表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/114

第87話 オデット奥義を出す

 オデットは焦っていた……

 主であるホクトに繰り出す攻撃がどれもこれも全て往なされてしまうのである。


 今まで彼女が戦った相手に対してあのルイを除いて臆した事は無い。

 戦友とも言えるフェスやクラリスに対してでもある。

 それがこの男には、あのルイとはまた違った底の無さを感じるのだ。


 それなら奥義を出すべきか……しかし、これには問題がある。

 奥義とはそんなにしょっちゅう出すものでは無い。

 正直、自分が打つ手が無く、行き詰まった時に出す物だ。

 または格下の相手に自分の力を誇示するか、容赦無く抹殺する時だ。

 そして周りに誰も居ない時が望ましい。

 自分とレベルが著しく違うのであれば良いが、フェスやクラリスが見ればその対策を練られてしまうからである。


 だが!

 このままでは―――私は負けるだろう、それはほぼ間違いが無い。

 剣技で完璧に負け、そして自分の魔法が全て無効化される。

 せめて、せめて一矢報いたい!

 やはり、ここは奥義のひとつを出すしかない。


 俺はオデットの気配が変わるのを感じていた。

 彼女は勝負を懸けて来る!

 彼女の両手10指全てから先程の高圧の水流が噴出した。


 先程、彼は自分の魔力波オーラを闘気に変え、あのインテリジェンスソードらしいヤマト刀から感じられる巨大な魔力波と合わせて私のこの高圧水流撃を分断したけど……今度はそれが1度に10、どうするかしらね?

 オデットは面白そうに笑っている。


「行っけ~!」


 オデットの指から1度に10もの高圧の水流が放たれ、様々な角度から迫り俺を襲う。

 一見、もう逃げ場が無いようだ。


「きゃっほ~! 今度こそ詰んだわっ!」


 その瞬間である。

 俺の背中から突如出現した巨大な純白の翼が身体全体を覆うと水流を全て弾き返したのである。


「あ、あれは!?」


 余りの事に言葉を失うオデット。


「あああっ!」「あ、あれは!? 何故? ホクト様にっ!?」


 それはフェスやクラリスも同様であった。

 オデットの口が信じられないものを見たかのようにわなわなと震え、その翼の正体がゆっくりと語られた。


「まさか明けの明星ウエヌスの翼!? な、何故ルイ様の?」


 ばさりと音を立てて振るわれた翼はまた何事も無かったかのように消えて行く。

 何故あのような巨大な翼が出現したのか俺にもまるで分からなかった。

 オデットはまだ呆然としている。

 しかしまだ勝負は続いているのだ。

 素早く態勢を立て直した俺は地を蹴り、あっという間にオデットの目前に立つと彼女の額にしっぺ、すなわちデコピンを食らわしたのだ。


「あいたあっ!」


 俺はフェスとクラリスの方へ振り返って、声を掛ける。

 2人ははっと我に返り、大きな声で俺の勝利を宣言したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ううう、まさかあんな御業みわざを出されるとは」


 オデットが俺に打たれた額を押さえ呻きながら呟いた。

 確かに俺も何故あんな事が出来たのか分らない。

 しかし、オデットの攻撃に対して無意識に神力を発していたのは確かなようだ。


「私達にも全く分りません」「フェス姉と同じです」


「こんな時にはルイに聞くに限るな、ルイ」


 俺は念話でローレンス王国にいる筈のルイに話し掛けた。

 しかし、いつも直ぐに返事をして来る筈のルイからは全く反応が無い。

 むう、こんな時にだんまりか……

 まあ仕方が無い。


「ホクト様!」


 見るとオデットが額を押さえながら、俺を見詰めている。

 俺はオデットにこちらに来るように手招きする。

 オデットは怪訝な顔をして俺の前にやって来た。

 俺は左手で額を押さえている彼女の手を掴んでどかすと赤くなった額に右手をかざす。


「ああっ!」


 俺の手から回復魔法の白光が溢れ、みるみるうちに腫れた箇所が治癒されて行く。

 ……オデットの額の痛みが引いたようだ。


「ああああ、ありがとうございますう!」


 盛大に噛んでいる、しかも赤くなって俯いている。

 案外……可愛い奴かもしれない。


「あのぉ……」


「ん?」


「ややや、約束ですからぁ! ままま、魔法を教えて差し上げます!」


 オデットの顔は相変わらず真っ赤だ。


「ありがとう、でも覚えたよ」


「は!?」


 その会話を聞きながら肩を竦めていたのはフェスとクラリスである。


「フェス姉……いつもと同じですね」「そう……みたい」


 驚くオデットに俺はいつもの通り最初だけ言霊を詠唱する。


「天より降り母なる大地を潤す水よ! その恵みは人々を癒し、時には奔流となり敵を滅する。我が手より伸びし、怒りの水刃よ! 我が敵を討ち、この地に平和をもたらせ給え!」


 言霊を唱え終わると俺の右手の全ての指先から高圧の水流が上空に向かって勢い良く立ち上る。一見して凄味は感じないが、体感した俺は分る。

 この水の剣はとてつもない威力を持っているのである。


「えええっ!? わ、私の奥義をいとも簡単に?」


 驚くオデットの肩を後ろからぽんと軽く叩くクラリス。

 慌てて振り返るオデットにちちちちと呟いて指を左右に振る。


「ク、クラリス……」


「大丈夫! いつもの事だから」


「い、いつもの事って!?」


 またもや呆然とするオデットに自分もフェスも同じだったと伝えるクラリス。


「そ、そうか……魔力波オーラを見ただけで習得してしまうの……か」


 そう呟いたオデットは暫く考え込んでいたが、やがて大きく頷くのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援がしっかり私の活力となっております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ