表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/114

第90話 陰謀の香り

今回は特に残酷なシーンがあります。

ご注意下さい。

 山賊のリーダーは自棄になったのか力任せにフェスに斬り込んだ。

 しかしフェスがそんな雑な攻撃を受ける筈もない。

 軽々と躱すと愛剣フランベルジュが閃き、山賊の脇腹を軽く抉る。

 山賊は苦痛から自分の剣を放り出し、絶叫を上げ転げまわっている。

 攻撃を完全に見切っていたフェスがわざと手加減をしたのは明らかだった。


「何だ! 戦姫! こんな奴生かしておく価値もないだろう」


「オデット姉、いいからフェス姉のやる事を良く見ていてよ」


「な、何!?」


 フェスは転げまわっている山賊のもとに慎重に近付くと抑揚の無い声で問い質した。


「お前達に仲間が居る筈よ。隠れ家アジトを教えて貰いましょうか?」


「あああ、隠れ家アジトなど、し、知らん!」


「貴方達、さっき話を聞いていれば結構酷い事をしているわね。もし隠れ家アジトを教えなければどうなるか、分る?」


「くくく……」


「さあ、答えなさい!」


「…………お前等、もしかしてキングスレー商会の廻し者か?」


「え?」


 いきなり山賊のリーダーからキングスレー商会の名が出るとは……一体何なのであろうか?


「な、何日か後にこの道をキ、キングスレー商会の大隊商が通るって連絡タレコミがあったんだよ。えれぇ金になるってよ」


「その情報は誰からなの?」


「お、俺達と取引している情報屋だ」


「その情報屋の名前は?」


「…………」


 山賊が答えないのを見ると僅かにフェスの表情が厳しくなる。

 そしていきなり剣を右足の腿に突き刺したのである。


「ぎゃうううう」


 山賊のリーダーの絶叫が響き渡る。


「さっさと言いなさい。これに私が魔力を込めて炎を纏わせてもよくてよ」


 炎の剣などで突かれては死んでしまう! 山賊のリーダーはやっと白状すると呟いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 基本的に俺達は非情だ。

 フェスは山賊のリーダーから情報屋の名と彼等の隠れ家アジトの場所を聞き出し、更に今迄に行なっていた悪逆非道な行為を自白させた上で容赦なく首を刎ねていたのである。


 以前、自分を守る為のこの世界の倫理観について触れた事がある。

 そしてこの世界の裁判だが、更生させる為に人を裁くのではない、罪を犯した事を確認、確定させる為のものである。

 悪事を働けば、内容にもよるがその裁きは厳しい。

 軽いものでは鞭打ち、重いものでは罪人の命は奪われてどちらも財産は没収される。

 死刑は地球の中世西洋のように公開処刑となっており、街中で行なわれた為に市民はこぞってその様子を見に行ったのだ。


 現在、我々が向かっているのは彼等の隠れ家アジトである先程奴等が居た場所の近くである森の中のとある洞窟である。奴等の残りの人数は約8人、隠れ家アジトには慰み者になっている捕虜の女も数人居るそうだ。


 ―――俺達は30分も歩いたであろうか、山賊のリーダーが白状した通り、森の中の岩陰に人が数人程通れるくらいの穴が開いている事を確かめたのである。

 いろいろ確認したのは素早いクラリスで入り口には間の抜けた事に見張りさえ立たせていないそうだ。

 途中で敵には遭遇していないが、俺達は当然、隠密の魔法で気配を隠しながら進んでいるので相手には全く存在を気取られてはいない。

 この状態で俺達の存在を察知するとしたらかなりの術者であり、強敵でもある。


 俺達は洞窟内に潜入した。

 念の為に入り口にはクラリスを残した。

 これは敵の残りが戻って来たら、念話で俺に報せる事になっていて挟撃されるのを避けられるようにしたのだ。


 俺達は隠密の魔法も継続し身を屈めて目立たないようにして、進んで行く。

 洞窟の中は結構広くて通路にはどこからから奪って来たらしい魔道灯がぼんやりと灯されていた。

 山賊のリーダーによるとこの先に2つの空間があって手前が飲み食いしたり、戦利品を仮置きしておく場所で奥が居住区と本倉庫になっているそうだ。

 慰み者になっている女達は奥に居るらしい。


 聴力を数倍にすると最初に殲滅した奴等同様な会話が聞こえて来る。

 どうやら別動隊はどこぞの商隊を襲って皆殺しにしたらしい。

 舌打ちが聞こえたのは商隊の構成が年配の男のみで奴隷としての捕虜を捕まえられなかった事のようだ。

 こいつらも襲った人達を嬲り物にした自慢話しかしていなかった。

 はっきり言って胸糞が悪くなるほどの下劣な内容である。

 話を聞いていたオデットの顔が奴等への憎悪で歪む。

 人数も確かめるとそこに居たのは4人……


 フェスが頷いたので俺はこの場をオデットに任せる事にした。

 当然ながら、打ち洩らした場合のフォローをする準備もしている。

 オデットは俺が念話で1人1人目立たぬように始末しろとの命を受けてから動き出した。


 まず1人で強奪している商品の仕分けを行なっている若い男の背後に近づいて行く。

 男は結構な獲物に夢中で音も無く忍び寄るオデットに全く気付かない。

 オデットは首筋に白く細い指を向けると頚椎の部分をあの高水圧の水の刃で切り裂いた。

 男は声も立てずに即死した。

 崩れ落ちる男を支えて寝かせたオデットは次に座ってうつらうつらと船を漕いでいる男の背後に近づくと同様に瞬殺する。

 残りは後2人である。

 話に夢中になっていて仲間が殺られたのを全く気付いていない。


 俺はオデットに念話で指示を入れる。

 1人はこの洞窟の状況を自白させる為にとりあえず殺すなと。

 フェスに合図をすると彼女はオデットが始末しようとしている男の反対側に忍び寄り、自白させる男の確保に回る。


 オデットがじりじりと忍び寄る……それを見ながらフェスもタイミングを計っている。

 やがてオデットの間合いに入ったのか、彼女は獣のように跳ね上がり、やはり頚椎を水の刃で切り裂くともう1人の男の注意を自分に引付けた。

 相手の男が一瞬驚愕の表情を見せ、オデットに襲い掛かろうとした時にこれも背後から忍び寄っていたフェスの当身が男の脇に入ったのであった。


 一旦、気を失った男に活を入れ、この洞窟の状況を吐かせる。

 情報屋の話も問い質してみたが、その男に関してはリーダーしか知らないらしく要領を得ない。

 しかしリーダー専用の宝箱があり、普段中身は誰にも触らせないと言う。

 俺は全てを聞き終わると男を容赦なく始末・・する。

 そしてフェスとオデットに目配せして洞窟の奥に進んだのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 洞窟の奥では痴態が繰り広げられていた。

 かつて山賊達はある旅人を襲った際に捕虜にした女主人とメイドを捕らえて性奴隷としていたのである。

 脚の腱を切られ逃亡出来なくした上に怪しげな薬を飲まされ、正気を失くした女達は既に人としての人格を失い、単なる男の性欲処理の道具と化していたのだ。


「そろそろお頭も帰って来そうだし仕事をしている奴等から恨みを買いそうだな」


「ははは、全くその通りだ。しかしこいつ等にも飽きたな。新しい女が欲しいぜ」


 行為をしていた男2人は脇で見ていたもう2人の男に代わるかと呼び掛けた。

 しかし、呼ばれて返事をする筈の男達から反応が無い。

 返事が出来ない筈である。

 彼等は既に俺達に殺されていたのだから……


「何だよ! 俺達が女をよがらせすぎて怒っちまったのか? へへへ」


 男2人が立ち上がった瞬間であった。

 1人の男の腹に容赦無く突き入れられる炎を纏った刃があった。


「ぐ、ぐあ……」


「人間の皮を被った鬼畜め。苦しみながら冥界へ堕ちるが良い」


 フェスが抑揚の無い声で言い放つ。

 彼女が左右に細かく動かす刃から男は言葉に表せないような死への苦痛を与えられ悶え苦しみ崩れ落ちる。

 魔剣に宿る炎がフェスを照らし、彼女の表情に更に凄味を加えていた。


「ひ、ひぇ~っ」


 残された男1人はぺたんと床に座り込み、後退りする。

 小便の臭いが辺りに漂う。

 どうやら恐怖の余り、失禁しているようだ。

 そこに俺とオデットも現れる。


 新たな敵の出現に残された山賊の男は完全に気力を無くしている。


 俺達は慰み物にされていた女達のもとに駆け寄る。

 俺が回復魔法で治癒するとかつては裕福な商家の主人だった女性が僅かに微笑んだ。

 どうやら俺の魔法でも直りきらず、まだ意識が朦朧としているようだ。


「ホクト様……」


 フェスが首を横に振る。

 その表情は険しかったのである。


「――そうか、精神をこれだけ破壊されていると俺の治癒魔法でも完全には直らないのか」


 その時であった。

 意識が朦朧としている女性がうわごとのように呟きだしたのである。


「……お願い、神様ですよね……あいつらを殺して……私も殺して下さい……そして貴方の御許へ……お連れ下さい」


「ホクト様……」「主様……」


 フェスとオデットが切ない表情をして俺の方を見ている。


 どうすれば良い……

 俺は直ぐにはどうする事も出来ずその場に立ち尽くしていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ