第三十六劇『暗奈業、危険な住人』
ヨルザ「さ、こっちこっち。」
ライファ「こっちって…壁じゃねえかよ。」
ヨルザ「そだよ。」
ライファ「そだよってふざけんな!殺し屋は何処だよ!」
ヨルザ「この壁の向こう。」
ライファ「あ?」
ヨルザ「声は届くよ。聞いてみたら?」
ライファ「何だ?面と向かって話すことは出来ねえのか?」
ヨルザ「まあ、出来ないことは無いよ。ただ…。」
ライファ「ただ?」
ヨルザ「死ぬかもよ?」
ライファ「!」
ヨルザ「言っただろ?相手は殺し屋で『勁使い』だって。それもかなり高レベルな…ね。だからボクも壁越しに話したことがあるだけ。まともに殺り合えば、しんどいからねぇ。」
ライファ「…面白ぇじゃねえか。」
ナリィ「言うと思ったよ…。どうするミトス?」
ミトス「確かに危険はあるよ。だけど、やっぱり実際に見て話さなきゃ、分からないことだってあると思う。」
ナリィ「…どうなっても知らないよ。」
ヨルザ「会うのかい?」
ミトス「うん。」
ヨルザ「ま、好きにすればいいさ。ボクも『暗奈業』に興味が無かったわけじゃないからねぇ。」
ミトス「いいの?ヨルザも攻撃されるかもしれないよ?」
ヨルザ「それはそれで楽しいじゃないか…クク。」
ライファ「変なヤツだぜ全く。」
ヨルザ「『道化師』のボクにとって、最高の誉め言葉だよそれ…クク。」
ライファ「ちっ。」
ミトス「じゃあ案内して。」
ヨルザ「こっちだよ。」
(ヨルザについていく)
ヨルザ「……このセキュリティを解けば、『暗奈業』とご対面だ。いいかい?」
ミトス「皆、気を付けてね。」
ナリィ「よ、よし!」
ライファ「ああ。」
ヨルザ「……開くよ!」
ミトス「…っ!皆伏せて!」
?「『一文字刈り』!」
皆「!」
ライファ「あっぶねえっ!」
ヨルザ「まさに危機一髪ってとこだねぇ…クク。」
?「キャハ、やったよネエちゃん。」
?「んふ…そうだね『奈業』、偶数だ。」
奈業「キャハ、ふたりずつってわけだ。ボクはあっちの……ネエちゃん…ガキがいるよ。」
?「そうかいそうかい。ならあのガキは最後にしよう。」
奈業「キャハ!」
?「二人でグチャグチャにしようね奈業。」
ライファ「な、何だアイツら…ホントにくっついてやがる…。」
ミトス「あれが『暗奈業』。」
ヨルザ「どっちが『暗奈』で、どっちが奈業なんだか。」
ナリィ「凄いな…。」
ライファ「あれで生きてるってのが不思議だぜ。普通ならとっくに死んでるぜ。」
暗奈「先ずどいつを殺ろうか?」
奈業「あのデカイヤツなんてどう?」
暗奈「んふ…いいねぇ。じゃあ殺そ。」
ミトス「…。」
ライファ「どうやら話を聞くどころじゃねえみてえだぜミトス。ヤツらには殺意しか無え。」
ミトス「…僕は甘かったのかな…。」
ヨルザ「だから言っただろ?ここでは『力』が全て。話なんてのは無いに等しいんだよ。」
ナリィ「来るよっ!」
暗奈業「『一文字刈り』!」
ヨルザ「ん?どうやら狙われたみたいだなぁ…お兄さん。」
ライファ「!」
ミトス「『青丸』っ!」
奈業「あ…ジャマするなよぉ。」
暗奈「お前は後でゆっくり刈ってやるから待ってな。」
ミトス「話しをしたいんだけど。」
ヨルザ「はぁ…。」
奈業「はな…し?ネエちゃん、アイツさ、いまハナシをしようっていったのかな?」
暗奈「んふ…馬鹿だねぇ。聞き間違いさ。ここでそんな戯言ほざく奴はいないよ。いるとすれば、甘ちゃんな世界しか知らない馬鹿だけさ。」
ナリィ「アイツら…。」
ミトス「…もう一度言う!君達と話をしたいんだ!」
奈業「…ネエちゃん。」
暗奈「…どうやら本物の馬鹿みたいだね。」
奈業「なんかムカついてきたよボク。」
暗奈「暗奈もだよ。久々にイラつくガキだ。」
ミトス「『ヘルユノス』って知ってる?」
奈業「まだいってるよアイツ。みてネエちゃん、バカまるだしだよ!」
暗奈「ぷ…。」
暗奈業「アハハハハハ!」
ミトス「…。」
ライファ「諦めろミトス。ヤツらに言葉は届かねえ。」
ヨルザ「だからそれが普通だって。」
ミトス「くそ!」
暗奈「あまり笑わせないでおくれよガキ!」
奈業「キャハ、さっさとヤろうよネエちゃん。」
ライファ「来るぞ!」
暗奈業「『一文字刈り』っ!」
ミトス「…『青丸』っ!」
暗奈業「…。」
ミトス「話す気は無いんだね。」
奈業「キャハ、アイツまだ…。」
ミトス「だったら、力ずくで聞くまでだ!」
暗奈「んふ…言うねぇ。久しぶりに活きのいいガキだ。」
奈業「キャハ!」
ミトス「『青丸』っ!」
暗奈「……面白い術を使う奴だね。」
奈業「みず…だね、アレ。」
暗奈「んふ…『化勁使い』か。」
奈業「…ふぅん。」
暗奈「いや、それだけじゃないね。『水』を放出してるから、『発勁』も混じってるね。」
奈業「バランスがいいなぁ。まるでボクらみたいだね、ネエちゃん。」
暗奈「確かに、なかなかのやり手みたいだよ、あのガキ。」
奈業「キャハ、おもしろいや!」
ミトス「…お前達は、どうやら『化勁使い』みたいだね。」
暗奈業「…。」
ミトス「『勁』を刃状に変化させてる。見たところ、かなりの切れ味だ。ヨルザの言ったとおり、油断出来ない『勁使い』みたいだね。」
奈業「ゆだんデキない…だってさ。」
暗奈「気に入らないね。油断しなきゃ、暗奈達に勝てるって言いぶりじゃないか。」
奈業「ナメてるね…かんぜんに。」
暗奈「もうグチャグチャ確実だな。目も耳も鼻も全部ちぎって、臓物と一緒に鍋にしてやるわ。」
奈業「キャハ、ウマいかなそれ?」
ライファ「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ!『剛拳』っ!」
奈業「ネエちゃん、上。」
暗奈「無駄無駄ぁ。」
ヨルザ「速い…。」
ライファ「ちぃ、何てすばしっこい奴だ!」
暗奈業「アハハハハハ!」
ミトス「…。」
ヨルザ「どうやら苦戦してるみたいだねぇ。」
ナリィ「そう思うんなら、『力』貸しなよ!」
ヨルザ「冗談だろ?何故ボクがそんなことをしなければならないのさ?」
ナリィ「な…何故って…。」
ヨルザ「勘違いするなよ。ボクは君達の仲間じゃない。ただ楽しいから、ここにいるだけだ。」
ナリィ「ぐ…コイツ!」
ヨルザ「ま、見てれば分かるよ。どちらが勝つのか…クク。」
ミトス「『赤丸』っ!」
暗奈業「!」
ヨルザ「お、盛り上がってきたかな?」
暗奈「『火』だと…あのガキ…。」
奈業「ウザイよ…アイツ。」
ライファ「こっちも忘れんなっ!『剛拳』っ!」
暗奈「仕方ないね……アレやるよ奈業。」
奈業「キャハ、やるんだねネエちゃん。」
ライファ「くらえっ!」
暗奈業「『一文字砲』っ!」
ライファ「な、何だと!放出だと!」
ナリィ「ライファ危ないっ!」
ライファ「くっ!」
ミトス「ライファッ!」
暗奈業「お・わ・り。」
ライファ「や、やべぇ…。」
ヨルザ「貸しにしとくよ、お兄さん。」
ライファ「え?」
暗奈業「!」
ナリィ「大丈夫ライファ!」
ライファ「あ、ああ。」
ミトス「…ありがとうヨルザ。」
ヨルザ「…。」
ナリィ「で、でも何で助けてくれたの?さっきは自分はいるだけだって…。」
ヨルザ「…クク、惜しいからねぇ。」
ライファ「惜しい?」
ヨルザ「君達は、もっとボクを楽しませてくれなくちゃ。あんなアッサリ殺られちゃうのは、もったいないからなぁ。」
ライファ「そんな理由かよ。」
ヨルザ「だが、手を出すのはこれで最後。次は知らないよ。」
ライファ「へ、言われるまでも無えよ。もうあんなヘマはしねえ。」
ヨルザ「そう願いたいよ。ボクをもっと楽しませてくれよな…クク。」
ミトス「ライファ。」
ライファ「ああ…うっ!」
ナリィ「どしたのライファ!」
ライファ「…ちぃ。」
ミトス「足をやられたんだ。」
ヨルザ「あ〜あ、ちゃんと避けなきゃお兄さん。」
ライファ「うるせぇな!」
ナリィ「…かなり深く切れてるみたいだ。」
ライファ「こんぐらいどうってことねえよ。よっと…うっ!」
ミトス「無理しない方がいいよ。今は『勁』を怪我に送り込んで回復した方がいいよ。」
ライファ「…お前一人でやれんのかよ?」
ミトス「…。」
ライファ「まさかお前また封印を解くつもりじゃねえだろうな!お前にかかってんのは『呪術』だ!調子こいてたら、今に痛い目に会うぜ!」
ヨルザの心「『呪術』ねぇ…。」
ミトス「…分かってる。」
ライファ「ハッキリ言ってな、今のお前じゃ暗奈業に勝てる確率なんて…っ!」
ミトス「勝算が無いわけじゃない。」
ライファ「…。」
ナリィ「ミトス…オイラが…。」
ミトス「ううん。ナリィが出るまでも無いよ。」
ナリィ「ホントに大丈夫なの?」
ミトス「大丈夫。奴らの技は見切ったから。」
暗奈「いつまでやってんだい?来ないならこっちから行くよっ!」
暗奈業「『一文字砲』っ!」
ミトス「『赤丸』っ!」
暗奈「ち…。」
ミトス「刃状に変化した『勁』を放出。……お前達はそれぞれが違う『勁質』を持ってるみたいだね。」
暗奈業「…。」
ミトス「『一文字刈り』…刃を作る時、微かに右側の筋肉が弛緩する。つまり、右側のお前が刃に変化させた『化勁使い』だ。」
奈業「う…。」
ミトス「そして、『一文字砲』。あの技を使う時、左側のお前の『勁量』が増大した。よって左側は『発勁使い』だ。」
暗奈「…何だこのガキ…。」
ヨルザ「クク…。」
暗奈「…んふ…だがそれが分かったとして何だい?状況は何も変わらないさ!」
ミトス「まだ分かってないんだね、お前達の弱点。」
暗奈「あ?」
奈業「キャハ、ボクらにそんなもんあるか!」
ミトス「だったら教えてあげるよ。」
暗奈業「!」
ナリィ「ミトス…本気だ…。」
ライファ「何するつもりなんだ、ミトスの奴…。」
ミトス「『輪術』の本当の『力』を見せてあげるよ。」
暗奈「な、何だい…寒気がする…。」
奈業「ネエちゃん、どうしたの?ハヤくグチャグチャにしようよ。」
暗奈「…。」
奈業「ネエちゃん?」
ミトス「はあっ!」
ライファ「な、何だありゃっ!」
ナリィ「あれは!」
ミトス「『輪術闘衣』!」
ライファ「ミトスの『腕輪』が…首…手…足に分散して覆ってるぞ!ありゃ何だよナリィ!」
ナリィ「あれがミトスが編み出した『奥義・輪術闘衣』だよ!」
ライファ「何だそれ?」
ナリィ「簡単に言うと、『肉体大活性』だよ。」
ライファ「『鍛勁』みたいなもんか?」
ミトス「それだけじゃないよ!あの状態で『輪術』も強化して使えるんだ!」
ライファ「…あの馬鹿、こんな技を編み出してやがったのかよ!」
ヨルザ「クク……ゾクゾクするよ全く…クク。」
ミトス「行くぞ!暗奈業!」
暗奈「や、やばいっ!」
奈業「うごきがハヤくてみえないよ!」
ミトス「お前達の弱点は、二人で一人ということ!つまり、攻撃の要の奴を倒せば、無力化するんだ!」
暗奈「しまった!まさか奈業を!」
奈業「イヤだぁぁぁっ!」
ミトス「たあっ!」
?「!」
ミトス「え?」
ライファ「だ、誰だアイツ!」
ナリィ「あの状態のミトスの攻撃を止めた!」
?「もうよせ。」
暗奈「……『シュア』!」
ヨルザ「ここで出るか…『嘆きのシュア』。」
シュア「これ以上騒ぐのなら、私も黙ってはいられぬぞ。」
次回に続く