第三十四劇『最悪の道化師ヨルザ』
ライファ「ロウがもういねえだと?テメエ…まさか…。」
?「…クク。」
ミトス「お前は…誰だ?」
?「だからロウだよ、今はねぇ。」
ライファ「最初からオレ達を騙してやがったのか。」
?「クク…騙し…騙しねぇ。そう、それがボクの生きがいだからねぇ。」
ナリィ「人を騙すのが生きがいだなんて、おかしいんじゃないのっ!」
?「おかしい?クク…分かってないなぁ。人を騙す…バレるかバレないかのスリル。そして真実を知った時の他者の顔……ゾクゾクするねぇ。」
ナリィ「こ、こいつ!」
フォテ「な…何て人ですか…。」
ミトス「…『カグゼル』も、お前が殺したのか?」
?「…馬鹿は死ななきゃ治らないって知ってる?」
ライファ「…そういやテメエ言ってたな。『カグゼル』は身の程知らずの馬鹿ってな。」
?「そうそう。自分の立場を理解せず、自分が一番だと勘違いし、調子に乗り過ぎた罰だよ。だから……お仕置きしたんだよねぇ…クク。」
ミトス「…色々疑問に思うことはあるけど、先ず一つ確かめたいことがある。」
?「…何かな?」
ミトス「お前は……『ヨルザ』なのか?」
?「クク…ピンポ〜ン…正〜解。ボクは41階『大叫喚』の住人…『ヨルザ』だよ…クク。ま、最も41階にいるのはボク一人だけなんだけどね。他の奴らはやかましいから、消しちゃった。」
ミトス「お前っ!人の命を何だと思ってるんだっ!」
ヨルザ「怒る…そう、怒るよね…ここの住人でない君達なら。」
皆「!」
ライファ「気付いてやがったのか…。」
ヨルザ「ボクは騙しのスペシャリストだよ。そのボクに、嘘や騙しは通じない。…ていうかね、匂いで分かるのさ。ボクら犯罪者は一般人には無い匂いを持ってるんだ。犯罪者独特の香りをね。それは犯罪者のレベルが高まるにつれ、強くなっていく。ま、最もその匂いを嗅ぎとれるのも、ボクみたいな特種な奴だけなんだけどねぇ。クク…君達には犯罪者の匂いはしなかった。」
ミトス「…確かに僕達は犯罪者じゃない。」
ヨルザ「なのに、危険を犯してまでここに来た。どうしてかなぁ?」
ミトス「…君達の中に脱走した人達がいるはずだ。」
ヨルザ「ああ〜いるねぇ。」
ミトス「そして再び捕まった人達がいるはずだ。」
ヨルザ「…なるほどぉ。つまりはそいつらに聞きたいってわけだ……脱走の真実を。」
ライファ「コイツ!」
ミトス「そうだよ。」
ライファ「ミトス!」
ミトス「いいから黙ってて。」
ライファ「…ち。」
ヨルザ「どうしてそんなことを知りたいのかなぁ?」
ミトス「その問いに答えるためには、聞いておかなきゃならないことがあるんだ。」
ヨルザ「…何かな?」
ミトス「首謀者の名前を知ってるかい?」
ヨルザ「……クク。」
ミトス「知ってるんだね。」
ヨルザ「クク……最近は楽しいことがよく起こる。良いねぇ、退屈しないよ。」
ミトス「この中にいる人達に聞く!…『ヘルユノス』という人物を知ってるかい?」
犯罪者達「(ざわざわ)」
ナリィ「知らないのかな?」
ミトス「…。」
ヨルザ「コイツらは知らないよ。」
ミトス「え?」
ライファ「じゃあコイツらは脱走しなかったのか?」
ヨルザ「したさ。」
ライファ「じゃあ…。」
ヨルザ「クク…ただ単に知らないだけさ。脱走した奴ら全てが首謀者を知ってるわけじゃあない。」
ライファ「お前は知ってるのにか?」
ヨルザ「そうだねぇ……ここまで来たご褒美だ。特別に教えてあげよう。今…この『メビウス監獄』で、真実を知ってる者は、ボクを含めて4人。」
ミトス「4人…。」
ヨルザ「もちろん、ボクは君達に教えるつもりは無いねぇ…今のところは。」
ミトス「だったら残りの三人の所へ案内してくれない?」
ライファ「おい、そんな素直に奴が教えてくれるわけが…っ!」
ヨルザ「いいよ。」
ライファ「ほらな、そんな簡単に教えてくれるわけが…って、いいのかよっ!」
ヨルザ「クク…お兄さん面白いねぇ。」
ライファ「な、何考えてやがるっ!何でそんな簡単に教えるんだよっ!」
ヨルザ「理由は簡単。一つは、教えてもボクに実害は無い。二つ目は、教えてもそこには多分行けない。」
ミトス「…。」
ヨルザ「そして三つ目、これが一番の理由…。」
ナリィ「一番の…。」
フォテ「…理由。」
ヨルザ「…楽しそうだしねぇ。」
ナリィ「そんな理由かよっ!」
ヨルザ「そんな理由とはヒドイなぁ。こう見えても結構繊細なんだよ?」
ナリィ「どこがじゃ!」
ヨルザ「ホントだって。何せ……安眠を妨げられただけで……壊したいと思うから…人を。」
フォテ「ひぃっ!」
ナリィ「な、何て危ない奴…。そうか、さっき言ってた、同じ階の奴らがやかましくて殺したっていうのは…。」
ヨルザ「だってさ、安眠妨害されるとイライラしない?ボクは我慢出来ないなぁ……繊細だからねぇ。」
ライファ「てか、それはただの短気だろ?何が繊細だよ。」
ヨルザ「……おお!そうとも言うね。」
ミトス「…。」
ヨルザ「そんな瞳で睨まないでよ、怖いなぁ。」
ミトス「…ヨルザ、さっきお前が言った、二つ目の理由。そこには多分行けないってことは……知ってる人は『等活』よりも…いや、お前がいる41階よりも下なのかい?」
ヨルザ「へぇ、なかなか鋭いお子さんだねぇ。」
ライファ「てことは、知ってる奴ってのは全員こんな危ない奴らなのかよ。」
ヨルザ「クク…。」
ミトス「それに多分行けない……多分ということは、行く方法も無くは無い…でしょ?」
ヨルザ「…。」
ミトス「そしてお前はその方法を使って、各階を行き来している…違う?」
ヨルザ「いやいや、ビックリビックリ!『道化師』をビックリさせるなんて大したもんだねぇ!よく分かったねぇ!」
ミトス「それだけじゃないよ。お前は姿を自由に変えることが出来る。そしてお前が言った、『俺に盗めないものは無い』。」
ヨルザ「…!」
ミトス「お前は他人の姿を盗むことが出来る。盗む相手のあるモノを盗むことで……違うかい?」
ヨルザ「…何者かな…君?」
ミトス「多分、それは相手の生命エネルギー。相手の生命エネルギーを奪い、自分の『勁』と混合させて、自分の周りを覆うことで、自らの体をエネルギーを奪った相手に変化することが出来る、極めてレアな『化勁使い』でしょ?」
ヨルザ「…随分危険なお子さんだねぇ…。」
ライファ「てことは、別に殺さなければ奪えないってわけじゃねえのか?」
ミトス「多分ね。奴にとって本人が死んでる方が都合がいいから…命まで盗むんだよ。」
ヨルザ「ピンポ〜ン!大正解大正解!……オリジナルが死ぬ。そうすればコピーはどうなるかな?」
フォテ「…そ、その人がいなくなれば、同じ人物はいなくなります…。」
ヨルザ「そう、則ちコピーのオリジナル化だよ。ボクはね、一度盗んだ姿は決して失わない。自由に姿を表すことが可能なんだよねぇ。……これがどういうことか分かる?」
ミトス「く…。」
ヨルザ「ボクには山程オリジナルがあるってことさ。何せ…盗んだ奴らは、もうこの世には…いないいないばぁ。」
ミトス「『青丸』っ!」
ヨルザ「!」
ライファ「おいおい…奴に案内させるんじゃなかったのかよ…。」
ヨルザ「あらら、すっかり怒らせちゃったかな?」
ミトス「…もう一度聞く。命を何だと思ってるんだ?」
ヨルザ「…コレクション。」
ミトス「『青丸』っ!」
ヨルザ「おおっと!いやぁ、それにしても変わった術だねぇ。見たことないなぁ。」
ライファ「よそ見してっと痛い目見るぜ?」
ヨルザ「!」
ライファ「『剛拳』っ!」
ヨルザ「…クク。」
ライファ「な、何だ…今変な手応えだったぞ?」
ヨルザ「…やるねぇ、お兄さん。」
皆「!」
ライファ「テ、テメエ!その体は…?」
ヨルザ「クク…今のボクは…。」
フォテ「アレは『ジェリー族』です!」
ライファ「『ジェリー族』?」
ヨルザ「あらら、先に言われちゃったなぁ。そう、今のボクは『ジェリー族』だ。以前盗んだんだよねぇ。」
ライファ「テメエ…。」
ヨルザ「言わなかったかい?ボクは盗んだ姿を自由に表すことが出来るってねぇ。」
フォテ「『ジェリー族』は、体が非常に柔軟で、あらゆる物理的ショックを、その体が吸収してしまうんです!」
ライファ「どおりで、変な手応えだったわけだ。丸でモチを殴ったみたいだったからな。」
ヨルザ「クク…さあ、どうする?」
ライファ「フォテ、何か手は無えのか?」
フォテ「そうですね……『ジェリー族』は…。」
ミトス「『赤丸』っ!」
ヨルザ「!」
フォテ「ミトスさん…。」
ミトス「『火』に弱い…でしょ、フォテ?」
ナリィ「やっりぃっ!」
フォテ「ミトスさん…『火』も出せたんですね…。」
ライファ「これで奴は…。」
ヨルザ「……クク。」
皆「!」
ヨルザ「いやぁ、間一髪ってとこだねぇ。まさか『火』も出せるとは思わなかったよ。」
ライファ「な、何ぃ…。」
フォテ「こ、今度は溶岩地帯に住む『フレイマー』ですか…。」
ライファ「次から次へと…ウゼェな。」
ナリィ「どうすんのミトス?」
ミトス「…だったら。」
ヨルザの心「ん?空気が変わった…?」
ライファ「…フォテ、少し離れてろ。」
フォテ「え…あ、はい!」
ミトス「くらえヨルザ!『赤青丸』っ!」
ヨルザ「これはっ!」
フォテ「『火』と『水』を同時に…。」
ヨルザ「マズイ!このままじゃ殺られるぅっ!」
フォテ「よしっ!命中しましたっ!」
ヨルザ「うわぁぁぁっ!…なぁんちゃって!」
ミトス「!」
ヨルザ「チェ〜ンジ。」
ナリィ「嘘ぉっ!」
フォテ「あ…ああ…。」
ライファ「化け物かアイツ!」
ヨルザ「まさか二つの属性を一緒に使えるとは思わなかったなぁ。だけどね、二つ一緒に使えるのは、君だけじゃない。」
ミトス「そっか…左右の腕にそれぞれの属性に耐久性がある者に変化したのか。」
ヨルザ「そう、右腕は『フレイマー』。左腕は『水』に耐久性のある『水棲族』に変化した。これ以上無い程のナイスな防御方法だろ?」
ミトス「まさか、そんな使い方が出来るとは思わなかったよ。」
ヨルザ「いやいや、君も凄いよ。この『力』を出したのは久しぶりだからねぇ。」
ミトス「でも甘いよ。」
ヨルザ「え?なっ!腕にヒビがっ!」
ミトス「いくら耐久性があっても、その耐久性を上回る『力』で攻撃すれば、その防御すら貫けるんだ。」
ヨルザの心「…ボクが変化したのは、かなりレベルが高い奴らだ。それなのに…。」
ナリィ「馬鹿ミトス…。」
ライファ「おいナリィ、ミトスの奴まさか…。」
ナリィ「うん…ほんの少しだけ封印を解いたんだよ。だって…異属性同時放出なんて…しかもあの威力…とても今のミトスじゃ出せないもん。」
ライファ「あの馬鹿!」
ミトス「まだやる?」
ヨルザ「……クク。合格だよ。」
ライファ「合格だと?」
ヨルザ「そ、合格。」
ライファ「どういう意味だ?」
ヨルザ「教えてあげるよ。ボクが知ってることをね。」
ライファ「…テメエ、また騙すつもりじゃねえだろうな?」
ヨルザ「何?せっかく教えてあげようってんのに…。いいんだよ、ボクは別に教えなくてもさ。君達だけで下に行き、他の奴らに聞けば?」
ミトス「…分かった。じゃあ話して。だけど、少しでも怪しい所があれば容赦はしないよ。」
ヨルザ「…クク。」
ミトス「それじゃ、『ヘルユノス』について教えて。」
ヨルザ「クク……知らない。」
次回に続く