第十八劇『心から笑う、新たな決意』
ミトス達は『大食い大会』を開くため、『黒』と呼ばれる『砂十字』に奪われた食糧を取り戻しに行った。途中に出会った『赤』と呼ばれる『砂十字』のボス、アクスのお陰で見事、食糧を取り戻したミトス達は、『タップルン』の人々と共に食糧を街へ運び、『大食い大会』の準備に奔走していた。
アクス「……う…うう…。」
ファム「あら、目が覚めたみたいね?」
アクス「…オ…オレは…。」
ファム「あなたミトスと戦おうとして倒れたのよ。覚えてる?」
アクス「…そう…か……ぐっ…。」
ファム「まだ無理しない方がいいわ。」
アクス「…何故オレをここへ連れてきた?」
ファム「あいにく怪我人を放っておくミトスじゃないのよね。」
アクス「銀髪が?」
ファム「そうよ。酷く衰弱してたあなたを『タップルン』へ連れて来たのは、ミトスの意思よ。感謝しなさいよ。」
アクス「ふん、誰が頼んだ。敵に情けをかけて、何を望んでるか知らんが、世の中そう甘くはないぞ。」
ファム「そんなことミトスは百も承知だわ。…ミトスはそれでも助けるのよ、誰かが困ってたらね。」
アクス「オレは困ってないぜ。」
ファム「…ふぅ、強情ね。」
アクス「ふん……ところでこの騒ぎは何だ?煩いぞ。」
ファム「もうすぐ『大食い大会』が開かれるのよ。」
アクス「…ぐ…。」
ファム「だから動くなって言ってるでしょ!」
アクス「触るな!」
ファム「!」
アクス「…ふぅ、銀髪に言っておけ。」
ファム「え?」
アクス「…この借りは必ず返すってな。ぐ…。」
ファム「行っちゃった……もう!何なのよアイツ!」
ナリィ「ファム〜っ!」
ファム「どうしたの?」
ナリィ「そろそろ始まる……あれ?アイツは?」
ファム「どっかに行ったわよ!」
ナリィ「ふぅん、ミトスが言ったとおりだ。」
ファム「え?」
ナリィ「ま、いいや、ほらほら、早く行こう!」
ファム「ちょ、ちょっと!」
(外へ出る)
ライファ「お、やっと来たか!」
ナリィ「ミトス、やっぱアイツは出てったみたいだよ!」
ミトス「そっか。」
ファム「借りは必ず返すだって。」
ミトス「はは、前にも聞いた言葉だね。」
ライファ「お、始まるぞ!」
司会者「長らくお待たせ致しました!只今より、『タップルン』恒例『大食い大会』を開催したいと思いまーーーすっ!」
村人達「うぉーーーっ!」
司会者「盗賊のせいで、今年は不催という危機に陥っていましたが、ある勇者のお陰で、『タップルン』の活力を取り戻すことが出来ました!紹介致しましょう!我が『タップルン』の英雄ミトスくんでーーーすっ!」
ミトス「え?」
司会者「こちらへどうぞ!」
ミトス「え…いや…僕は…。」
ライファ「何照れてんだ!行って来い!(ミトスを投げる)」
ミトス「うわぁぁぁっ!」
ファム「ちょっとライファ!」
ライファ「ははは、いいじゃねえか!見ろよ、ミトスも満更じゃないみたいだぜ?」
ファム「え?」
司会者「本当に感謝しております!ミトスくん、本当にありがとうございました!」
ミトス「き、気にしないで…。」
司会者「ではミトスくんの声で火蓋を切りたいと思います!ではどうぞ!」
ミトス「えと……はあ…ふぅ……そ、それじゃあ……みんなぁっ!楽しもうっ!」
村人達「うぉーーーっ!」
ファム「ミトス…流されてるわ…。」
ライファ「ははは!」
ナリィ「よぉし、優勝するぞぉっ!」
村人1「アンタ達!」
ライファ「ん?」
ファム「ああ、おばさん。」
村人1「本当に…本当に取り戻してくれるなんて……何てお礼を言ったらいいか分からないよ。」
ライファ「オレ達は何もしてねえよ。ミトスがやりたいって言ったことを手伝っただけだ。」
ナリィ「それに盗賊達を倒したのはアクスだしね。」
村人1「いいや、アンタ達がこの『タップルン』に来てくれたからなんだよ。本当にありがとう。」
ファム「おばさん、それはミトスに言ってあげて。きっと喜ぶわ。」
村人1「…あの子は一体何者なんだい?」
ライファ「ただのお節介野郎さ。」
ファム「違う!ミトスは優しいのよ!」
村人1「お節介野郎?」
ライファ「ああ、筋金入りのな。迷惑迷惑!ははは!」
ファム「いい加減にしろっ!」
ライファ「うわぁぁぁーーー……。」
ナリィ「今日もよく飛んだなぁ。」
村人1「…。」
ナリィ「ミトスはね、確かにお節介だし、結構…いいや、かなりいい加減なヤツだけど…。」
村人1「…。」
ナリィ「傷付けられる人達の痛みは、誰よりも知ってんだよ。誰よりもね。」
村人1「……猫が喋ってる…。」
ナリィ「もう嫌っ!こんな役っ!」
ライファ「ははは!チビ助だからしょうがねえよ!」
ナリィ「関係あんのかよっ!てか、ずっと飛んでろ!帰って来んなっ!」
ライファ「やるかチビ!」
村人1「いやいや、ありがとうね、おチビさん。」
ナリィ「もうっ!」
ライファ「ははは!さあ、んじゃ食べるぜ!飲むぜ!」
フォテ「…。」
ファム「どうしたのフォテ?」
フォテ「いえ、ただ皆さんが本当に楽しそうに笑いますんで。」
ファム「おかしい?」
フォテ「僕も…笑えるでしょうか?」
ファム「え?」
フォテ「ミトスさん達は、心から笑っています。それは多分、いつも命懸けで生きているからだと思います。だからこそ、あんなふうに楽しそうに笑えるんだと思うんです。」
ファム「フォテは精一杯生きてないの?」
フォテ「僕は…逃げてばかりでしたから…。」
ファム「そっか。」
フォテ「初めて…。」
ファム「…。」
フォテ「『バトルコウモリ』と戦った時、僕は初めて命を懸けて戦いました。」
ファム「うん。ライファに聞いたわ。」
フォテ「怖かった…どうしようもなく震えた。逃げ出したい気持ちで一杯でした。」
ファム「でも逃げなかったじゃない。」
フォテ「ライファさんが…教えてくれたから…僕は戦えたんです。ライファさんが…ミトスさんがいなければ、僕は今も…。」
ミトス「逃げていたかもね!」
フォテ「ミトスさん!」
ミトス「誰だって命を懸けるのは怖いよ、震えるよ。それは当たり前だよ。」
フォテ「ですがミトスさん達は…。」
ミトス「僕だって逃げたことはあるよ。」
フォテ「ミトスさんが?」
ミトス「というか、昔の僕にそっくりなんだよ、フォテは。」
フォテ「昔?……ミトスさんが…僕に?」
ミトス「うん…逃げて…逃げて…戦おうとしなかった。そのせいで大切な人を傷付けて…。」
ファム「ミトス…。」
フォテ「それじゃあ、何故今は…。」
ミトス「『ある人』が教えてくれたんだ。『逃げることは悪いことではない。逃げて初めて分かることもある。そうやって君は、自分の弱さを知ることが出来ただろう。だから逃げること自体は、決して悪くはないんだ、逃げ続けることが悪いんだよ』って。」
フォテ「…。」
ミトス「その言葉を聞いた時、何か救われた気がしたんだ。」
フォテ「救われた?」
ミトス「うん。自分には、逃げる以外に、まだ選択肢があったんだって思えた。あの時の僕には、ただ逃げることしか、逃げ続けることしか出来ないと思っていたから。だけどね、『その人』は僕に、『人の心は脆い、だけど、それでも人の心は強いものだ』って言って、僕の手を引いてくれた。」
フォテ「…いいですね…僕にも…そんな方がいたら…。」
ミトス「(フォテの前に立ち、手を伸ばす)」
フォテ「ミトス…さん?」
ミトス「君も命懸けでライファを守ろうとした。それがフォテの真実だよ。」
フォテ「ミトスさん…。」
ミトス「一緒に前に進んで行こう!フォテ!」
ファム「ミトス!」
ミトス「ごめんね!あまり口上手くないから…はは。」
フォテ「…い…いえ…ありがとう…ございます…。」
ファム「ふふ、さって!(フォテの背中を叩く)」
フォテ「いっ!」
ファム「今日は楽しもうっ!ね、フォテ!」
フォテ「…は、はいっ!」
ミトス「さあ、行こう!」
フォテ「皆さん、これからよろしくお願いしますっ!」
ライファ「へへ、さあ、飲むぜぇっ!」
ナリィ「よっしゃあっ!」
フォテの語り「僕は今日、新たに決意した。ミトスさん達と一緒に、前に進んで行こう!自分の夢を叶えるために…そして、心から笑うためにっ!」
(その頃ダーツは)
ダーツ「ボスは?」
盗賊1「中にいますぜ。」
ダーツ「(歩いて中へ)」
?「ん?やあ、ダーツくん。」
ダーツ「久しぶりだっての。今日は面白い話を持って帰って来たっての。」
?「面白い話?へえ、聞きたいですねぇ。」
ダーツ「『タップルン』って知ってるだろ?」
?「確か『大食い大会』の?」
ダーツ「そうだっての。オレ達はそこを襲い、近くの丘で滞在してたんだが…。」
?「もったいぶらないで下さいよ。」
ダーツ「…アクスに会ったっての。」
?「!」
ダーツ「な?面白い話だっての?」
?「かなり…ね。」
ダーツ「ヤツはお前を血眼になって探してるっての。」
?「そうでしょうねぇ。私も久々に会いたくなってきましたよ。」
ダーツ「出るか?」
?「…。」
盗賊2「ボス!」
ダーツ「ん?」
?「どうしたんです?」
盗賊2「すみません!」
?「だからどうしたんですか?」
盗賊2「捕えていた『夜光虫』を…逃がしてしまいました…。」
?「…どなたの失態ですか?」
盗賊2「…そ…それは…。」
?「早く答えなさい。」
盗賊2「じ…自分です!す、すみません!」
?「いいよいいよ。」
盗賊2「え?」
?「許してあげます。」
盗賊2「ほ、本当ですか!」
?「あ…でも待てよ。それじゃあ、規制にならないなぁ。」
盗賊2「そんな…。」
?「よし、こうするか!はい。(何かを投げる)」
盗賊2「え?す…『砂時計』?」
?「三分…三分あげます。その間に私に触れて下さい。」
盗賊2「さ…触る?」
?「そうです。三分以内に私に触れることが出来たら、許してあげます。ね?寛大でしょ?」
盗賊2「は、はあ。」
ダーツ「はぁ…どこが寛大っての。」
?「サービスです。私はここから動きません。」
盗賊2の心「へ…へへ、何だ…ボスも人が悪いぜ。最初から許すつもりなんだろ?ボスは俺が必要なんだな。」
?「さあ、始めましょう。」
盗賊2「よっしゃあっ!」
ダーツ「馬鹿らしいっての。」
盗賊2「よし、もらっ…っ!ぐ…が…あ…。」
?「クク、どうしました?」
盗賊2「な…何で…。」
?「私はここから動かないとは言いましたが、攻撃しないと言った覚えはありませんからねぇ。」
盗賊2「そ…んな…。」
?「『砂針』。」
盗賊2「こ、これがボスの……く…『黒砂』…。」
?「貰いますよ。『黒吸』っ!」
盗賊2「ぐわぁぁぁーーーーーっ!」
?「ん〜快…感………はい、ミイラの出来上がり。」
ダーツ「相変わらず怖い『力』だっての。」
?「ほら、あの世に持って行きなさい。(耳に付けている鈴を外し投げる)」
ダーツ「さすがは『黒砂のカゲツ』だっての。」
カゲツ「クク、少しは遊ぼうかと思いましたが、凄い勢いでしたので焦りましたよ。」
ダーツ「よく言うっての。」
カゲツ「クク、では行きますか。アクスくんに会いにね。」
次回に続く