第三十三劇『いざメビウス監獄へ!』
ミトス達は『中央国・スレイアーツ』で、囚人脱走に『ヘルユノス』が関わっていることに確信を持ち、もっと詳しい内容を聞く為に、脱走した囚人達に会いに『メビウス監獄』に乗り込むことを決心した。そして、『四色獣』のヒュードの案内で、『メビウス監獄』の裏口に到着したミトス達。一行はヒュードと別れ、犯罪者の巣窟『メビウス監獄』へと進んでいくのだった。
ミトス「中はあまり広くないね。」
ライファ「暗ぇし、狭ぇし、ウゼェな。」
ナリィ「あ、久々に聞いたよ。ウゼェ、ライファの口癖。」
ライファ「あ?まあ、最近はウゼェ奴がいねえしな。」
ナリィ「それってファムのことでしょ?」
ライファ「さあな。」
フォテ「ひぃ…うわ…ひやぁ…。」
ライファ「うるせえな、男なら覚悟決めやがれ!いつまで腰落としながら歩いてやがんだ!」
フォテ「で、ですが…も…もし急に何かが出てきたら…。」
ライファ「何も出てきやしねえよ。第一、ここには犯罪者しかいねえんだろ?犯罪者がこの裏口を知ってるとは思えねえし、それにたとえ出て来ようが、オレ達がいるんだ。ひーこら言ってんじゃねえ。」
ミトス「……あ。」
ナリィ「どうしたのミトス?」
ミトス「行き止まりだ。」
ナリィ「え…行き止まりって……どうすんの?」
ミトス「多分スイッチか何かがあると思うんだけど………あ、あったあった。」
(スイッチを押すと、壁がゆっくり回転する)
ミトス「この幅じゃ、一人ずつしか無理だね。先ずは僕から行くよ。」
ナリィ「……よし、次はオイラっと。」
フォテ「……ぼ、僕はここで皆さんの帰りを…。」
ライファ「いいからさっさと行けっ!」
フォテ「うわぁっ!」
ライファ「……よし。」
フォテ「痛たた…酷いですよぉライファさん。」
ライファ「それくらいで何言ってやがる。」
フォテ「はぁ。」
ミトス「ここは……牢屋の中…みたいだね。」
ライファ「へぇ。」
フォテ「ああっ!」
ライファ「何だ?一体どうした?」
フォテ「…い…入口がなくなっちゃいました…。」
ライファ「あ?」
ミトス「成程。一方通行だったんだね。」
ライファ「てことは、こっちから壁を動かすことは出来ないってことか。」
フォテ「ど、どうするんですか!帰りは一体どうするんですか!」
ライファ「…ミトス。」
ミトス「何とかなるよ!」
ライファ「だってよ。」
フォテ「……そんな馬鹿な。」
ミトス「行くよ。」
ライファ「……行くぞフォテ。それとも、一人で牢の中にいるか?」
フォテ「ひぃっ!そ、それだけは嫌ですぅ!」
ミトス「……ん?何か壁に書いてある。……『等活』。」
ナリィ「…そう言えばさ、ヒュードが言ってたよね。『等活』を仕切ってる『カグゼル』には気を付けろってさ。」
?「何だお前ら?」
皆「!」
?「見ねえ顔だなぁ。新入りか?」
ミトス「新入りって言えば新入りだね。…君は?」
?「俺か?俺は…『ロウ』だ。こう見えても結構ベテランなんだなぁ。」
ミトス「ベテランてことは、もう何年もここにいるの?」
ロウ「まあな、盗みをしてな。」
ナリィ「盗みって…そんなに罪重いの?そんな何年もいるなんてさ。」
ロウ「まあ、俺の場合はただの盗みじゃないからな。こう見えても、俺に盗めなかったモノは無いんだよなぁ。」
ミトス「……ところでロウ、ここは何処なの?」
ロウ「何だ?お前ら何も聞かされて無いのか?」
ミトス「えっと…。」
ライファ「オレ達はただの食い逃げだからな。すぐ出してもらえるから、あんま詳しく教えてもらわなかったんだよ。」
ロウ「ふぅん…。」
ミトス「ちょっとライファ、何なの食い逃げって!(ボソ)」
ライファ「そうでも言わなきゃ、ここじゃやってけねえだろ?それとも何か?オレ達は犯罪者じゃなく、ただの一般人で裏口から来たって言うのか?」
ミトス「…でも食い逃げは…。」
ライファ「いいからお前は黙ってろ。ここじゃ、お前の性格は邪魔になる。」
ミトス「……分かった。」
ロウ「どうした?」
ライファ「い、いや、ところでよ、良かったらこの『メビウス監獄』のことを教えてくれねえか?」
ロウ「…いいぜ。ここはな、『メビウス監獄』の『等活』地域なんだなぁ。」
ライファ「『等活』地域って一体何だ?」
ロウ「いわゆる犯罪者のレベルで区切られてる階の総称だ。『等活』ってのは、地下1〜10階までの『犯罪者レベルD』を取り締まってる所だ。」
ライファ「てことは、ここは…。」
ロウ「ああ、地下1階の極めて罪の軽い奴らがいる『等活』地域なんだなぁ。」
ライファ「お前も地下1階の住人なのか?」
ロウ「いいや、こう見えても地下1階よりは、下の住人だ。」
ナリィ「ていうか、そんな奴が、地下1階に来ていいの?」
ロウ「ああ、全然行き来出来るぜ。完全に階ずつ区切られてんのは、地下41階からだしな。つっても、『等活』より下の奴がここに来ることは出来ないけどな。頑丈な壁で区切られてるし。行き来出来んのは、同じ地域の中同士だ。」
ライファ「てことは、下の連中が、上に来ることは出来ないってことか。」
ロウ「…普通はな。」
ミトス「…。」
ナリィ「ねえねえ、『等活』より下はどうなってんの?」
ロウ「う〜ん、俺も長年ここにいるが、下がどうなってんのかは知らねえなぁ。」
ナリィ「そっか…。」
ロウ「ただ、名前とかだったら知ってるぜ。聞きたいか?」
ナリィ「うん!」
ロウ「先ずは『等活』。これはさっき言った通り、地下1〜10階までの『犯罪者レベルD』のこと。そして、地下11〜20階までの『犯罪者レベルC』を『黒縄』、地下21〜30階の『犯罪者レベルB』を『衆合』、地下31〜40階の『犯罪者レベルA』を『叫喚』。そしてこれより下の階…41、42、43、44階は……特別なんだなぁ。」
フォテ「ひぃ…。」
ナリィ「特別って?」
ロウ「全員がかなりの『勁使い』で、しかも『負』として『勁』を使ってるってことさ。」
ライファ「殺し…か?」
ロウ「ああ、しかも何十人も何百人もだ。」
ミトス「!」
ライファ「…残りの奴らの『犯罪者レベル』は?当然『A』より上なんだろ?」
ロウ「ああ、そいつらは『犯罪者レベルS』に認定されてる奴らだ。危なすぎて、あの『四色獣』ですら、簡単には近づけないって言うぜ?」
ナリィ「じゃあ、どうやって捕まえたんだろ?そんな危険な奴らを…。」
ロウ「一人一人を、王国の隊士を総動員して捕まえたって言うぜ。もちろん『四色獣』も全員集まってな。」
ナリィ「41階以降の奴らって…そんなに強いんだぁ…。」
フォテ「か…帰りたい…。」
ロウ「ま、そんな奴らが下にいるんだ。上の奴らも結構ビビってんだよなぁ。あ、そういやこの『等活』にも危ない奴が一人いたなぁ。」
ナリィ「誰?」
ロウ「『カグゼル』って奴だ。」
ナリィ「あ、確かヒュードが言ってた!」
ロウ「ん?ヒュード?ヒュードって、あの『青銃』のか?」
ナリィ「え…あ…。」
ライファ「そ、そうだ!何せオレ達は、そのヒュードに捕まったからな。ここに来る時に『カグゼル』は危険だって言ってたような…。」
ナリィ「ごめんライファ…。(ボソ)」
ロウ「……ふぅん。ま、聞いてるなら話は早いな。その『カグゼル』はさ、『等活』の中に二人しかいない『勁使い』の中の一人なんだなぁ。」
ライファ「もう一人はグレイトだな。」
ロウ「へぇ、グレイトのことも聞いたんだ。」
ナリィ「…ああ!グレイトってライファと戦っ…っ!」
ライファ「ごらぁっ!」
ナリィ「痛っ…!」
ロウ「何だ?」
ライファ「いやいや、何でもねえよ!話を続けてくれ。……お前はもう喋んな。(ボソ)」
ナリィ「…ちぇ。」
ロウ「結構乱暴な奴でさ、その上強いから誰も『カグゼル』には逆らえねえんだなぁ。」
ミトス「だったら警備している人に話して、『カグゼル』を下の階に送ってもらったら?そんなに危険な奴なら、意見を取り次いでくれるでしょ?」
ロウ「…ふぅ。それがなぁ、奴は監視員の前だと模範生なんだなぁ。」
ライファ「模範生?」
ロウ「つまりは、優等生ってことだ。ま、監視員は奴の裏の顔知らねえからな。…奴が何故ここにいるか知ってるか?」
ライファ「何でだ?」
ロウ「恐喝一回しただけだ。」
ミトス「それで何で何年もいるの?」
ロウ「簡単さ。奴自身がここにいることを望んでやがんだよ。」
ミトス「…。」
ライファ「そりゃまたおかしな話だな。こんなところに、何で何年も好き好んでいやがるんだ?」
ロウ「…支配出来るからさ。」
ライファ「支配?」
ロウ「犯罪者どもを取り締まるリーダー役を自ら進んで監視員に申請したらしいぜ。治安維持の為だとか何とか言ってな。」
ライファ「…成程な。この中で奴は王様気分を味わってるってことか。」
ロウ「まあ、シャバに出たところで、奴みたいな馬鹿はすぐ落ちぶれるに決まってるからなぁ。」
フォテ「ロ…ロウさんも、『カグゼル』って方のことを嫌いなんですか?」
ロウ「好きな奴はいねえよ。好き勝手しやがって…身の程を知らない馬鹿が…。」
ミトス「…。」
(地下から騒ぎ声が聞こえる)
ライファ「騒がしいな。」
ロウ「行ってみるか?」
ミトス「行こう!」
(地下10階に行く)
ロウ「…どうやら地下10階で何か起きたみたいだなぁ。」
ミトス「……ん?」
ライファ「おい、何かあったのか?」
犯罪者1「し、死んでんだよ!」
ライファ「死んでる?」
ミトス「誰が?」
犯罪者1「『カグゼル』がだよっ!」
皆「!」
ミトス「『カグゼル』が?」
ライファ「ちょっと通してくれ。………コイツが『カグゼル』か。」
ロウ「間違い無いねぇ。…ホントに死んでやがる。」
ミトス「…。」
ライファ「おい、一体何があったんだ?」
犯罪者1「わ、分からねえ…。」
犯罪者2「奴だ!奴の仕業だ!」
ライファ「奴?…奴って?」
犯罪者2「だが奴は、地下41階の『大叫喚』に閉じ込められているはずだ!」
ライファ「だから誰なんだよっ!」
犯罪者2「…ど…『道化師』……『ヨルザ』。」
ライファ「『ヨルザ』?」
犯罪者2「見ろ!『カグゼル』の側に血文字で『楽』って書いてあるだろ?あれは『ヨルザ』が書いたんだよ!」
ライファ「何でそいつが書いたって分かるんだ?」
犯罪者2「『ヨルザ』は殺した奴の側に必ず書くんだよ…『楽』の文字をな…。」
ライファ「ふぅん。」
犯罪者2「つ、次は誰がターゲットになるんだ…。」
犯罪者1「ちょっと待てよっ!『ヨルザ』ってのは自由に姿を変えられるって言うじゃないかっ!もしかしたらここに!」
ミトス「姿を変える…。」
ライファ「へぇ…。」
ロウ「…。」
犯罪者1「早く自分の牢に戻っ……あれ?……ロウ?」
ロウ「…ん?」
犯罪者1「お前……昨日釈放されたよな?何でここにいるんだ?」
皆「!」
ロウ「…ち。」
ミトス「…ロウ。」
犯罪者1「どうしたんだよロウ。何で…がっ!」
皆「!」
犯罪者1「…な……ロ…ウ…。」
ライファ「テメエ!ロウって奴じゃねえなっ!」
?「…やれやれ、もう少し茶番を楽しみたかったなぁ…クク。」
ナリィ「え?どゆこと?」
フォテ「ま、ままままさかぁっ!」
ミトス「お前は…。」
?「……ロウだよ。今はね…何せ……本当のロウは、もうこの世には、いないいないばぁ…クク…。」
次回に続く