第一劇『銀髪のミトス』
客1「お〜い、酒まだかぁ!」
客2「こっちも注文頼むよ!」
?「はぁい!今すぐ行きまぁす!」
客3「相変わらず忙しいみたいだね、『シア』ちゃん。」
シア「あ、いらっしゃい!空いてるとこに座ってて!」
客3「あいよ。」
(ある少年)
?「はあはあはあ……も…もう…ダメ…。」
?「誰のせいだと思ってんのさぁ〜!こんなことならあの時……ああ……オイラもダメ…。」
?「そう言うなよぉ…あ……死ぬ…かもしんない…。」
?「…ん?」
?「どうかした…?」
?「…この匂いは!食べ物の匂いじゃん!」
?「冗談言うなよぉ…。こんなとこに食べ物があるわけ……ん?この匂いは!」
?「そうだって!この匂いは!」
二人「ダッシュだぁぁぁーーーっ!」
(シアへ)
シア「はい、お待たせ!」
客3「待ってました!ではさっそく……美味い!美味いよシアちゃん!」
シア「当然よ!なんたってお父さんの味なんだからね!」
客3「そうか…そういや親父さんが死んじまって、もう三年か。」
シア「お母さんが死んじゃってから、お父さん馬鹿みたいに働いて、私を育ててくれた。そしてようやく自分の店を作ったのに、無理がたたって…。」
客3「いい…親父さんだったもんなぁ。頑固だったけどなぁ。」
シア「ふふ、だからお父さんの後を継いで、この店でお父さんの味を伝えていくことが、私の夢なの。」
客3「シアちゃんなら出来るよ!料理の腕もいいし、おじさんも応援しちゃうからね!」
シア「おだてても、お代はキッチリ頂きますからね!」
客3「はは…さすがはシアちゃん…。」
客達「あはは!」
(その時、変な音がする)
シア「何?この音…。何か地響きみたいな…。」
客3「外から聞こえるが…。」
シア「うん!……はっ!ち、ちょっと君、大丈夫!」
客3「どうしたシアちゃん!」
シア「子供が!」
客3「な、おいボウズ、しっかりしろ!」
シア「しっかり!」
?「あ…う…。」
シア「何?」
?「お腹……減った…。」
二人「へ?」
(十分後)
?「ぷはぁ〜助かったぁ〜!」
?「オイラも腹一杯だぁ〜!」
シア「あれはお腹の音だったんだ…。それに…猫?が喋ってる…?」
客3「シアちゃん、この生物…何?喋ってるよ?」
シア「私に聞かないでよ。」
客3「……しっかし、よくもまあこの量を十分で…。」
シアの心「なんて胃袋…。それにしても変わった髪の色……。」
?「ふぅ、いやぁ、助かったよ!どうもありがとう!」
シア「え?いえいえ、どういたしまして。」
?「水知らずのオイラ達に、こんなに親切にしてくれて…いい人だぁ!」
客3の心「だから何…この生物…?」
シア「と、ところで、どうしてここに?」
?「実は、旅の途中で食糧が無くなってしまったんだよ。」
?「何が無くなってしまっただよ!誰のせいだと思ってんの!」
?「はは…。」
シア「どういうこと?」
?「途中までは、一杯あったんだけど…。」
?「もうすぐ町だからとか言って、持ってた食糧を、お腹を空かせた鳥や動物達に全部あげるし、信じらんないよ全く!しかも町なんて無かったし!」
シア「全部動物達に!」
客3「バカかボウズ?」
?「あはは…やっちゃいました。」
シア「君、長生き出来ないタイプだね。」
?「あ、そう思うだろうけどさ、こう見えても、オイラ達すげえ長生きしてんだよね!」
シア「え?君…もしかして『亜人種』なの?」
?「う〜んまあ、そんなとこかな。」
シア「あ、そういやまだ名前聞いてなかったよね。私はシア、君は?」
?「僕『ミトス』、今世界中を旅してるんだ。」
シア「へぇ…あ、綺麗な『腕輪』ね。」
ミトス「え?ああ、これはある人から貰った、大切なモノなんだ。」
シア「ふ〜ん…もう一つ聞いていいかな?」
ミトス「いいよ。」
シア「そっちの…。」
ミトス「ああ、『ナリィ』のこと?」
シア「猫…じゃないよね?どうして喋ってるの?」
ナリィ「猫って…。」
客3「そうだ、どうしてなんだ?」
ミトス「当然だよ!だってナリィは!」
(その時、悲鳴がする)
シア「何!」
客3「店の方からだよシアちゃん!」
シア「うん!」
ミトス「行っちゃった。」
ナリィ「何か騒がしいなぁ。」
ミトス「…このニオイは…。」
(シアへ)
シア「嘘…。」
客3「こいつは酷い…。」
シア「何なのアンタ達!」
?「ふん、要求は一つだ!死にたくなきゃ、ありったけの酒と食糧を出せ!」
シア「何を!」
客3「シアちゃん!(シアを止める)」
シア「おじさん…。」
客3「奴らの肩を見なよ。あの紋様は…。」
シア「肩?…あれは!」
客3「『砂十字』の連中だ。」
?「ほう、俺らを知ってるか。なら話は早い。いかにも、俺は大盗賊団『砂十字』の『バグダ』だ。抵抗は無駄だ。おとなしく、出すものを出せばいい。」
シア「…お父さんの店をよくも…。」
客3「シアちゃん!」
シア「ふざけんなっ!」
バグダ「ん?」
シア「アンタらに渡すものなんて何も無い!さっさと帰れっ!」
バグダ「……いい度胸だ。……奪え。」
盗賊達「おう!」
シア「このぉっ!」
バグダ「ふん!」
シア「きゃっ!」
客3「シアちゃん!」
シア「くっ!」
バグダ「怖い目だなぁ、だがな、そういう目は抵抗出来る『力』を持ってる奴だけがするんだよ。ふん!」
シア「きゃっ!」
バグダ「あーはっはっはっはっ!」
シア「や…やめ…て……やめてよ……うう…お父さん…。」
バグダ「あーはっはっはっ!」
ミトス「ねぇ、うるさいんだけど。」
バグダ「ん?」
シア「!」
ミトス「やっぱこのニオイは『亜人種』だった。ん〜と…見たとこ『獣人』みたいだね。」
バグダ「誰だガキィ?」
ミトス「僕ミトス。」
バグダ「ふん、ガキ、さっき面白いこと言ってたよなぁ。もう一度聞かせてもらえるか?」
ミトス「さっき?ああ、うるさいって言ったんだよ。」
バグダ「だったら耳を引きちぎってやるよ!そうすりゃ、うるさくもなんともないだろっ!」
シア「ミトス、逃げてっ!」
バグダ「そぉら、捕まえ…た…。」
ミトス「こっちだよ。」
バグダ「ガキィ…すばしっこいじゃねえか!てめえらっ、ガキを殺れぇっ!」
ミトス「ナリィ!」
ナリィ「ほい来たっ!カァーーーーーッ!」
バグダ「な、何だと!」
盗賊達「うわぁぁぁっ!」
ナリィ「どんなもんだい!」
シア「…『火』を…吹いた…。」
客3「す、すげえ…。」
バグダ「な、なな何だ!その生物は!」
ミトス「知らない?じゃあ教えてあげるよ!名前はナリィ、僕の友達さ。」
バグダ「ふざけんなっ!」
ミトス「ふざけてなんかいないよ。ね、ナリィ!」
ナリィ「そうそう。」
バグダ「馬鹿な…『火』を吹く生物なんて……まさかそんなっ!」
ミトス「ふふ〜ん、気が付いた?」
バグダ「そんなの有り得るかぁっ!」
ミトス「バグダとか言ったよね?真実は自ら触れて、初めて真実になる。今お前が見た真実は、お前の真実だよ。」
バグダ「う……馬鹿な…あれは、空想上の生物だ!神話に出てくるだけなんだぞ!」
ミトス「バグダ、真実から目を背けちゃダメだよ。それがどんなに信じられないものでも、触れてしまったら、もう認めざるを得ないんだ。」
バグダ「あ…。」
ミトス「バグダ、お前の敗因を教えてあげるよ。」
バグダ「え?」
ミトス「真実から逃げたことだよ。ナリィ!」
ナリィ「あいよ!カァーーーーッ!」
バグダ「うわぁぁぁっ!熱いっ!『水』を!『水』をくれぇっ!」
ミトス「仕方ないな…。なら『水』を与えてあげるよ…。」
シア「ミトス?何か雰囲気が……『腕輪』が光ってる!」
客3「大きくなってくぞ!」
バグダ「何だこのガキ…俺がビビって…。」
ミトス「……『水』の恐怖を教えてあげる。」
バグダ「な、何だと!うわぁぁぁっ!」
ミトス「……まだやる?」
盗賊達「に、逃げろぉーーーっ!」
ナリィ「ぶっ飛んだぶっ飛んだ!やったねミトス!」
ミトス「うん。これで借りは返せたかな。シアに。」
客3「ぶったまげたぁ…。」
シア「ミ、ミトス…だよね?」
ミトス「うん!僕ミトス!」
客3「ボウズ、お前さん一体…。」
ミトス「僕ミトス。ただの旅人だよ!」
ナリィ「そんでオイラは…。」
(バグダは)
バグダ「ぐ……くそ…あのガキ…。ボスに…ボスに報告してやる…。絶対に許さねえ!銀髪のガキに……神話…の……『竜』…。」
(ミトスへ)
シアと客3「『竜』っっっ!」
ミトス「そうだよ。」
シア「そうだよって……嘘でしょう?」
ナリィ「嘘じゃないやい!」
客3「た、確かに『火』まで吹いたし…。だが『竜』は神話の中に出てくるだけの生物じゃなかったのか?」
ミトス「『火』の無い所に煙はたたずだよ、おじさん!」
客3「え?」
ミトス「その神話が出来たのは、創った人が実際に『竜』を見たから、神話が出来たんだよ。遠い昔…の話だろうけどね!」
シア「……ミトス、君は一体何者なの?」
ミトス「だからただの旅人だよ!」
客3「おいおい、ただの旅人なわけあるはずな…!」
シア「分かった。」
客3「え?シアちゃん?」
シア「この子は、お父さんの店を、私の夢を守ってくれた。それでいいの。」
客3「…そ…そうだな。よしっ!今日は俺のおごりだ!じゃんじゃん食えっ!」
ミトスとナリィ「やったぁっ!」
シア「じゃあ腕によりをかけて作らなきゃね!」
ミトスとナリィ「やっほぅっ!」
(『砂十字』の基地)
バグダ「ぐ…。」
?「あららバグダ、聞いたわよぉ、アンタ、失敗したんですってねぇ?」
バグダ「く…。」
?「これだから筋肉ダルマは困るわ。脳みそまで筋肉化しちゃって、単細胞だから失敗するのよ。」
バグダ「黙れ!このオカマ野郎がっ!」
?「んま!筋肉ダルマにアタシのセンスが理解出来るわけないわ!」
バグダ「何だと!」
?「やる気?」
バグダ「このくそがっ!」
?「やめろ。」
二人「!」
バグダ「ボ、ボス!」
?「仲間同士の争いはタブーのはずだ。忘れたのか?」
バグダ「い、いえ。」
?「『ローユア』、お前も分かってるな?」
ローユア「もちろんですわ。」
?「分かってるならいい。では聞こうかバグダ、お前の報告を。」
バグダ「はい!」
(バグダ、報告する)
?「…。」
ローユア「ちょっとアンタ、寝ボケてんじゃないわよ!」
バグダ「何だと!」
ローユア「『竜』がいたなんて、失敗した言い訳、誰が信じると思ってんの?馬鹿なんじゃない!」
バグダ「くっ…ボス!」
?「………よし、ローユア、今度はお前が行け。」
ローユア「え?」
?「いいな?」
ローユア「え…あ…はい。」
?「バグダ、お前は傷の手当てをしろ。」
バグダ「は、はい!」
?「よし、下がれ。」
二人「はい!」
?「…『竜』に……銀髪のガキ…。ふ、まさかな。」
次回に続く