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第71話 家族会議

 俺達は今回のギルドからの依頼達成によるAランクへのランクアップと多額の報酬を得て屋敷に戻って来た。


 自分でも浮き浮きしているのが分る。


「スピロフス、今、戻った」


「お帰りなさいませ、ご主人様マスター、そのご様子だと首尾はとても・・・上々……でございますね」


 スピロフスはにやりと笑い、いつもの通り慇懃な態度で返して来る。


「ふっ、いつもの、スピロフスだな」


「はい、先日の好々爺が私らしくないと、ルイ様からご指摘がありましたもので」


 成る程、スピロフスに好々爺は似合わないか……ルイらしい。


「とりあえず、風呂だな。そして皆で食事をしよう」


「かしこまりました、ナタリアが全て準備をしている筈です」


「その後にお前とフェス、クサナギ、クラリスを入れて5人で話したい事がある。時間を作っておいてくれ」


「かしこまりました、私めで宜しければ」


 例の話も含めてスピロフスには伝えておいた方が良いだろう。


 そうこうしているうちにナタリアも出てきて、元気一杯に俺達を迎え入れる。


ご主人様マスター、フェスティラ様、クラリス様、お帰りなさい!」


「只今、帰ったよ。ナタリア」「ただいま、ナタリア」


「ほーい、ナタリア! たっだいま~! もう、お風呂入れる?」


「準備万端です、お風呂に入れますよ!」


 ナタリアは任せてと言う意思表示だろうか、拳を握り締めて俺達にアピールする。


「やったね! そうだ、フェス姉! 本当はホクト様と入りたいんでしょう」


 おっと、いきなりクラリスが爆弾を投下した!


 突然のクラリスの口撃にフェスはたじたじでその姿は初心うぶな小娘のようだ。


「なっ! な、何をっ、い、言ってるの!」


「もう! ま・る・わ・か・りなんだからぁ」


 狡賢く笑う、お腹真っ黒な感じのクラリスにやっとフェスが反撃した。


「クラリス、まだ言うなら……今度はあのフェンリルの口に放り込んであげましょうか? もうこっちに帰って来れないかもしれないけど……どう?」


 ありゃ、あのフェスの眼はマジですよ。


「うっわ~! 御免、フェス姉、冗談、冗談ですよ~」


 慌ててクラリスがその場を取り繕ったのは言う間でもなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後……


 フェスがじっと遠くを見たまま、黙っている。


「いいお風呂でしたね、フェス姉」


「…………」


「フェス姉? 何?」


「…………」


「もしかして? 本当にホクト様と入りたかったの?」


「……ちょっと黙っててね……クラリス」


「は~い」


 無論、俺はそんな事があった事など全く知らなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 同時刻、屋敷大広間……


「スピロフス、オルヴォは?」


 俺はドヴェルグの鍛冶職人オルヴォ・ギルデンの姿が見えないので、スピロフスにその所在を問い質す。


「まだ鍛冶工房でしょうね。あれから何かに取り憑かれたかのようにずっと仕事漬けですよ。この屋敷の武器防具を全て整備メンテナンスするって張り切っているんです。呼びに行って参りましょうか?」


「成る程。良いよ、俺が呼びに行こう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 暫く後……屋敷庭、鍛冶工房……


 カーン!カーン! トントントントン!


 鍛冶工房からは金属を打つ音が絶え間なく聞こえてくる。


 俺が鍛冶工房に入るとオルヴォは一心不乱に槌を振るっていた。


「精が出るな、オルヴォ」


 声を掛けられないほど集中していたオルヴォだったが、一瞬、額の汗を拭ったのを見て俺は声を掛けた。


「これは、これはご主人様マスター……いつからそこへ?」


 え? 何か、話し方が大幅に変わってないか?


「少し前からさ。それより俺の事はジョーで良いのに」


「いえ、私はスピロフス様に助けていただき、ご主人様マスターに新たな人生と生きがいを与えていただきました。やはり私には、この仕事しか無い事がよく分りましたから」


 何か雰囲気も変わっているし……別人みたいだ。


「そうか、よかったな。ほら、でもこんな時間だ。皆待っているぞ、飯にしよう。ああ、その前に風呂に入ってさっぱりして来い。お前が来るまで待っててやるから」


「あ、ありがとうございます」


 オルヴォは俺がそう言うとにっこり笑ってぺこりと頭を下げたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後、オルヴォが風呂から上がるのを待って全員で大広間の食卓についた。


「皆、揃ったようだな。この度、クラン黄金の旅ステイゴールドは、冒険者ギルドからAランククランにアップされた。それと今回の仕事ミッションも概ね成功し、報酬も入った。次回の依頼への期待や別の事業の準備にも良い影響が出そうだ。これからも宜しく頼むぞ……では乾杯!」


 俺の音頭で皆がジョッキを合わせる。


 ジョッキを合わせる音が部屋に響き渡る。


 コン

 カチャ~ン

 カチーン

 カチャン


 俺は片隅でお茶を飲んでいるオルヴォに声を掛けた。


「あれ、オルヴォ、やっぱり飲めないのか? それじゃあ辛いだろう? よかったら俺がルイに掛け合ってやろうか?」


 それを聞いたオルヴォはとんでもないといった様に手を横に振った。


「冗談は抜きですよ、ご主人様マスター、私をまた地獄に連れていく気ですか?」


 ルイが余程、怖かったのであろう……


「でもなあ、飲めないドヴェルグってぴんと来ないんだが……」


「ははは、ご主人様マスターに対しては失礼な言い方になりますが、それこそ偏見ですよ……中には酒が飲めないドヴェルグも居りますからね」


 オルヴォは苦笑しながら俺の考えが狭小だと遠慮がちにたしなめた。


「でも……オルヴォ、話し方が全く変わったなぁ」


「これが本来の私なんです。でも身内以外にこんなに話せるようになったのは初めてですよ。私は酒を飲むとあんな言葉遣いになります、と言うか酒を飲まないと怖くて全く人前に出れませんでしたから」


 お前はコミュ障かよ……


 それにしても酒を飲むとあんなに変貌するとは……


「それに、今は酒なんかより毎日武器防具に手入れをしているのが、楽しくて仕方が無いんです。打つ度にあいつらのありがとうって言う感謝の声が聞こえてくるようですよ」


 剣の声とかか?


 まあ傍から見ればクサナギと話している俺も同じか。


 しかし、ちょっと引いたぞ。


「そ、そうか……」


「あ、あのご主人様マスター……」


 オルヴォが何か言いにくそうに口篭っている。


「どうした?」


「私、実は鍛冶ギルドから組合員証を取り上げられてまして……その」


 組合員証? ギルド発行の鍛冶師免許証ライセンスみたいなもんか?


「そうだろうと思っていたよ」


「は?」


「その事をお前がこの前、脅されたあの怖いおじさんに頼んであるんだ」


『誰が怖いおじさん・・・・・・ですか?』


 いつものように突然響く念話……ルイだ。


『わっ!あわわわわ』


 怯えるオルヴォ……多分ルイにトラウマがあるのだろう。


 俺はおそるおそる聞いてみた。


『今の話、聞いてた?』


『聞いてた? じゃあありません。私に頼み事があるのでしょう?』


 流石、話が早い。


 じゃあ単刀直入だ。


『流石はルイだ、話が早いな。このドヴェルグの組合員証が失効扱いらしいんだ。そこで頼みたいんだが、ローレンス王国発行の組合員証をこの男に発行してくれないか?』


『成る程、改心しているみたいだし――良いでしょう。その代わり、いずれ我が王国の為に働いて貰いますよ』 


「よかったな、とりあえず」


「あ、ありがとうございます!」


 こうしてオルヴォはローレンス王国の鍛冶師として再出発する事になったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 食事も終わり、俺とフェス、クサナギ、クラリス、そしてスピロフスが俺の書斎の応接用の椅子に座っている。


「よし、ここに集まってもらった4人に話が2つある。まずひとつめ、我々の報酬の話だ。今回、稼いだ分の分配に関してだが……」


 俺が話の口火を切ろうとするとフェスがそれを止めた。


「お待ちください、ホクト様。それに関してはもうクラリスと話をしました。多分スピロフスさんも賛成してくださると思います」


「そうなのか、クラリス?」


「えへ、ホクト様。私達、今がとっても楽しいんでそうしたいんです」


「おいおい、俺、まだ何も聞いていないぞ」


「もう! クラリスは……ホクト様、こうしてはいかがでしょうか? まずキングスレー会頭の借金をお返ししましょう。その後にスピロフスさん、ナタリア、オルヴォさんへの給金をそして全員の生活費を確保してください。私達にはその都度、必要なお金をお小遣いとしていただければ充分です」


「え? それでいいのか?」


「お屋敷での生活はスピロフスさん中心に取り仕切って貰いましょう。美味しい食事さえあれば、私達は思う存分、依頼やら何やらで働かせて貰いますから。私もクラリス同様、今がとっても楽しいし、これからの事にわくわくしているんです」


 フェスが満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに話した。


「そうそう! ホクト様。 ……私ってほら……見ての通り、あまり物欲の無い女だし」


 クラリスもすまし顔で言う。


「食欲は全開だけれどもね」


 すかさず突っ込みを入れるフェス。


 確かにあの食欲は脅威だな。


「え~っ! ずるい! フェス姉だって、美味しい食事さえ……って言ったのに」


「分った、分った、クラリス御免ね」


「もう!」


 クラリスの頬は食べ物を詰め込んだ栗鼠みたいに膨れていた。


 ぷんぷんって言葉が頭から湧いてきそうだ。


「2人ともありがとう……スピロフスも構わないな」


「フェスティラ様、クラリス様にはお気遣いいただき申し訳ありません。……でも」


「でも?」


「私めとナタリアの給金はルイ様から1年分前払いしていただいておりますので不要ですよ。それより、たまには、お2人に美味しい物や綺麗な洋服など……お願い致しますよ」


「わかった……皆、ありがとう。俺の裁量でやらせてもらうよ」


 ようは女性陣へのケアを忘れるなと言う事だな、流石は年の功だ。


 ナタリアも含めて、今度何か好きに買い物しに行って貰って、美味しいものでもご馳走しよう。


「ではふたつ目の話。俺の新しい力に関してだ」


『お待ちください、ホクト様……その件に関してはまず私からお話しさせてください』


『クサナギ……』


『大丈夫です。皆様、全てを思い出した訳ではありませんが、私の話を聞いていただきたいのです』


 俺達はクサナギが話し始めるのをじっと見守っていたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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