第三十劇『メビウス監獄の囚人』
ミトス「今時追いはぎなんて流行らないよ。」
男「ああっ?うるせぇよガキが!いいからさっさとそいつを寄こせや!」
ミトス「これはその子のでしょ?」
男「今は俺んだよ!」
フォテ「あの…止めておいた方がいいですよ?諦めた方が…。」
男「うっせえんだよっ!」
フォテ「ひぃっ!」
男「おら、さっさと返しやがれ!さもないと…。」
ミトス「どうなるの?」
男「こうなんだよっ!おらぁっ!うらぁっ!てらぁっ!」
?「も、もう止めて下さいっ!それは……それは貴方に差し上げますから、その方を許してあげて下さいっ!」
男「へ、最初からそう言やいいんだよ。」
ミトス「…。」
男「俺にケンカを売ったのが間違いだったな!こう見えても俺は『コロッセオ』で三回戦まで行ったんだぜ?はは!」
ミトス「…だったら相手が凄く弱かったんだね。こりゃライファは簡単に優勝だね。」
男「なっ!このガキ…何で立てる!」
?「…。」
ミトス「…ねえ君。」
?「え…。」
ミトス「あの『ペンダント』、凄く大切なものなんでしょ?」
?「…は…はい。」
ミトス「それなのに諦めるの?あんな奴の手に渡っていいの?」
男「あ、あんな奴だとぉっ!」
ミトス「どうなの?」
?「……です。」
ミトス「ん?」
?「返して欲しいですっ!」
ミトス「よっしゃ。ならすぐ取り返してあげるよ。」
男「生意気だぜガキがっ!うらぁっ!」
ミトス「…。」
男「か、片手で止めやがった!…ウ…ウソん…。」
ミトス「お前みたいな奴に『輪術』は必要無いね。」
男「え?わじゅ…?」
ミトス「はあっ!」
男「げぼはぁっ!」
ミトス「これは返してもらうね。そこでしばらく反省するんだね。」
フォテ「ですから止めておいた方がいいって言ったんですけどね…。」
ミトス「はい。」
?「あ、ありがとうございました。」
フォテの心「見たところ14、5歳…かな?」
?「良かったぁ…。」
フォテの心「でも凄く綺麗な女の子だなぁ…。服も高価な物だし、貴族なのかな?」
ミトス「よっぽど大切なものなんだねそれ?」
?「あ、はい…。これは母の形見なんです。」
ミトス「そっか…良かったね。取り戻せて。」
?「はい…あ!本当にありがとうございました!何てお礼を申し上げたらいいか…。」
ミトス「いいよ礼なんて。当たり前のことをしただけだしね。」
?「あの…お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
ミトス「僕はミトス。こっちはフォテだよ。」
?「…ミトス様…。」
フォテ「ん?あっ!ミトスさん、ライファさん達がいましたよ!」
ミトス「え?そう!じゃ行こっか!」
フォテ「はい。」
ミトス「それじゃ気を付けてね。出来れば人通りのいいとこを歩いた方がいいよ。君みたいな可愛い子が一人で歩いてたら危ないからね。」
?「(照れる)」
ミトス「それじゃあね。」
?「あ……ミトス様…。」
(ライファ達の所へ)
ライファ「おうお前ら!こんなとこで何してんだ?」
ミトス「ライファ達こそ、闘技場に行ってたんじゃないの?」
ライファ「ん?ああ…って、何で知ってんだ?」
ミトス「やっぱり行ってたんだね。」
フォテ「勘だそうですよ。」
ライファ「…勘かよ。」
ナリィ「ライファってば、優勝したんだよ!」
フォテ「ホントですか!」
ミトス「どうだった?」
ライファ「ああ、結構楽しかったぜ。」
ミトス「相手、結構強かったんだね。」
ライファ「まあな。」
ヒュード「なかなか面白い試合だったねぇ。」
ミトス「ヒュードは出場しなかったの?」
ヒュード「オレっちは弱いからねぇ。一回戦もしんどいしんどい。」
ミトス「ふぅん。」
ライファ「んで、お前らは何でここにいんだよ?図書館はどうした?」
ミトス「ちょっと頼み事をしにね。」
ライファ「頼み事?誰にだよ。」
ミトス「ん?国王に。」
フォテ「はぁ…。」
皆「…はあっ?」
ヒュード「こ、国王って……ここの?」
ミトス「うん。」
ナリィ「馬鹿ミトス…。」
ライファ「お前本気で言ってんのか?」
ミトス「もちろんだよ。」
ライファ「お前なぁ、オレらの国と、この国は違うんだぜ?国王に簡単に会えると思ってんのか?」
フォテ「そうですよ!しかも囚人脱走があって、警戒体制が敷かれている宮殿に入るにも難しいというのに、その上国王様に直接会って許可をとるなんて無理ですよ!」
ヒュード「…。」
ライファ「許可?何の許可だよ?」
ミトス「囚人に面会する許可だよ。」
ヒュード「囚人に会って何を聞くんだい?」
ミトス「…囚人脱走の真実。」
ヒュード「…。」
ナリィ「んなことさ、ヒュードが知ってんじゃないの?」
ヒュード「悪いけど、オレっちは囚人脱走については何も知らないぜ。」
ナリィ「え?そうなの?」
ヒュード「囚人脱走した日はたまたま出かけてたからなぁ。」
ミトス「…。」
ヒュード「…あ、そういやアイツなら知ってるかも。」
ナリィ「アイツって?」
ヒュード「あんま頼むの嫌なんだけどなぁ。」
ミトス「一体誰なの?」
ヒュード「まあついてきなよ。案内してやるからさ。」
ミトス「分かった。」
(ヒュードについていく)
ナリィ「…ここは?」
ヒュード「隊士達の修練所。ここで皆体を鍛えたり技を磨いたりしてるんだよね。」
隊士「あ、ヒュード隊長!おはようございます!」
ヒュード「あいよ。」
隊士「お疲れ様です!」
ヒュード「お疲れ〜。」
ナリィ「へぇ、ヒュードってば、ホントに隊長だったんだ。」
ヒュード「信じてなかったっての?」
ナリィ「だってさぁ、あんなに弱いんだもん。」
ヒュード「ま、オレっちは人柄で選ばれたからねぇ。誰からも好かれるナイスガイなのさ!ふふ〜ん!」
?「少なくとも、俺は好きでは無いがな。」
ヒュード「え?あ、『ゼツ』。」
ゼツ「何だ、コイツらは?」
ヒュード「観光客だよ。」
ゼツ「馬鹿を言うな。ただの観光客をお前が連れて来るわけはないだろうが。」
ヒュード「ありゃりゃ、やっぱそう思う!」
ゼツ「そんなことよりヒュード、お前が逃したカリザは俺が始末したからな。」
ミトス「始末…。」
ゼツ「全く…アレはお前の担当だろうが。あまり俺の手を患わせるな。」
ヒュード「いいじゃんいいじゃん!悪を討てたんだからさ!」
ゼツ「はぁ…ところでこんなところに何用だ?」
ヒュード「実はさ、『あの日』のことを知りたがっててね。」
ゼツ「…そいつらがか?」
ヒュード「まあね。教えてあげてくれよ?」
ゼツ「…断る。」
ヒュード「…何でだい?」
ゼツ「教える義務も無いし、何よりそいつらのことを俺は何も知らん。ただでさえあんなことが起き、今国が荒れているというのに、どこの馬の骨とも分からぬ輩に、貴重な情報を与えるわけにはいかん。」
ライファ「ムカつくなコイツ…。」
ナリィ「何なんだよコイツ!」
ゼツ「猫が話すとは、ますます怪しいな。」
ナリィ「猫って言うなっ!もう!誰だよコイツってばヒュード!」
ヒュード「オレっちと同じ『四色獣』だよ。」
ナリィ「えっ!…コイツが?」
ヒュード「『黒刀』のゼツってんだよ。」
フォテ「この方が…。」
ヒュード「ところでさ、国が荒れてるって言うけどさ、そんなにヤバイの?」
ゼツ「はぁ…お前もいい加減、会議に出席するんだな。」
ヒュード「いやぁ。」
ゼツ「確かに外見的には、国は普段とさほど変わらん。しかし、囚人どもが脱走し、各大陸に散らばり、悪を行っているんだ。」
ミトス「…。」
ゼツ「『メビウス監獄』は『スレイアーツ』の誇る悪を抑制し裁く不落場だったはずだ。それが破られたんだぞ?」
ヒュード「まあ…そうだねぇ。」
ゼツ「そのせいで、『スレイアーツ』の信頼は揺らぐことになったんだ。今内政は厳しい状態なんだ。」
ヒュード「だけどよ、もうほとんどの犯罪者は捕まえたんだろ?」
ゼツ「…小物はな。」
ヒュード「まだヤツらは捕まってないのかい?」
ゼツ「ああ、それが問題なんだ。」
ナリィ「なあヒュード、奴らって?」
ヒュード「ん?ああ、奴らってのは、『メビウス監獄』の最下層…『無間』に閉じ込めていたヤツらだよ。」
ナリィ「『無間』?何それ?」
ヒュード「『メビウス監獄』は、地下44階まであって、凶悪な犯罪者程、下の階に収容されるんだよ。『無間』ってのは、最下層の名前。つまり…最凶最悪の犯罪者が収容されてるんだよ。」
ナリィ「へぇ…何か凄いね…。」
ヒュード「そこには三人の犯罪者がいた。」
ライファ「どんな奴なんだ?」
ヒュード「オレっちも見たことは無いんだよね。」
ライファ「そうなのか?」
ヒュード「あまり詳しくは知らないけど、三人とも『勁使い』だということだね。」
ライファ「へぇ、強ぇのか?」
ヒュード「強いなんてもんじゃないな。なんたってさ、君が闘ったグレイトでさえ、地下10階の犯罪者なんだよ。」
ライファ「!」
ナリィ「ライファを苦しめたグレイトが…地下10階…。」
ヒュード「とは言っても、闘技場に出せる犯罪者では最高なんだけどな。」
ナリィ「ん?どゆこと?」
ゼツ「地下10階以降の犯罪者は、世に出すだけで、世界に影響を与える程の犯罪者どもだからな。おいそれと闘技場には出せん。しかし、グレイトに勝ったとは…なかなかやるな。」
ライファ「……その最下層の奴らの名前は何てんだ?」
ヒュード「一人はガタイが良いヤツで、名前は『ヲーム』。そして、もう一人は『リンガ族』の『ヌエ』。最後の一人…コイツが最もヤバイらしい。」
フォテ「ひやぁ…。」
ヒュード「人を殺すためだけに生きてきたといわれている……『歩群』。」
ナリィ「ほむら?」
ヒュード「確かそんな名前だったよなゼツ?」
ゼツ「さあな。」
ヒュード「何だよそれ…。」
ゼツ「というより、いつまでここにいる気だ?邪魔だからさっさと散ってくれるか?」
ナリィ「オイラ達は虫かい!」
ヒュード「ま、教えてくれないとは思ったけどなぁ。」
ゼツ「ならさっさと散れ。」
ミトス「あのさ?」
ゼツ「ん?」
ミトス「さっき、カリザを始末したって言ったよね?」
ゼツ「それがどうした?」
ミトス「それは…殺したってこと?」
ゼツ「……だとしたら何だ?」
ミトス「命まで奪う必要あったの?」
ゼツ「ガキには関係無いことだ。」
ミトス「…。」
フォテ「…行きましょうミトスさん…。」
ゼツ「………おいガキ。」
ミトス「…。」
ゼツ「悪はな、何をしようが悪なんだ。生まれついての悪は、世界に必要無い。」
ミトス「…この世に生まれついての悪なんていないよ。」
ゼツ「甘いな。そんな考えだと、早死にするぞ?」
ミトス「…。」
ヒュード「嫌なムードだなもう…だから頼むの嫌だったんだよなぁ。」
ゼツ「悪は変わらない。お前がお前であるようにな。悪は…悪だ。」
ミトス「…行くよ。」
ナリィ「あ、待ってよミトス!」
ゼツ「…ふん。」
(修練所から出る)
ミトス「…。」
ライファ「…こりゃ機嫌悪ぃな。」
ナリィ「まあ、ミトスの気持ちも分かるけどね。」
ヒュード「んで?どうすんの?」
ライファ「そうだなぁ…。」
皆「…。」
ミトス「…決めた!」
ナリィ「ミトス?ど、どうしたっての?」
ミトス「『メビウス監獄』に乗り込む!」
皆「えぇぇぇーーーーーーっ!」
次回に続く