第89話 山賊退治
俺達は直ぐに出発する事にした。
俺と3人の精霊は全員が飛翔魔法を使えるので索敵の魔法を発動して周囲に人が居ないのを確認すると早速、上昇して高度を取る。
この些事加減が難しい所であまり高すぎると、下界の様子が分らないし、低すぎると俺達が誰だか分ってしまう怖れがある。
上空150m迄上昇すると、多分何かが飛んでいるのは確認できても誰かまでは分らないだろう。
まず俺達は街道上を飛翔しヴァレンタインの王都セントヘレナを目指す。
バートランドとこの王都までは馬車で3日程であるが、飛翔すればあっという間である。
しかし、ただ飛んでいけば良いという事でもない。
地形を把握し、やばそうな敵が居たら排除しておく事が肝要である。
その為に速度はだいぶ落としてあるのだ。
ちなみにこの世界の馬車は型にもよるが、時速に換算すると18kmから25kmで走っているのだ。
まあ地球の馬車に比べれば若干早いくらいだろろうか。
でも馬車の速度に合わせていては、全く進めないので俺達はメリハリをつけて飛ぶ事にした。
地形的に山賊や追い剝ぎが隠れそうな場所、またフェスが空中で地図を見ながら事前に調査した中小の領主や傭兵達の現状と過去の犯罪履歴等も加味してルートの安全をチェックしていく。
領主は不作で領内が疲弊したり、傭兵は雇い主が居なかったりするとあっと言う間に弱者を襲うならず者に変貌するのである。
上空から見て行くと早速、怪しい男達が見つかった。
俺達が視力を一気に上げ、確認すると街道から少し入った空き地に装備がバラバラの男達がたむろしているのが分る。
どうやら旅人か商隊が通ったら襲おうと算段している気配だ。
人数は8人程度であろう
フェスが目配せする。
そしてクラリスはオデットに釘を刺すのを忘れない。
いきなり斬り捨てては駄目だと!
それを聞いたオデットは不貞腐れて口を尖らせたのであった。
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俺達は山賊らしい男達にそっと近付いている。
好戦的なオデットも散々クラリスに釘を刺されたのでいきなり斬り込む事は事はしない。
当然、隠密の魔法を発動しているので彼等には気付かれていない。
俺が聴力も数倍にすると彼等の会話が丸聞こえになる。
会話の内容は……
「最近、王都もバートランドも景気が良いからよ。ここで網張ってりゃ、良いカモがやって来るぜ!」
「男は殺して、女は充分楽しんだ後に売ってしまおうぜ」
「全員、兄弟になっちまうがな。がはは」
やはり予想通りの屑っぷりである。
俺の顔を見てフェスが判断を求めて来た。
当然、会話は念話である。
『どうします? ホクト様。 彼等をほっておくと誰かが辛い思いをすると思いますが』
『答えは決まったな、一応、形式だけでも心を入れ替えるか聞いてみるか』
『無駄だと思いますがね。理由も無く一方的に殺される方はたまりませんよ』
今度はクラリスが最もな事を言う。
『確かにな。じゃあとりあえず顔見せするか』
俺達は彼等のタイミングを見て、一斉に木陰から姿を現したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「な、何だよ? お前等は!」「どこから湧いて来たんだ?」
湧いて来たっていくら隠密魔法で気配が分らなかったとしても俺達は虫じゃないっていうの。
「まあ、良いや。女は全員若いし、別嬪揃いだ。楽しんだ後、良い値で売れる。男の方も奴隷で売れそうだしな」
「お頭、俺はあの赤毛の女が良いや。気が強そうな女をひいひい言わせるのは最高だぜ」
「俺はあの栗毛の小柄な娘だな」
「ええっ!? まだ若過ぎるだろう? このロリコン野郎が! げはははは!」
リーダーらしい髭面の男が歯を剥き出して笑い、手下もそれに追随してニヤついていた。
それを見てあからさまに顔をしかめるオデット。
勝手な事を言うなという顔付きだ。
「主よ! やはり獣以下の奴等だ。斬り捨てて良いな」
「おおっ! お嬢ちゃん。危ないぜ、そんな刃物振り回すもんじゃねぇ」
オデットの事を馬鹿にして舐めたのか1人の男が彼女のレイピアを取り上げようと手を伸ばして来た。
俺は同意を求めて来たオデットに目で合図を送ると、それを見た彼女は乾いていた唇を舌でぺろりと舐め、目にも留まらぬ速さでレイピアを一閃させる。
ぴしゅっ!
空気を鋭く裂く音が鳴り響くとその男の片腕が切り飛ばされる。
「うぎゃあああああ! う、腕が!? 腕がああああ!」
「煩い男だ!」
オデットはまるで虫けらでも見るように男を睨むと容赦なくその顔に剣を振り下ろした。
額を断ち切られた男はあっけなく絶命する。
「や、野郎!」
「何が野郎だ。私は正真正銘の女だぞ!」
オデットが更に剣を一閃すると今度は別の男の首が刎ねられる。
山賊達の怒りの視線が一斉にオデットに向けられた。
「ふざけやがって! こいつは殺してしまえ!」
髭面の男が部下達に命じると彼等は剣を抜いた。
そしてオデットに対して一斉に襲い掛かったのである。
「とりあえずオデットにはひと暴れして発散して貰いましょうか」
「フェス姉、発散って欲求不満の事?」
オデットは水を得た魚のように戦っている。
俺達は脇で高みの見物である。
クラリスは面白がっている。
「ホクト様にHでもして貰えば良いのにね、あ痛っ!」
流石に口が過ぎたクラリスにフェスの拳骨が炸裂した。
「こ、こいつら! ふざけやがってぇ!」
オデットによりあっという間に半分の人数にされた山賊の1人が俺に斧を振りかざして襲って来た。
俺から見たら動きはナメクジ並で、攻撃も隙だらけだ。
クサナギを使う価値も無い奴である。
どこかの主人公の台詞では無いが、俺の拳を使うのも惜しいので蹴りを入れる。
男は突っ込んで来た力を利用したカウンター効果も加わって、あっけなく気絶する。
「畜生ぉぉ!」
それを見た山賊のリーダーはやけになったのか、剣を振りかざして今度はフェスに突っ込んだのであった。
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