第三劇『ケウェルテスの森』
命の恩人であるシアと別れ、旅を続けているミトスとナリィ。二人は目的地である『ソーラレイ遺跡』を目指して、ある森を抜けようとしているところである。
ミトス「いやいや、あはは!まいったまいった!」
ナリィ「…。」
ミトス「全くもってまいったまいった!あはは!」
ナリィ「笑ってる場合じゃないだろ!何でミトスはいつも行き当たりばったりなのさっ!」
ミトス「う…ごめん。」
ナリィ「はぁ…もう三日だよ三日…。だから言ったじゃないかぁ。この森は避けて、『スフェル運河』を越えて行こうって!」
ミトス「いや…でも遠回りになるしさ……それに船賃も無いしさ…。」
ナリィ「ほほう…お金が無い…ねぇ。それは一体誰のせいでございましょうかね?」
ミトス「うう…だ…だってさ…困ってたからさ…。」
ナリィ「だからって有り金全部渡さなくってもいいだろっ!」
ミトス「あはは…。」
ナリィ「あははじゃないよ全く!いくら薬が買えなくて困ってたからって、何で全部を……ああもう!」
ミトス「そんなに怒るなよ…ね?水に流そうよナリィ!」
ナリィ「はぁ…全く!」
ミトス「あはは…と、とにかく、この森を抜けようよ!何とかなるから大丈夫だよ!」
ナリィ「そんなこと言っても、もう三日もこうしてんだよ?」
ミトス「う、うん。噂以上だったよね…『ケウェルテスの森』。」
ナリィ「だからオイラは避けようって言ったんだけどね…。」
ミトス「それはもう言うなよぉ〜。」
ナリィ「でもホントにシャレになんないよ。このままじゃ、噂みたいにオイラ達も…。」
ミトス「『姿を変える森』…『ケウェルテスの森』…。草木も、道も常に変わり続けている森。歩いて来た道を振り返ってみると…そこにはもう歩いて来た道なんて無いんだよね。」
ナリィ「何か強い『力』も感じるし……侵入する人を閉じ込めようとしているのかな?」
ミトス「…分からない。動物達に聞こうにも全然見当たらないし、このままじゃ、僕らも本当に森の餌食になっちゃう。」
ナリィ「想像するとゾッとするよ…。こんなところで骸骨になんてなってたまるもんか!オイラは死ぬ時は、畳の上でと決めてんだからね!」
ミトス「出た、古風ポリシー!」
ナリィ「ほっといてよ!」
ミトス「とにかく、早く出口を探そう!」
ナリィ「うん!」
(その頃、『砂十字』は)
バグダ「マジであの銀髪のガキ、この森に入ってったのか?」
ローユア「お馬鹿さんねぇ。この森の恐ろしさを知らないのかしら?入ったが最後、待つのは死よ。」
バグダ「ちっ、どうせなら俺がこの手で、あの世に送ってやりたかったぜ!」
ローユア「諦めるのね。それとも、入ってあの子供を追う?」
バグダ「へっ、そんなに馬鹿じゃねぇや!こんな森で死ぬなんてまっぴらだぜ!」
ローユア「あら?以外とまともな考えを出す頭があったのねぇ。」
バグダ「黙れオカマ野郎が!」
ローユア「ふん、アンタにアタシの良さなんて分からないわよ!ね、ボス?」
アクス「…。」
ローユア「ボス?どうしたの?」
アクス「…行くぞ。」
ローユア「ん?何処へ?」
アクス「『スフェル運河』だ。」
二人「えっ!」
ローユア「ど、どうして?」
アクス「先回りして、ヤツを待つ。」
バグダ「ま、まさか…ガキを待つんですかい?」
アクス「そうだ。」
ローユア「ちょっと本気ぃ〜!待つだけ無駄だわよ!」
バグダ「そうですぜボス!そんなことより、近くの町から酒でも。」
アクス「また襲ってか?」
バグダ「う…。」
アクス「言ったはずだ。むやみやたらに襲うなと。オレ達はただの盗賊じゃない、『砂十字』なんだ。誇りを持て。分かったな?」
バグダ「へ、へぇ…。」
ローユア「怒られてや〜んの。」
アクス「お前もだローユア。」
ローユア「え!」
アクス「分かったな?」
ローユア「わ、分かったわよぉ〜。」
アクス「よし、行くぞ。」
ローユア「本気なのね…。」
アクス「ヤツは必ず来る。」
バグダ「何故分かるんです?」
アクス「銀髪が、あの銀髪なら、この程度の森でくたばらない。」
バグダ「あの銀髪?」
アクス「まあ、くたばった時は、オレの見る目が無かったということだけだ。」
ローユア「まあ、伝説の『竜』もいるみたいだしね。」
アクス「そういうことだ、行くぞ。」
二人「了解!」
(ミトスは)
ミトス「……ねぇ。」
ナリィ「ん?」
ミトス「さっき言ってたよね…。この森が侵入する人を閉じ込めようとしてるって。」
ナリィ「…うん、言ったけど?」
ミトス「もしそうだとしたらさ、必ず意味があると思うんだ。侵入する人を閉じ込める理由がさ。」
ナリィ「…まあね。」
ミトス「もしさ、この森に何か重要なモノが隠されているなら、閉じ込めるより追い出した方が……。」
ナリィ「…ミトス?」
ミトス「…そうか…そうだったんだ!」
ナリィ「どうしたのさ!」
ミトス「やっぱり閉じ込めることには意味があったんだよ!」
ナリィ「え?何が?」
ミトス「考えてみなよ!この森に入った者は出られないっていう噂が流れたら、世間はどう思う?」
ナリィ「…危ないから近付かないんじゃないの?」
ミトス「それでも、『学者』や『ハンター』達は調べようとしないかい?」
ナリィ「あっ!」
ミトス「そんな噂が流れ、しかも実際に人が遭難し、出てこなかったら?」
ナリィ「……もう…誰も『ケウェルテスの森』に入らなくなる。」
ミトス「それが狙い、完全な防護方法だよ。だけどね、このことで一つ、真実が出てくるんだ。」
ナリィ「?」
ミトス「…実際にそれを行っている何者かがいる。今も僕らを支配している誰かが。」
?「凄いなお前。」
ミトス「!」
ナリィ「誰っ!」
?「誰ってことは無いだろ?今お前達が言ってた誰かなんだから。」
ミトスの心「…女の子?」
ナリィ「じ、じゃあお前がオイラ達を!」
?「だからそうだって言ってんだろ。」
ナリィ「何でオイラ達を閉じ込めるのさ!」
?「それは…。」
ミトス「この『ケウェルテスの森』には、知られたくない何かがあるからか、それとも、何かを守るためか……違うかい?」
?「……やっぱり凄いなお前。」
ミトス「そして、僕らの目の前に現れ、すんなり真実を教えたということは…。」
?「…。」
ミトス「…覚悟してもらうってこと?」
ナリィ「なっ!」
?「子供なのにホントに凄いな。」
ミトス「君も子供でしょ。それにそれだけじゃないよ。もう一つ…君は一人じゃないよね?」
?「…何言ってんだ?アタシは一人だ。」
ミトス「それならどうしてここにいるの?」
?「え?」
ミトス「この『ケウェルテスの森』には、所々に『力』を感じる。それもかなり強力な。これほどの『力』、よほどの集中力がいるはずだよ。なのに君は、こうやって僕らの目の前で普通に接している。つまり、『力』をかけているのは君じゃなくって他にいる。」
?「!」
ナリィ「ホントなのミトス!」
ミトス「うん。もしかして君は……?」
?「ホントに危険だなお前!」
ミトス「速いっ!」
ナリィ「ミトスッ!」
?「ここじゃ、それが命取りになるんだ!」
ミトス「!」
?「止めなさい!」
?「なっ!」
ミトス「ん?」
?「どうして止めるんだ!」
ミトス「…。」
ナリィ「アイツ…何ブツブツ言ってんだろ?」
ミトス「……この感じ…やっぱりそうか…。」
?「…分かったよ!……はぁ。」
ミトス「やっぱり君一人じゃなかったんだね。」
?「……ついてこい。」
ナリィ「え?」
?「いいからついてこい!」
ナリィ「ミトス…。」
ミトス「行ってみようよ。わざわざご招待してくれるみたいだからさ。」
ナリィ「はぁ…ホントに危機感ゼロなんだから…。」
(ミトス達は女の子の後を追う)
?の心「アイツ…速い!結構とばしてるのに、軽々とついてくる!」
ミトスの心「あの動き…やっぱり…。」
ナリィ「あっ!」
ミトス「これって!」
ナリィ「湖っ!」
?「…こっちだ。」
ミトス「………洞窟?」
?「連れて来たぞ、『ミュビリム』。」
ナリィ「『ミュビリム』ッ!」
ミュビリム「…初めまして。」
ミトス「『精霊ミュビリム』…やっぱり感じたのは『精霊の力』だったんだね。」
ナリィ「まさかホントにあの『森の精霊ミュビリム』なの?」
ミュビリム「そのとおりです。」
ナリィ「…。」
?「ミュビリム、どうしてコイツらをココに!」
ミュビリム「この方達に頼み事があるからです。」
?「頼み事?」
ミュビリム「はい。」
?「まさかミュビリム!こんな奴らに頼むのか?」
ナリィ「こんな奴らで悪かったなぁ。」
ミトス「…もし僕らがその頼み事を断ったら?」
ミュビリム「特に何もしません。ココからお帰り頂くだけです。とは言っても、この森からは出られませんが。」
ミトス「……頼み事って何?」
ミュビリム「実はこの森には要所に『力』をかけております。」
ミトス「知ってるよ。」
ミュビリム「何故だか分かりますか?」
ミトス「何かを守ってるんでしょ?」
ミュビリム「…湖は御覧になりましたか?」
ミトス「うん、驚いたよ。」
ミュビリム「あの湖のそこには遺跡があるのです。」
ミトス「遺跡?」
ミュビリム「はい。」
ミトス「その遺跡を守ってるの?」
ミュビリム「いいえ、私が『力』を使用しているのは、『ある者』を目覚めさせないためなのです。」
ミトス「『ある者』?」
ミュビリム「はい。私の『力』で、その遺跡に眠らせているのです。」
ミトス「…なるほど。僕らにその遺跡に眠らせている者を倒して欲しいってわけだね。」
ミュビリム「はい。」
ミトス「それじゃ、もしかしてこの『ケウェルテスの森』にかけられてる異様な『力』は、君だけの『力』じゃないのかい?」
ミュビリム「やはり鋭い方ですね。そうです…『力』をかけ、眠らせたのはよいのですが、『ある者』の『異質な力』が邪魔をして、この森に変な影響を与えることになってしまったのです。」
ミトス「…そっか、この森が出られない森になったのは、『ミュビリムの力』と『ある者の力』が合わさって、『異質効果』として現れたからなんだね。」
ミュビリム「私の『力』を解けば、森は元に戻ります。ですが、解けば『ある者』の眠りも解けてしまいます。」
ナリィ「だから解くわけにはいかないんだ。」
ミュビリム「…一度説得を試みようと『力』を解いたことはあるのですが、説得には応じずこの森で暴れ、しかも森に入った者達を食べてしまったのです。」
ミトス「そう…人がいなくなったのは、その『ある者』の仕業だったんだね。」
ミュビリム「…それに最近では、呪いのせいで、森の生命力までも削られていっています。」
ミトス「…だからここには動物達や虫がいないんだね?」
ミュビリム「この森を…助けて下さいますか?」
ナリィ「ミトス…。」
ミトス「へへ。」
ナリィ「やっぱりミトスはミトスだね!」
ミトス「任せてよ!僕らが『ある者』を倒してあげるよ。僕らのためにもね。」
ミュビリム「そうですか!では早速お願いしてもよろしいですか?」
ミトス「いいよ!」
ミュビリム「では『ネーア』。」
ネーア「…知らないからな!」
ミトス「あの子も『精霊』?」
ミュビリム「私の子供みたいなものです。」
ミトス「ということは『妖精』なんだね。」
ミュビリム「はい。」
ネーア「『要石』、破壊したぞ!」
ミュビリム「では…。」
次回に続く