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第80話 キングスレーの野望②

 結局、俺達クラン黄金の旅ステイゴールドはキングスレー商会がロドニア王国へ向かわせる隊商の護衛役として契約する事となった。


 契約書に不備が無いかは一応、フェスやクラリスも確認をする。


 その場でキングスレーから何と前金で神金貨1枚=日本円で1億円を受け取ったが、これは俺達のギャラだけでは無く、他のクランの人件費や旅費等の経費など支度金の意味も込められているらしい。


「これ以上の詳しい話はマルコと確認してくれ。それと出発は、2週間後だ。ああ、マルコの武器防具一式も必要だな、頼むぞ。そちらは別料金で商会に請求してくれ」


 後、吃驚したのはこの依頼ミッションは、冒険者ギルドの正式な依頼だと言う事だ。


 キングスレーは意味ありげに笑っていたが、俺はまだその本当の意味を知らなかった。


 せいぜい昔のクラン仲間同士が便宜を図り合ったくらいに思っていたのだ。


 俺は早速、マルコを引っ張って商会の会議室で打合せをする。


 話が急過ぎて確認する事が多々あったからだ。


「今回の件はチャールズ―――お宅の会頭さん、えらい強引だな」


 俺は苦笑いしながらキングスレーの押しの強さが凄かった事を強調していた。


「この前のホクト様の話を聞いて自分の目の黒いうちにって事らしいですよ」


 俺は今回の隊商キャラバンの構成を聞く。


「はい、輸送用の大型馬車10台ですね、1台を馬2頭で引きます。それに護衛の方は別の馬車と馬を用意するようにします」


「ロドニアまでのルートは?」


「ここバートランドを出発して王都セントヘレナを経由し国境の街ノースヘヴンに入ります。そこからロドニアの王都ロフスキを目指す事になります」


 その距離が馬車や馬で片道約2週間ということか?


「先程、会頭が拘束期間1ヶ月と申しておりましたが、ロドニアの王都ロフスキでの商談がありますのでプラス1週間の都合計5週間拘束となりますね」


「ちょっと……マルコさん」


 それを聞いて口を挟んだのはフェスである。


「即、契約書の内容修正と契約料金の再交渉を求めます。後、貴方を含めた商会のスタッフ達の商談中の護衛の依頼も発生するでしょう?」


 フェスの口調は醒めているが、逆に凄みがある。


「ははは、申し訳ありません。これは当商会らしからぬ杜撰ずさんさで……」


「マルコさん、もし其方が確信犯だったら今までのお互いの信頼は無くなりますよ」


 マルコが珍しく、曖昧な態度でしっかり取り合わないので、フェスの言葉は容赦ないものになった。


 あまりのフェスの迫力にマルコは黙り込んでしまう。


「…………」


「結局、どうするのですか?」


 容赦無く低い声で呟き、追求するフェスの他に誰も声を発する者は居なかった。 


 フェスのワインレッドの瞳が魔導灯に反射して光っている。


 それは無機質な硝子のような輝きであった。


「は、はい、私の責任で契約書は後ほど書き換えますので……」


 やっと、返事をしたマルコは自分の責任で契約書に俺達の契約内容を反映させると言うが、フェスは納得しない。


「駄目です、貴方の責任では! まだ会頭がいらっしゃった筈です。了解していただき、すぐに修正して下さい」


「…………」


「それと……ホクト様、1週間分の拘束期間延長の料金はどうしますか?」


 ん、余分に働く分のギャラがあったな。


「そうだな、積荷の到着成功割戻し金は置いといて単純に成功報酬のみの週割りにすると竜金貨5枚か」


「それに加えて護衛の報酬も加えてお考えになってください」


「分った。護衛の報酬も加えれば、さらに金額が増えるがそれは今までの付き合いでサービスとしよう。マルコ、これはこっちからの譲歩だぞ。拘束期間の延長分のみの竜金貨5枚アップで、今回の依頼を請け負おう。当然積荷到着の成功報酬はイキにさせて貰う、クラリスはこの条件でどうだ?」


「私はそれでOKです」


『クサナギは?』


『私も問題ありません』 


「というわけだ、マルコ。チャールズにそう伝えてくれ、駄目なら契約自体を再考するとな」


「わ、分りました!」


 俺はきっぱりとマルコに伝えてフェスとクラリスを見ると2人共ゆっくりと頷いた。


 一見、俺達が無理を言っているようだが、俺達はプロで先方もプロ―――これは契約だ。


 元々、俺が出したアイディアでもあり、契約書に不備があったのはあちらの方だ。


 はっきりしておかねばなるまい。


 実質俺達は3人+1人のクランだ。


 他所のクランの雇用によりチームワークに影響が出るのは考え物だが、依頼にはこんな場合もある。


キングスレーは今後も見越して今回の依頼をモデルケースにしようと試しているのは間違い無いだろう。


「私達はここでお待ちしています、すぐに結論を貰えますか?」


「はっ、はいっ!」


 マルコは俺達に一礼すると、扉を開けてすっ飛んで行ったのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キングスレーがマルコと共にやって来たのは、マルコが部屋を出てからきっちり10分後の事であった。


「おお、済まん! うっかりしておった。契約内容と契約書が違っていたのじゃな。すぐ修正して金額もお前達の希望の通り、入れてある」


 キングスレーはにこにこして、申し訳無さそうに手を合わせる。


 小さな孫達に可愛く叱られたお爺ちゃんといった感じである。


 普段の厳しいキングスレーと比べると何と言う好々爺振りだろうか。


 図ったように現れたタイミングといい、怪しさ全開だ……


 多分、真相はこうであろう。


 マルコはどこまで知らされていたか、分らないが、多分最初からこれは引っ掛けだったのだ。


 俺達がそれに気付くかどうか? 今後隊商を宰領するクランとして細部までに目が届くか?


 契約の間違いに対して堂々と物が言えるか?


 俺は今回、フェスのお陰で助かった。


 契約の面でも今後の面でも……


「いろいろと手違いはあったが、依頼を受けて貰えて嬉しいよ。儂はこれで失礼する。ではな……」


 キングスレーは部屋を出て去って行き、後には焦燥し切ったマルコ、そして新たに契約を締結し直す俺達が残ったのである。


「私からもお詫び致します。……で、では」


 マルコは新しい契約書と一緒に何と1週間分の報酬竜金貨5枚=5千万円を渡してきたのだった。


「それとこれは会頭から話のあった私の武器防具の経費です、足りるでしょうか?」 


 マルコは済まなそうに王金貨5枚=500万円を出して来たのである。


 そうか……


 これは俺達だけでなく、最後はマルコの心身を鍛える事にも繋がるわけだ。


 俺はキングスレーの老獪さにやられたなと―――苦笑し頷きながらマルコから金を受け取っていたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


新作です!『魔法女子学園の助っ人教師』

宜しければお読み下さいませ!


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