第十劇『勁、自信と言う名の力』
デッカス「三流…だとだと?なかなか面白いことを言う言う。」
ライファ「そうか?オレは別に笑いをとったつもりはないぜ?」
デッカス「…ふふん、どうやらこの『剛腕のデッカス』の強さを知らないみたいだなだな。」
ライファ「あ?何だって?誰が強いって?」
デッカス「殺してやるやる!」
リュト「お前…。」
ライファ「そこでリリと見てな。なあに、すぐ終わるさ。」
デッカス「オラッ!」
ライファ「!」
リュト「危ない!」
リリ「お兄ちゃん!」
デッカス「ふふん、手応えありあり。」
ライファ「そいつは良かったな?」
デッカス「何何ぃ!」
ライファ「おらぁっ!」
デッカス「ぐわぁっ!」
リュト「ぶ…無事…なのか?」
ライファ「だから大丈夫だって言ったろ?いいから見てろ。」
リリ「すごぉい…。」
デッカス「キサマ…今のは…。」
ライファ「へ、テメエだけが特別だと思ったか?」
デッカス「…キサマも『勁』を扱えるのかのか?」
ライファ「テメエみてえな小物じゃなく、正真正銘のな。」
デッカス「小物だとだとぉ!」
ライファ「テメエの本気で来やがれ。オレを殺してえんならな。」
デッカス「言われなくても、絶対ぶち殺してやるわ!」
ライファ「おいおい、口調が変わる程、キてんのか?やっぱ小物だなテメエは。」
デッカス「こぉの『剛腕』を見やがれっ!」
リュト「あ、あんなの当たったら死んじゃうじゃないか!逃げろ!」
ミトス「リュト、よした方がいいよ。」
リュト「でもっ!」
ミトス「…自信。」
リュト「え?」
ミトス「自信て何だと思う?」
リュト「何を…。」
ミトス「自信て言うのはね、一朝一夕で身に付くものじゃない。自分が今まで生きて歩いて来た道が、長ければ長い程、それは次第に太く、強くなっていく。」
リュト「自信…。」
ミトス「自分の道を信じる。誰が否定しても、自分だけが、歩いて来た道を信じる。それが自信なんだよ。」
リュト「…。」
ミトス「そしてライファの道が、ライファの経験が言ってる。ライファの道は、ヤツに壊される程、浅い経験じゃないって。」
デッカス「『アームプレス』ッ!」
ライファ「…テメエじゃオレは殺れねえよ。」
デッカス「何ぃっ!」
ライファ「はあっ!」
デッカス「な!がはぁっ!」
リュト「す…すげぇ…。」
ライファ「テメエ程度の『力』じゃ、オレの道は閉ざせねえよ。」
デッカス「…っの野郎がぁ!」
ライファ「無理だって。」
ミトス「ね、大丈夫でしょ?」
リュト「つ、強いんだな…アイツ…。」
ファム「当たり前よ!ああ見えても『勁使い』だからね。」
リュト「…さっきから言ってる、『勁』って何なんだ?」
ナリィ「気配って知ってるでしょ?」
リュト「え?…ああ。」
ナリィ「何かの気配がするって言うよね。何で目に写ってないのに、生き物の存在を感じたりすると思う?」
リュト「…さあ?」
ファム「『生命エネルギー』を感じるからよ。」
リュト「『生命エネルギー』?」
ファム「そう。」
ミトス「生き物は皆、体から『生命エネルギー』、つまり『生気』を放っているんだよ。」
リュト「おれも?」
ミトス「もちろんだよ。その『生気』のことを『勁』って言って、それを自在に扱う者達のことを『勁使い』って言うんだよ。」
リュト「じゃあおれも『勁使い』になれるのか?」
ミトス「ん…可能性はゼロじゃないよ。だけど、『勁』はとても危険なものなんだ。」
ファム「『勁』は『生気』、確かに正しく扱えるのなら、自らに対して『薬』になる。自らの『力』を増幅したり、『特殊な力』を発現出来るようになるわ。」
ナリィ「その反面、『勁』は恐ろしい『毒』も持ってんだ。」
リュト「『毒』?」
ミトス「使うのは『生気』だからね、使う度に体が衰弱していくんだよ。」
リュト「それが『毒』か?」
ミトス「…それだけじゃないよ。『勁使い』は『勁』を意思次第で自由に扱えるようになる。だから扱う者は慎重に選ばなきゃならないんだ…『勁』を『正』として扱うか、『負』として扱うかを。」
リュト「ふ?」
ファム「つまり、意思次第で『勁』を悪用したりすることも出来るってこと。」
ナリィ「悪意を持って人を傷付けたり、何かを破壊したりね。」
リュト「そ、それじゃあ、デッカスは…。」
ミトス「そう…『負』だよ。」
ライファ「さて、分かったか?テメエの『力』の限界がよ?」
デッカス「何だとぉ!このデッカス様は選ばれたんだっ!『あの方』になぁっ!」
ミトス「!」
ライファ「『あの方』?誰だそいつは?」
デッカス「はあはあはあ、このデッカス様は選ばれたんだ…。キサマなんかに負けるかぁっ!ぐおぉぉぉーーー!」
ライファ「何!」
ナリィ「あれは!」
リュト「な、何だよあれ!」
リリ「怖い…。」
ファム「ミトス。」
ミトス「…暴走だね。」
リュト「デッカスがでかくなってく!」
ミトス「リュト、さっき言ったよね、『勁』は『毒』にもなるって。」
リュト「あ、ああ。」
ミトス「『勁』っていうのは、暴走すると異常に増幅してしまうんだよ。そして、増幅する速さに負け、自分の器を超えてしまうと、上手く『勁』を放出することが出来ず、体の中で膨張し、ああなってしまうんだ。」
デッカス「ギ…ガ…アッ!」
リュト「な、何でアイツは暴走したんだ?」
ファム「意思が負けたからよ。」
リュト「意思?」
ファム「ええ、さっきも言ったでしょ?『勁』は意思で扱うって。」
リュト「ああ。」
ファム「つまり、意思が『勁』を支えてるのよ。いわゆる土台みたいな感じ。」
リュト「土台…。」
ナリィ「その土台=意思が崩れたらどうなるか、分かるだろ?」
リュト「そうか、支えを失った『勁』は!」
ナリィ「そう、崩れ落ちていっちゃう。」
ミトス「普通はそうならないように、『勁』を扱う修行が必要なんだけど、恐らくデッカスはそんな修行なんてしてない。」
リュト「…。」
ミトス「過信。」
リュト「え?」
ミトス「自信を持つことと過信は違うからね。『勁』は正直だからね、意思を失い、過信した状態で使用すれば、容赦無く牙を向くんだよ。」
リュト「…デッカスはどうなるんだ?」
ミトス「このままだと間違いなく死んでしまうよ。」
リュト「じ、じゃあほっとけば!」
ミトス「そう上手くいかないのが暴走なんだ。」
リュト「え?」
デッカス「ぐわぁぁぁーーーっ!」
住人「何だ!建物が壊れたぞ!」
リュト「何で?」
ミトス「『勁』を飛ばしたんだよ。」
リュト「飛ばした?」
ミトス「最も…体が言うことを効かない状態だから、無意識に銃を乱発してるのと同じだけどね。」
リュト「それって!」
ナリィ「無差別ってこと。」
リュト「早く止めなきゃ街が!」
ミトス「大丈夫。」
リュト「え?」
ミトス「ね、ライファ?」
ライファ「そういうこった。デッカスーーーっ!」
デッカス「ガ?」
ライファ「最後に面白いもんを見せてやるよ。」
デッカス「ギ?ガガァ!」
ライファ「はあっ!」
リュト「あっ!あれはデッカスの!」
リリ「手がおっきくなってるよお兄ちゃん。」
ライファ「…これがテメエの『力』だろ?」
デッカス「ガァッ!」
ライファ「そしてこれが…。」
リュト「あ…腕が元に戻ってく…。」
ミトス「ライファみたいに『勁』を上手く扱うことができれば、デッカスみたいにむやみに腕をでかくしなくてもいいんだよ。」
ファム「そう、『勁』を腕に集中するだけで、純粋に『力』だけが増幅されるのよ。」
ミトス「あれがライファの実力だよ。」
リュト「すげぇ…。」
ミトス「ライファが本当の『剛腕』なんだよ。」
ライファ「よぉ、化け物。」
デッカス「グガ?」
ライファ「この一発は重いぜ。何たって、真の男の想いが込もってっからな。なあリュト?」
リュト「お前……ありがとう。」
ライファ「へへ、あの世でリュトの親父さんに、男を教わって来やがれぇっ!」
リュト「いっけぇーーーっ!」
ライファ「『剛拳』っ!」
デッカス「グガァァァーーーーーーッ!」
リュト「……親父…やったよ…。」
デッカス「グ…ガ……ググ……ッ!」
リリ「え?」
リュト「リリ危ないっ!」
ライファ「やべえ!『勁』が!」
住人「リュトくんっ!リリちゃんっ!」
リュト「お、おれがリリを守るんだぁーーーーーっ!」
リリ「お兄ちゃん!」
リュト「くっ!…………ん…あっ!」
ミトス「大丈夫?」
リュト「な…何だそれ?」
リリ「きれいな輪っかぁ〜。」
ライファ「ふぅ、助かったぜミトス。」
ファム「さすがアタシのミトス!…それにしても…ライファ!」
ライファ「う…。」
ファム「最後まで気を抜くんじゃないわよ!『勁』が暴走したら危険だってアンタも分かってんでしょ!」
ライファ「いいじゃねえかよ、無事だったんだからよ。」
ファム「あのね、見てればいいって言ったのは、何処の誰だったかしら!」
ライファ「あ、いや…すまんすまん。」
ファム「反省が足りないのよ!少しはミトスを見習いなさいよ!」
ライファ「はぁ…全くウゼェなぁ。」
ファム「何か言ったぁ!」
ライファ「結局最後は三枚目で終わるのか…オレ…。」
ミトス「リュトもリリも怪我は無い?」
リュト「あ、ああ、ありがとう。でも…お前のそれ…それも『勁』…なのか?」
ミトス「そうだね…『勁』って言えば『勁』だよ。」
リュト「…。」
ライファ「腰抜けたか?」
リュト「う、うるさいっ!」
ライファ「……なかなかの男っぷりだったぜ。」
リュト「え?」
ライファ「リリを守る姿……立派だったぜ。」
リュト「…あ、当たり前だろ!リリはおれの妹なんだからな!」
ライファ「へへ。」
ファム「ふふ、素直じゃないわね。」
リュト「ふん……そ、そういえばデッカスはどうなったんだ?」
ライファ「あ?ああ、ヤツならあそこだ。」
リュト「え?……あれがデッカス?ヒョロヒョロじゃないか。」
ミトス「全ての『勁』を失ったからね、残ったのは骨と皮、いわゆる抜け殻みたいなものだね。」
リュト「死んだのか?」
ナリィ「…残酷だけど、あの形を選んだのもデッカス自身だから、仕方ないさ。」
リュト「そうか…死んだのか…死んだ…。」
ライファ「…ふ。」
リュト「何だよ!」
ライファ「いいや。リュト、お前はいい男になるぜ。」
リュト「な、何だよ急に?」
住人「リュトくん!」
リュト「あ、おじさん!」
住人「無事だったんだね。良かった…。」
リュト「おじさん…。……ありがとうな。」
ライファ「ん?」
リュト「この街を救ってくれてさ。」
住人「そうだ!本当にありがとう!」
ナリィ「いいよいいよ礼なんてさ!」
ライファ「お前は何もしてねえだろが!ったく……リュト、お前は強くなるぜ。」
リュト「え?」
ライファ「自信が何か分かったろ?」
リュト「…ああ!教えてもらった!お前……ライファには特に…。」
ライファ「リリを守れよ。」
リュト「もちろんだ!」
ライファ「お前は大切なものを守ることが出来たんだ。それがお前の自信になってくれるはずだ。」
リュト「ライファ…。」
ライファ「親父さんに負けないくらい、強い男を目指せよ。」
リュト「…任せろ!」
ライファ「次会った時、手合わせしてやるからよ。」
リュト「…負けないからな…絶対!」
ライファ「楽しみにしてるぜ、リュト!」
次回に続く