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第82話 凍姫

いよいよ3人目の戦乙女の登場です、何の精霊かまる分りですね。

※お詫び:クラリスがマルコをとっとと屋敷に送ってギルドに来たくだりがすっぽりと抜けていました。81話と82話を加筆、修正しました。改めてお詫び致します。

「凍姫?」


 俺は、フェスが女を呼んだ呼び名を反復した。


「それは2つ名だ、名は他にある! さっさと放せ!」


 フェスから凍姫と呼ばれた女は腕を摑まれたまま、俺を睨んでいた。

 どうやらその2つ名があまり好きではないらしい。


「いきなり俺にビンタなんかしようとするからだ、今度やったら女でも容赦しないぞ」


 俺がそう言って彼女の手を放すと痛い、痛いと呟いてこちらをまた睨んでくる。


「フェス、クラリス、彼女は?」


「はい、彼女は……「待ちなさい! 自分で名乗るから!」」


 女はフェスの言葉を遮ると自分自身で名乗り始めた。


「私はオデット・カルパンティエ、ルイ様の命でお前達のクランに加わるようやって来たのだ」


「お前が……ルイの命令でか?」


「そうだ! あと、お前ごとき人間がルイ様を呼び捨てにするな! ただではおかんぞ!」


 オデットは激高し、また俺を睨みつけた。

 私はお前の従士になるなど、とても不本意なのだがな! と小さく呟いている。


 クラリスが困ったような顔で俺に説明する。


「マルコさんを屋敷に連れて行ってオルヴォさんに引渡し出来たので、ギルドに来てみたんですよ。そうしたらオデット姉がギルドに居るからどうしたのって聞いたら、いきなり怒り出しちゃって」

 

 クラリス曰く人の話を聞かず、ずっと一方的に怒っているそうだ。

 ……どう見ても協調性があるタイプでは無い。

 俺は念話でルイに呼び掛けた。


『ルイ! どうせ見ているんだろ!』 


『はい! 私が命じてそちらに向かわせましたが』


 例によって人を食ったような飄々とした口振りの声が頭の中に響く。


『俺達が大きな依頼ミッションを受けたと見て、派遣したのか?』


『はい、こう見えても中々、優秀ですよ、彼女は』


『はっきり言う、要らん!』


「な、何っ! い、要らんだと! 私が役立たずだと言うのかっ!?」


 またもオデットがギルド中に響き渡るような声で怒鳴る。

 何故か俺とルイの念話がここのクラン全員にオープンになっている。

 どうせ、ルイが面白がって、そう設定したのであろう。

 オデットが怒っているのは当然、念話を聞いていたからだが、念話が聞こえない者から見ると訳も無く怒鳴っているようにしか見えない。


 ギルド職員のハンス・ダウテは口を開けたまま呆然としている。


 くすりとクラリスが笑うとオデットは唸りながら憎しみの篭った眼で彼女を睨みつけた。


 ……おいおいこれじゃ、まるで狂犬だよ。 


『ふふふ、確かに狂犬かもしれませんね。しかし私には忠実な従士でしたよ。かえってフェスティラやクラリスは言う事を聞かずに困らせてくれましたからねえ』


『…………』

『ええっ! ルイ様! そんな事ありませんよぉ! 私はいつも忠実な……』


 フェスは黙り込んでしまい、クラリスは取り繕うがルイはそんな2人を完全に無視していた。


「き、き、き、貴様ぁ! 私を犬呼ばわりか!? ゆ、許さあん!」


 そして俺に狂犬と呼ばれたオデットの怒りは頂点に達していた。

 腰に差したレイピアの柄を握り抜こうとするが、そのままの格好で固まっている。

 ルイの力だろうか? オデットの腕が動かなくなっていたのだ。


『オデット、貴女もいい加減にしなさい。私はホクト様の指揮下に入り、忠誠を誓えと命令した筈ですよ。私の言う事が聞けませんか?』 


 あくまでも穏やかに話すルイだがこんな時のルイが1番怖いのは俺も良く知っている。

 当然、オデットも俺以上にその事を知っている筈なのだ。


『はっ、はいっ! 私はルイ様の忠実な戦乙女いくさおとめです! ルイ様の為ならいつでも命を捨てる覚悟です!』


『なら、2度は言いません、分っていますね?』


『はい~っ!』


 オデットは俺の前にひざまずいた。

 上目遣いに悔しそうな眼で俺を睨むのは変わらない。


『おいおいルイ、悪いが俺は……』


『頼みましたよ、彼女を前の2人同様、従士として確り使いこなしてくださいね』


 そう言うとルイの気配はあっという間に消え去ってしまう。

 後には残されたオデットが捨てられた子猫のようにぽつんと残されていたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はあ~」


 俺は盛大に溜息をついてフェスとクラリスを見渡した。


「溜息をつくな! 溜息を!」


 オデットが憤るが、俺達は全く無視である。


「どうする、フェス? クラリス?」


「仕方が無いですね、ルイ様のご意向ですから」

「フェス姉に同じくで~す」


「無視をするな! 無視を!」


 オデットが縋るように話し掛けて来るが……またもや無視である。

 彼女をじらした効果はありそうだ。

 ちら見すると何か話したそうな雰囲気である。

 もう良いだろう、オデットとじっくり、話をするか。


「おい、ハンス!」


 俺はさっきからあんぐりと口を開けたままのダウテに声を掛けた。

 ギルド2階のクライアントとの面談用の部屋を貸して欲しいと頼むと、今までの出来事が余程、ショックだったのかダウテはあああと言葉にならない声で頷いて、部屋に案内してくれたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 部屋に入り、扉を閉めると俺達はそれぞれ椅子に腰掛けた。


「まず、こうなったからには仕方が無い」


「何が仕方が無いんだぁ!」


 俺はいきり立つオデットを手で制した。


「いちいちいきり立つな、話が進まない。黙って聞け、俺の話を」


 俺がそう言うとオデットは不貞腐れたような表情で俺を睨んでいる。

 俺は苦笑すると早速、仕事の話に入った。

 当然、内容はキングスレー商会の隊商護衛の依頼ミッションである。


「で、お前はルイからどういう指示を受けている。俺の従士になれということなら、俺はお前の真名をつけて従属させる事をしないといけないが……」


 この言葉に対してオデットはまるで俺を汚物でも見るような目つきで見詰めたのだ。

 その瞬間であった。

 フェスとクラリスがあっという間にフランベルジュとスクラマサクスをオデットの喉元に突きつけていたのだ。


「うっ!」


「オデット、貴女の気持ちも分りますから、あえて暴言を許して来ましたが、今の目つきは断じて許せません」


「そうです、主を侮辱されればそれは私達を侮辱されるのと一緒です」


 気がつけばクサナギも怒りを堪えているのか、びしびしと音を立てている。


「我々の魔剣なら貴女の命も奪えるわ、どう試してみる?」


 フェスが冷たく言い放ち、切っ先をオデットの首に僅かに刺す。

 傷口から鮮血が流れ出す。


「つう! せ、戦姫せんき!? お、お前、本気か!?」


「凍姫のお姉様、私も本気です」


 クラリスは珍しく全く抑揚の無い声でそう言うと無造作にオデットの手の平にスクラマサクスを突き刺した。


「ぎゃああっ、し、翔姫しょうき!?」


「今、防音の障壁魔法を発動したからオデット姉、貴女の悲鳴は部屋の外に洩れないわ、覚悟は良い?」


 クラリスがぞっとするような声で呟く。


「ど、どうして?」


 2人が俺の件が原因でどうしてそうなるのか、オデットには理解出来ないようだ。


「我々はホクト様に仕える覚悟が出来ているし、それ以上の絆もあるわ。今の貴女には分らないでしょうけど……」


 今度はフェスがそう口を開くと、やっと自分のペースを取り戻したオデットは真剣な表情で首を横に振った。

 まるで信じられないものを見ているように……


「貴女達2人……何故? ルイ様の忠実な戦乙女だった筈の2人が……この人間にそこまで?」


 フェスが俺に目で合図をして来たので俺は、すかさず回復魔法を発動し、オデットの傷を治癒してやった。


 あっと言う間に傷が回復したのを見て驚くオデットに今度はクラリスが微笑みかけた。


「これがホクト様と貴女の間の絆の第一歩よ、どう? オデット姉。この方に興味が湧いて来たでしょう?」


 呆気にとられていたオデットもこうなると負けてはいない。

 落ち着きを取り戻し、本来のオデットに戻ったようである。


「う~ん、あくまでもほんの少しだな」


 悪戯っぽい表情をして指先で小さな輪を作るオデットをフェスが軽くこづいた。


 そんな彼女に俺がゆっくりと手を差し出すと、オデットも恐る恐る手を差し出してそっと握ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


好評です!  

『魔法女子学園の助っ人教師』

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