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第四十劇『焦熱の住人!危険な奴ら』

ミトス「危人?」


シュア「ああ、その名の通り、人形好きの危ない奴だ。」


ナリィ「人形好きのどこが危ないのさ?」


フォテ「人形に対する想いが異常らしいんです。」


ナリィ「異常?」


フォテ「はい。」


シュア「『人形使い(ドールマスター)』……そいつの名前は『ピノッキオ』。人形を操り、大量に人を殺してきた殺人犯だ。」


ミトス「『ピノッキオ』?変わった名前だけど…本名なの?」


フォテ「いえ、何でも『ピノッキオの森』という本から引用して、自分で名乗っているらしいんです。」


ミトス「『ピノッキオの森』…それってどんな話なの?」


フォテ「小さな村の話なんですが、そこに住んでいた男は、誰もが羨む美男子だったんです。ですがある日、男が住んでいる家が火事になり、そのせいで男は顔に大火傷を負ってしまうんです。」


シャイディア「ああ、そういや俺もガキの頃読んだぜ。その火傷で顔は見るも無惨になり、村一番の男前だった奴が、そのせいで同情やら中傷やらを受け、結婚を約束した女にも逃げられちまい、それに耐えきれなくなり自殺を図ろうとするんだよな。」


ミトス「自殺を?」


フォテ「はい。ですが自殺を決意した晩に、不思議なことが起きるんです。」


ミトス「不思議なこと…。」


フォテ「信じられないことに、部屋にあった人形達が動き始めるんです。」


シャイディア「その人形達は、皮肉にも同情から貰ったプレゼントだった。男は怒った。人形達まで自分を馬鹿にするのかと。だが人形達は、男に見向きもせず部屋を出て行く。」


フォテ「そして、男は人形達の後を追うんですが、そこで見てしまうんです。」


ミトス「何を?」


フォテ「人形達の楽園をです。」


ミトス「楽園?」


フォテ「はい。その楽園は、村の近くにある森の中にありました。」


ミトス「それが『ピノッキオの森』?」


フォテ「はい。男は驚きました。こんなところに、こんな場所があったなんて…と。」


シャイディア「夜にしか現れない楽園。何でも捨てられた人形や、忘れられた人形、必要とされてない人形達が集まる場所なんだってよ。」


フォテ「男はその森で、ある人形に出会うんです。それが『ピノッキオ』と呼ばれる、その楽園を作った人形なんです。」


シャイディア「男はその『ピノッキオ』を見て驚いた。」


ミトス「何で?」


シャイディア「…ボロボロだったんだよ。」


ミトス「…。」


シャイディア「どう考えても捨てられた人形にしか見えなかった。片目は取れてて無いし、ツギハギだらけで、よく見ると綿も出てた。」


フォテ「男はその醜さに何故か少しホッとしました。よく見れば、周りの人形達もほとんどボロボロだったんです。」


シャイディア「男は聞いた。君達は何なのかと。『ピノッキオ』は言った。『君と同じだよ』とな。男はその瞬間涙が溢れてきた。男は一晩中泣いた。そして男は毎晩毎晩『ピノッキオの森』に行くようになった。だがある日、その森が伐採されることになった。もちろん男は反対したが、醜い顔の男の意見をまともに聞く奴なんて誰もいなかった。男は何としても、森を守りたかった。自分と同じ苦痛を共有する人形達…自分を受け入れてくれる森を守るために。」


ライファ「んで、どうなったんだ?」


フォテ「…男は命を落とすんです。」


ナリィ「死んじゃうの!」


フォテ「はい。」


ライファ「殺されちまったのか?」


フォテ「いえ、病にかかってしまうんです。男は思いました。何とかならないか、自分に出来ることは無いか、自分の命を差し出せば森が助かるというのならいくらでも差し出す!と。」


ナリィ「…可哀想だよ…何ともならなかったの?」


フォテ「いえ、その晩に夢の中で『ピノッキオ』が現れるんです。『ピノッキオ』は言います、『ボクにはもう時間が無い。君は言ったよね?自分の命を差し出すと……その命、本当にいらないかい?』と。」


シャイディア「で、男は森を守りたいと言う。その為なら何でもする決心だった。」


フォテ「『ピノッキオ』はその言葉を聞くと、ニッコリ笑って言いました。『今度は君がピノッキオだよ』と。男は夢から覚めると、人形になっていました。」


ミトス「…まさか。」


フォテ「はい。男は一度死に、人の姿から人形へと生まれ変わったんです。」


シャイディア「いつの間にか、男の周りにはたくさんの人形達が集まってた。男は言う…『さあ、ボク達だけの楽園へ行こう!』ってな。」


ナリィ「え…でも森は…。」


フォテ「消えていたんです。森そのものが。」


ナリィ「森が?」


フォテ「翌朝、村人達は不思議に思いながらも、伐採する手間が省けたことで、あまり気にはしませんでした。……村から一人の男と、森が消えた話なんです。」


ミトス「…何か…悲しいね…。」


シャイディア「ま、俺だって、この男前フェイスが醜くなったら……考えるだけでも怖いな。」


ナリィ「顔だけで、そんなに変わるのかな?」


ライファ「人ってのは、自分達と違ったものを認めようとしねえからな。たかが顔……それだけで拒絶したり、存在を否定したりしやがる。」


シュア「だが、人はそれでも生きるし、手を取り合う。他人を選び、孤独を避け、己れの幸せの為に生きる。」


シャイディア「『ピノッキオ』も、人形達も、男も、自分の幸せの為に選んだ。同じ痛みを持つ仲間と共に生きる選択をな。」


ミトス「本当に悲しい物語だね。」


フォテ「いろいろ考えさせられますよね…。人の持つ表と裏の感情、生き方、未来。」


ライファ「………ていうかな、話がすっかり脱線してねえか?」


皆「…あ!」


ナリィ「そうだよ!もう!ミトスがどんな話なのか聞くからだぞ!」


ミトス「はは、ゴメンゴメン。」


ライファ「じゃ本題に戻そうぜ。その自称『ピノッキオ』が、『食尽鬼』の人形を作った張本人だとしたら、ヘルユノスの近くにいるってことか?」


ミトス「まだいるのかは分からないけど、聞く限りじゃ、その『ピノッキオ』の仕業だろうね。」


シュア「まさかこのようなことになろうとは…。」


シャイディア「…ミトス、ヘルユノスの手掛かりはもう無いのか?」


ミトス「あと一つ…あるにはあるんだけど…。」


シャイディア「何だ?」


ミトス「…シュア、カミュって知ってる?」


シュア「カミュ?…『白い牙』のことか?」


ナリィ「何それ?」


シュア「ん?カミュ=セイバーではないのか?」


ミトス「その通りだよ。」


ナリィ「んでも、『白い牙』って?」


シュア「奴の通り名だ。そのカミュがどうした?」


ミトス「カミュが言ったんだ。ヘルユノスは『ユーヴィリアの塔』にいるって。」


シュア「奴と会ったのか?」


ナリィ「もう一人いたよ。パシリヤ=ハンガー……だっけ?」


シュア「…誰だ?」


フォテ「ナリィさん、違いますよ。バジリスク=フィンガーですよ。」


シュア「…何?」


ライファ「パシリヤ=ハンガーって……弱そうな名前だな。」


ナリィ「うっさいな!いいだろ別に!もうミトスがやっつけちゃったし、会うことも無いだろうしさ!」


シュア「お主達!」


ナリィ「わあ!ビックリしたぁ…!」


シュア「本当に奴を…バジリスク=フィンガーを倒したのか?」


ナリィ「え…うん。ミトスがやっつけちゃったよ……一分くらいで。」


シュア「奴は暗奈業と同じ『焦熱』の住人だったのだぞ。」


ナリィ「にしては弱かったよねぇ。」


ライファ「ミトスが元に戻ったからだろ?ハッキリ言って奴は強かったぜ。暗奈業にひけはとらねえだろうな。」


シュア「ちなみに『白い牙』も『焦熱』だ。」


ライファ「へぇ。」


シャイディアの心「…全然話に入っていけん。ど…どうしよう……とりあえず分かってるフリしとくか。」


シュア「だが、本当に強いのだな、お主達。」


ミトス「シュアも強いじゃない!」


シュア「私は…。」


シャイディア「そりゃ強いぜ!なんたって『嘆きのシュア』なんだからな。」


シュア「陛下…。」


シャイディアの心「良かったぁ…話に入れた。」


ミトス「『嘆きのシュア』…どうしてそんなふうに呼ばれてるの?」


シュア「はぁ…囚人どもが勝手に付けただけだ。」


シャイディア「付けられた理由、教えてやろうか?」


シュア「陛下…。」


シャイディア「いいじゃねえかよ!なあ、聞きたいよなミトス?」


ミトス「うん!」


シャイディア「よっしゃよっしゃ!」


シュア「はぁ…。」


シャイディア「まあ、簡単に言うとだ、情け深いんだよコイツは!」


ミトス「情け深い?」


シャイディア「シュアはな、どんな囚人にも平等に接するんだよ。」


シャイディア「陛下、もうそれぐらいで…。」


シャイディア「うるせぇ、国王命令だ、しばらく黙ってろ。」


シュア「…全く…。」


シャイディア「たとえ囚人でも生きてるし、罪を償うことが出来る。どんな悪人でも、命まで取る必要は無いんじゃないのか…だったよなシュア?」


シュア「…。」


シャイディア「囚人どもにとっては、シュアはありがたい存在だってことだ。」


ミトス「へぇ。」


シャイディア「だからシュアは囚人どもに、悲しみを包む男…『嘆きのシュア』って呼ばれてんだよ。」


ミトス「やっぱりシュアは凄いや!」


シャイディア「甘ちゃんだけどな。」


シュア「陛下…。」


シャイディア「ま、だからこそ俺はお前にここを任せたんだけどな。」


シュア「……ふぅ、また話が脱線していますね。戻しましょう。」


シャイディア「はは!照れてやがる!似合わんぞ?」


シュア「放っておいて頂きたい。」


シャイディア「あははははは!」


シュア「…ミトス、その『ユーヴィリアの塔』というのは?」


ミトス「シュアも聞いたことないの?」


シュア「ああ。」


シャイディア「俺も知らねえな。」


シュア「『白い牙』にからかわれたのではないのか?」


ミトス「う〜ん…。」


皆「…。」


シャイディア「……ま、考えても仕方無いな。とりあえず宮殿に戻ろうぜ。」


シュア「そうですね。」


シャイディア「よっしゃ!今日は珍客歓迎の宴でもするか!」


シュア「また大臣にどやされますよ?」


シャイディア「まあ、そん時ゃ、また眠ってもらうぜ!あははははは!」


シュア「はぁ…とりあえず宮殿に戻りましょう。これからのことについて会議を開きませぬと。お主達にも出席を願いたい、構わぬか?」


ミトス「もちろんだよ!」


シャイディア「戻ろうぜ。」



(宮殿に戻る)



シャイディア「おう、今帰ったぞ。」


ガレス「陛下!アナタ様という方は!本当に出られていたのですかっ!」


シャイディア「うるせぇな、ケチケチすんなって、だからハゲんだぞ。」


ガレス「これは剃っているのです!断じてハゲなどではございませんっ!」


シャイディア「嘘つけや、前にお前の部屋にこっそり入った時、タンスの奥に育毛剤あったぞ。」


ガレス「なっ!こっそりって…な…何をなさっているのですか!」


シャイディア「まあ、そう怒るなって。ちょっとしたイタズラをしようかと思ってな。」


ガレス「イ、イタズラですと?」


シャイディア「ああ。」


ガレス「い…一体何をなさったのですか?」


シャイディア「聞かない方がいいぞ。」


ガレス「仰って下さい!一体私の部屋で何を!」


シャイディア「…育毛剤を徐毛剤にすりかえてみました。」


ガレス「…へ?」


シャイディア「あははは!おちゃめしちゃいました!」


ガレス「(泡を吹き倒れる)」


シャイディア「あらら、失神しやがった。」


ナリィ「どんな王だよ…。」



次回に続く



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