第二劇『旅立つ前に』
ミトス「そういえばさ、シアのお母さんやお父さんは?」
シア「……死んじゃった。」
客3「…。」
ナリィ「馬鹿、ミトス!」
ミトス「ご、ごめん!」
シア「ううん、気にしないで!確かに私にはもうお父さん達はいないけど、この店があるもの!お父さんの夢がたくさん詰まったこの店が!」
ミトス「シア…。」
シア「この店がある限り、私は一人じゃないからね!」
ミトス「シアは強いんだね。」
シア「まあ、これでもこの店の主だからね!」
客3「そうさ!この店に来る客は、みんなシアちゃんの料理を楽しみにしてる連中ばかりだからな!俺もその一人だ!」
シア「ふふ、ありがとうおじさん!でもお代はキッチリ頂きますからね!」
客3「シアちゃん厳しい〜!」
ミトスとナリィ「あはは!」
客3「ところでボウズはこれからどうすんだ?」
ミトス「僕は旅人。また出るよ。」
シア「そっか…。いつ出るの?」
ミトス「用事を片付けてからかな。」
シア「用事?」
客3「用事って、こんな小さい町に、何か用事があったのか?」
ミトス「ううん、さっき出来た。」
シア「用事が?」
ミトス「うん!」
シア「さっき?どういうことなの?」
ミトス「もうすぐ分かるよ。」
シアと客3「…。」
ミトス「だからその用事が済むまではいるよ!」
シア「ねぇ、一体どういうこと…。」
ミトス「あと一時間くらいかな?」
客3「何だ?その時間?」
ナリィ「オイラ達は鼻がいいからね!」
シア「鼻?」
ナリィ「そうそう。」
ミトス「ま、一時間経ったら分かるよ。」
シア「…何だかよく分からないけど、とにかくご飯にしようか!」
ミトスとナリィ「やったぁっ!」
シア「確かお代はおじさん持ちだったよね?」
客3「う……あんまり食うなよ?」
ミトスとナリィ「はぁ〜い!」
シア「では、少々お待ち下さい!」
ミトスとナリィ「はぁ〜い!」
客3「…ところでボウズ、用事ってのが済んだらどこに行くんだ?」
ミトス「『ソーラレイ遺跡』だよ!」
客3「ってめちゃくちゃ遠いじゃないか!どこにあるか知ってるのか?」
ミトス「もちろん!でもよく知ってるね?」
客3「まあ、前に来た旅人に聞いたんだけどな。でもそんなとこに…何でだ?」
ミトス「僕も旅人。旅の目的はちゃんとあるよ。」
客3「だから何でだ?」
ミトス「おじさんも、名前くらいは聞いたことあるでしょう…『蒼の秘宝』。」
客3「ああ、なんでも…その『秘宝』を手に入れた者には、『無限の知識』が与えられるってやつだろ?まさかボウズ!」
ミトス「それを探してるんだ。」
客3「おいおい、そいつはあくまでも噂であって、今じゃありもしない神話として…あ!」
ミトス「さっきも言ったよね?『火』の無い所に煙はたたずって。」
客3「じ、じゃあ…。」
ミトス「必ずある。僕とナリィは、『蒼の秘宝』を探して、ずっと旅してきたんだ。」
客3「う〜ん…まあ、あるとしてだ、どうしてそんなもんが欲しいんだ?」
ミトス「……返してもらうためだよ。」
客3「何を?」
ミトス「…。」
客3「ボウズ?」
ナリィ「これ以上は言えないんだよ、おっちゃん。」
客3「チビ…。」
ナリィ「チビ言うなよぉ!」
ミトス「ごめんおじさん…。」
客3「ん?何言ってんだ!こっちこそ悪かったよ!すまんな!」
ミトス「うん…。」
シア「はぁ〜い出来たよ!」
客3「お!待ってました!さあ食え食え!たくさん食べなきゃ、お前さんの願いは叶わないぞ!さあ食え!」
ミトス「ありがとうおじさん!」
客3「ほらほら、早くしないとチビに全部たいらげられてしまうぞ!」
ナリィ「ハグハグ…ガツガツ…ん?」
ミトス「ず、ずるいぞナリィ!」
ナリィ「へへ〜ん、早い者勝ちだもんね!」
ミトス「くそぉ!負けるか!」
客3「…。」
シア「お代、よろしくね、おじさん!」
客3「あ、あんまり食うな!」
ミトス「おかわり!」
客3「NOォォーーーーーッ!」
ナリィ「オイラも!」
客3「勘弁してくれぇーーーーっ!」
(数十分後)
ミトス「ぷはぁ〜!」
ナリィ「最高だぁ!」
シア「…またよく食べたわね…。」
客3「はぁ…給料がまるまる…。」
シア「はは…。」
ミトス「さてと。」
シア「どうしたの?」
ミトス「そろそろ来るからね。」
シア「え?」
?「オラァーーーッ!」
シア「何!」
客3「何だ何だ!」
ミトス「じゃあちょっと行ってくるね。ナリィ頼むね。」
ナリィ「ほいほ〜い。」
シア「え?何が…。」
ミトス「……やあ。」
?「よくもバグダ様をやってくれたな!」
シア「あれはさっきの『盗賊』!」
盗賊1「今度はさっきのようにいかないぜ!」
ミトス「……。」
盗賊2「ん?どこ見てやがる!」
ミトス「そこに隠れてるんでしょ?出てきなよ。」
盗賊2「何!」
?「なるほどねぇ、バグダがやられたのも、本当だったようね。」
盗賊1「『ローユア』様…。」
ローユア「アンタ達は下がってなさい。この子供の相手はアタシがするわ。」
盗賊達「はい!」
ローユア「さて、どうやらアタシ達が来たことに驚いていないようね。」
ミトス「まあね。」
ローユア「結構…アタシはローユア、よろしくね。じゃあ早速、手合わせ願おうかしら?」
ミトス「いいよ。」
ローユア「…ふふ…ふふふ。」
ミトス「ん?何?」
ローユア「馬鹿正直ねぇ。」
ミトス「え?」
シア「きゃぁっ!」
ミトス「な!シア!」
ローユア「はい、人質ゲット。」
ミトス「お前!」
客3「うわぁっ!」
ミトス「おじさん!」
ローユア「ふふ、二人目。」
ミトス「このっ!」
ローユア「ストォップ!」
ミトス「!」
ローユア「一歩でも動けば、彼女達の首は…チョキン…。」
ミトス「卑怯だぞ!」
ローユア「最高の誉め言葉だわよ。」
ミトス「くっ…。」
ローユア「全く…バグダの馬鹿、こんな子供にやられたわけぇ。やっぱり筋肉ダルマは駄目だわねぇ。少しは頭使いなさいってのよ。」
ミトス「…。」
ローユア「あらあら、無言になっちゃって可哀想。今すぐ楽にしてあげるわ。さあ、殺っておしまい!」
ミトス「……へへ。」
ローユア「……アンタ達?早く殺っておしまい!…え?何よこれぇ!」
ミトス「へへ〜ん、残念でした!」
ローユア「部下どもが皆……気絶してるわ。どういうことよ!」
ミトス「悪いけど、盗賊相手に正直に戦う程馬鹿じゃないんだよね。」
ローユア「何ですって!」
ミトス「お前達が卑怯な手段を取ることは、最初から予想してたってわけだよ。」
ローユア「くっ、アンタ達!人質を殺りなさい!」
ミトス「無駄だよ。」
盗賊「ぐっ…!」
ローユア「何よ!」
ミトス「ローユアだっけ、その程度の策略、五歳の子供にも描けるよ。」
ローユア「何ですって!あ、そうだわ…忘れていたわ。バグダからの報告によれば、子供と『竜』…まさか…。」
ミトス「僕の側にいなかったことに疑問を持つべきだったね。」
ナリィ「ミトス!」
ミトス「お疲れ様ナリィ。」
ローユア「猫が喋ってる…。」
ナリィ「ムカッ、猫って言うな!カァーーーーッ!」
ローユア「な、何!」
ミトス「言葉を話し、『火』を吹くことの出来る、珍しい猫だよ!」
ナリィ「こらミトス!」
ミトス「あは!ごめんごめん。」
ローユア「まさか本当に……『竜』…なの?」
ミトス「真実が信じられない?だったらお前もバグダと同じだね。」
ローユア「な!」
ミトス「負けだよ!ローユア!」
ローユア「な…何なの……『腕輪』が広がって…。」
ミトス「お前にも教えてあげるよ。『水』の恐怖を!」
ローユア「いやぁっ!来ないでぇーーーーっ!」
ナリィ「ぶっ飛んじゃえっ!」
ローユア「いやぁーーーーっ!」
ミトス「ん?このニオイは!」
シア「さすがミトス!」
客3「やったなボウズ!」
ミトス「……手応え無しか。」
客3「え?……あっ!」
ローユア「ひぃ……ん?あれ……え?ボ、ボス!」
シア「誰?」
ミトスの心「…速い。倒れてる奴らを抱えて一瞬であんなところまで…。」
ナリィ「ボス?じゃアイツが?」
ローユア「ボスゥーーーッ!」
?「…退くぞローユア。」
ローユア「え?な、どうしてよ!ボスならあんなガキに遅れは!」
?「状況を考えてものを言え。」
ローユア「え?」
?「この状況、既に不利だ。」
ローユア「で、でもぉ!」
?「一時の感情で動くな。そう教えたはずだ。」
ローユア「う……分かったわ。」
?「じゃあ行くぞ。」
ミトス「待って!」
?「…何だ?」
ミトス「どうやら部下の命を大事にしてるみたいだけど、シアの店を襲って、人質まで取って、『砂十字』とやらは、案外つまらない盗賊なんだね!」
?「襲った?人質?どういうことだローユア?命令と違うが?」
ローユア「え…あ…それは…。」
?「…まあいい。話は後で聞く。おい銀髪…。」
ミトス「ん?」
?「オレ達は盗賊だということを覚えておけ。」
ミトス「盗賊だから、平気で人を傷つけ、陥れたりするってこと?」
?「必要ならな。」
ミトス「…。」
シア「また…襲って来るの…。」
?「安心するんだな。ここにはもう興味は無い。」
シア「え…。」
客3「騙されるなシアちゃん!奴らは平気で嘘をつく盗賊だ!」
?「好きに思えばいい。だがオレ達は興味の失せたものを相手にするほど物好きじゃない。そうだな…今興味あるものとなると…。」
ミトス「…。」
ナリィ「アイツ…。」
ミトス「うん。どうやら好かれちゃったみたいだね。」
?「…。」
ミトス「まあ、いいか。」
?「銀髪、オレは『砂十字』の『アクス=ラスティア』。この借りは必ず返す。」
ミトス「別に返さなくていいよ。」
ローユア「アンタ、ボスに向かって!」
アクス「ローユア!」
ローユア「う…。」
アクス「オレ達は興味あるものなら、それがたとえ地の果てだろうと追いかける。覚えておけ。」
ミトス「ご苦労なことだね。」
アクス「その内、お前が苦労することになるさ。」
ミトス「ふ…。」
アクス「ふ…行くぞ。」
ローユア「は、はい!」
ナリィ「また厄介なことになったねミトス。」
ミトス「まあ、いいんじゃない!」
ナリィ「相変わらずだなぁ。」
シア「ミトス!」
ミトス「シア…。そういうことだから、僕達もう行くよ。」
シア「え?」
客3「まさかボウズ、用事って!」
ミトス「へへ!僕がここにいると、皆に迷惑がかかっちゃう。『砂十字』の興味を引き付けちゃったからね。」
シア「ミトス…。」
客3「シアちゃんのためにわざと…。」
ミトス「食べた分は返せたと思うよ!」
シア「そんな!」
ミトス「大切にしてねシア。シアの夢を!」
シア「ミトス…。」
ミトス「じゃあ僕達行くね!本当にありがとうシア!助けてくれて!」
ナリィ「おっちゃんもあんがとね!」
客3「チビ…。」
ミトスとナリィ「じゃあね!元気で!」
シア「あ、ミトス!」
ミトス「ん?」
シア「助けて貰ったのはこっちだよ。その……いつでも食べに来てね!」
ミトス「……お代は?」
シア「もちろん……半額よ!」
ミトス「あはは!さすがシア!絶対また来るよ!」
シア「ありがとう!待ってるからね!」
客3「………行ったなぁ。」
シア「…うん。」
客3「な〜に、アイツらのことだ!また腹空かせて、店の前で倒れてるよ!」
シア「ふふ、そうね。…ミトス、ナリィ、本当にありがとう。また会えるよね…必ず…。」
次回に続く