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第67話 魔闘気

※北の旅団隊員の獣化後の魔獣をフェンリルからガルムに変更しました。

「ガ、ガルム!?」


 クラリスとベリー二の声に俺は一瞬、リルランクから視線を外す。


「ふふふ、坊主! どこを見ている? お前の相手はこの俺だ!」


 リルランクがまた鋭い斬撃を放つが、俺はまた魔眼の力を発動させ、間一髪で躱す。 


「ふふふ、余所見をしてても俺の一撃を躱すか? 大したものだ」


 アルデバラン達がこちらを見ているが、愚図愚図してはいられない。


「フェス!」


「はいっ! さあ、皆さん早く!」


 俺の指示に対してフェスがアルデバラン以下ギルドのメンバーに移動を促す。


「しかし、ベリーニが!」


「厳しい事を言わせていただくと作戦を無視して勝手に飛び出したのは彼ですから自分の命は自分で拾って貰いましょう」


 フェスの表情は厳しい。


「だが……」


 まだアルデバラン達は亜空間に移動しない。


「フェス!」


 俺がリルランクの方を見ながら叫ぶとフェスは頷き、短く言霊を唱える。


 すると魔力波が放たれ、アルデバラン達は煙のように姿を消したのであった。


「ほう! やるな、強制的な瞬間移動か。ただその言霊の溜めだとあまり遠方には飛ばせない筈だ。俺には感じるぞ、異質な空間? 成る程、全員そこの亜空間へ逃がしたか――とすれば……術者おまえを殺せば消えるな!」


 リルランクは舌なめずりして俺を見詰めた。


 それはまるで獲物を見る肉食獣の眼差し。


 やはり―――こいつも部下と同じなのか?


「ははは! 行けい!」


 一方、副長の指示が出されると獣化した12人の北の旅団の隊員、唸りをあげたガルム達がクラリスとベリーニに襲い掛かる。


 クラリスはガルム達の突進を軽々と飛翔し躱した。


 風斬剣!


 そして躱しざまにガルムの身体にスクラマサクスの一撃を叩き込んだのだ。


 しかしガルムの身体に刻まれたはずの風を纏った一撃はまるで岩を叩いたような感触と共に弾かれたのである。


 ベリーニもミスリルのロングソードで鋭い斬撃を何発も送り込んだが、全て躱されて逆に手傷を負う有様であった。


「ひやっは~、生半可な攻撃など効かんわぁ! ようし、俺もそろそろ獣化させて貰おうか!」


 副長が叫ぶと彼の姿が他のガルムよりもふた回り程大きいガルムに変貌する。


 他の個体とは比べ物にならない巨大な魔力波オーラが立ち昇る。


「がおおおおおおおおおお!」


 かって副長だった・・・ガルムが咆哮した。


 食物連鎖の高位に立つ肉食獣の怖ろしい威嚇の叫びである。


「があああああああ」「ごおおおおおおっ!」「ごうああああああ!」


 これにつられるかのように他のガルム達も次々と咆哮する。


「う、ううう……」


 ベリーニが苦渋の色を浮かべる。


 冒険者ギルドでは実力者で通っているらしい彼も1度に13頭ものガルムに囲まれては、その命も風前の灯であった。


「フェス! クラリス!」


 俺が叫ぶとフェスが軽度の爆炎の魔法でガルム達を威嚇し引き下がらせ、その隙にクラリスがベリーニの革鎧の首筋を掴んで悪戯をした猫のように持ち上げる。


 驚くベリーニをよそにクラリスは彼の鎧を掴んだまま上空に舞い上がる。


「よし、頼むぞ、2人共! 俺がこいつを始末したらすぐ行く」


「ははは、小僧! 俺を始末だと? 舐めるなよ!」


 リルランクがまた斬撃を繰り出す。


 先程の倍以上の速さである。


 しかし、俺の魔眼により、それは全て躱される。


 逆に俺はクサナギを抜かずに魔力を練り、間合いをはかっていた。


 リルランクの一連の攻撃が終った時、俺はクサナギに魔力波オーラを込め、リルランクのプレートアーマーの胴に目にも見えない速さで叩き込む。


 …ちん!


 俺の右手は一閃して背中に返り、クサナギの刃が鞘に戻る。


 手応えは……あった。


 今まで様々な敵を葬って来た俺とクサナギの膨大な魔力波オーラで一刀両断にする必殺の居合いだ。


 しかし!


「ほう…… 少しびっくりしたぞ。お前の魔力は、やはりなかなかのものがある……見ろ」


 リルランクが指し示す奴の鎧の胴の部分…


 そこは一筋の断ち割られた線が白いプレートメイルに付いていた。


 本来ならリルランクの身体が両断され、断ち切られている筈だが……


「面白い! お前も先程の剣と言い、そこそこ魔闘気を使うようだ。しかし、この程度ではまだまだだな」


 魔・闘・気?


 魔闘気とは何だ?


「…………」


「では見本を見せてやろうか、これが本来の魔闘気だ」


 リルランクが何かを呟くと、奴の全身から、とてつもない量の魔力波オーラが立ち昇る。


「お前には俺の魔力波が見えるだろう。魔力波を戦闘用に転換し、身体や武器に纏うのが魔闘気だ。この魔闘気を使うのが俺の本来の剣……いかに魔眼を持っていても果たして躱し切れるかな?」


 俺は背後に居る筈の2人に声を掛ける。


「フェス、クラリス……注意しろ。俺の事は気にしなくていい、自分の身を守る事だけに専念しろ」


「ホクト様、こちらの雑魚共は私達が引き受けます。心置きなく戦ってください!」


 フェスがガルムの群れの目の前でフランベルジュレイピアを構え直した。


「そうですよ~、邪魔な荷物はよいっと!」


「うわああああああああ~」


 飛翔して上空に静止しているクラリスは飄々とした物言いで掴んでいたベリーニを放す。


 ベリーニは当然、地上に激突すると思われた。


 が!


 絶叫し、落下していくベリーニの身体が途中で忽然と消え失せたのである。 


 クラリスも瞬間移動の魔法を使用したのであった。


「これで足手纏いは居ないわ、フェス姉、心置きなく行かせて貰いましょう」


「OK! クラリス、油断しないでね!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方、俺はとてつもない魔力波……奴の言う魔闘気を纏ったリルランクと正対している。


 ごおおおおおお!!!!


 魔力波が唸っている。


 一瞬にしてリルランクが消えると、凄まじい速度の一撃が俺の頭上を襲う。


 魔眼で事前に分っていた攻撃とは言え、その魔力波オーラの圧力で俺の身体が大きく揺らぐ。 


 ん?


 これは!?


 魔力波による相手の攻撃が先読み出来ない。


 奴の魔力波が巧く読み取れないのだ。


 そこにすかさず左横になぎ払いの一撃が来る。


 それを何とか間一髪で躱すと、またもや間を置かず、右横からの一撃!


 ガイーン!!!!


 俺はその右からの一撃を避けきれず、魔力波を纏わせたクサナギを振りかざし、何とか受け止める。


 張り詰めた魔力波同士がぶつかり合い、びしびしと大気を震わせて行く。


「ほう! 俺の剣を受け止めたか……ますます面白い! 力こそ我が正義……見事、俺に勝ったらこの場は引いてもいいぞ」


 こいつ、任務より戦いが命の戦闘狂バトルジャンキーなんだ。


 副長らしいガルムが悲しげにひと声鳴いた。


「うるさい、副長! こんな獲物は滅多に居ないのだ。アルデバランなど後でどうにでもなる。ここで俺の戦いの邪魔はさせんぞ」


「くおおおおん!」


 またもや同じガルムが鳴いた。


 そんな副長の悲痛な声など聞こえないかのように、リルランクの目はぎらぎらと光り、口元には笑みが広がっていく。


 がいいいいいいいいいいいいい…


 ヤマト刀であるクサナギとリルランクのクレイモアが交差し、纏った魔力波オド同士が振動している。


「ふっ……やるな。そんな、か細い身体のどこにそんな力が隠されているのだ。俺はお前を見直したぞ……だが、これまでだ!」

 

 リルランクがまた何か呟くと奴の魔力波オーラのギアがまた1段、2段と上がる。


「がああああっ!」


 リルランクの気合と共に力の均衡が破れ、俺は10m程吹っ飛ぶ。


『我の力……すなわち、そなたの力でもある我が御技を使え……吹き荒び荒ぶる力……【スサの力】を使うのだ』


 リルランクに跳ね飛ばされ吹っ飛ぶ俺のこころにまたあの内なる言葉が響いていた。


『な……に?』


『かっての日の本の我が末裔すえたる者よ』


『!』


『我が名はスサノヲ、そなたの魂にその身を受け継がせし者……そして……その真名は……』


「危ない!ホクト様っ!」


 フェスの叫び声に我に返った俺が気が付くと、リルランクの膨大な魔力波を纏ったクレイモアがもう目前に迫っていたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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