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第83話 ツンデレ姫

「お前が俺の事を良く知らないのにいきなり従えと言われたら反発するのも分るさ、オデット」


 俺はオデット・カルパンティエの碧眼の目を見詰めながら、ふうと息を吐いた。

 それに対してオデットの表情は変わらない。


「……しかし、ルイ様の命令は絶対ですから」


「分った、俺はお前に相応しい主と認められるように努力するさ」


 最初のフェスも確かこんな感じだった。

 いや、ちょっと違うか……オデットの場合、ルイの事を畏怖はしているが、それ以上に男として惚れ込んでいる節がある。

 そんな事を考えていると逆に彼女からこう切り返されたのだ。


「私も戦姫や翔姫が何故、貴方に従っているか興味深い……そこを見極めさせて貰う」


「オデット、私も戦姫という2つ名があまり好きではないの、フェスと呼んで」


 戦姫と呼んだオデットに対してすかさずフェスが釘を刺して来た。


「ああ、オデット姉! 私もよ」


「ああ、分ったよ、フェス、そしてクラリス。ん~、という事は護姫・・が揃えばルイ様の戦乙女の揃い踏みか」


 フェス達の抗議に同意したオデットであったが、気になる事を話している。

 俺は思わずオデットを問い質した。


「オデット、護姫って誰だ?」


「ホクト様、申し訳ありません、オデットが口を滑らせました。オデット、その話はルイ様のご意向で4人が揃ってからする話でしたよね」


 そんな俺の質問を遮るようにフェスが横槍を入れて来た。


「そ、そうだった! 申し訳ない、あ、主様、罰はいかようにも」


 オデットはフェスにそう言われて慌てて口篭り、黙ってしまった。

 護姫か、そして4人が揃ったらどうなるのか?

 まあ良い、いずれ分るだろう。

 あらら、オデットが固まっているよ、ほら罰なんか与えないって……

 まあ、いいや―――仕事の話に戻ろう。


「フェス、クラリス、オデットにクラン黄金の旅ステイゴールドに入って貰う方が良いと思うんだが」


「確かにそうですね、ルイ様の命令もそうみたいですし、良いわね、オデット」


「りょ、了解だ」


 噛みながら返事をするオデットを見て、俺は初めて彼女が可愛いと思ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達はオデットにキングスレー商会との契約書を提示しながら説明し、一緒に依頼を受ける事を確認した上で、クラン加入の手続きをする事になった。

 部屋を出て、ギルドの職員であるハンス・ダウテの居るカウンターに向かうとダウテは、ぎょっとした顔をする。


「おいおい、ジョー」


 ダウテがこちらに来いと手招きしているので俺は彼の所に行き、何かと尋ねる。

 彼はフェスとクラリスがオデットと少し離れた所で話しているのを見て、大きな溜息をひとつ、ついた。


「ジョー……」


「ん?」


「言い難いが、あの女はやばくねぇか? あのクラリス以上に危さを感じるぜ」


 俺は思わず大笑いしそうになったが、流石に不味いのでやめておく。


「でもハンス、身元はしっかりしているんだろう?」


「ああ、一応ローレンス王国のAランク冒険者なんだがよ。何かこう、やばそうじゃないか?」


 俺は思わず苦笑して、そんな事は無いとダウテに答えた。

 それより、話がついたのでオデットをクラン黄金の旅ステイゴールドに加入させる手続きを頼むと申し入れる。

 そうこうしているうちにフェス達3人がこちらにやって来た。

 中でもクラリスとオデットの表情が尋常では無い。

 2人は真っ直ぐにダウテの所に歩いて行くとぞっとするような声で囁いている。


「おじさ~ん」


「へ!?」


「危いとか、やばいとかって……言い過ぎじゃない?」


 クラリスの声には全く抑揚が無い。


「そうだな、クラリスの言う通りだ。乙女を侮辱した罰としてどこか斬り落としてやろうか?」


 オデットはこめかみに青筋が立って、今にもぶち切れる寸前といった様子だ。


「わわわわわ、助けて! おいおいジョー、何とかしてくれ~!」


 俺は苦笑しながらダウテのもとに駆けつけると、狼のように唸る2人をようやく引き離したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 すったもんだした挙句にオデットのクランの加入手続きも終った。

 ギルドを出ると太陽はもう西の方に傾きつつあった。

 時間はと見るともう午後3時をとっくにまわっている。

 クラリスが俺に目配せをして来た。


「ホクト様、お腹空きましたよね? 時間が時間ですから軽~く食べて帰りません?」


 フェスはと見ると、まあ良いでしょうと言うように微笑んでいる。


 そうだ、確かあの男性おことわりの店はランチから夜まで通し営業だった筈だ。

 クラリスの行きたい店も多分、そこであろう。

 俺は振り返って後ろを歩くオデットに尋ねる。


「オデットはお腹空いていないか?」


「腹など空いていない!」


 ぐぅ~……


 即座に否定し、きっぱりと断言するオデットだったが、言った直後に彼女の意に反して反則の音が鳴った。


「私は腹など空いてはおらん、これはたまたまだ!」


 慌ててそう叫ぶと真っ赤になり、俯くオデット。

 その肩を俺はまあまあと軽く叩く。


「あ、主とは言え……気安く触るな!」


 憤るオデットを見てフェスとクラリスは苦笑している。


「まあまあ……俺が腹が減ったから4人、いや5人で飯食いに行くのはどうだ?」


「ん……」


「どうした?」


「主の命令なら……そこまで言うなら仕方がない……同行してやろう」


 そう言ったオデットの腹が、ぐううともう1回鳴ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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