第7話 初めての勝利
俺はオークジェネラルと対峙する。
「ヨワッチイ、ニンゲンフゼイガ……オレハ、イママデヨワイニンゲンヲサンザンイタブッテヤッタ。トシヨリハ、ナグレバスグシンデ、テゴタエガナイシ、ツマラン。ヤワラカイアカンボウヲヒキサイテ、ナキサケブハハオヤノマエデコロスノハ、サイコウダ」
片言の人間語を話すオークジェネラルの口から漏れたのは奴等の本能に基づいた残虐な行為そのものだった。
「反吐が出るぜ! 外道が。弱い者ばかりをいたぶるお前なんかに俺がやられるわけ無いだろうが」
「オモイシラセテヤル……」
奴は唸る様に暗く呟くが、俺は僅かに口角を上げて薄く笑う。
「やってみろ……」
があああああああ……
オークジェネラルが吼え、体内の魔力の濃度が大幅に増大していく。
どうやら魔法を使っているようだ。
「オレノキュウキョクノ、シンタイキョウカマホウ……コウナッタラニンゲンデ、オレニカナウヤツハイナイ……フフ、ミテミロ」
オークジェネラルはロングソードをいきなり自らの腹に突き刺す……が
何と鋼鉄の剣の刀身があっけなく根元から力無く折れてしまう。
「ドウダ! オマエゴトキヲタオスノニ、コブシダケデジュウブンダ。ケンナドハイラン……ハハハハハ」
「そんな錆びついた安物の剣で遊んでも自慢にもならんよ。弱い糞豚ほどたくさん吠えるようだな。遠慮は要らんから、さっさとかかって来いよ」
「コ、コロス! ゼッタイニコロス~!!!」
オークジェネラルが激高して咆哮し、鋼のように固く大きな拳で俺の顔面を狙ってくる。
どがあ!!!
派手な音がし俺の顔面に奴の拳がヒットする。
さらに2発目、3発目、続いて何度も何度も奴の拳が俺の顔面に撃ち込まれた。
「ドウダァ~! ヨワッチイニンゲンメェ! チヲフリマイテシネ~! ……ハ!? ナ、ナニィ?」
手応えがあった筈なのにいっこうに倒れない俺を見てオークジェネラルは泡を食っていた。
「ふ……効かないな」
俺は相変わらず平然と奴の前に立っている。
「バ・カ・ナ、バカナ~。カ、カオガ、ダメナラホカダァ!!!」
奴はストレートに膝蹴りを俺のボディに放ってきた。
重く鈍い音が響くが俺の笑みは全く変わらない。
「バ、バカナ~!!!」
「お前は今まで自分より弱い者をいたぶって生きてきたが、強い者にいたぶられたら、どうなるかな……」
「ヤ、ヤメロ……バカナ、オマエハ、イ、イッタイ……ナニモノダ? 」
オークジェネラルは恐怖を覚えたのか、どっと冷や汗を流して俺の前から数歩後ずさる。
その分、俺はずいっと奴の方に踏み出した。
今まで弱い者と侮り、驕り高ぶって俺を見ていた目がだらしなく逸らされる。
「お前より強い只の人間だよ!」
「バ、バケモノダ~」
「おいおい、化け物ってのはお前の心のような事だと思うぜ。どんな容姿をしていようが心が綺麗なら化け物なんて呼ばれる事はねぇ筈だけどな。少なくとも俺は差別しないよ」
俺は軽く左でジャブを放つ。
ボギャン!
俺の拳を受けようとした奴の右腕があっけなく折れたらしい。
「ギャアアアア!!!」
「ありゃ、脆いねぇ、じゃあ今度は蹴りで」
回し蹴りを放つとオークジェネラルは左腕を立てて何とかボディへのダメージを防御しようとする……が。
ゴガッ!
今度は左腕が派手な音をたてて損壊し、変形する。
「ギャアアアア!!!」
「イチイチ、オオゲサダナ…あれ口調を真似しちまった。 腕が駄目なら脚で攻撃して来いよ」
「クク、ハァハァ……ヤ、ヤ、ヤケクソダ」
俺は苦し紛れに回し蹴りしてきた奴の右脚を簡単に掴まえる。
もう攻める手が無くなったオークジェネラルの声は哀願に変わっていた。
「ハ、ハ、ハナセェ……タ、タノム……ユルシテクレェ」
「許せだと? そんな命乞いの声をさえぎり、お前は笑って人間の年寄りや母親そして赤ん坊を虫でも潰すようにたくさん殺してきたんだろ」
俺は思い切り脚を引っ張る。
嫌な音がして奴の右脚が千切れた。
「ギャアアアア!!!」
奴は絶叫をあげて盛大にぶっ倒れる。
「覚悟を決めろよ。最後はな、お前にいたぶられた人たちの痛みを受けて、あの世に行っちまいな」
「イ、イヤダ、イヤダァ」
俺は最後に奴の顔面に魔力波を固く練ったコークスクリューパンチを右拳で放った。
ドブチャッッ!!!!
俺の拳の凄まじい速度でオークジェネラルの顔面が抉られ、西瓜が砕けるような音がして奴の頭部は四散したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さてと、そっちはどうだい」
冒険者達は放心したように俺を見ている。
不味い……力を見せすぎたか?
「な、何とか……た、倒したが」
冒険者のリーダーらしい若い男が息を切らせながら答える。
見ると2匹のオークが地に伏していた。
「上出来だ、で、あっちはどうする?」
俺は向こうを指差すと相変わらずもう1匹のオークジェネラルは、こんな状況にもかかわらず陵辱を続けている。
「さっき、俺の相棒と話したが、あの娘の仇も取りたいだろうし、あの外道は、あんたらに任せたいという話になったがな」
「す、すまん、タ、タマラの仇は俺達が取りたいと思っていたが、俺達の今の力じゃ……む、無理のようだ」
「わかった。じゃあ、外道は俺が処理して構わないな?」
彼等と話がついたので俺は無造作に外道に近づく。
しかし本能ままに行為を続ける奴は全く俺に気付かない。
さっき、奴の仲間がデモンストレーションで折った鋼鉄の剣の半身があったので、俺は拾い上げて行為を続ける奴の汚い尻に思い切り突き刺してやる。
「ぶぎゃあああああ!」
尻を押さえて蛙の様に飛び跳ねたこの外道に俺は蹴りを連発する。
「ぶぎゃあああ~ぴぴ」
悲鳴をあげて倒れこんだオークジェネラル。
俺はそいつの頭を掴んでさっきの冒険者達のもとに引きずって行った。
そして彼等の前に投げ出すと、リッチーのダミアン・リーから教えて習った麻痺の魔法を掛け、念の為束縛の呪いの魔法もかけておく。
「???」
彼等が不安そうに俺を見ている。
俺は彼等にオークを指し示すと思う存分、仇を討つように伝えてやる。
「タマラって子の仇だろ。麻痺と束縛の魔法をかけたから万全だと思う。存分に敵を討ってやれ」
「ほ、本当か!?」「有り難い!」
「俺はタマラが好きだったのに!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして……
護衛の冒険者達にあっという間に嬲り殺されたオークジェネラルの骸の前で
俺は改めて冒険者達に告げる。
「まだ、オークがあっちに残っている。今、相棒が相手をしている」
現状がまだ危険な事を知ると冒険者達はまた不安な目で俺を見た。
「お前等も冒険者で依頼で今回の護衛を引き受けたんだろ。少しは根性見せろよ」
そんな事、まあチートの俺が偉そうには言えないけど……
「わかった、俺達もギルド所属の冒険者だ、後は何とかする」
リーダーらしい男が疲れたように呟いた。
俺はフェスに念話を送る。
『無事か? フェス。こっちは全部倒したぞ、そっちはどうだ』
俺の声に対して直ぐに彼女の返事があった。
大丈夫だとは思ってもフェスは女の子だ。
俺はホッと息を吐いた。
『大丈夫です。雑魚のオーク達はほぼ倒しましたけど。ジェネラルが残っています。ダメージは与えたのですが……申し訳ありませんが、こちらにいらしていただけますか』
『了解』
俺は索敵の魔法を使いながらフェスの居る方に移動する。
フェスの反応は索敵魔法を使用しながらの俺だけに分かる独特の反応だ。
オークジェネラルの反応も俺は把握した。
『……あんなの、あいつだけでも倒せるのに、ねえホクト様』
不満そうにぶ~たれるクサナギ。
もう、いい加減にフェスと仲直りしてくれないかな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仲間を全て倒され、きょろきょろしながら戻ってくるオークジェネラルの怯えの波動が伝わってくる。
こっちに仲間がまだ居ると思って向かっているのか……
でも索敵の魔法って相手の士気や考えまで確認できるんだな。
凄い……ということは練度を上げればもっと上達するんだ。
俺は隠密の魔法で気配を消して岩陰に隠れ、ぎりぎりまで待ち、いきなり相手の前に立ちふさがる。
ぎょっとするオークジェネラル。
本能的に後ろに逃げようとするが、後ろにはフェスが立ちはだかる。
フェスの顔を見てびくっとする奴だが
……どんないたぶり方したんだよ、フェス……
オークジェネラルは俺とフェスを見やりながら、何と俺の方に向かってきた。
俺が舐められてるって言うか、組みし易しと思ったんだろう……
まあフェスが強いんだな、多分。
生意気にも剣を振るって襲い掛かってきたので、バックステップしてかわすと、俺はカウンターで右拳を顔面に叩き込んでやった。
「ガッ……」
オークジェネラルは鈍い悲鳴を上げると派手に地面に倒れ込んだのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと尋問してみましょうか」
フェスには何か気にかかる事があるようだ。
「尋問?」
「この規模のオークの群れは珍しくないですが、上位種が3匹っていうのがちょっと気になりますから。ホクト様、一応、束縛の魔法をお願いしますわ」
フェスは俺に魔法の発動を依頼して来た。
俺に対しての態度も柔らかいし、今回の戦いで何となく彼女とは打ち解けた気がする。
「了解」
俺が束縛の魔法をかけると地に倒れていたオークジェネラルは苦しそうな表情をしながら、顔を上げて俺とフェスを睨みつけてきた。
「オマエタチ、タダモノジャアナイナ、ナニモノダ?」
フェスはオークジェネラルの苦痛の表情など一切関係無いといった面持ちで平然と問い質した。
「あら、質問をしているのはこっちなの。貴方達の王が生まれたの?」
「シラン、オレガ、リーダーデ、ニンゲンヲオソッタダケダ」
「そう……何~てね。そんな答えで私が納得すると思って?」
フェスの瞳が光り、口元で何か呟くと指先から炎が立ち上る。
「ナニヲスル」
「素直じゃあないから、あんたの身体に聞くのよ」
フェスは指先から火炎放射器のように凄まじい炎を噴き出して容赦なくオークジェネラルの身体を焼いている。
「ギャアアアアア」
……焦げる臭いが半端ない、フェスさん、まじ鬼です。
「言うつもりになった?」
「……シ、シラン」
「あら、そう……」
魔力波が立ち昇り、フェスの炎がもっと大きな威力になった気配がする。
ああ、オークジェネラルが完全に炎に包まれてるよ。
「ギャアアアアア、ヤゲジンデジマヴ、ヒ、ヒヲゲゼゲジデクレ~」
「じゃあ言って! 早くしないと死ぬわよ」
「ヒヲ、ヒヲハヤク、ゲ、ゲジテグレ~」
オークジェネラルの息はもう絶え絶えだ。
「白状が先よ」
「オオオ、ワレラノオウガ……ゴ、ゴウリンザレダ~」
何!? オウとはオーク達の王って事か?
「場所は?」
「ボ、ボルハ、ケイゴグダ~」
「兵力は?」
「サン、3千」
「わかったわ、ありがとうね~」
「ヤ、ヤグゾクマモレ~ヒヲゲセ~」
「人間を散々、嬲り殺しにしといて約束守れも無いでしょ!……そのまま燃えちゃいなさい」
「ギャブブブブ~」
オークジェネラルは絶叫を上げると身悶えしながら、炎の中で力尽きたのだった。
「ホクト様、情報が掴めましたね」
何事も無かったかのように微笑むフェスを横目で見ながら、やっぱりフェスは怒らせないようにしないと不味い!
俺は改めて固く心に誓うのだった……