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第81話 アルデバランの思惑

※お詫び:クラリスがマルコをとっとと屋敷に送ってギルドに来たくだりがすっぽりと抜けていました。81話と82話を加筆、修正しました。改めてお詫び致します。

 今回の依頼ミッションは隣国ロドニアに向かうキングスレー商会の隊商の警備である。

 すったもんだした挙句、作成されたのは下記の契約書である。


 しっかりとキングスレーとアルデバランとの間に話が通っていて冒険者ギルドの専用用紙で記入がされたのだ。


【依頼書】


 ☆依頼ランク:ランクA

 ☆発注先:Aランククラン【黄金の旅ステイゴールド

 ☆依頼内容:【キングスレー商会ロドニア王国隊商及びスタッフの警護】

 ※キングスレー商会スタッフ、マルコ・フォンティの了解を得た上での現地での  宰領権限を委譲するものとする。

  補助スタッフ、装備等の裁量はクランリーダーに当初より任せるものとする。


 ☆拘束期間:約5週間

 ☆依頼主:キングスレー商会会頭:チャールズ・キングスレー


 ☆報酬:神金貨2枚、竜金貨5枚※成功報酬、下記条件による

 ※積荷神金貨3枚分納品が前提条件、達成できない場合は前金の神金貨1枚、竜金  貨5枚のみ支払う事とする。

 ※残りの積荷神金貨2枚分において、竜金貨1枚分が納品が達成されるごとに王金  貨3枚が支払われる事とする。


 契約の中で1番懸念されるのが積荷の納品率だ。

 俺達も神では無いから、積荷を全部失うリスクもマルコとは一応、話し合った。

 これに関してはマルコも予想していたらしい言うか、キングスレーもそうだったらしくただひと言―――クラン黄金のステイゴールド分のギャラだけ無料扱いになるとの事だ。

 つまり補助で入るスタッフの分は支払いを商会でもってくれるという事だ。


 契約の最終確認が済んだので俺達は二手に分れる事になった。

 俺とフェスが冒険者ギルドで契約書の承認と補助スタッフの募集を行い、クラリスがマルコを屋敷に連れて行ってオルヴォに引き合わせて装備一式を整えるのだ。


 俺達は商会の前で別れ、それぞれの行き先へ向かう。


「いきなりの大仕事だな、フェス」

「本当に……そうですね」


 日差しはまだ暖かかく雲も無いが、もう少しでこの地方も雨季が来るのだ。

 俺は街を歩いていて何となく浮き浮きして来た。

 俺にも本当に恋人が出来たからだ!

 それもこんなにい女が2人もだから……

 おぼろげな記憶しかないが、まともな恋人も居なかった前世とは大違いな事は確かだ。


『ホクト様、フェスティラ様と手を繋いでみては如何です?』


『クサナギさん……』


 フェスは照れているようだ。

 クサナギは本当に気遣いの出来る娘だ。


『私はいつもホクト様の背中にいますから、ほら早く!』


 俺はクサナギの思いやりに甘える事にした。

 こういう時は思い切ってやらないと!

 俺はさっと手を差し出した。


 フェスは花が咲くように微笑み、おずおずと手を差し出して来た。

 俺はしっかりとフェスの小さな手を握り、行こうかと囁いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドに着いたのは昼過ぎであった。

 思ったより契約等のやりとりでキングスレー商会での時間がかかったせいである。


 俺達は取次ぎしてくれる職員を探す。

 こんな時はやはりベテラン職員でアルデバランにも顔が利くハンス・ダウテが適任である。

 ダウテは丁度、昼の休憩時間に入ろうとしていたが、話が通っていたらしく休憩入りを取り止めて俺達の対応をしてくれたのである。


「ジョーに、フェス。話は聞いてるよ、凄ぇ依頼だな」


 ダウテは満面の笑みで囁いた。

 あまり大きな声で祝福すると目立つ、そんな気配りが出来るベテランなのである。


「まずは正式に契約書の承認をしないとな、上同士で決まったらしいがな」


 よくある事さと呟き、ダウテは俺から書類を受け取り目を通した。


「俺が見る限り、問題は無いようだ。中身は確認済みだよな」


 俺とフェスは頷き、そして顔を見合わせた。


「おっ!? 何だか以前より2人の息が合っているな、良い事だよ」


 ダウテは知ってか知らずか、にやりと笑って親指を立てた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 このレベルの依頼には契約書に上席の承認が要るというので俺とフェスはギルドマスター室脇の応接室に入る。

 やはり案の定と言うべきか、アルデバランはオフィスに居たのである。


 今日もジュディが紅茶を持って来た。

 俺の方を見て微笑むと静かに扉を閉めて部屋を出て行く。


「はっははは! チャールズの依頼を受けてくれたようだな、ジョー」


 部屋にアルデバランの満足げな笑い声が響く。

 2人の手の上で踊らされている気もするが、ここは大人な対応が適切だろう。


 やはり単に便宜を図っただけとは思えないのだ。

 俺は少しアルデバランの心を覗いてみる。

 俺のサトリの能力は心の具体的な内容を完全に読み取るものでは無い。

 まかな考えや感情のイメージを捉えるだけだ。


 俺を心配? そしてその為にこの依頼を通じてヴァレンタイン王国に……取り込む?

 更に俺に対する好意も感じられる。

 この冒険者ギルドにも迎え入れたい? 何だ?

 むう……

 そんな内情を知られているとは露知らずにアルデバランは話を続けた。


「俺とチャールズは年は少し離れているが、同じクランで生死を共にした仲だ。今の俺があるのは彼のおかげだ。彼がいなければ俺はどこかで野垂れ死ぬか、世間知らずの貴族の次男坊で終っていた筈だ」


 次男坊って事は長子が居て本来はアルデバランが家を継ぐのではなかったのか……

 何か事情がありそうだ。

 そんな俺の気持ちを見透かしたかのようにアルデバランがにやりと笑う。

 そして俺の話は今度ゆっくりとしてやろうと囁いたのであった。


 俺達はその後小1時間、他愛もない話をして応接室を出たのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「契約書の承認はおりたな。契約書以外に関しては基本、ギルドの規定に従って貰うが、これは指名依頼の中でも特別なモノだ。何かあればまず当事者同士で話し合うんだな」


 俺達を迎えに来たダウテが1階への階段を降りながら、口を開き、残りの用事はあるかと聞いてくる。


「実は今回の依頼は俺達以外に人手が必要だと思っている」


「おお、他のクランか冒険者を雇うんだな? でもお前さん達Aランククランと張り合える実力があって、性格も良いって奴等はなかなかいないぜ」


「確かにな……」


 俺は今回の依頼にどんな人材が必要か考えてみたが、すぐに答えが出る訳も無い。

 思い浮かぶのは無難な答えばかりである。

 剣技や魔法の実力が伴っている事、ギャラが折り合う事、協調性がある事などだ。


 フェスを振り返ると彼女も差し当たって心当たりがないらしい。

 ゆっくりと首を横に振ったのである。


「ダウテ、俺はこの街の他のクランや冒険者の事はよく知らない。誰か適任者は居るかな?」


 俺は正直に事情を話してアドバイスを請うてみたが、ダウテの答も捗々しいものではなかった。


「う~ん、俺の記憶だと主な有力クランはお前達みたいに専属に近い指名依頼で出払っていた筈だ」


 それにだ……とダウテは話を続けた。


「彼等は皆、プライドが高い。Aランクになったばかりのお前さん達に素直に従う確率は低いと思う」


 成る程、そうかもしれない。

 自分が逆の立場であったら、そう考えるのは不自然では無いのだ。

 実力があればあるほど、それは比例するだろう。


「困ったな……」


「うむ、お前達と喜んで仕事をしたいという連中は低ランクのクランばかりだろう。それじゃあ意味が無いしな」


 俺が思わず吐いた弱音にダウテも同意する。


 そんな事を話し、考えながら1階に降りた俺達に鋭い声がかかった。


「いつまで待たせる気か、馬鹿者共めが!」


肘掛付長椅子ソファに座っていた1人の冒険者風の女が立ち上がり、俺達にいきなり詰め寄った。


「ルイ様の命で仕方なく来てやったのに、こんなに待たされるとは聞いていないぞ!」


 金髪の美しい長い髪を靡かせて肩を聳やかしながら歩いて来る痩身の女である。

 碧い瞳が怒りに燃えていた。

 その後にうんざりした表情のクラリスが居る。


戦姫せんきに、姫翔しょうき! お前達が従士としてついていながらなんだ!?」


 そう言うと女はいきなり俺に平手打ちを食らわせようとする。

 俺は魔眼の能力により予期していたのでそれを避け、彼女の手首を握る。


「痛いわね! さっさと離しなさい!」


「貴女は……凍姫とうき? どうして?」


 フェスの驚いた声がギルドの部屋に静かに響いていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


新作です! 

『魔法女子学園の助っ人教師』

宜しければお読み下さいませ!


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