付いているな。」
ピノッキオ「どぉすんのかな?」
ヘルユノス「…皆を集めて下さいドゥクト。」
ドゥクト「…分かった。」
(数分後)
ドゥクト「皆、よく集まった。」
?「けっ、無理矢理連れてきたくせによく言うぜ!殺すぞテメエ!」
?「チャチャチャ♪お前に誰が殺せるのやら。」
?「ああ?ケンカ売ってんのかクソが!」
?「お前に買えるのかな、俺のケンカを?チャチャチャ♪」
?「上等だ!このボケがぁっ!」
ピノッキオ「相変わらずうるさいなぁ。」
?「黙れ!この腐れオタク野郎がっ!」
ピノッキオ「な、何だよぉっ!」
?「チャチャチャ♪頭悪い同士お似合いだな。」
?「テメエッ!」
?「…閉じろ。」
?「ああ?」
?「口を閉じろ。」
?「はあ?何でテメエに指図されなきゃならねえっ!このダボがぁっ!」
?「耳障りだと言っている。」
?「うう…っ!か…体が…動…かねえ…っ!」
?「チャチャチャ♪おぉ〜怖い怖い。」
ピノッキオ「ホントホント。」
?「…話は?」
ヘルユノス「…もう少しで準備が整う。『力』を貸してもらいたいのです。」
?「…。」
ヘルユノス「その時が来れば、君達の望みも叶う。」
?「…いいだろう。」
ピノッキオ「ボクの望みが叶うんなら何でもやるさ!」
?「チャチャチャ♪ところで同志はこれだけなのかな?」
ドゥクト「より『力』のある者を選抜したのだ。」
ヘルユノス「これから我らは『轟』と名乗ることにします。」
?「チャチャチャ♪いいねぇ。カッコイイじゃない!」
ヘルユノス「では、全てが整った時、再びここに集結しましょう。」
ドゥクト「では解散だ。」
ヘルユノス「……そう…もうすぐですよ…『エーデルワイス』。」
次回に続く