第十三劇『新たな仲間は気弱な学者?』
ミトス「さっきの人達…かなり強いな…。」
主人「何か用かい?」
ミトス「あ、そうだ!これを買い取って欲しいんだ。」
主人「ん?ほほぅ、『真紅石』だね。」
ミトス「少し小さいんだけど…。」
主人「そうだねぇ…。確かに小さいねぇ。」
ミトス「駄目かな?」
主人の心「こいつ、見たとこいいカモになるかもな。この『真紅石』の値打ちを知らないかも…へへ。」
ミトス「どうかな?」
主人「ん〜そうだねぇ。かなり小さいし、少し形も悪いねぇ。しかも今は、この『イエロー大陸』でも『真紅石』の値打ちが低下しつつあってねぇ。」
ミトス「え、そうなの?かなり珍しい石のはずなんだけどなぁ…。」
主人「実はね、最近君みたいに『真紅石』を売りにくる人達がかなり増えていてね。そのせいでこの『イエロー大陸』での値打ちは低下しつつあるんだよ。」
ミトス「そっか…質屋にはあまり来ないから知らなかったよ。じゃあ今の相場はいくらなの?」
主人の心「くくく、チョロイチョロイ。」
主人「そうだねぇ、このくらいの大きさだと……1000セルだね。」
ミトス「それだけっ!」
主人「形がもう少し整ってれば、倍は違うんだけどね。」
ミトス「う…まあ、仕方ないか。」
主人「へへ、まいど!」
?「待って下さい!」
主人「!」
ミトス「『フォテ』!」
フォテ「その『真紅石』を見せて下さい!」
ミトス「フォテ、どうしてここに?」
フォテ「ライファさんに、ミトスさんが『真紅石』を売ると聞いて、是非拝見させて頂こうと思って、ついて来たんです。そしたら、今の会話を聞いたんです。ご主人っ!」
主人「な、何だい?」
フォテ「あなたもプロなら、その誇りを持つべきです!」
主人「何を…。」
フォテ「どうして、嘘の鑑定をなさるんですか?」
ミトス「嘘?」
主人「な、ななな何を!いいがかりだっ!」
フォテ「そうでしょうか?その石の真の価値を知っていれば、1000セルなんていう数字は言わないはずですよ。」
主人「う…。」
ミトス「今は価値が低下してるんじゃないの?」
フォテ「とんでもありません!『真紅石』は本当に稀少鉱石です!『レッド大陸』の中でも『タカツメ鉱山』でしか発見されていないものなんです!」
ミトス「…。」
フォテ「最近『真紅石』を売る人達が増えている?とんでもありません!『真紅石』は今も変わらず、間違いなく稀少鉱石なんです!そう簡単に手に入るわけがありません!」
主人「いや…。」
フォテ「それに、鉱石に形が良い悪いもありません!加工されていないそのままの原石、それが最も価値のある形なんです!」
ミトス「フォテ…。」
フォテ「僕なら、どうみても1000セルなんていう、価値を馬鹿にした数字は出しません!これ以上、価値を汚すのなら、訴える所へ出るまでです!」
主人「あ、わわわ分かったから、もう勘弁してくれよぉ〜。」
フォテ「ではしっかり鑑定なさって下さい!プロの誇りを見せて下さい!」
主人「そ、そうだな……重さ…大きさ…鑑定すると……6500セルだ。どうだぁっ!」
フォテ「ええ、良い店ですね。」
主人「ふぅ〜。ほら金だ、勘弁してくれ…。」
ミトス「ありがとう。ところでおじさん、さっきの人達は、何を売りに来たの?」
主人「え?ああ、さっきの連中は、『コレ』を売りに来たんだよ。」
フォテ「それはっ!」
ミトス「知ってるの?」
フォテ「こ、これは…。」
主人「そう、『白氷』だよ。」
フォテ「は、初めてみた…。」
ミトス「聞いたことある。確か『溶けない氷』なんだよね?」
フォテ「はい。ここより遥か北方にある『ホワイト諸島』で手に入るんですが、物凄く険しい山の中にあるらしくて、採りに行くのにも命懸けなんです。」
主人「その通り!稀少価値なら、間違いなく『真紅石』よりも上だよ!」
フォテ「まさかご主人っ!これも騙し取ったのではないですかっ!」
主人「い、いや違うよ!た、確かにあわよくば安く買い取ってしまおうとはしたが、駄目だったんだよ。」
フォテ「え?」
主人「売りに来たヤツらは、この『白氷』の値打ちを熟知しててね。それに騙した後がやっかいそうだったからね。なんたってヤツらは…。」
フォテ「だからプロとしての意識を持って下さい!本当に不愉快です!行きましょうミトスさん!」
ミトス「あ、うん…。(店を出る)」
主人「あ……はぁ…今日は厄日だったな。やたらモノに詳しいヤツが現れたり……賞金首が現れたりな…。」
(ミトスは)
ミトス「でもありがとうねフォテ。」
フォテ「え?い、いいいえっ!こちらこそ、でしゃばったマネをしてしまってすみません!」
ミトス「ううん。本当に助かったよ!お陰で懐も膨らんだしね!」
フォテ「そ、そうですか?良かったです。」
ミトス「でも、本当にフォテって変わってるよね?」
フォテ「そ、そうですか?」
ミトス「普段は何か気弱な感じなのに、ああいう場では、決して引かないじゃない!」
フォテ「…。」
ミトス「フォテ?」
フォテ「…許せないんです。」
ミトス「え?」
フォテ「そのモノの真の価値を知っているのに、評価されるべき真実を伝えないで、虚実を作り、価値を汚す。そういうことをしている人を見ると、いてもたってもいられなくなるんです。この世界にあるモノには、全て価値があります。落ちている石も、草も木も、生物も全て。触れてみると、モノの意思を感じるんです。彼らの思いを…。」
ミトス「へぇ…。」
フォテ「彼らを価値ではなく、ただ金額としてでしか判断出来ない人達がたくさんいます。」
ミトス「…でも、そのお陰で、こうやってお金を貰えたわけだよね。」
フォテ「確かにそうです。ですが…。」
ミトス「金額として判断すると、彼らを侮辱しているように感じる。でしょ?」
フォテ「ミトスさん…。」
ミトス「人が生きる上で、そういった行いがあるのは仕方無いけど、せめて金額としてではなく、彼らに見合った真の価値、真の評価を尊重し判断してほしい。そうすれば、彼らは汚されない。」
フォテ「…ミトスさんは良い人ですね。」
ミトス「そんなことないよ。」
フォテ「いいえ、僕はそう思います。」
ミトス「何か照れるよ!僕はただ、モノを大切にしてるだけだよ!ナリィもライファもファムもそうだよ!」
フォテ「……よし決めた!」
ミトス「え?」
フォテ「あのですね…。」
ミトス「ん?」
フォテ「お願いがあるのですが。」
(ライファ達の所へ)
ライファ「お、帰ってきたか!」
ファム「ミトス〜!ぎゅ!」
ミトス「うぷ!た、ただいま。」
ナリィ「どうだった?旅の資金は出来た?」
ミトス「うん!フォテのお陰でね!」
ライファ「フォテの?」
フォテ「す、すみません…。」
ミトス「実はね…。」
(ミトスは説明する)
ライファ「へぇ、やるじゃねえか!」
ファム「全く、ミトスを騙そうとするなんて、悪い店だわね!」
ナリィ「でも、さすがは『万物学者』の卵だよね!」
ライファ「ホントだな!(フォテの背中を叩く)」
フォテ「げほっ、げほっ!い、いいえ、まだまだです。」
ライファ「謙遜すんなすんな!」
フォテ「本当にまだまだなんです。僕はまだ世界のことを知らな過ぎます。ですから…。(ミトスを見る)」
ミトス「…うん。」
フォテ「皆さん!どうか僕を、皆さんの旅に同行させて下さい!」
ライファ「は?」
ナリィ「オイラ達と一緒に来るっていうの?」
フォテ「は、はい!」
ナリィ「…ミトスは?」
ミトス「僕はいいよって言ったよ。」
ナリィ「ふ〜ん、まあミトスがいいんならオイラもいいよ!」
ファム「アタシもミトスがいいならいいよぉ!」
フォテ「あ、ありがとうございます!」
ミトス「良かったねフォテ!」
フォテ「は、はい!」
ライファ「ちょっと待て。」
フォテ「え?」
ミトス「ライファ?」
ライファ「オレはまだ納得してねえぜ。」
フォテ「…。」
ファム「ちょっとライファ!」
ライファ「オレ達の旅は道楽じゃねえ、分かってんだろ?もちろん危険も満載だ。『あの男』のこともあるんだぜ?」
ミトス「…。」
ライファ「オレ達の旅に、軟弱なヤツは足手まといになる。悪いが、フォテに戦いは向いてねえ。」
ナリィ「言い過ぎだよライファ!」
ライファ「…ミトス、お前なら分かるはずだ。『あの男』の『力』がどんなもんかをな。」
ミトス「僕が何も考えないで、同行を許可したと思う?」
ライファ「何だと?どういうことだ?」
ミトス「まだ勘だから確信してるわけじゃないけどね。」
ライファ「さっぱり分かんねえぞ。」
ミトス「じゃあこうしようよ。フォテが本当に僕達の旅に必要の無い人物かどうか、しばらく一緒に行動して、ライファが判断する。」
ライファ「……何を企んでんだかな…。」
ミトス「別に何も企んでないよ。ただフォテを信じてるだけだよ。」
フォテ「ミトスさん…。」
ライファ「…分かった。だけどな、少しでも無理だと判断したら、容赦なく追い出すからな!いいな!」
フォテ「は、はははい!よ、よろしくお願いしますっ!」
ミトス「頑張ってねフォテ。」
フォテ「あ…はい…。」
ライファ「今日はここに泊まって、明日出るんだろ?」
ミトス「うん。」
ライファ「よし、んじゃあ、先ずはメシ食おうぜ。」
ナリィ「ごめんなフォテ。ああいうヤツなんだ。」
ファム「ま、でもライファの言う事は、フォテを思ってのことだと思うわよ。」
フォテ「は、はい…。」
ミトス「大丈夫だよフォテ。」
フォテ「…ミトスさん……信じてくれてもらっているのは嬉しいんですけど、本当に僕は大丈夫なんでしょうか?」
ミトス「大丈夫大丈夫!」
フォテの心「ライファさんの言う通り、僕は戦ったりする『力』なんてないし…。でもミトスさんは…。」
(少し前、ミトスとフォテ)
ミトス「僕達の旅について来たいって?」
フォテ「はい!皆さんに会った今日、たくさんの珍しい出会いを経験出来ました!これからミトスさん達といれば、より多くの『未知の財産』に出会えるような気がするんです!お願いしますっ!どうか僕に同行の許可を下さい!」
ミトス「…でも僕達の旅は危険だよ?それこそ命を失う危険もあるよ?」
フォテ「構いません!」
ミトス「…。」
フォテ「夢を叶えると決めた時から、命はもう、夢に捧げています!」
ミトス「…。」
フォテ「ただ死ぬのは嫌ですが、夢の延長線上で死ぬなら、それは本望です!」
ミトス「…成程ね。」
フォテ「僕の夢にも危険は伴います。確かにミトスさん達の役に立てるか分かりませんが、精一杯やりますからお願いしますっ!」
ミトス「…ライファが一番の障害かもね。」
フォテ「え?」
ミトス「僕はいいよ!フォテなら、きっと大丈夫だよ!君には『力』があるからね。」
フォテ「え?『力』?あの…何のことでしょうか?」
ミトス「ま、とにかく皆にも聞かなきゃ。きっとライファには色々言われるとは思うけどね。」
フォテ「は、はあ…。」
(現代へ)
フォテ「本当に大丈夫かな…僕…。」
(翌日)
ミトス「さてと、じゃあ出発だね!」
ライファ「いいかフォテ!無理だったらホントに追い出すからな!」
フォテ「が、ががが頑張ります!」
ライファの心「どう見ても頼りねぇ。ミトスのヤツ、一体何を…。」
ファム「ところでミトス、次の目的地は?」
ミトス「『ユズ洞窟』だよ!」
次回に続く